軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

833 クマさん、大猿とゴブリンキングの戦いを見る

……魔物を呼び寄せる魔法陣。

マーネさんは紙を取り出して、先ほど見た魔法陣の一部を書き出している。

あの一瞬で、よく覚えている。

「この部分は魔力増幅? この箇所は何かで見たことが、範囲拡大だったかしら? この部分は位置的に見えなかったけど、なにかしら」

マーネさんは書き出した一部の魔法陣を見ながらつぶやいている。

「……ダメね。いろいろな魔法陣が組み合わせてあって、分からないわ。この魔法陣を作った人、天才ね」

城から追放された魔法使いだと聞いたけど、そのことはマーネさんは知らないのかな?

箝口令が敷かれているみたいだから、知らないのかもしれない。

「よりによって、こんなところに作らないでほしいわ」

マーネさんの目的地の近くに魔法陣を作るなんて、確かに運がない。

「でも、あれから、数ヶ月経っているよね。魔法使いがいないし、魔法陣って発動し続けるものなの?」

「発動条件が分からないけど。魔力だとしたら、あの赤猿の魔力、そして、その赤猿が倒した魔物の魔石が力となって、発動を続けているのかもしれないわ」

使い終わったなら、ちゃんと処理をしてから去ってほしいものだ。

会ったことがない魔法使いに、三度も関わるなんて、取り憑かれている気分だ。

一度目は王都の魔物一万襲撃事件。

二度目はセレイユのストーカー事件に間接的に関わっていた。

そして、今回で三度目。

わたし、この魔法使いに悪いことしたの? と文句の1つでも言いたい。

それにしても、とんでもない置き土産を置いていったものだと考えていると、くまゆるとくまきゅうが再度「「くぅ~ん」」と鳴く。

次はなに。

探知スキルを使うと、もの凄い速さで移動するマーク。

その反応はゴブリン。

でも、移動速度が速い。

わたしは探知スキルから、滝の下へ目を移す。

その瞬間、大きな巨漢のゴブリンが森から飛び出してくる。

そして、ウルフを食っている赤猿に襲いかかる。

「あれは、ゴブリンか」

「大きすぎるでしょう」

見覚えがあった。

「……ゴブリンキング」

「まてまて、ゴブリンキングだと」

ゼクトさんが信じられないようにゴブリンキングを見る。

過去に見たことがあるから、間違いない。

「ゴブリンキングって、ゴブリンの王。とても強い魔物よね」

「ええ、ゴブリンの特異変異とも言われている珍しい魔物よ。ごく稀にゴブリンの群れに現れる。個体数はあまり確認されていない魔物。見たら、逃げろと言われているわ。緊急案件の魔物よ」

そういえば、ゴブリンキングの討伐を冒険者ギルドに報告したとき、ヘレナさんが慌てていた記憶がある。

懐かしい思い出だ。

そのゴブリンキングはウルフを食っている赤猿に向けて剣を振るう。

ゴブリンキングは次々と赤猿を襲っていく。

赤猿は木を登って逃げ、木の上から飛び降り、ゴブリンキングの背中に飛びつき、噛み付く。

ゴブリンキングは腕を伸ばし、体にしがみついている赤猿を掴まえると地面に叩きつける。

さらに木の上から襲いかかってくる赤猿に向けて剣を振るう。

赤猿が次々と倒れていく。

もしかして、ゴブリンキングが赤猿を倒したあとに、わたしがゴブリンキングを倒せばOKってことかな。

前回同様に、深い穴を空けてクマの魔法で倒せばいい。

「ゴブリンキングが赤猿を倒してくれるからラッキーだね。あとはわたしが疲れているゴブリンキングを倒せばいいってことだね」

つまり、漁夫の利だ。

わたしが、そう言うと、みんながバカの子を見るような目でわたしを見ている。

「ユナ、分かっている? ゴブリンキングよ」

「分かっているけど」

「普通の冒険者は赤猿の群れとゴブリンキングとどっちかと戦えと言われたら、赤猿の群れを選ぶわ。もちろん、赤猿の群れだって、危険よ。でも、一匹一匹、上手に倒していけば、勝てない魔物じゃない。でも、ゴブリンキングは違う。赤猿を倒せる魔法でもゴブリンキングには効かない。鉄の剣で赤猿は倒せても、ゴブリンキングは倒せない。ゴブリンキングを倒すには強い魔法、強い武器が必要よ」

