軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

841 クマさん、魔法陣を壊す

お茶を飲んだわたしたちは解体場に移動する。

もう、解体場ではなく薬草を処理する部屋になっている。

まあ、この解体場はフィナしか使わないから、フィナがいなければ、使うこともない。

解体場に移動すると、マーネさんは瓶に入った魔力水と採取した花を取り出す。

「それじゃ、2人も採取した花を出して」

わたしとリディアさんは言われるままに出す。

「瓶の蓋を開けて、花を丁寧に入れて」

マーネさんはお手本になるようにやってみせる。

魔力水が入った瓶の蓋を開け、自分で採取した青い花を丁寧に瓶の中に入れる。

すると青い花の色が白くなっていく。

「白くなった」

「花の効果と自分の魔力が溶けたのよ。そして、白くなった花を取り出す」

マーネさんはピンセットで魔法水に浮かぶ花を掴むと、準備しておいたトレイの上に載せる。

「これを何度も繰り返す。色が白くならなくなったら、下処理は終わりよ」

わたしは魔力水に花を入れる。花は溶けていないけど、色が白く変わっていくから不思議だ。

「まとめて入れたくなるね」

「その気持ちは分からなくはないけど、丁寧にやらないとダメよ。杜撰な仕事は、薬にも影響が出るわ。丁寧に仕事をすれば、薬も応えてくれるわ」

まあ、どの仕事でもそうだ。

丁寧に仕事をしてくれる人と、適当に仕事をする人、どちらを選べと言われたら、丁寧に仕事をする人だ。

もちろん、時間は有限だけど、杜撰な仕事をして品質が下がるのはよくない。

わたしとリディアさんは丁寧に花の処理をしていく。

しばらくすると、花の色が白くなる速度が遅くなってくる。

「そろそろ、魔力水に溜まってきたようね」

しばらくすると青い花を入れても変化はない。

でも、不思議なことに魔力水は透明のままだ。

青色の花を入れているんだから、魔力水も青色になってもいいのに。

「マーネさん、花の色が変わらないよ。これで完成?」

「まだよ。最後に、この棒で魔力を少しずつ入れながら掻き回して」

マーネさんは小さい一本の棒を渡してくれる。

小学校の時に、理科の実験で使ったかき混ぜ棒みたいな感じだ。

「魔力を通しやすい棒だから、ゆっくりと丁寧にね。青色になったら完成よ」

わたしとリディアさんは棒を持つと、ゆっくりと掻き回す。

しばらくすると魔力水が青い花と同じ青色に変わる。

「マーネさん、色が変わったよ」

「蓋をしっかり閉めて終わりよ。まだ、花の在庫があるようなら、同じように処理をして」

わたしたちの地道な作業は遅くまで続いた。

ちなみに、かき混ぜ棒は魔物の骨から作ったものらしい。それを聞いたリディアさんは驚いていた。

上位の魔物になるほど、性能が上がり、細かい魔力の調整をするときには重宝するらしい。

薬草と同様に魔力をたくさん入れればいいってわけじゃないんだね。

まあ、料理だって砂糖や塩をたくさん入れても美味しくなるわけじゃない。なんでも適正量はある。

その魔力量を決めるには、長い研究が必要なんだろうね。

でも、魔物の骨にこんな活用方法があるとは知らなかった。

作業を終えて居間に戻ると、ゼクトさんはくまゆるとくまきゅうに抱きついて寝ていた。

そんなゼクトさんを見て、リディアさんが叩き起こす。

そして、遅くなった夕食を食べ、お風呂に入る。

「疲れた〜」

「お疲れ様」

今日は戦ってばかりだった。

最後は花の処理をして疲れた。

でも、あとは帰るだけだ。

家に帰るまでが遠足とは言ったものだけど。気をつけないといけない。

……なにか忘れているような気がするけど、思い出せない。

忘れるってことは、たいしたことじゃないんだと思う。

だから、気にせずにお風呂から上がると、眠りに就いた。

わたしは寝た。

でも、そんなわたしの顔を柔らかいものがペチペチと叩く。

もしかして、もう朝なの?

