軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

901 シノブ、妖刀を探す その2

番号札をもらったわたしは辺りの様子を窺う。

会場は劇場のように段差になっており、後ろからでも見やすくなっている。

ドア付近には男たちが警備にあたっている。

盗まれ防止用の警備の男たちだと思う。

もし、盗難に遭えば評判が下がる。

競売の参加者はわたしのようにフードを被って顔を隠している人もいるが、堂々と顔を晒している人物もいる。

その中には顔を知っている人物もいる。

相手はわたしのことを知らないはずだから、顔を見られても心配はないけど、今後会うようなことがあれば面倒なので、なるべく近寄らないようにする。

「さて、どうしたもんっすかね」

わたしが持っている全財産で購入することができればいいっすけど。

全財産って言葉で思い出す。

ユナの実力を計るために師匠と戦うように仕向けたことがあった。そのときに、依頼料として全財産を渡すと言ったことがあった。

「あのとき、本当にユナが受け取ってくれなくてよかったっす」

もし、約束どおりに全財産をユナに渡していたら、ひもじい生活を送ることになっていた。

あの場合って、国王様が経費として出してくれるっすかね?

でも、自分で言い出したこと。

でも、必要経費っすよね?

でも、今回の妖刀は必要経費になるっす……よね?

もし、経費で落ちなかったら、妖刀を持って逃げて、売るっすかね。

その前に、競売にかけられる刀が妖刀なのかが問題っすけど。

もし、普通の刀を購入してしまったら、経費で落ちないっすよね?

「うぅ、面倒っす」

もし、妖刀だと思って買った刀が偽物だったら、破滅っす。

でも、買わないわけにはいかない。

一目で妖刀と分かればいいっすけど。

過去に保管室で見た妖刀を思い出すっす。

先日、出会った男が持っていた妖刀を思い出すっす。

わたしは微かな記憶を思い出すために、頑張る。

その間にも入り口から競売に参加するための人が入ってくる。

そして、進行役の男が現れ競売が始まる。

まだ、思い出していない。

でも、見れば思い出すかもしれないっす。

本当は身を隠したいところだけど、わたしは一番、見やすい場所に移動する。

わたしの全財産がかかっているから、間違うわけにはいかない。

そして、扉が閉まり、競売が始まる。

まずは、年代物の壺、掛け軸が現れ、そこそこの値段で売られる。

購入の仕方は欲しい商品が出てきたら、札を上げて、値段を言うみたいだ。

刀はいつっすかね。

次に現れたのは少し珍しい魔物の素材だった。

最低金額から始まり、落ち着いた金額で落札される。

思ったよりも安い。

それでも冒険者が冒険者ギルドに引き取ってもらうよりも高く買ってくれるはずだ。

冒険者ギルドに引き取ってもらうと、処理の手数料、税金、商業ギルドに渡ってからは、加工処理、ギルド職員の手間賃、いろいろなお金が上乗せされて売られる。

でも、ここはギルド職員のよりも安い賃金で人を雇え、仕事をさせることができる。税金を払うこともない。

だから、同じ物でも高く売ることができ、安く購入することができる。

定番商品なら、店に安く売っていることもある。

それから少し大きめの魔石なども競売にかけられ、そこそこの価格がついた。

珍しい物は、ここで売ったほうが儲かるっすかね。

ここで売りたい気持ちが湧いてくる。

誘惑に負けたらダメっす。

わたしは品行方正の見本みたいな人物っす。

お天道様に顔向けができない行いはできないっす。

でも、少しぐらいなら……。

そんなことを考えている間も次々と商品が競売にかけられていく。

わたしが悩んでいると進行役の男が「次は刀です」と言う。

来たっす。

進行役の後ろから刀が台車に乗せられて運ばれてくる。

刀だ。

問題は妖刀かどうかだ。

「この刀は有名ではありませんが、美しい刀となっています」

競売では嘘偽りは言わない。

もし、騙して売るようなことがあれば信頼を無くし、誰も買わなくなる。

だからといって、本当のことも言わない。

殺人者が持っていたとは。

まあ、あの刀が妖刀の場合だった話っすけど。

わたしは目を凝らして刀を見る。

「う〜ん」

分からない。

思い出すっす。

保管室で見たのは数年前。

師匠に連れて行かれた。

いろいろな妖刀が保管されていた。

あの緑っぽい鞘、あったような。なかったような。

「では、刀身も見ていただきましょう」

進行役がそう言うと刀に近づき、刀を手にする。

妖刀ならまずいっす。

そもそも、なぜ今まで妖刀は反応していなかった?

本当に妖刀っすか?