確かに、クマの風魔法を何発も放って、倒した記憶がある。普通の魔物だったら一発で倒せる。

「まあ、大丈夫だよ。前に戦って、倒しているから」

ゴブリンキングに関しては少し調べれば分かることなので、話す。

それに、わたしがゴブリンキングを倒したことがあると知れば、マーネさんたちを少しは安心させることができる。

「……ゴブリンキングを倒した?」

「だから、大丈夫だよ」

「はぁ、そういえばコカトリスやワイバーンも倒しているんだったわね。ユナが強いことはエレローラとサーニャから聞いて、分かっていたつもりだったけど、本当に規格外ね」

マーネさんの言葉にリディアさんとゼクトさんが驚いている。

このままゴブリンキングが優勢で赤猿を倒すかと思ったとき、くまゆるとくまきゅうが鳴く。それと同時に森が揺れる。

正確には遠くにある木々が揺れる。

「なに?」

「なにか来る」

その木々の揺れはドミノのようにゴブリンキングがいる場所に近づいてくる。

そしてその揺れの原因が判明する。

現れたのは巨大な猿だった。

「なんだ。あの大きな猿は」

大きい猿はゴブリンキングに向けて走る。

速い。

大猿がジャンプする。

赤猿と戦っていたゴブリンキングの反応が遅れる。

ゴブリンキングの振り向き様に大猿の飛び蹴りが入る。

蹴り飛ばされたゴブリンキングは地面を転がる。

大猿は転がるゴブリンキングを飛び跳ねながら笑う。

ゴブリンキングはすぐに立ち上がり、笑っている大猿に向けて遠吠えをあげる。

ゴブリンキングと巨大猿の戦いが始まる。

「何なんだよ。こんな大きい猿なんて見たことがないぞ」

「ゴブリンキングといい、異常ね」

探知スキルにはゴブリンと赤猿になっている。

もう、指摘するのを諦める。

そこはキングとかジャンボとか、エンペラーとかの表示にしてほしいところだ。

「どっちが勝つんだ」

ゴブリンキングの情報はあっても、大猿の情報はない。

「マーネさん、どっちが強いの?」

「そんなの知らないわよ。ゴブリンキングと大猿が戦ったことがある報告書なんてどこにも無いし、話も聞いたことはないわ。そもそも、そんな戦いを見る場所に出くわすことなんてないわよ」

そうかもしれないけど、少しぐらいマーネさんに予想してほしかった。

ゴブリンキングは手に持っていた大剣を握りしめると、大猿に襲いかかる。

「武器を持っているゴブリンキングが優勢か」

振りかざしたゴブリンキングの手首を大猿が掴む。

力比べが始まる。

並ぶことで両者の大きさが分かる。

大猿のほうが一回り大きい。

ゴブリンキングは睨むように大猿を見ているが、大猿は笑みを浮かべている。そして、大猿が横に体をずらしたと思った瞬間、ゴブリンキングが勢い余って、前に倒れ込む。

そんなゴブリンキングを見て、大猿は手を叩いて笑う。

「あの大猿、ゴブリンキング相手に遊んでいないか」

わたしもゼクトさんと同じことを思っていた。

「力任せのゴブリンキングと違って、大猿は考えて戦っているわね」

マーネさんの言葉どおりだと思う。

その差が戦いに出ている。

ゴブリンキングは駆け出し、大猿に向けて剣を振るう。大猿は剣を左右に躱し、最後はゴブリンキングに向かってジャンプする。

そして、空中で一回転して、ゴブリンキングの頭を蹴り飛ばす。

完全に相手になっていない。

ゴブリンキングは怒りに唸り声をだす。

ゴブリンキングが持つ剣が赤く光る。

剣に魔力を込めた?

