軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

932 クマさん、鍛冶屋に行く

ジュウベイさんとの挨拶を済ませたわたしは城を出ると鍛冶屋に向かう。

「じゃが、本当にこの国で作るのか? お主ならドワーフの鍛冶職人ぐらい知り合いにおるじゃろう」

まず刀が欲しいと思ったとき、クリモニアのゴルドさんと王都のガ ザルさんの鍛冶屋を思い浮かべた。

「知り合いはいるけど、刀が作れるか分からないんだよね」

ゴルドさんとガザルさんの店に刀が置いてあるのは見たことがない。

売れないから作らないのか、刀を知らないから作らないのか、わたしには判断ができない。

クマの転移門で確認しに行くことはできるけど、まずは和の国の鍛冶職人に会うことにした。

「ドワーフの鍛冶職人はいないんだよね?」

「妾が知る限りだといないのう。酒職人がいるぐらいじゃ」

「わたしも知らないっす。そもそも、ドワーフは珍しいっすから」

「この地に来るのは変な奴ぐらいじゃろう」

カガリさんの知っているドワーフは酒を求めて旅をしていたのかもしれない。

「今は、ドワーフのことは横に置いておいて、これから行く鍛冶職人は名刀、作れるの?」

案内してくれているシノブに尋ねる。

刀を持つなら、普通の刀ではなく、カガリさんが持っているような名刀が欲しい。

「そこそこ実力がある人っすよ。でも、名刀が作れるかどうかと言われたら、分からないっす。名刀って作りたくても作れるものじゃないっすから」

「そうじゃな」

う~ん、わたしが思っていたよりも名刀って簡単に作れるものじゃないのかもしれない。

「もし、お主が満足できなかったら、妾の刀をやるから、我慢せよ」

「嬉しいけど、その刀はカガリさんの大切な刀でしょう」

放置されていたけど、保管状況はよかった。

カガリさんが大切にしているのは分かる。

なんとなくだけど、簡単に貰っていいものではない気がする。

「それに自分にあった刀を見つけたほうがいいって、言ったのはカガリさんでしょう」

「じゃから、もしもの場合じゃよ」

「あの刀はカガリさんには必要だよ。だから、カガリさんがお婆ちゃんになったら、そのときは受け取るよ」

「つまりは、受け取るつもりはないと」

その刀が無かったことで、カガリさんが死ぬようなことがあれば悔やまれる。

よく漫画とかで、力を弟子や仲間に渡して、死ぬことがある。

その手のフラグは折っておく。

そんな会話をしながら、わたしたちはのんびりと城下町を歩く。

「馬車を用意してもらえばよかったのう」

カガリさんは周囲を見ながら言う。

「そうっすね」

そう言って、シノブがわたしを見る。

たまに和の国を歩くけど、やっぱりクマの格好は目立つ。

「カガリさんは別に付き合ってくれなくてもよかったのに」

「お主の謝礼を妾の酒にしてくれたじゃろう。それなのに、貰うだけ貰って、お主を放置して帰るわけには行かぬ」

そのあたりは律儀だ。

見た目は幼女だけど、頼りになる大人って感じだ。

視線を受けつつ、シノブの案内で城下町から離れた場所にやってくる。

見た感じ、職人通りって感じの場所だ。

「ここがお薦めの鍛冶屋っす」

クリモニアのゴルドさんの鍛冶屋や王都のガザルさんの鍛冶屋はファンタジーの鍛冶屋っぽかったけど、この鍛冶屋は和風って感じだ。

「お邪魔するっす」

シノブが店の中に入っていく。

その後ろをわたしとカガリさんがついていく。

「誰かと思えば、シノブか」

見た目、40歳ぐらいの髪が短い男性が声をかけてくる。

「お客さんを連れて来たっす」

シノブがわたしの肩に手を置く。

「……クマ?」

わたしをジッと見る。

「この女の子に刀を作ってほしいっす」

シノブがわたしの肩に手を置いたまま言う。

「えっと、つまり、そのクマの嬢ちゃんの刀を作れと?」

「お金は気にしないでいいっすよ」

「確かに、お金は気にしないでいいけど。払うのはわたしだよ」

「ふっふっ、そこは陛下に出してもらうっすよ」

「まあ、それが妥当じゃろう」

「でも、わたしの褒美はカガリさんのお酒になったよ」

「気にせんでいい。かりにも国王だ。金はもっておる」

「でも、それって国民の税金だよね?」

「お主、変なところで律儀じゃのう。お主がしてきたことを考えれば安いものじゃ」

まあ、大蛇に街を破壊されていたら、復興資金だけでも、かなりの金額になる。

それを考えたら、刀の一本ぐらい安い物なのかもしれない。

「そう言うわけだから、ユナに刀を作って欲しいっす」

「名刀をお願い」

おじさんが再度わたしを見るのでお願いする。

「簡単に名刀が欲しいと言われて、作れるものじゃない。俺だって、名刀が簡単に作れれば苦労しない」

「つまり、作れないと?」

「そもそも、嬢ちゃんに名刀が必要なのか?」

わたしをジッと見る。

「たまにいるんだよな。実力も伴わないのに、強い武器を手に入れたら、強くなれると思っている若い奴が」

ゲームだったら、レベル1だろうが、強い装備を持てば強くなれる。

初期武器のヒノキの棒が攻撃力1だとしたら、最終武器は攻撃力100にすれば、攻撃力は99上がることになる。

「いくら、金があって、名刀を手に入れても扱えないなら意味がないぞ。豚に真珠だよ。嬢ちゃんの場合はクマか」