わたしが考えている間に、進行役は鞘から刀を抜く。

綺麗な刀身が映し出される。

「この刀の持ち主に相応しい人はいらっしゃいますか」

進行役の様子がおかしいっす。

刀を見る目に違和感を覚える。

「この刀を持っているだけで、力が湧き上がってくる不思議な刀です。試し斬りをしてみましょうか」

進行役が刀を構える。

その瞬間、会場が騒がしくなる。

妖刀っす。

「その男から離れるっす!」

わたしが叫ぶと、進行役の男が動き、近くの人物に斬りかかる。

間に合えっす。

わたしはクナイを投げる。

クナイは刀に弾かれるけど、進行役の男の動きが止まる。その瞬間、競売を警備した男たちが進行役に駆け寄り、止めに入る。

進行役と男たちの間に緊張感が走る。

「ソウキチ、刀を下ろせ」

ここの警備隊長らしき男が進行役の男に向かって言う。

「ガクト様、今なら、あなたに勝てそうです」

進行役の男がガクトと呼んだ男に歩み寄る。

妖刀に取り込まれている。

「競売は中止、客を外に連れて行け、ソウキチは俺が対処する」

ガクトと呼ばれた男が他の警備の者たちに命じる。

他の警備の男たちは、隊長らしき人物の言葉に従って、客を外に連れ出していく。

客も、逃げるように会場から出ていく。

「そこの人も」

わたしも声をかけられる。

「わたしは最後でいいっす。狭い通路っすから」

わたしがそう言うと、男は「逃げてくださいよ」と言うと、他の客のところに向かう。

わたしは進行役と隊長の対峙する姿を見る。

進行役の男が警備隊長に斬りかかる。

「ソウキチ、どうした。刀を下ろせ」

刀と刀がぶつかり合う。

「無駄っすよ。その男は妖刀に飲み込まれているっす」

「妖刀だと?」

話している間に進行役の男が隊長に斬りかかる。

「もしかして、先日、暴れていた男も刀が原因なのか」

「そうっす」

「そもそも、貴様は誰だ」

男は進行役の男の攻撃を受け流しながら、尋ねてくる。

「その妖刀を回収に来た者っす」

名は名乗らず。目的だけ伝える。

「どうしたら、止められる」

「妖刀を離すしかないっす」

ただ、その後がどうなるか分からない。

今まで、大人しかった妖刀がいきなり暴れたのだから。

「そうか。なら、簡単なこと」

男は刀を構える。

そして、突きの構えをすると、突きを繰り出す。

その速度は速く、男を貫く。

殺したと思ったけど、刀は進行役の男の右肩を貫いていた。

肩を貫かれた男は手に持ってた妖刀を持っていられなくなり、妖刀が床に落ちる。

それと同時に、進行役の男も床に倒れる。

「ソウキチ!」

男は倒れた進行役の男に駆け寄る。

そして、進行役の男の安否を確認した男は、部屋に残っていた部下に安全な場所に連れて行き、治療するように命じる。

そして睨むようにわたしを見る。

「それで、貴様はなんだ。妖刀を回収に来たと言っていたが」

睨むようにわたしを見る。

「言葉どおりっすよ。ある場所から妖刀が盗まれたっす。それを探して、ここに辿り着いたっす」

「ある場所?」

「それは言えないっす。それで、その刀は返してくれるっすか?」

床に転がっている刀を見る。

「残念だが、それはできない。こっちも被害が出ているからな」

「もちろん、お金は払うっす。でも、適正金額でお願いしたいっす」

妖刀の適正金額がいくらかは、分からないっすけど。

「金の問題じゃない。この競売を荒らされた信用問題だ」

男は地面に転がっている妖刀を拾おうとする。

「ダメっす」

わたしは叫ぶが、時すでに遅く、男は妖刀を手にする。

「ほう、すごいな。力がみなぎってくる。そして、斬りたい気持ちが湧いてくる」

「妖刀の力に耐えているっすか?」

「いや、無性に貴様を斬りたい」

怖いっす。

「貴様が、俺に勝ったら、この妖刀は貴様にくれてやる」

「貴様って、これでも、女の子っすよ」

「でも、強いのだろう」

「どうっすかね」

「貴様はこの部屋に入ってきた時から只者ではないことは分かっている。佇まい、体の動き、クナイを投げた実力、普通の女じゃない」

最近、落ち込んでいたので、そんなことを言われると、少し嬉しくなる。

「それで、どうする? 引き受けるのか?」

「勝手にあなたが決めていいっすか?」

勝っても、約束が守れなかったら意味がない。

「俺はここを治めるガクカの息子、ガクトだ。約束は守ろう」

この裏の場所を仕切る人の息子っすか。

「それで、どうする? 逃げるか? それとも雇い主に相談するか? そのときは莫大な金を要求させてもらうが」

男は笑いを浮かべる。

「卑怯っす」

「こんな物騒なものを持ち込まれたんだ」

「わたしたちが持ち込んだわけじゃないっす」

「盗まれた時点で、貴様たちの落ち度だ」

それを言われるとツラいっす。

でも、それはわたしの責任じゃないっすよ。

国で一番偉い人に雇われの身としてはツライっす。

「それじゃ、こっちもお願いがあるっす」

「なんだ」

「わたしが勝ったら、なにも言わない、詮索もしない。帰らせてほしいっす。そして、今後もわたしを探さない」

勝ったあとに、つけ回されたり、調べられても困る。

なにより、この男に勝っても、他の部下に命令でもされたら、困る。

「いいだろう」

男は残っている者たちを下がらせる。

そして、全ての出入り口の扉が閉まる。

逃げることはできなくなった。

「貴様が負けたら、貴様の主人に賠償請求させてもらう」

この国の国王っすよ。

「それじゃ、戦おうか」

男は妖刀を床に突き刺す。

そして、自分の持っている刀を構える。