軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

834 クマさん、大猿と戦う その1

腕と首を切り落とされたゴブリンキングは地面に倒れる。

「うぅ」

頭を切り落とされたゴブリンキングを見て、リディアさんが目を逸らす。

ゴブリンキングは敵だ。

襲ってくれば倒す魔物だ。

わたしもゴブリンキングを倒したことはある。

人だって倒した魔物を解体する。でも、それは生きるためであって、遊びではしない。

まあ、わたしもタイガーウルフの毛皮がほしいとか思ったりしたこともあったけど、襲ってきたり、討伐依頼だった。

でも、大猿は剣の試し斬りをするためにゴブリンキングの死体を使った。

周りにいた赤猿はゴブリンキングが倒れると、嬉しそうに騒ぎ出す。

そんな中、大猿は倒れたゴブリンキングの体に剣を突き刺すとゴブリンキングの体から、なにかを取り出す。

一瞬、心臓!? と思ったけど違った。

「魔石?」

マーネさんが呟く。

そのゴブリンキングの魔石を大猿は口に入れ、飲み込んだ。

「魔石を食べた?」

その瞬間、大猿の赤い毛が真っ赤に輝き、その輝きは数秒で収まる。

「今のは……」

「気のせいじゃ無ければ、大猿の体が大きくなってないか?」

ゼクトさんが大猿を見ながらいう。

わたしには遠くて分からない。

「うん、体もそうだけど、腕周りや足が一回り大きくなった」

「さっきの赤く光ったのも気になるけど。悪い予感しかしないわ」

「ゴブリンキングと戦った時より、強くなったってことか?」

「ねえ、ゴブリンキングって強いんだよね。弱くないよね」

リディアさんが、確認するように尋ねる。

「ゴブリンキングは強い。弱くない。大猿との戦いを見ても、強いことが分かる。でも、それ以上に大猿が強かった」

「でも、大猿はゴブリンキングの魔石を食べて、さらに強くなったんだよね」

「それは分からないわ。でも、そう考えたほうがいいと思う」

ゴブリンキングと戦っていた大猿でも厄介なのに、さらに強くなった。

「あの猿たちの周りに転がっている白いものって、骨じゃないか」

わたしの視力だと、白いなにかが地面にあるのは分かるけど、骨かどうかは分からない。

でも、視力が良いマーネさんたちには見えるみたいだ。

「確かに、骨みたいね」

「冗談でしょう」

「それだけ、ここで争いがあり、食い合ったってことになるわね」

そして、あんな化け物の大猿が生まれたのかもしれない。

本当に厄介な魔法陣を置き土産として残していったものだ。

あの魔法陣がなければ、魔物は集まらなかったし、集まらなかったら、争いも起きなかった。争いが起きなければ強い魔物も生まれなかったかもしれない。

でも、争っていたから、森に魔物が増えなかったのかもしれない。

その代わりに、あんな化け物が生まれてしまったけど。

「もしかすると、あの魔法陣、魔物を集めるだけではないかもしれないわね。魔物も狂暴化しているように見えるわ。魔法陣が壊れている? それで狂暴になっている? もしかして、ゴブリンキングも巨大スネイクも、この魔法陣の影響で成長した可能性があるわね」

