作品タイトル不明
908 ジュウベイ、戦いを見る
妖刀を回収した俺は裏町から離れる。
まさか、シノブがいるとは思わなかった。
傷つき、戦っていた。
状況を見ればシノブが優勢だった。
シノブも強くなったものだ。
兄弟子を殺してから、弟子を取るつもりはなかった。
でも、シノブの父親からお願いされ、戦い方を教えるようになった。
その弟子のシノブより先に妖刀を回収することができてよかった。
先ほどから妖刀が人を斬りたがっている。
もう一つは人と戦いたがっている。
本当に厄介な妖刀だ。
俺はシノブが後を尾行けてきている可能性を考慮しながら城下町を移動する。
シノブの隠密能力は高い。
気を抜いた状態なら、まず気付けない。
過去に3日間、シノブに見張られているのに気づけないことがあった。
尾行の練習だと本人は言っていたが、気づかれずに後を付ける能力は高い。
俺は細い道を通り、入り組んだ建物の中を入ったりして移動を続ける。
逃げている間に深夜になり、人通りもなくなる。
周囲の確認をする。
どうやら、追いかけてきていないようだ。
とは言ったものの、シノブの尾行の腕が上がっていれば気づけない。
あの年齢で、あの実力は末恐ろしい。
ただ、それ以上にユナの実力は異常だ。
そんなことを考えて町外れまでやってくると、明かりが見える。
なんだ?
町外れには建物はない。
こんな静まり返った深夜に人がいるってことだ。
放っておくことはできない。
もし、怪しいことをしていれば捕まえないといけない。
俺は明かりのある方へ移動する。
しばらくすると武器がぶつかり合う音が聞こえる。
魔法で作り出された明かりの下で2人が戦っている。
片方は見知らぬ男、もう片方はクマの格好した女の子。
ユナだ。
どうして、こんなところに?
俺は身を隠せる場所に移動する。
木があり、身を隠し、様子を窺う。
シノブから話を聞いたが、本当に嬢ちゃんがいた。
そうなると、嬢ちゃんが戦っている相手は妖刀か。
静かだから会話が聞こえてくる。
「やっぱり、あなたは最高です。魔法だけじゃなく、武器の扱いも長けているなんて」
「あなたに褒められても嬉しくないよ」
会話からして、ユナの知り合いか?
その男が妖刀を?
離れているため男が持っている妖刀の確認ができない。
男とユナの戦いは続く。
ユナが男を蹴り上げると男は吹っ飛ぶ。
吹っ飛んだように見えたが、衝撃を和らげるために男が自分で跳んだことは、すぐに分かった。
簡単にできることではない。
あの男は強い。
ユナは土魔法を使って、男の動きを封じようとするが、刀で土の魔法を斬る。
斬った瞬間、土が崩れた?
魔力を吸った?
