軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

940 クマさん、お酒を購入する

テーブルの上には入れ替わりにお酒が並ぶ。

それと同時に試飲したカップが積まれていく。

「それにしても、流石ドワーフが作った酒じゃ。妾の国のお酒も美味しいが、別の美味しさがある」

「そう言ってくれたら、作った職人も嬉しいだろう」

「酒はこれで終わりか?」

「終わりだ」

だけど、カガリさんはダダンさんの言葉を信じていない。

「ふふ、お主、まだ隠しておるじゃろう。高級の酒があるってことは、最高級の酒があるってことじゃ」

それは言葉的にだけど、ダダンさんの表情を見ると、カガリさんの予想が当たっているみたいだ。

ダダンさんはカガリさんの言葉に固まっている。

でも、ダダンさんは諦めた表情になる。

「あの酒は、お得意様に売ると決まっている。生産数も少ない。嬢ちゃんが飲みたいと言っても売ることはできない」

「そこまで言われたら、余計に飲みたくなるのう」

「嬢ちゃん、諦めろ。あの酒は俺だって飲めない。お金持ちしか飲めない」

ロージナさんも知っていたみたいだ。

「えっと、お金なら出すよ」

お金ならある。

成金みたいな言い方だけど。

お金で買えるものなら買えるはず……。

「さきほども言ったが、生産数が少ない」

「そんなに美味しい酒なら、たくさん作ればいいじゃろうに」

「門外不出、代々受け継がれて、とある酒職人にしか作れない」

「たぶん、作るのにも手間がかかっているのだろう。物を作るのが早いだけじゃ、良いものは作れない」

ダダンさんの言葉に、ロージナさんは自分に言い聞かせるように言う。

生産数が少ないものは最上級の材料を使うためだったり、材料が手に入り難かったり、作るのに時間がかかったりするため、生産数が少なくなる。

「そこまで言われたら余計に飲みたくなるのう」

カガリさんの目が輝く。

「初めに言っておくが、試飲もできないからな」

「そこをなんとか」

「本当に悪いが、無理だ」

「そこまで言われると、無理強いはできぬな。飲んでみたかったのじゃが」

カガリさんも大人だ。我が儘を言ったりはしない。

「それじゃ、その酒を作っている酒職人に直談判するまでじゃな。ロージナ、悪いが妾を酒職人のところに連れて行ってくれ」

前言撤回、カガリさんは諦めていなかった。

「無茶を言うな。直談判しても、在庫がないものは売れないだろう。次回の生産分も購入者は決まっているって話だ」

そんなに美味しいお酒なら、予約は入っているよね。

次回の生産どころか、さらに次の生産分まで予約が入っている可能性もある。

そんなところにわたしたちがお酒を売ってくれと言っても、売ってくれないと思う。

人気があるゲームの限定版なんて、予約が殺到する。

限定数の食べ物だって、行列ができる。

引きこもりのわたしにとって、並ぶって行為は信じられないけど。

「とりあえず、その酒のことは忘れろ。今は飲んだ酒のことだけを考えろ。それで、ほしい酒はあったか」

ダダンさんは無理矢理に話を終わらせ、試飲したお酒について尋ねる。

まあ、それが仕事だし、いつまでもわたしたちに関わっているわけにはいかない。

カガリさんもそれ以上は追求はせず、指標を書かれた紙を手にする。

「全部と言いたいところだが……」

カガリさんは指標が書かれた紙を見ながら、番号をダダンさんに伝える。

「これは2つで、これは3つじゃ」

同じものでも気に入ったものは数本購入するみたいだ。

「本当にこんなに買うのか? かなりの金額になるぞ」

「やっぱり、妾が自分で払うかのう」

「気にしないでいいよ。カガリさんには屋敷を管理してもらっているお礼もあるし」

家は人がいないと傷むと聞く。

「掃除もしているんでしょう」

「たまにじゃよ。ほとんどがスズランがしておる」

カガリさんがいるから、スズランさんが掃除をしてくれている。

お風呂が綺麗なのも2人のおかげだ。

「それじゃ、2人へのお礼と思って、今度スズランさんと一緒に飲んで」

「あやつは真面目だからのう。飲むかのう」

わたしとカガリさんが話をしているとダダンさんは困った表情をしている。

「それで、どうするんだ?」

「大丈夫だよ。ちゃんとお金は払うから、お願い」

「分かった。用意してくる」

ダダンさんは部屋から出ていこうとするので、「あっ、ちょっと待って」と声をかける。

「なんだ。やっぱり止めるのか?」

「そうじゃなくて、カガリさん、オススメをいくつか、選んでもらってもいい?」

カガリさんにお願いをする。

「なんじゃ、お主が飲むのか?」

「違うよ。お世話になっている人にプレゼントしようと思って」

鍛治職人のガザルさんとゴルドさん。

それから、ティルミナさんとゲンツさん

クリフやエレローラさんも飲むかもしれない。

知り合いの大人は多い。わたしにはお酒の良さは分からないけど、喜ばれるかもしれない。

「選ぶと言っても、人には好みがあるからのう。誰にあげるのだ?」

食べ物にだって好みがある。

それは仕方ないことだ。

でも、全部試飲したカガリさんなら、それなりに選んでくれると思う。

「ドワーフの知り合いと、フィナの両親とか、あと貴族とか偉い人なんだけど」

「ドワーフには強い酒がいいだろう。あの嬢ちゃんの両親か。会ったことはないが、飲みやすいのがいいじゃろう。それと貴族か、それなら、香りがよくて、美味しいのがいいじゃろう」

