軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

762 クマさん、クリモニアに帰る

バーリマさんと話を終えたわたしとカリーナは執務室を出る。

「ユナさん、教えてくださって、ありがとうございます」

「黙っていて、ごめんね」

「いえ、話せないことはお父様の言葉がなくても理解はできます」

ノアといい、この世界の貴族の令嬢は理解が早い。

あのミサの街にいたバカ貴族の息子とは大違いだ。

「でも、あのような魔法陣があるのですね」

「わたし専用の魔法陣だから、同じように描いても使えないからね」

「そうなのですね」

カリーナは少し残念そうにする。

クマの契約魔法陣を魔力で描いたとき、カリーナは興味津々に見ていた。

魔法陣に興味があると言っていたこともあって、契約をしたときも不思議そうにしていた。

「ユナさん、これからはいつでも会いに来てくださいね」

「カリーナとバーリマさんには話したけど、何度も来ると、他の人に怪しまれるからね」

「大丈夫です。ユナさんが街の住民なのか、違うのかは、ほとんどの人が知りません」

「でも、クマの格好だよ」

「毎日、クマの格好をしているとは普通の人は思いません」

「…………」

なにも言えなくなる。

そうだよね。

年中、毎日、クマの格好をしているとは普通の人は思わない。

たまに着ているぐらいに思うぐらいかもしれない。自分が毎日着ていたので、他人もそう思っていると思ってしまった。他人なら、クマの格好が私服とは思わない。

「なので、怪しむのはお母様や家にいる者ぐらいだと思います。そのときはお父様とわたしで誤魔化します」

それは心強い。

わたしたちは話ながら、フィナたちがいる部屋に戻ってくる。

部屋に入ると、お店のクマの制服を着たフィナたちがいた。

「なんで、クマの格好しているの?」

わたしの問いに、みんなが笑って誤魔化す。

さらに、カリーナまでがお店のクマの制服を着始めて、フィナたちの輪の中に入る。

まだ、会って間がないのに、仲良くなったみたいだ。

そのことを尋ねると、「クマ好きの輪です」とノアが答えた。

そして、寝るまで、仲良くお喋りをしていた。

わたしは、はだけているシュリの布団を掛ける。

ノアとミサは寝相がいい。

貴族の令嬢って、寝相も教育するのかな?

フィナは、いつもどおり普通だ。

わたしは椅子を持って、窓の近くに移動して、窓を開ける。

星が綺麗だ。

和の国の家から見た星空も湖に映って綺麗だったけど、ここから見る星空も綺麗だ。

やっぱり、空気が綺麗だからかな。

今回の旅行は、ここまでだ。

明日にはクリモニアに帰る予定だ。

王都に行くことも考えていたけど、エレローラさんに知られでもしたら、クリフに知られるかもしれないので、今回は見送ることにした。

「ユナさん、眠れないのですか?」

「カリーナ?」

声がしたほうを見ると、カリーナが立っていた。

気づかなかった。

「そんなわけじゃないよ。ちょっと、寝る前に星空を見ていただけだよ」

「ユナさんって、ロマンティックですね」

「……わたしがロマンティック?」

わたしに一番合わない言葉だ。

「星空を見るユナさんが、とても綺麗でした。でも、クマさんの格好のせいで、なんとも言えない感じです」

想像してみる。

星空を見るクマの着ぐるみ少女。

綺麗どころか、笑いの図になってもおかしくはない。

「もうわたしも寝るから、カリーナも寝たほうがいいよ」

「はい」

わたしとカリーナはベッドに戻り、眠りにつく。

翌朝、クマの格好した全員が起きる。

クマ率が100%だ。でも、わたし以外の全員が着替えて、クマ率は一気に下がる。

ノアとミサもクリモニアに帰るので、いつもの服装だ。

そして、バーリマさんたちに挨拶をする。

「ユナさん、いつでも来てください。歓迎しますので」

「うん、また来るよ」

カレーのスパイスを買わないといけないしね。

来ないって選択肢はない。

わたしが昨日、カレーのスパイスを買いに行くとバーリマさんに伝えていたところ、準備してくれていた。

お金を払おうとしたら、「お土産です」と言われたけど、量がかなりあったので、「払うよ」と言ったが、「街を救ってくれた恩人から、お金は貰えません」と引き下がってくれなく、渋々と受け取ることになった。

「お父様の気持ちなので、受け取ってください」

「でも、毎回来るたびにこんなことをされたら、もう来れなくなるよ」

この手のことは、どこかで止めないと、お互いに困るものだ。

なにより、わたし自身が受け取るのが当たり前になるのが怖い。

バーリマさんの気持ちを無下にできないので、「ありがとう。今回だけ、受け取るね」と言って、受け取った。

バーリマさんに挨拶を終えたわたしたちは、帰るためデゼルトの街にあるわたしの家に向かう。

「あのう、ユナさん。カリーナと一緒で大丈夫なんですか?」

「あの移動する扉のことは秘密なんですよね?」

「一緒に来たら、怪しまれちゃうと思います」

ノア、ミサ、フィナが小声で話してくる。

カリーナは少し後ろでシュリと仲良くお話をしている。

「そのことなら、大丈夫だよ。これから、自由に行き来したいから、昨日、バーリマさんとカリーナの二人だけには契約魔法をして、門のことは教えたよ」

昨日、バーリマさんに呼ばれたときにクマの転移門のことを話したことを説明する。

「そうなんですね」

どうやら、わたしのことを心配してくれたみたいだ。

「心配してくれて、ありがとう」

「ふふ、それなら、あれをお渡しできます」

「お渡し?」

「なんでもないです」

ノアは慌てて、目を逸らす。

怪しい。

そして、ノアはフィナとミサに小声で何かを言うと、後ろにいるカリーナのところに向かう。

なんだろう?