「くまゆる、くまきゅう、もう少し寝かせて」

まだ、眠い。

まるで、全然寝ていないような感じだ。

でも、くまゆるとくまきゅうは寝かせてくれない。

仕方なく起き上がる。

カーテン越しからも分かる。

まだ、真夜中だ。

つまり、真っ暗だ。

「まだ、夜でしょう」

くまゆるとくまきゅうが外を見て小さく鳴く。

嫌な予感がする。

探知スキルを使うと魔物の反応がある。

どんどん集まってくる。

わたしは睡眠、ゲーム、食事の三大欲求を邪魔されるのが嫌いだ。

カーテンを開けると、魔法陣が光っていた。

ああ、これだったんだ。

お風呂に入っていたときに、なにか忘れていると思っていたけど、魔法陣のことだったと気づく。

大猿を倒し、花を採取して、魔法陣のことをすっかり忘れていた。

「くまゆる、くまきゅう。みんなは疲れていると思うから、起こさないでいいからね。でも、もしものときはお願いね」

くまゆるとくまきゅうに、みんなのことを頼み、わたしは窓を開けると飛び出す。

2階の窓から飛び降りたわたしは地面に着地すると、魔物に向かって走り出す。

こんな真夜中に来るんじゃない。

わたしの睡眠の邪魔をするんじゃない。

わたしの気持ちとは裏腹に魔物は次々と現れる。

とにかく集まって来る魔物を倒した。

なるべく静かに、みんなを起こさないように。

睡眠の邪魔をされることが嫌なことは、わたしが一番よく知っている。

そんな嫌な思いをするのは、わたしだけで十分だ。

自分がやられて嫌なことは他人にするな。

とにかく、わたしは戦った。

「はぁ、起きたら、無数の魔物が倒れているなんて信じられないわ」

マーネさんがクマハウスの周辺に倒れている魔物を見て、ため息をつく。

ウルフの群れ、タイガーウルフも倒れている。

「わたし、初めてワイバーンを見たよ」

ワイバーンもやってきた。

リディアさんはワイバーンに近寄って、恐る恐る見ている。

「あれは巨大ワームか?」

巨大ワームも襲ってきた。

ゼクトさんはワームの大きさに驚いている。

「ユナ、あなたが強いことは分かっているわ。でも、起こしてくれてもよかったんじゃない」

「いや、疲れていると思って」

「わたしを起こしてくれれば、弓で援護はできたよ」

確かにクマハウスの中から矢を放ってくれたら、少しは楽はできたかもしれない。

でも、一人を起こせば、みんなを起こすことになる。

リディアさんだって、疲れていたはずだ。

起こさないで済むなら、寝てほしかった。

「この地面が掘られているのは?」

「魔法陣を壊した跡だよ」

戦っている途中で魔法陣が光り、魔物を呼び寄せた。

わたしは次々とやってくる魔物に怒って、魔法陣を壊した。

「貴重な魔法陣が……」

「なに? マーネさんは魔物を集めて、国を滅ぼすつもりだったの?」

実はそんな願望があったとか。

「そんなことしないわよ」

「それなら、壊しても問題はないでしょう」

わたしは地面を掘り返し、二度と発動しないように跡形もなく魔法陣を壊した。

一部を壊せば発動しなかったかもしれない。

でも、素人のわたしには魔法陣の構造は分からない。どの部分がどれに影響しているか判断はできない。

もし、中途半端に残って、魔物が集まってくるなら壊した意味がない。

だから、魔法陣全体を壊した。

もう、復元は不可能だ。

「まあ、それが正しいかもしれないわね。国に報告したら研究対象になっていたかもしれないわ」

可能性は十分にある。

「そのことが、いい方向にいくか悪い方向にいくかは誰にも分からないしね」

「魔物を集める魔法陣って悪用方法しかないんじゃない」

話を聞いてたリディアさんが尋ねる。

魔物を集める魔法陣、敵国に作れば、自国の人間を使わずに、その国を滅ぼすことができるかもしれない。

魔物に襲われれば、無関係な人たちも死ぬことになる。

「そうね。一般的にはそうかもしれない。でも使い方によっては有用性もあるわね。すぐに思いつくのは、設置場所次第では、人里に魔物を来させないようにすることができるかもしれない」

村と反対方向に作れば、魔物は魔法陣の方へ向かう。

「あと、赤猿とウルフが戦っていたように、魔物同士を戦わせ、魔物の数を減らすこともできるかもしれないわ」

「あと、魔法陣の近くに罠を仕掛けることもできるかもね」

わたしも思いついたことを言ってみる。

罠を仕掛けておけば、魔物を安全に倒せる。

「そう言われたら、良いことだと思うかも」

「使い方によっては人が安全に暮らす方法が作れるわ。でも、使い方を間違えれば、逆のことが起きる。それは、一番初めにリディアが考えていたことよ」

魔物を集めるのは危険な行為だ。

知らずに近寄れば大群に襲われることになる。

ウルフやゴブリン程度ならいいけど、今回のような凶暴な大猿が生まれるかもしれない。

巨大ワームもその影響かもしれない。

ワイバーンだってやってくる。

危険要素が多い。

「安全に使われる保証なんて、どこにもない。誰かが悪用するかもしれない。それが国だとしてもね」

「今の国王様って、危険なんですか?」

「今の国王は平和主義者よ。でも、代が替われば分からない。さらに言えば、国王を無視して、誰かが魔法陣を悪用するかもしれない。数十年後、数百年後は誰にも分からない。だから、魔物を呼び寄せる魔法陣は無い方がいいわ」

この魔法陣のせいで、不幸になる人がいた。

悪い事に使う人がいた。

毒は毒になるけど、薬にもなるって言葉がある。

救われる命もあるけど、失われる命もある。

どちらが正しいとは言えない。

ただ、この魔物を呼び寄せる魔法陣は不要だ。

「そうだね。魔物が現れれば、冒険者が倒せばいい。そのための、わたしたち冒険者だからね」

「ユナ、もしかして、知っていて壊した?」

「わたしは、睡眠の邪魔をした魔法陣にムカついたから壊しただけだよ」

「はぁ、そう言うことにしておいてあげるわ」

「どういうこと?」

「ユナは未来の火種になるかもしれないものを排除したのよ」

「買いかぶりだよ」

ただ、不幸になった女の子がいる。

無いほうがいい。

「あのよう。それで、この魔物はどうするんだ?」

ゼクトさんが周囲を見る。たくさんの魔物が倒れている。

「面倒くさい。ユナ、全部アイテム袋に入れなさい」

「えっ、全部?」

「そうよ。あなたのアイテム袋は入れても傷まないんでしょう。ここで解体する時間はないし、放置もできない。それなら、一択でしょう」

わたしは渋々と倒した魔物をクマボックスにしまった。

ちなみに、ゴブリンはリディアさんとゼクトさんが魔石だけ回収して、マーネさんが魔法で地面を掘って埋めてくれた。

ゴブリンの魔石は、そのまま処理代として、リディアさんたちに受け取ってもらった。

「赤猿にゴブリンの魔石。どれだけの金になるんだ」

「赤猿の毛皮もあるし、マーネさんと一緒に採取した薬草もあるよ」

それなりの金額になる様ならよかった。

わたしたちは魔物の処理が終わると、森の外に向かって出発する。

今度こそ、帰るよ。