カガリさんは自分で書いた指標を見て、オススメのお酒を提示してくれる。

「えっと、いま、カガリさんが言ったのを追加で、分かるようにしてほしいんだけど」

「分かった」

「あと、ロージナさんが好きな酒を3本ほどお願い」

「嬢ちゃん、待て。酒なんていらないぞ」

「お礼だよ。気にしないで」

「ロージナの好みは分かっている。用意してこよう」

今度こそ、ダダンさんは部屋から出ていく。

「嬢ちゃん、お金は大切に使うものだぞ」

「でも、溜め込んでいても仕方ないでしょう」

経済を回すにはお金は使わないと。

1人がお金を溜め込んでいたら、経済は回らない。

それに、お金を使わないと溜まっていく一方だ。

ロージナさんはため息を吐くと、「妻と飲ませてもらう」と言ってくれる。

その言葉が少し嬉しい。

「それで、さっき言っていたドワーフって、ガザルとゴルドの奴か?」

「うん、ここに来る前にもゴルドさんにナイフを見てもらったからね。そのお礼を兼ねて」

「ほう、ナイフを見せてみろ」

わたしはミスリルナイフを出す。

ロージナさんは、ミスリルナイフを丁寧に見る。

「ちゃんと綺麗に処理をしているな」

ミスリルナイフを見て、少し嬉しそうだ。

「それで、ガザル。……リリカの様子はどうだ?」

ミスリルナイフを渡しながら、尋ねてくる。

リリカさんはロージナさんの娘で、王都で鍛治の仕事をしているガザルさんと結婚した。

「えっと、少し前に会ったときは元気にしていたよ。ガザルさんとリリカさんは少し離れた場所にいるから、今回はゴルドさんがナイフを見てくれたんだよ」

「そうか」

「わたしも最近会っていないから、お酒を渡すついでに見てくるよ」

わたしはミスリルナイフをクマボックスにしまう。

「リリカが泣いていたら、戻ってくるように言ってくれ」

「了解」

あり得ないと思うけど、親心だ。

わたしは頷いておく。

「それにしても試飲とはいえ、よく飲んだな」

ロージナさんはテーブルの上に重ねられているカップを見る。

カップは30以上ある。

つまり、カップの数が飲んだ数を表している。

「しかも、あまり酔っていないように見える」

「どうじゃろうな。頭ははっきりしておるが、気持ちいい。このまま寝たい気分じゃ」

漫画とかで、「安酒は酔えるけど、不味い」「不味くても酔えればいい」ってセリフがある。

そもそも酔うってそんなに良いものなの?

車酔い、船酔い、とかあるけど同じもの? 酔いたければ船に乗ればいいと思う。

でも、カガリさんは酔っているのに、気持ち良さそうな表情をしている。

酔いって、気持ちいいのかな。

お酒を飲まないわたしには、酔っ払いの気持ちだけは分かることはできない。

「寝たいといえば、嬢ちゃんたちはこれから、どうするんだ?」

「一度、家に戻って休むよ」

カガリさんが、こんな状況だし、休憩は必要だ。

一応、この町にも家がある。

寝る準備はできていない。

布団はクマボックスに入っているから寝ることはできる。

クマの転移門を使って、一度戻ってもいい。

「夜にバッソさんのところに行くけど。ロージナさんは付き合ってくれるの?」

ミスリルゴーレムを渡しに行くだけだから、ロージナさんがいなくても大丈夫だけど、もしものとき、いてくれたほうが助かる。

「ああ、ここまで来たのだから、一緒に行く。酒の礼もあるしな」

今日の予定を話しているとダダンさんが大量のお酒を台車にのせて戻ってくる。

「個人で買う量ではないな」

ロージナさんの言葉に同意だ。

しかも、1人で飲む予定だから凄い。

「ほれ、品目と金額だ。それと試飲代。問題がなければサインと金を」

ダダンさんが紙を差し出してくる。

紙を受け取り、確認する。

紙は明細書で、お酒の名前と金額が書かれている。

見ても、この世界のお酒の適正価格なんて分からない。

もっとも、元の世界でもお酒の価格も知らないけど。

「ロージナさん、これって適正?」

分からないなら、分かる人に聞けばいい。

ロージナさんは明細書を受け取ると、目を通す。

「凄い金額になると思っていたが、これほどか。価格は間違いない」

「あたりまえだろう。商売は信用問題だ。変な金額で売りつけたことが他の人に知られたら、客が減る。だから、そのための明細書だ」

明細書が他の人と金額が違ったら、商売方法は疑われる。

「だが、大量に買ってくれる者には多少のおまけはする」

商売ってそんなものだろう。

大量購入してくれる店には安く卸す。だから、元の世界でも、大型電気屋さんとかは安く家電が売られている。

食品でもそうだ。

大量に入っている食品はお得がある。

「今回はいい飲みっぷりを見せてくれたから、数本おまけしておいた」

「ほう、感謝する」

「次に買いに来るときも、贔屓してくれればいいさ」

「そのときは、また頼むとしよう」

この量のお酒、どのくらいで無くなるのかな?

「こっちがクマの嬢ちゃんのだ」

ちゃんと分けてくれたみたいだ。

わたしはお金を払って精算し、カガリさんは嬉しそうにお酒をアイテム袋にしまっていく。

わたしもカガリさんにオススメされたプレゼント用のお酒をクマボックスにしまう。