もしかして、妖刀魔花なのか。
それを証明するかのように男はユナの放つ火の玉も斬ると消滅する。
間違いなく魔力を吸収している。
さらには男が刀を横に振るうと、刀から赤い刃が放たれた。
間違いない妖刀魔花だ。
兄弟子も使っていた。
相手の魔法を吸収すると、その魔法を返す。
魔法が苦手だった兄弟子は俺の魔法を妖刀で吸収すると、刀から放っていた。
嬢ちゃんがナイフで攻撃を躱した瞬間、左手が光る。
至近距離の目くらましだ。
俺の位置は離れていたから大丈夫だったが、男は至近距離だ。
間違いなく、男の目はやられたはずだ。
ユナが殴るが、男が受け止める。
受け止めたことに驚いたのにユナは腕を振り抜いた。
男は吹っ飛ぶが、なにもなかったように立ち上がる。
あの男もユナも強い。
1本目の妖刀が2人と戦いたいと訴えてくる。
2本目の妖刀は2人を斬りたいと訴えてくる。
深呼吸して落ち着かせる。
妖刀に意思を持っていかれるな。
妖刀に手を置いて、落ち着かせて2人の様子を窺う。
ユナがナイフを構え、男も戦おうとするが、男の動きが止まり、ナイフを逆に持っていることを尋ねる。
「つまり手加減して戦っていたってことですか?」
男が怒ったように言うが違う。
ユナは人を殺せない。だから、刃ではない部分で戦っていたのだろう。
まあ、斬ることはできないが、人のことは思いっきり殴る。
あれは痛い。
「前回、わたしに負けたことを忘れたの? 強い武器を手に入れたぐらいで、わたしと同等に戦えると思った?」
ユナ自身もバカ正直に答えない。
それとやっぱり、知り合いだったみたいだ。
「あなた程度、このぐらいのハンデはあっても問題はないよ」
確かにユナにとっては、このぐらいのハンデはあっても問題はないのかもしれない。
でも、妖刀だ。万が一のことがある。
少しのミスが命取りになる。
ユナと男の攻防が再開される。
男の動きは速い。
ユナも速い。
互角だと思った。
ナイフでは届かない位置。
いつの間にかユナの左手に剣が握られていた。
腕を振り抜いた。
ユナの剣が男の刀の柄にぶつかり、男は吹っ飛び、地面を転がる。
一瞬の出来事だった。
笑みが溢れる。
戦いたい。戦いたい。戦いたい。戦いたい。
ユナが手に持っていたのは木刀。これが本物の刀だったら、男の手は斬られていた。
あの左手の白いクマはアイテム袋だと知っていたが、まさかあんな活用方法があるとは。
普通は相手の持っている武器にしか目がいかない。
あんな攻撃をされたら相手はたまったものではない。
でも、面白い。
戦いとはなんでもあり。
その者の実力である。
それが妖刀を使おうが。
「終わりだね」
ユナは倒れている男に剣を向ける。
勝負はついた。ユナの勝ちだ。
刀は男から離れたところに落ちている。
「拾わせないよ」
ユナが妖刀と男の間に移動すると男が腕を伸ばす。するとユナの後ろにある刀が動き出す。
ユナも気づくが、気づいたときには刀が動き、男の手に収まっていた。
「これで振り出しですね。もう、不意打ちは効きませんよ」
男は立ち上がり、笑い出す。
「もし木の棒でなく、ちゃんとした武器を使っていたら、わたしの手首がなくなって、あなたが勝っていました。あなたの傲慢さと自惚れで勝ちを逃しました」
男の言うとおりに木刀ではなく、本物の武器を使っていたら勝負はついていた。
ユナの傲慢ではなく、人が斬れないためだ。
魔物は殺すことができるが、人を殺せない者はいる。
「あなたの魔力を吸収できて、嬉しそうです。もっと、欲しいらしいので、斬らせてもらいます」
これ以上、我慢はできそうもない。それに妖刀魔花を回収するのは俺の役目だ。
俺は2人に向かって歩き出す。
2人は俺に気付き、動きが止まる。
「……ジュウベイさん」
ユナが俺を見て、驚いた顔をする。
「どこに行っていたの。みんな心配していたんだよ」
「心配かけて申し訳ない」
ユナに謝り、男に視線を向ける。
「あなたは誰ですか。いきなり現れて、わたしたちの戦いの邪魔をして」
男がユナとの戦いの邪魔をされて、怒っているみたいだ。
