軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

842 クマさん、街に行く

くまゆるとくまきゅうは森の中を駆け抜ける。

洞窟は通らず、木々の間を走り、崖を駆け抜け、魔物の群れの中を走り、あっという間に森の入り口まで戻ってきた。

その間、マーネさんはもちろん、リディアさん、ゼクトさんも叫んでいた。

とくに魔物の群れの中を突っ切った時の声が大きかった。

「嘘でしょう」

「あれだけ、時間をかけて進んだ道が……」

行きは目的地が分からなかったから、ゆっくり進んだけど。帰りは気にせずに一直線で帰ればいいだけだ。

スタート地点が分かっていれば、そこに戻るだけだ。

目印なんて必要はない。

「くまゆる、くまきゅう、大丈夫?」

「「くぅ~ん!」」

まだ、大丈夫みたいだ。

一応、軽く休憩を挟み、くまゆるとくまきゅうを乗り換えて出発する。

いじけたら、困るからね。

再出発したわたしたちは街道まで戻ってくる。

「このまま、リディアさんの街に向かうよ」

わたしたちを乗せたくまゆるとくまきゅうは走り続け、あっという間に街に到着する。

「信じられない。もう、街なんて」

「くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんが欲しい」

リディアさんがくまゆるに抱きつく。

「とりあえず、降りて。このままくまゆるとくまきゅうに乗ったまま向かったら驚かれるから、ここから歩いて行くよ」

クリモニアだったら、くまゆるとくまきゅうが大きいままでも入れるけど、見知らぬ街となれば、そうはいかない。

騒がれて、街の中に入れなかったら困るので、くまゆるとくまきゅうは送還する。

わたしたちは歩いて、街の中に入る。

街の入り口で、門番に怪訝そうな顔をされたけど、何も言われなかった。

どこに行ってもクマの格好は目立つ。

「それじゃ、リディアの家に行きましょう」

マーネさんは、リディアさんに案内するように言う。

わたしたちは真っ直ぐにリディアさんの家に向かう。

その間、視線を集めたのは言うまでもない。

「ここです」

到着したのは、少し古めかしい小さい家だ。

魔法で修繕したくなるのは、孤児院の影響だろうか。

家の中に入ると、女性が一人いた。

「お母さん、ただいま」

「リディア、ゼクト」

女性は近寄ってくると、2人を抱き抱える。

「お帰りなさい。無事でよかったわ。怪我はない?」

「大丈夫だよ」

「そう」

安心した女性は2人から離れる。

「えっと……そっちの女の子たちは?」

女性はリディアさんの後ろにいたわたしたちに目を向ける。

「可愛いクマの格好をしているのがユナちゃん、小さい女の子はマーネさん」

リディアさんの母親は不思議そうにわたしたちを見ている。

「えっと、ユナちゃんと……マーネさん?」

どうやら、見た目がわたしの方が上なのに「ちゃん」付けで、見た目が小さい女の子のマーネさんが「さん」付けで戸惑っているみたいだ。

「マーネさんはハーフエルフで、わたしより年上なの」

「そうなのね。わたしはリディアとゼクトの母のカミラです。それで、どうして、この女の子たちが家に?」

「マーネさんは王都の魔法省で働いていて、薬にも詳しくて、妹の病気の薬を作ってくれることになったの」

「絶対に治すとは言えないけど。とりあえず、診せてくれる」

もし、マーネさんでも治せなかったら、わたしの出番かな。

現状では薬で治るなら、わたしの出番はないと思っている。

「それで、エストは大丈夫?」

リディアさんが尋ねる。

エストって、妹さんの名前かな。

「今は落ちついているわ。でも、何度も熱が出たり、咳が止まらないときがあったわ。あなたたちも顔を見せてあげて、心配していたから」

わたしたちは妹がいる部屋に移動する。

「エスト、入るわよ」

部屋の中に声をかけて、リディアさんはドアを開ける。

部屋には16歳ぐらいの女の子がベッドに寝ていた。

彼女がリディアさんの妹さん。

名前はエスト。

エストさんは起きあがろうとする。

「お姉ちゃん、お兄ちゃん」

「無理をしちゃダメ」

リディアさんが駆け寄って、エストさんの体を支える。

「お姉ちゃん、大丈夫だよ。それで、そのクマさん? は誰?」

エストさんはドアの前にいるわたしを見る。

やっぱり、クマが部屋にいたら気になるよね。

「わたしはユナ。冒険者だよ。今回、リディアさんとゼクトさんと一緒に仕事したんだよ」

「冒険者!」

「それで、こっちの女の子はマーネさん。ハーフエルフ、わたしたちより年上だから」

リディアさんがマーネさんを紹介する。

「……年上」

「薬師よ。あなたの病気を診にきたの。あなたの症状を診せてくれる?」

妹はマーネさんが年上だということも薬師だと言うことにも驚いたみたいだ。

「マーネさんは王都でも優秀な薬師だから、きっとエストの病気を治してくれるよ」

「王都の!? 大丈夫なの? そんな凄い人に診てもらうお金はうちにはないでしょう」

「お金のことは心配しないで。頑張って仕事をするから」

「お姉ちゃんとお兄ちゃんには、わたしのために危険な仕事をしてほしくないの。怪我をして帰ってくるときもあるでしょう。わたしがいなくなれば」