おじさんは笑う。

「ユナを怒らせないでほしいっす。国が滅びるっす」

「怒らないし、滅ぼさないよ」

真面目な顔で言わないで

クマの格好のせいで、刀を持つようには見えないのは、自分でも分かっている。

まして、年齢からしても名刀を持つには100年早いとか言われても仕方ない。

まあ、100年後は死んでいるけど。

「えっと、名刀は作れないの? わたしに作りたくないじゃなくて」

「鍛冶職人は皆、名刀を作るつもりで鉄を叩いているが、名刀は簡単に作れるものじゃない」

確かにそうだ。

そう簡単に名刀が作れるものなら、誰も苦労しないし、名刀だらけになってしまう。

「そこにある刀でも適当に買っていけ」

おじさんが、壁に掛かっている刀に目を向ける。

量産品、普通に作っただけの刀。

「知らぬ間に鍛冶職人の腕だけではなく、心の質も落ちたのう。昔は扱う者のことを親身になってくれたものじゃが」

カガリさんがぼそっと小さい声で言うけど、おじさんが反応する。

「何度も言うが、名刀なんて嬢ちゃんが持つには早い」

「カガリさん、もういいよ。帰ろう」

もう、ここで買う気はない。でも、店を出て行く前にやりたいことをする。

「おじさん、人を見た目で判断しないほうがいいよ」

わたしは壁に掛かっている刀を手にする。

そして、鞘から刀を抜き、床に刺す。

「なにをするんだ!」

わたしは無言で、壁にかかっているもう1本の刀を手にする。

そして、居合い切りの構えをする。

一呼吸おいて、刀を抜き、床に刺さっている刀に向かって振るう。

一閃。

刀を鞘に戻す。

鞘に戻す音がカチンとすると、床に刺さっていた刀の半分が床に転がる。

部屋の中に静かな時間が流れる。

わたしは無言で持っていた刀を壁に戻す。

「それじゃ、帰ろう。ああ、シノブ、斬った刀の代金のほうはお願いね」

わたしは斬った刀を見て言う。

さっき、払ってくれると言ったんだから、刀の一本ぐらいいいよね。

わたしは店の外に出る。

その後ろをカガリさんとシノブが付いてくる。

後ろから、「待ってくれ」と声が聞こえるが、無視をする。

「これからどうするのじゃ? 他の鍛冶屋でも行くのか?」

「他の鍛冶屋も同じようなものでしょう」

「そう言われると、辛いっす」

でも、一度、刀が欲しいと思うと、欲求は止まらない。

う~ん、これはゴルドさんかガザルさんに相談かな?

もしかしたら、作れるかもしれないし。

「それなら、ドワーフのところに行くのはどうじゃ?」

わたしが思っていることをカガリさんが言う。

「ほれ、お主。約束を忘れていないじゃろうな」

「約束?」

「ドワーフが住んでいる街があるのじゃろう。そこで酒を買ってくると」

ああ、そんなことを言ったような。

「言ったかも?」

「なぜ、疑問形なのじゃ」

それは、わたしがお酒に興味がないからとは言えない。

「冗談だよ。でも、わたしの分も含めて、国王からお酒は貰えるんでしょう」

「それとこれは別じゃ。お主は美味しい食べ物が2つあって、片方を諦めるのか?」

「諦めないね」

二兎を追うものは一兎も得ずって言葉はあるけど、別に今回に限っては、両方追ったとしても、両方とも得られないってことはない。

「そうじゃろう」

「待ってくださいっす。なんの話っすか」

わたしとカガリさんは歩きながら、カガリさんがドワーフの街にお酒を買いに行くことを説明する。

「わたしも行くっす」

「いや、お主は仕事があるじゃろう」

「休暇が10日間あるっす」

「それは、すぐじゃないじゃろう」

「嫌っす。わたしも行くっす。すぐに休みを貰うっす」

このままカガリさんとドワーフの街に行こうと思ったけど、シノブが引き下がらない。

「分かったよ。それじゃ、3日後でどう?」

それ以上は待つつもりはない。

欲しいと思ったら、止めるは難しい。

人によっては、すぐにネットで購入ボタンを押す。

今のわたしはそんな心境だ。

シノブは「分かったっす」と言うと駆けだしていく。

そんなシノブの背中を見送り、わたしとカガリさんはサクラの家に向かう。

帰る前に挨拶だ。

「ユナ様、お帰りになるのですね」

「うん、妖刀も無事に回収が終わったからね」

「ユナ様、今回のことありがとうございました」

「そういえば、予知夢は戻ったみたいだね」

「かもしれません」

「もし、そうなら、魔力も普通に戻って、魔法も使えるかもしれないね」

予知夢と魔力の関係性は分からない。

でも、なんとなく戻っているとような気がする。

「それも、ユナ様から頂いたお茶のおかげかもしれません」

サクラには神聖樹の茶葉をあげた。

ムムルートさんに言われて、サクラは飲み過ぎないように適度に飲んでいるらしい。

なんでもそうだけど、飲み過ぎ、食べ過ぎはよくないからね。

最後に、くまゆるとくまきゅうを召喚して、サクラとお別れの挨拶をする。

そして、カガリさんが帰ることを嗅ぎつけてきたスズランさんがやってきた。

一緒に帰って、お世話をすると言い出す。

カガリさんはスズランさんを落ち着かせ、明日来るように言う。

スズランさんが一緒に帰ることになれば、わたしがクマの転移門を使って、帰ることができなくなるからね。