「それは申し訳ありません。あなたの持つ妖刀を回収しにきました」
男の持つ刀に目を向ける。
間違いなく妖刀魔花、兄弟子が持っていた妖刀。
戦いたい、戦いたい、戦いたい、戦いたい。
妖刀の気持ちなのか、俺の気持ちなのか分からない。
俺は無意識に刀を抜いていた。
「わたしの楽しみを奪うのですから、タダでは済みませんよ」
その楽しみは俺のものだと、心の奥底から聞こえてくる。
嬢ちゃんともう一度戦いたい。
そんな気持ちが湧いてくる。
嬢ちゃんとの戦いを目の前の男に譲りたくない。
俺が、この男を斬れば。
なにを考えている。
今は妖刀魔花の回収だ。
男の刀を受け流す。
速いが実力は中の上、上の下といったところだろう。
ちなみに嬢ちゃんの実力は上の上だ。人を殺すことができればとつくが。
男の刀を受け流し、男に向けて刀を振り下ろす。
男は体を捻って躱すと、そのまま体を捻った勢いで刀を振るう。
動きが速いが脅威にならない。
兄弟子が持っていたときの妖刀魔花の力はこんなものだったのか。
俺が強くなったのか。
それともこの男が弱いのか。
打ち合った俺は軽く後ろに跳び、突きの構えをする。
男もなにかを感じたのか、後方に逃げる。
遠い。
突きの間合いに入っていない。
ユナとの戦いでもそうだったが、危険察知能力が高い。
面白い。
「世界って広いな」
それには同意だ。
この男は俺と同類か。
戦いにしか興味がない。
男はさきほどの顔とは違って嬉しそうにする。
男が自分の名を名乗り、俺の名前を尋ねてくるので突きを構えたまま「ジュウベイ」と名乗る。
「その攻撃は危険そうですね」
「分かるのか?」
「この武器が教えてくれました」
男が自分が持っている妖刀を見る。
妖刀魔花。
つまり俺の魔力の流れを妖刀が読んだと。
三段突きは相手によって魔力の流すところを変える。
足に溜めれば、瞬発力が増し、踏み込み速度が上がる。
腕と刀に流せば、どんなに固いものでも貫くことができる。
それを相手によって、魔力を使い分ける。
今回は足に魔力を溜め、踏み込み速度をあげていた。
「受け止めてもよかったんですが、危険そうだったので、逃げさせてもらいました」
「安心しろ、次は逃がさない」
「このまま戦いたいですが、魔力が切れそうなので、残念ですが、ここまでにさせてもらいます」
男は後ろに下がる。
「逃げるのか?」
「逃げるもなにも、そもそも嬢ちゃんとの戦いに割り込んできたのはあなたです。あなたとの戦いも楽しそうですが、優先順位はそこにいる嬢ちゃんですので」
追いかけようとしたが、頭に激痛が走る。
嬢ちゃんと戦いたい、嬢ちゃんを斬りたい。そんな感情が湧いてくる。
収まれ。
「続きは、また今度にしましょう」
男の言葉と同時に空に浮かんでいた光の玉が消えて真っ暗になる。
明るいところから暗くなったことで視界が見えなくなる。
男が逃げる気配がする。
逃がさない。
駆け出し、気配がするところに刀を突き出す。
男はこの暗闇の中、防ぐ。
まだだ。
さらに刀を突き出す。
少し手応えがあったが、掠っただけだ。
男の気配が離れていく。
それと同時に周囲が明るくなる。
どうやら、嬢ちゃんが魔法を使ったみたいだ。
「ジュウベイさん」
嬢ちゃんが駆け寄ってくる。
「斬ったの?」
刀を見ながら尋ねてくる。
「掠っただけだ。致命傷にもなっていない」
刀を嬢ちゃんに向けたくなる。
どうにか耐えて、男の血を拭き取り鞘に戻す。
嬢ちゃんの顔を見ると、戦いたくなるので目を逸らす。
「今まで、どうしていたの?」
「すまない」
嬢ちゃんがいろいろと尋ねてくるが背を向ける。
「すまないってなに?」
「あの男は俺が捕まえる」
この場にいるとユナに斬りかかってしまいそうになるので、この場を離れる。
俺は駆け出し、人がいないところに移動する。
斬りたい、戦いたい、自分の気持ちなのか、妖刀の気持ちなのか分からなくなってくる。
城に戻らないといけない考えも浮かぶが、あの男の持っている妖刀魔花を回収しないといけない。
それと同時にユナと戦いたい気持ちが抑えられなくなってきている。
2本の妖刀に触れる。
「…………少しだけだ」