軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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第7部隊が人だかりがあった場所に戻ると、ちょうど群衆がどこかに向かう所だった。

「――おや、あなた方もログアウト希望ですか?」

柔らかな男性の声が聞こえる。

その人物こそ、解放者と呼ばれる男だった。

優しい笑みを浮かべた黒い長髪の男。

身なりは悪くもないが良くもなく、ショウキチ達が装備する防具の方が数段良い物のようだ。この周辺のmobと戦う程度なら不便しなさそうな、そんな程度の装備だと分かる。

黒色の外套はギルドの制服だろうか。側近というべきか近くを歩く女もまた、黒の外套に身を包んでいる。

「解放軍の方々で間違いないですね?」

十分に警戒しながらバーバラが尋ねる。

解放者は慌てた様子でそれに答えた。

「どうぞそんなに警戒しないでください。とはいえ、我々のやってる事が絶対的に怪しいのは理解してますから、慣れっこといえば慣れっこです」

そう言いながら、解放者は不思議そうに第7部隊の面々を眺める。

「それで、我々になにかご用ですか?」

「いえ、差し支えなければログアウトの一部始終を見たいと考えてまして」

単刀直入に切り出すバーバラ。

自分への心証などは気にしない様子だ。

「そういう事でしたか。ならこれから修道院の方へ行って、順々にログアウトしていくつもりですから、どうぞご覧になってください」

解放者は至極丁寧な対応で返答を終えると、踵を返して門の外へと歩き出す。

ウル水門の方向だった。

神妙な面持ちで第7部隊もそれに続いた。

*****

オルスロット修道院――

神の祈りに守られた教会あるいは修道院は、一切のmobに干渉されない。神の祈りは、たとえそれが朽ちて廃屋となっても変わらずそこにある。

解放者一行がたどり着いたのは、白のレンガで建てられたオルスロット修道院。青の瓦の屋根と鐘、そして十字架も相まって、ひと目で神聖な場所であることが分かる。

中に進むと、シスターNPCがいる――という訳ではなく、整然と並べられた長椅子と教壇、そして十字架が置かれてあった。

人が生活していないからだろうか、修道院の中はどこか薄暗い印象を受ける。窓が無いというのが主な理由だが、光源がロウソクだけなのも大きな理由となっていた。

ここが目的の場所なのか、解放者とそのメンバー二人は教壇の前で振り返る。

そこまで黙って付いてきていた第7部隊だったが、ラオが一歩前に出た。

「いくつか質問がある。こっちの勝手な都合で申し訳ないが、質問が終わるまでこの人達のログアウトは保留にしてもらいたい」

ラオの言葉に、ログアウト希望の面々から抗議の声が上がるも、解放者はそれを手を挙げる事で制した。

「なんなりと。ついて来てくれた皆さんの中にも、まだ不安が残っている人はいると思います。ログアウトに時間帯は関係ありませんし、ここで全部の不安を払拭しましょう」

その言葉に、群衆も完全に沈黙する。

改めてラオが質問を始めた。

「貴方の手引きでログアウトできた人達が、なぜ一人も助けを出してくれないのか。これが最大の疑問だ」

ラオが思い出すは、春カナタとの日々。

彼女には現実に戻らなければならない確固たる理由があった。だから今回のログアウトを信じて従ったのも肯ける。でも親友の自分達に別れも告げず、現実に戻ってそれきり――という事実を、ラオは受け入れられなかったのだ。

ラオは感情の導くまま続ける。

「貴方のやり方でログアウトしたプレイヤーは延べ370人を超えていると聞いたが、ただの一人として帰ってきてないんじゃないか? 現実世界からの使者も来てないんじゃないか?」

ラオの質問は全てその通りであった。

解放者によってログアウトしたプレイヤーのうち、戻って来たのは一人も居ない。そして現実世界から助けに来たと言う新規のプレイヤーも、アリストラスには出現していなかった。

群衆が不安げに解放者を見る。

解放者は理路整然とした様子で答える。

「もちろん頼んでいますが、私は最初から〝向こう側からの干渉〟を期待していません」

「どういう意味だ?」

聞き返すラオに、解放者は人差し指を立てて説明を加えてゆく。

「このゲームに加速機能が備わっているのはご存知ですか? 皆さんも何度か体感したはずです、クエストの一場面なりで」

ラオは心当たりがあるようで、それに黙って頷く。解放者は「なら話が早い」と微笑みながら、さらに説明してゆく。

「初日にかなりの数のプレイヤーが亡くなりましたよね? 初日だけではなく、最初の一週間は死者の数が多すぎて正に地獄のようでした。ゲーム中の人間が大量に不審死した場合、現実側から何らかの〝対処〟が加えられるはずです」

解放者は人差し指を合わせ、そして離す。

「例えば、電源を落とす――とか」

群衆の多くが身震いする。

電源が強制的に落とされた場合、その精神はどこへ消えるのか。肉体はどうなるのか。無事に戻ればいいが、そうでないならmobに殺されるよりも無残な死に方となるだろう。

「機械音痴の権力者のお年寄りが、恐らく昏睡状態にあるプレイヤー達を自分の一存で〝助けようと〟電源を切ったりした場合、きっと2日目か3日目くらいで、フィールド・エリア・町中関係なく大勢の不審死が起こったはずです――でもそんな事件は無かった」

解放者は長剣とダガーを取り出し、並べる。

「その事から考えるに、現実世界とこっちの世界との時間の流れが……たとえばこっちの一年があっちの一秒だった場合、当然、異変に気付いて現実世界で動く頃には、こっちでは何年も経っている――という仮説が立てられます」

もちろん推測の域を出ませんが。

そう言いながら、武器をしまう解放者。

「助けが来ないのは、そういう事なんだと解釈しています。私がここに居る理由ですが、ログアウトの方法に気付いたかつての私は、一刻も早く解放されたいと願って身を委ねる所でしたが、友人達を置いてはいけず踏みとどまり、ログアウト直前の待機画面から戻って来ました。なので厳密に、私は完全なログアウトをしていません」

待機画面まではゲーム内だから、時間の流れはこちらと一緒という事です――と、説明を終える解放者。

今度はバーバラが口を開く。

「なら、その待機画面から戻ってくる所を見せてほしい。解放者さんではなく、別の人で。できれば私とフレンドになってから」

群衆がざわつく。

今の話で安心したプレイヤーは多かったが、いざ一番手となると不安が残る。

そんな中、一人のプレイヤーが前に出た。

「俺が試そう」

そこに居たのは、キイチだった。