軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

958 クマさんを見守る ゴジール視点

嬢ちゃんは柱を広げて、俺たちが落ちないようにしてくれる。

そして、クマたちに俺たちのことを頼み、クマたちの頭を撫でると柱の端に移動する。

最後に幼い嬢ちゃんが声をかける。

「気をつけるのじゃぞ。もし、なにかあれば妾も駆けつける」

「そのときはお願いね」

クマの嬢ちゃんは幼い嬢ちゃんにお願いをすると柱の上から飛び降りる。

俺は柱の端に移動して、嬢ちゃんを見る。

柱から飛び降りた嬢ちゃんは走り出し始める。

黒いクマが山を駆けていく。

残った俺は幼い嬢ちゃんに尋ねる。

「あのクマの嬢ちゃんは本気であの沼を塞ぐつもりなのか?」

望遠鏡で覗いたが、かなり大きかった。

普通に考えたらできない。

でも、蟻の魔物との戦いを見たら、できるのでは? と思ってしまうが、沼を塞ぐのは常識的に考えて無理と思ってしまう。

「沼全部を蓋をするのは分からんが、壁を作るぐらいならできるじゃろう。壁があれば毒が漏れてくる量も減り、お主もお酒の材料を安心して取りに来られるじゃろう」

嬢ちゃんの言うとおりに毒が無くなれば助かる。

「なあ、礼は本当に酒だけでいいのか?」

普通に考えて、ありえない取引だ。

蟻の討伐だけでも、依頼料は少ない。

さらに金死蝶って毒を持つ蝶からも守ってくれた。

なのに、今度は沼の回りに壁を作ると言う。

それがバカげた作業ってことは俺でも分かる。

「構わん。妾もあやつも金には困っておらん。妾たちの目的はお主の酒じゃ」

そう言ってくれるのは酒造りをする者にとって嬉しい言葉だ。

「2人は、お金持ちのお嬢様とかなのか?」

もし、貴族の令嬢とかだったら、言葉とか気をつけないといけない。

「妾たちがお嬢様?」

俺の言葉に小さい嬢ちゃんは笑い出す。

「あやつのことは詳しくは知らんが優秀な冒険者じゃ。金には困っておらん。妾はお嬢様ではないが、とある国の重要人物じゃとは言っておこう」

「重要人物?」

「秘密じゃ」

気になるが、答えてくれそうもない。

嬢ちゃんがどこかの国の重要人物なのかは分からないがお金に困っていないこと、クマの嬢ちゃんが優秀な冒険者だと言うことは、本当のようだ。

俺は走るクマの嬢ちゃんを見る。

黒い背中だけが見える。

毒の中を走っている。

「これを渡せばよかった」

俺は手に持っている魔石に目を向ける。

「確かに、それがあれば便利じゃったじゃろう。じゃが、ユナのヤツはここに残ったお主が持っていたほうがいいと思ったのじゃろう。もし、毒に反応するなら、危険を知らせてくれるからのう」

危険な場所に行く自分より、安全な場所に残る俺の心配をする。

そんなクマの嬢ちゃんは山を駆けていく。

そして、戦闘もあったがクマの嬢ちゃんは沼の前に到着する。

「本当に大丈夫なのか。あれ、毒沼なんだよな」

「沼の色、周りにある動物と魔物死骸、遠くから見る限りの判断じゃがな」

ここからの判断では、それが限界だ。

でも、小さい嬢ちゃんの言うとおりに沼の色、動物や魔物死骸、それを見れば普通の沼ではないことは確かだ。

「それに死の山と呼ばれておるのじゃろう。そのほうが説明がつく」

とりあえず望遠鏡を覗いて、クマの嬢ちゃんの行動を確認する。

本当に壁を作っている。

「魔法って、簡単に壁を作り出すことができるのか?」

俺は子供の時から酒作りしかしてこなかった。

職人仲間はたくさんいる。

俺が作った酒で飲んだりもした。

中には冒険者や魔法を使う者もいる。

簡単な庭の塀を魔法で造る話も聞いたこともある。

修繕に使うことが多いと聞いた。

修繕をするところも見たこともある。

でも、塀全てを魔力で作るとなるとかなりの魔力を使うと聞いた。

俺たちがいる大きな柱だって、作るのは大変だったはずだ。

でも、嬢ちゃんは平気な顔をしていた。

さらに、今も歩きながら壁を作っている。

嬢ちゃんの先にキラキラした蝶がいたと思ったら、嬢ちゃんが腕を振るうと消え去っていく。

嬢ちゃんはなにごともないように歩みを続ける。

嬢ちゃんが進む横には壁ができていく。

沼の上には嬢ちゃんを狙っているように黒い鳥が飛んでいる。

「嬢ちゃんに黒い鳥が」

嬢ちゃんに向かって黒い鳥の魔物が近寄ろうとしている。

でも、クマの嬢ちゃんが何かしたと思ったら、地面に落ちる。

「あの黒い鳥、魔物なんだよな」

「ヴォルガラスじゃな」

そんな魔物を嬢ちゃんはなにごともなかったように倒す。

「ヴォルガラスって、弱いのか?」

「弱いわけがなかろう。あやつが簡単に魔法で倒しておるが、嘴に毒を持っておる。もし、噛まれでもしたら危険じゃ。魔法を外せば、迫ってくる。それに数も脅威じゃ。空から無数のヴォルガラスに襲われた事を想像してみろ」

