軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

902 シノブ、妖刀を探す その3

わたしは男が床に突き刺した妖刀を見る。

「妖刀は使わないんっすか?」

「勝った者が手にする。分かりやすいだろう」

妖刀を自らの意志で離すなんて、どれだけ意志が強いっすか。

今までの言動は妖刀のせいだと思っていたっすけど、本心だった?

それはそれで、とんでもないっすけど。

でも、男の提案はリスクがある。

負ければ国王陛下のことを話さないといけない。

秘密裏に動いているのに、それだけは許されない。

お金で購入するよりも面倒なことになったっす。

でも、わたしにもメリットはある。

勝てばお金を払わないで済む。

さらに、相手は妖刀を使わないと言っている。

先ほどの突きの動きを見れば、それなりの実力者。

デメリットもあるけどメリットもある。

「後悔しても知らないっすよ」

わたしは舞台の上にあがり、フードを脱ぎ、アイテム袋にしまう。

顔は見られたくなかったけど、動きを鈍らせるフードを着たままでは勝てる相手ではない。

ユナが、あの動きにくそうなクマの服で戦っているのが不思議でならない。

「ほう、こんなに若い女だったとはな」

「美人で驚いたっすか」

「ああ、だが、手加減するつもりはない。俺たちの縄張りに勝手に入ってきたのだからな」

もしかしたら、わたしを見て、戦いを止めてくれるかもと思ったっすけど、ダメだった。

「許可が必要なんて知らなかったっす。ここは来るもの拒まず去るもの追わずじゃなかったすか?」

「それは俺たちの縄張りを邪魔しない前提だ。貴様はここに危険なものを持ち運んだ。そのせいで怪我人が出た」

「だから、それはわたしじゃないっすよ」

「貴様の主人のミスだ。貴様を手土産に請求させてもらう」

「だから、それは妖刀を引き取るお金として」

お金で解決するなら、すぐに国王陛下のところに行って、お金をもらってくるっすよ。

「俺たちの仲間が受けた報いを、貴様の主人にも受けてもらう」

妖刀を回収するのに怪我人が出たと聞いた。

そして、先ほどの進行役の男も。

「下っぱのわたしが怪我を負っても、悲しまないと思うっすよ」

国王とはそういうものだ。

国王の元では国王のために働く数多くの人がいる。

国王の身内ならまだしも、末端のわたしのことなんて心配しない。

全ての者のことを気にしていたら心がもたない。

「とんでもない主人のようだな」

「それでも、仕えている身としては仕事をするだけっす」

わたしは短刀を出す。

「怪我をしても恨まないでほしいっす」

「貴様も死んでも文句は言うなよ」

わたしがあえて、怪我と言っているのに、相手は死んでもと言ってくる。

性格が悪いっすね。

「わたしを殺したら、主人の元へ連絡ができなくなるっすよ」

「この妖刀があれば、別の者が来るだろう。そいつに聞くさ」

その人物が、師匠やユナの可能性が高い。

もし、わたしが殺されでもしたら、二人なら、暴れてくれるかも。

そう考えると、嬉しい気持ちになる。

でも、あの二人が暴れたら、大変なことになるっすね。

「なにを笑っている?」

「あんたたちのためにも、勝たないといけないっすね」

「なにを言っている?」

「ここに住む人たちのために、負けるわけにはいかないっす」

わたしは短刀を構える。

「どうやら、頭がおかしいみたいだな」

男は自分の刀を構える。

そして、わたしがクナイを投げるのを合図に戦いが始まる。

男の体格は師匠より大きい。

先ほどの突きは速かった。

だけど、師匠よりは遅い。

師匠の三段突きは見えない。とくに3回目は。

でも、男の突きは見えた。

見えたからと言って、躱せるかは別の話っすけど。

そう考えるとユナはとんでもないっす。

あの師匠の三段突きを躱すっすから。

なら、わたしがこのぐらいの男に勝てなくては、ユナには届かない。

わたしは左右に動く。

速度こそ、わたしの利点。

体を低くして、男の懐に入る。

男は刀を振り下ろす。

左手に取り出したクナイで受け流す。

男の力で押される。

力では勝てない。

受け流さないと吹っ飛ばされる。

男の刀がわたしの体を掠るように通り抜ける。

受け流した。

わたしは一歩踏み込み、右手に持つ短刀を男に向けて振り上げる。

斬ったと思った瞬間。

男は体を反り、短刀は男の服を掠る。

まだだ。

振り上げた短刀を振り下ろす。

でも、その瞬間、体に衝撃が走る。

目の端に男の足が見えた。

……蹴り。

男は体を後ろに反らしたことで、足が上がり、その足でわたしを蹴った。

まずいっす。

わたしの体は吹っ飛ぶ。

「なんだ。蹴った感覚が弱かった。もしかして、自分から跳んだのか」

わたしは起き上がる。