大猿はゴブリンキングの腕を掴み、食べている。

赤猿たちはウルフを食べている。

「これは、王都に連絡案件ね。でも、ここまで騎士や兵士を派遣? 特別隊の派遣になるのかしら。それとも冒険者? その辺りはエレローラとサーニャに相談……」

マーネさんが独り言を言っている間も、わたしは猿を見ている。

そのとき、大猿が顔を上げて、こちらを見た。

わたしと大猿の目が合う。

その瞬間、大猿がニヤッと笑う。

「みんな、猿に気づかれた!」

わたしが叫ぶと同時に、大猿がわたしたちに向けて走り出してくる。

わたしたちは立ち上がる。

「後ろに下がって!」

わたしが叫ぶと同時に、滝の横の崖を登ってきた大猿が目の前に現れる。

わたしは大猿に向けて突っ込む。

大猿の気を、わたしに向けさせるために攻撃を仕掛ける。

クマの風魔法。

手加減は必要はないと、わたしの心が言っている。

クマの風の刃が大猿に向けて飛ぶ。

猿は身を翻す。

大猿は着地と同時に、わたしに向けて、踏み込んでくる。

速い。

なにより、瞬発力が高い。

あっという間に距離が縮む。

大猿が殴りかかってくる。

そのパンチを腕を交差させて防ぐ。

わたしは後方へ飛ばされるが、着地する。

クマ装備じゃなければ、防げていなかった。

「ユナ!」

「マーネさん、逃げて!」

わたしは後ろに向かって叫ぶ。

「くまゆる、くまきゅう、みんなをお願い!」

わたしの言葉にくまゆるとくまきゅうは「「くぅ~ん」」と鳴く。

後ろを見ることはできないので、探知スキルを表示させる。

くまゆるとくまきゅうとマーネさんたちの反応が離れていく。

この大猿は危険だ。

この大猿に襲われたら、くまゆるとくまきゅうでも分からない。

クマの転移門を出して、扉を開けて、扉の中に全員入る時間を許してくれるかも分からない。

なら、ここで戦って、倒すしかない。

わたしはゆっくりと息を吐く。

「相手になってあげるよ」

わたしは無数のクマの風の刃を出す。

でも、猿は左右によけたり、バク転したり、曲芸のように躱す。

あの巨体で身軽すぎる。

全ての攻撃を躱した猿は、その程度かと言う感じにニヤッと笑う。

バカにしている。

わたしが後ろにいるマーネさんたちを気にしていると、大猿が「キキキキキキィ」と大きな声をあげる。

なに?

大猿は笑みを浮かべる。

その理由はすぐに分かった。

小猿が滝の横の崖を登ってきた。

まさか、マーネさんたちを追うため?

でも、今から追っても遅いはず。

一分もあれば、くまゆるとくまきゅうなら、離れることができる。

だけど、もしものことを考えたら、通すわけにはいかない。

わたしは無数の風の刃を飛ばす。躱す猿もいるが、避けきれない猿もいる。

風魔法を食らった数匹の猿が地面に倒れる。

わたしは風魔法を何度も放つ。

血飛沫が飛び、赤猿が倒れていく。

まずい。

赤猿に気を取られすぎていた。

大猿から目を離した一瞬後、目を大猿のいた場所に目を戻したとき、大猿はいなかった。

どこ。

わたしの上から影がさす。

目を上に向ける。

大猿が跳んでいた。

うえ!

赤猿に風魔法を放ちながら、上に向けて風魔法を放つ。

赤猿が襲ってくる。

また、一瞬、目を逸らしてしまう。

大猿が着地する音が、わたしの後ろから聞こえた。

回し蹴りをする。

でも、わたしの回し蹴りは空を切る。

当たらない。

大猿はニヤリと笑うと剣を振り下ろす。

わたしは地面に残っていた片足を使って、後方に跳ぶ。

さっきまで、わたしがいた地面が抉られる。

大猿の動きが止まる。

わたしも一呼吸して、探知スキルで確認する。

赤猿の反応は、わたしを囲うように無数にいる。

初めから、狙いはわたし?

でも、マーネさんたちを追いかけるように移動している反応もいくつかある。

あのぐらいの数ならくまゆるとくまきゅうなら、大丈夫なはずだ。

追いかけたとしても、大猿や無数にいる赤猿を連れていくことになる。

そのほうが状況的に最悪だ。

今は、くまゆるとくまきゅうを信じる。

探知スキルを消し、大猿に目を向ける。

大猿は楽しむように、わたしを見ている。

今は目の前の大猿を倒すことだけを考える。

魔法が当たらないなら、当たるまで放てばいい。

わたしは一呼吸すると、避けきれないほどのクマの刃を飛ばす。

大猿が移動する先も含めて、無差別に放つ。

大猿は避けるそぶりをしない。ただ、剣を一振りした。

クマの刃が斬られて、大猿の横を風が抜けていく。

間違いなくゴブリンキングより強い。

ゴブリンキングより動きが速い。

ゴブリンキングより頭がいい。

ゴブリンキングより力を持っている。

そして、ゴブリンキング同様に剣も扱える。

その剣の扱いは、大猿のほうが上だ。

わたしはクマボックスから黒のミスリルナイフを出し、右手に持つ。左手は魔法が使えるように空けておく。

大猿はわたしがミスリルナイフを出すと、自分が持っている剣とわたしが持っているナイフを交互に見る。

そして、なにを思ったのか、笑いだす。

物を測るように親指と人差し指を広げ、わたしのナイフが小さいことを笑っているみたいだ。

「このナイフが、あんたを切り刻むナイフだよ」

ミスリルナイフを大猿に向ける。