怖いってものではない。

「ユナだから、弱く見えているだけじゃ。蟻のこともそうじゃ。あんなに簡単に討伐はできぬ。今後のために忠告じゃ。あやつと他の冒険者を比べるのではないぞ。あやつは規格外じゃ」

それからも嬢ちゃんは金色の蝶を倒したりヴォルガラスを倒しながら、壁を作っていく。

倒してもヴォルガラスは、どこからともなく現れ、沼の上に飛んでくる。

近寄ってくるヴォルガラスをクマの嬢ちゃんは倒していく。

そんな中、大きい魔物が迫ってくる。

先ほどのヴォルガラスを襲った魔物だ。

「コカトリスじゃのう」

「そんなのんきなことを言っていて大丈夫なのか?」

「さっき、ユナが倒したことがあると言っていたじゃろう。それなら大丈夫じゃよ」

幼い嬢ちゃんはクマの嬢ちゃんのことを信じているのか、心配はしてない。

クマの嬢ちゃんはコカトリスに気付いていない。

声をかけたいが、こっちに魔物を呼びよせる可能性が高いので、幼い嬢ちゃんに大きな声を出すなと言われている。

俺はクマの嬢ちゃんが襲われないか心配していると

大きい魔物、コカトリスが沼にゆっくりと降りていく。

クマの嬢ちゃんはコカトリスに気づき、壁の後ろに隠れる。

よかった。

「クマの嬢ちゃんは大丈夫なのか?」

「お主は心配性じゃのう。あやつを心配するだけ損じゃぞ」

そんなことを言われても心配はするだろう。

あんな狂暴そうな魔物だ。

普通の人が勝てる魔物じゃない。

ヴォルガラスにしても、今までに遭遇しなかったのは運がよかった。

もし、襲われていたら、逃げることもできず死んでいた。

周囲を見て、改めて運がよかっただけと知る。

「なんじゃ」

幼い嬢ちゃんが声をあげる。

俺はすぐに沼に目を向ける。

そこには飛んでいるコカトリスに沼が巻き付いていた。

この目で見ても信じられない光景だ。

「沼の水が動いているのか?」

沼の水が生きているみたいにコカトリスに巻き付いている。

「普通の毒沼ではなかったみたいじゃのう」

「あんな沼があるのか?」

「普通はない」

「それじゃあ、あれはなんなんだ」

「考えられるのはスライム」

「スライムって、液体のスライムか?」

俺も詳しいことは知らない。

ただ危険な魔物だと聞いたことがある。

水たまりだと思って、踏んだらスライムで、襲われたとか。

でも、魔石を潰せば普通の液体に戻ると聞いた。

「俺が知っているのは、あんなに大きくないぞ」

「妾もじゃ。じゃが、この世には大きなスライムもいる」

「そうなのか」

そんな話をしているとコカトリスが沼に落ちる。

あんな大きな魔物が逃げだそうともがいているが、逃げることはできず、沼の中に引きずり込まれていく。

「死んだのか?」

「毒沼の中で生きていけないじゃろう。沼の中に引きずり込まれた瞬間、コカトリスは逃げ出すことはできぬ」

あんな大きな魔物が死んだ。

クマの嬢ちゃんは隠れている。

「あれがスライムとして、どうにかなるのか?」

「分からん」

蟻の魔物が現れても、ヴォルガラスって鳥の魔物が現れても、大きな魔物コカトリスが現れても「大丈夫じゃ」と言っていた嬢ちゃんが、初めて「分からない」と言った。

「あのクマの嬢ちゃんでも、どうにもならないのか?」

「ユナの強さは知っている。じゃが、ユナの全てを知っているわけではない」

「でも、強いなら」

「ユナはあんな変な格好をしておるが強い」

一緒にいる嬢ちゃんでも、クマの嬢ちゃんのことは変な格好と思っているんだ。

今は、そんなことよりも、クマの嬢ちゃんだ。

「倒せないなら、逃げないと」

そう口にしたとき、幼い嬢ちゃんが声をあげる。

「どうやら、ユナは倒すみたいじゃのう」

倒す? あの巨大なスライムを?

望遠鏡を覗き、様子を見ると変な小屋があった。

クマ?

クマの形をしている。

山の麓に俺たちのために作ってくれた小屋と同じクマの形をしている。

こんな大変なときまでもクマを作るなんて、どれだけクマが好きなんだ。

嬢ちゃんの姿は見えない。

たぶん、あのクマの小屋の中にいるのだろう。

そう思った瞬間、クマからなにかが飛び出し、沼の水が大きく弾ける。

なんだ?

それを何度も行う。

しばらくすると、クマの嬢ちゃんがクマの小屋から出てくる。

すると、俺たちがいるような柱をクマの小屋の隣に作る。

「どうやら、あの上から攻撃を仕掛けるつもりみたいじゃのう」

小さい嬢ちゃんの言うとおりに、クマの嬢ちゃんは沼に攻撃を仕掛ける。

沼の水が弾けているのが分かる。

凄い。

「あれで倒せるのか?」

「そんなことは分からん」

沼が動き、沼が大きく盛り上がる。

その盛り上がった沼が顔に見える。

大きい。

あんな、魔物が本当に存在するのか。

沼の水をクマの嬢ちゃんに飛ばしてくる。

でも、嬢ちゃんは魔法で防ぐ。

沼の水が生きているかのように動いている。

クマの嬢ちゃんは魔法を放ち、防いでいるが、次から次へと嬢ちゃんを襲う。

でも、クマの嬢ちゃんは全てを防ぐ。

あれが、優秀な冒険者の姿。

……クマだけど。