目の端に蹴りが見えたわたしは、片方の足で横に跳んだ。

男の蹴りの衝撃は3割ぐらい。

でも、痛いのは変わりないっす。

ただ、まともに食らっていたら、戦いに支障が出ていた。

「女だから、楽しめないと思ったが、面白い」

「女だからと言って、バカにしないでほしいっす」

バカにしないでほしいけど、手加減してほしいっす。

「バカにはしてない。貴様が強いと思ったから、戦いを挑んだ」

「戦闘狂っすか」

「戦いは嫌いじゃない。だから、こうやって強そうな奴を見つけると、戦いを挑んでいるだけだ」

やっぱり戦闘狂っす。

「力を求めているのに、よく妖刀から手を離すことができたっすね」

「自分の意志で戦いたいのであって、刀の意志なんて関係ない」

「強いっすね」

「貴様もな」

わたしは弱い。

負けてばかりだ。

ユナだったら、誰にも負けない。

カガリ様も負けない。

師匠も負けない。

わたしと男の戦いが再開される。

動きの速さはわたしのほうが速い。

力は男のほうが強い。

間合いは男の刀のほうが長いので男が有利。

至近距離なら、短刀のわたしのほうが有利。

なら、これなら。

男の隙をついて、風の刃を放つ。

隠し玉として取っていた魔法を男は簡単に刀で切り裂く。

風の刃は男の後ろにぶつかり、壁を壊す。

魔法で隙を作り、間合いを一気に詰めるはずだったのに、切り裂かれるなんて、予定外だ。

「それだけ武器の扱いに長けているのに、魔法まで扱えるか。しかも、その若さで」

「わたしなんて、まだまだっすよ」

「貴様より、強い者がいるのか?」

「いるっすよ」

「貴様を倒して、その者と戦うのもいいかもしれないな」

「勝てないっすよ」

武器限定なら、分からないけど、総合的な戦いならユナに勝てる者はいないと思う。

「ますます、貴様に勝って、その者と戦いたいものだ」

男はわたしの放った魔法を斬る。

男の持っている刀は名刀と呼ばれる刀だろう。

男は魔力は少ないから、魔法は使えない。

でも、その少ない魔力を刀に流し、わたしの魔法に対処している。

剣術では師匠に劣る。

魔法でもユナに劣る。

総合的に考えても師匠やユナに劣る。

負けるわけにはいかないっすよね。

「魔法を卑怯とは思わないでほしいっす」

「思わない。それも貴様の実力の一つだ」

炎を放ち視界を遮る。

男が炎を斬るが、一瞬でもわたしを視界から逸らすことができればいい。

「それに魔法もいつまでも使えるわけじゃない。魔力が無くなったときが貴様の終わりだ」

魔法で好機を窺う。

男は魔法を斬り、襲ってくる。

頭を下げて、攻撃を躱す。

風魔法を放つ。

「何度も同じ手ばかり使って、もう終わりか」

男が風を斬ろうとした瞬間、風は上に向きを変える。

風魔法は天井に当たり、音を立てて天井の一部が落ちてくる。

男の目が上を向き、隙ができる。

その一瞬の隙でわたしの短刀が届く距離になる。

短刀を振るう。

男の目がわたしに向く。

遅い。

わたしの短刀が男を襲う。

男の左腕を斬る。

いや、斬れなかった。

ミスった。

服の下に防具を着ている。

そんなの当たり前だ。

警備をしている男だ。

わたしだって、戦いに備えるときは鎖帷子を着ることがある。

男の刀が振り下ろされる。

避けられない。

でも、少しでも致命傷を避けるために逃げる。

避けられないと思った瞬間、男の動きが鈍る。そのおかげで男の刀の攻撃から逃げることができた。

男を見ると、頭を押さえている。

天井の一部が男の頭に落ちたおかげで避けることができたみたいだ。

「運がよかったな」

もし、男の頭に瓦礫が落ちてこなかったら、斬られていた。

「ここも崩れる。終わりにしようか」

男は突きの構えを取る。

天井からパラパラと細かい瓦礫が落ちてくる。

「そうっすね」

わたしは短刀を構える。

師匠の突きを何度も見てきた。何度も受けてきた。何度も何度も。

でも、一度も師匠の突きを躱せたことはない。

師匠の言葉を思い出せ。相手の足のつま先、手首、肩、刀、そして目の動き、呼吸を感じろ。全てを見ろ。

男のつま先が動く。

同時にわたしも動く。

突きが伸びてくる。

見極めろ。

切先が目の前に迫ってくる。

膝を折る。

刀が肩を掠る。

わたしは踏み込む、男の懐に入る。

腕を伸ばし短刀を斬り上げる。

届け、短刀は男の手の甲を斬る。

でも、男は動き、襲いかかってくる。

わたしは男の腕を摑み、体を捻る。

男の体が浮く。

男が踏ん張る。

男の足を払う。

男の体は一回転して、床にたたきつける。

「うっ」

男は背中を強く叩きつけられて、顔を歪ませる。

「わたしの勝ちっすね」

短刀を男の首に付ける。

男は体の力を抜き、背中を叩きつけられても離さなかった刀を離す。

「ああ、俺の負けだ」