わたしがカリーナのところに向かうノアが気になったので目で追うとするとミサが話しかけてくる。

「それで、ユナさん。クリモニアに帰るんですよね」

「うん、結構、長居したからね」

ミリーラの町、和の国、エルフの村。そして、このデゼルトの街。他にも王都やドワーフの町、それから大きな川があるラルーズの街など行っていない場所はある。ラルーズの街に行ったら、大きな船にも乗せてあげたい。

まあ、それは次の機会でいいと思う。

クリフには妖精のところに行っていることになっているので、あまり長居はできない。

フィナとミサと話をしていると、後ろから「ありがとうございます。大切にします」とカリーナのお礼をする声が聞こえてくる。

なんだろうと思って、後ろを振り返ろうとするが、フィナとミサがわたしの腕を引っ張る。

「フィナ、ミサ?」

「あれはなんですか?」

「食べ物ですか?」

誤魔化すように指さす。

そのフィナの指の先に目を向けると、わたしも知らない丸い果物のようなものがあった。

お店の人に聞くと、やっぱり果物らしい。

一口、味見すると、柔く、甘く、美味しい。

「ああ、ユナさん、フィナ、ミサ、3人だけでずるいです」

「ほんとうだ。お姉ちゃん、何か食べている」

後ろにいたノアとシュリがやってくる。

お店の人は笑いながら、一口分、ノアたちにも食べさせてくれる。

買わないで立ち去るのも悪いし、購入することにした。

果物なら、いろいろ活用方法もあるし、普通に美味しいから、食べるのもありだ。

ノアとミサも購入する。

フィナもティルミナさんとゲンツさんと一緒に食べるため買う。

「それで、ノアとカリーナは何を話していたの?」

「ちょっと、大切なお話をしていただけです」

「大切な話?」

「個人的なことですので内緒です」

内緒と言われたら、強く聞き出せない。

大人のわたしには聞かれたくない、子供同士の話があるのかもしれない。

大人のわたしは、無理に聞くようなことはしない。

そして、カリーナも話を変えるように、話しかけてくる。

「会ったときから思っていたのですが、2人は上流家庭の子なんですか?」

カリーナはノアとミサに目を向ける。

カリーナが話を逸らそうとしていることに気付いたが、大人のわたしは、その話に乗っかることにする。

「そうだね。上流家庭の子だね」

「やっぱり、そうなんですね」

「分かるの?」

「お二人は言葉遣いや食事の仕方が普通の子と違っていました」

やっぱり、育った環境で変わるのかな。

あと、子は親に似るって言うし。

ノア、ミサ、フィナにシュリも優しい両親だ。だから、いい子に育っている。

あのミサと同じ街にいた貴族は親子共々酷かったし。

そう考えると、わたしの両親のことを思うと、わたしもとんでもない子ってなるね。

でも、親を反面教師にして立派に育った子供もいる。

あの親を反面教師にして、立派な……それなりの……人に迷惑をかけない引きこもりになろう。

ハードルを下げる。

そして、みんなで話をしながら、わたしの家までやってくる。

「実は、ユナさんが来ているかもって思って、何度か家の前まで来ていました」

「そうなの?」

危なかった。

フィナと掃除に来ている時に会わなくて。

もっとも、最後には話してしまったから、早いか遅いかの違いだけだったかもしれない。わたしたちは家の中に入り、クマの転移門が置いてある部屋に移動する。

「これが移動できる扉ですか?」

「秘密だからね」

「はい。もちろんです。もっとも、話そうとしても『クマ』としか話せなくなるから、お話しできません」

あの契約の後、メイドさんが来て、カリーナが試しに話そうとしたら、クマを連呼して、メイドさんが笑いを堪えていた。「カリーナお嬢様、可愛いです」と言われたカリーナは顔を真っ赤にしていた。

わたしはクマの転移門の扉を開ける。

ノアたちがカリーナを見る。

「カリーナ、会えて楽しかったです」

「はい、わたしもです。今度、来るときはもっとゆっくりしていってください」

「もちろんです」

「ユナさんにお願いをします」

「フィナちゃんとシュリちゃんも、また会えて嬉しかったよ」

「はい、わたしもです」

「カリーナ姉ちゃん。今度、一緒に鳥さんに乗ろうね」

「うん、乗ろうね」

ノアたちは手を振って、クマの転移門の中を通っていく。

わたしは、一人残る。

「ユナさんは行かないのですか?」

「戸締まりをしないといけないから」

このままカリーナを家の中に残したら、鍵を閉めずに出て行くことになる。

「それなら、わたしがしておきますよ」

「それじゃ、お願いしようかな」

「いつ来てもいいように掃除もしておきます」

「別に、掃除はしなくてもいいよ」

わたしは合い鍵を渡す。

「それじゃ、戸締まりをお願いね」

「はい」

わたしはクマの転移門を通り、扉を閉じた。