ゴブリンキングは大猿に向けて走る。そして、間合いが詰まると剣を振るう。

速い。

でも、当たらなければ意味がない。

大猿は剣を避け、踏み込むと、ゴブリンキングを殴り飛ばす。

ゴブリンキングは吹っ飛び、剣はゴブリンキングから離れ、空中に舞い、数回転すると地面に突き刺さる。

ゴブリンキングはすぐに体勢を持ち直すが、大猿のほうが速い。

殴ったと同時に走っていた。

大猿はジャンプすると、跳び蹴りをする。

蹴られたゴブリンキングは地面を転がる。

「あの巨体が……」

信じられない光景を見ているマーネさんたちは唖然としている。

わたしも、まさかこんなに一方的になるとは思わなかった。

倒れたゴブリンキングはふらつきながらも立ち上がる。

このまま追い打ちをかけるかと思ったら、大猿はゴブリンキングに背を向けて歩き出す。

「戦いは終わり?」

「違う。あの顔を見ろ」

大猿は笑みを浮かべている。

ゆっくり歩き、向かった先は、地面に突き刺さっているゴブリンキングが持っていた剣。

その剣を引き抜き、縦、横と剣を軽々と振ってみせる。

ここにいても、風を切る音が聞こえそうだ。

その音を聞いているリディアさんは体が震えている。

大猿はゴブリンキングが持っていた剣を楽しそうに振るう。

「まさか、猿が剣を……」

大猿はゴブリンキングのほうへ振り向き、歩き出す。

ゴブリンキングは逃げ出すこともなく、王として大猿に向けて走り出す。

誰しもが大猿に勝てないと分かっていた。

大猿は走ってくるゴブリンキングに向けて剣を振り下ろす。

ゴブリンキングの肩に剣がめり込む……。

切り落とせない。ゴブリンキングの肉体が剣を止めた。

ゴブリンキングはそのまま踏み込むと大猿の顔を殴り飛ばした。大猿から剣が離れる。

ゴブリンキングが一矢報いる。

ゴブリンキングは自分の肩に刺さっている剣を抜き、剣を取り戻す。

ゴブリンキングは片手で剣を構える。剣で切られた左腕は下がっている。

殴られた大猿は立ち上がる。笑いは消え、怒りの形相をしている。

大猿が動く。ゴブリンキングが剣を振るう。大猿は躱す。そのまま大猿の長い腕がゴブリンキングの顔に目掛けて伸びる。

顔に命中する。

そう思った瞬間、ゴブリンキングの片目から血が噴き出す。

「目に指を突き刺した!?」

ゴブリンキングは耐えて、再度、剣を振るう。

だけど、大猿はゴブリンキングの背中に回り込み、首を絞める。

速い。

ゴブリンキングは振りほどこうとするが、振りほどけない。

しばらくすると、ゴブリンキングの動きが止まる。

大猿はゴブリンキングから離れる。

「死んだの?」

リディアさんの問いに誰も答えない。

いつもなら、探知スキルで確認するわたしも大猿から目が離せない。

大猿は仁王立ちするゴブリンキングの前にやってくる。

なにをするのかと思うと、ゴブリンキングの手に持っている剣を取ろうとする。

でも、ゴブリンキングが握った手は硬いのか剣を離さない。

だけど、それも時間の問題、死んだゴブリンキングに大猿に対抗する手段は残っていない。

大猿は剣を手に入れる。

そして、おもちゃを手に入れた子供のように嬉しそうに剣を振り回す。

大猿は仁王立ちするゴブリンキングを見るとニヤッと笑う。

「まさか」

「冗談でしょう」

みんな、大猿がしようとしていることに気付く。

大猿がゴブリンキングに向かって剣を振るう。

ゴブリンキングの左右の腕が切り落とされ、最後に首が切り落とされた。