「バカなことを言わないで」

「そうだ。俺たちはエストに死んでほしくない」

「でも、お母さんにもいつも迷惑をかけているし」

「なにを言っているの? 子供は親に迷惑をかけて成長していくものよ」

カミラさんがエストさんを優しく抱きしめる。

「……お母さん」

「だから、自分が死ねばいいなんて思わないで」

なんだろう。このデジャブ感。

前にもあったような。

「はいはい、そこまで。症状を確認するから、リディアとユナ以外は部屋の外に出て」

「わたし、残るの?」

「当たり前でしょう。わたしの護衛なんだから」

それはいま関係ないと思うんだけど。

とりあえず、マーネさんの指示に従って、ゼクトさんとカミラさんは部屋から出ていく。

「とりあえず、横になって。苦しいんでしょう」

「……はい」

エストさんはベッドに横になると、苦しそうにする。

マーネさんはエストさんのおでこに手を置く。

「……かなり、高いわね。確か、体に赤いぶつぶつが出ていると言っていたわね」

袖を捲り確認する。

確かに、赤いぼつぼつがある。

「次は服を脱がすわね」

正面はもちろんのこと、背中にも広がっていた。

マーネさんは確認していく。

「……分かったわ。服を着ていいわよ」

「マーネさん、治りますか」

リディアさんが心配そうに尋ねる。

「大丈夫よ、治るから心配しないで。ゆっくり寝て、待っていて」

マーネさんは小さい手で妹さんの頭を優しく撫でる。

わたしたちは部屋を出る。

わたしたちが部屋から出てくると、心配そうにしていたカミラさんとゼクトさんがいる。

「あのう、娘は」

「そうね。いろいろと説明が必要ね。その前に妹さんに飲ませている薬は残っている?」

「それなら、ここに」

母親が薬を出してくれる。

「これを預かってもいいかしら」

「それは……もし娘の熱が上がったら」

「そのときは、この薬を飲ませておいて」

マーネさんは小瓶を取り出す。

「これを飲めば、治るのか」

「熱を抑えるだけよ」

「それじゃ、治らないの?」

「大丈夫だから、落ち着きなさい」

マーネさんはゼクトさんとリディアさんを落ちつかせる。

「とりあえず、今から商業ギルドに行くわよ。リディア、案内して」

エストさんのことはカミラさんとゼクトさんに任せ、わたしたちは商業ギルドに向かう。

「商業ギルドに行って、どうするの? 薬草を売るの?」

「ちょっと確認することがあるのよ」

わたしたちは商業ギルドにやってくる。

商業ギルドの中に入ると、マーネさんは一直線に受付に向かい「ギルドマスターを呼びなさい」と言った。

「えっと、お嬢ちゃん。ギルドマスターは忙しい人だから、お話なら、わたしが聞くけど」

「もう一度言うわ。ギルドマスターを呼びなさい」

そう言って、マーネさんは受付嬢にカードを見せる。

受付嬢はカードとマーネさんを見比べる。

「早くしなさい。首にさせるわよ」

「お、お待ちください」

受付嬢は慌てて席を立ち、奥に向かう。

「あまり、こういうことはしたくないけど。見た目で、軽んじられるから」

その気持ち、わかるよ。

わたしも、いつも子供扱いされて、クマの格好だから、バカにされる。

そんな会話をしていると、受付嬢が40代ぐらいの男性を連れてくる。

「マーネ先生」

「久しぶりね」

先生?

わたしたちは奥の部屋に通される。

「お久しぶりです。マーネ先生。それで、どのような用件で、こちらに」

「とりあえず、この街にいる薬師の情報をよこしなさい」

「すぐに用意します」

ギルドマスターは部屋から出ていく。

「マーネさん、ギルマスと知り合いなの?」

「昔の教え子よ。王都の学園でたまに教えていると言ったでしょう。その時の生徒」

「それじゃ、ギルドマスターは薬師?」

「違うわよ。どこかの商人の末っ子だったかしら? わたしの授業を受けたのは、薬草の価値を教わるためね。でも、当時わたしの幼い姿をバカにしてきたのよね。だから、とっちめてあげたわ」

まさか、それが今でもトラウマになって、言いなりになっているとか。

「なにをしたの?」

「彼の沽券に関わることだから」

気になる。

そんな話をしているとギルドマスターが戻ってくる。

「お待たせしました。これがこの街にいる薬師の情報です」

マーネさんは紙を受け取り、確認する。

「リディア、あなたが薬を貰っているのは誰?」

「コルボーです」

「こいつね」

マーネさんは指で紙を弾く。

「ありがとう。助かったわ」

マーネさんはギルドマスターにお礼を言うと立ち上がる。

「マーネ先生。なにかするのですか?」

「ええ、ちょっとお仕置きをね。とりあえず、あなたは口出し無用よ。先ほどの受付嬢に、わたしのことを黙っておくように言っておいて。もし、わたしがいる情報が流れたら、あなたに責任を取ってもらうわよ」

「早急にギルド職員に口止めをさせます」

「よろしくね」

わたしたちは商業ギルドを後にする。

「リディア、この住所に行きたいんだけど。場所、分かる?」

マーネさんは先ほどもらった紙を指差しながら、見せる。

リディアさんは紙を覗き込む。

「……分かるけど」

「案内して」

リディアさんは言われるままに、案内をする。