軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

699 クマさん、騎士と話をする

「ユナさん、騎士の繋がりを感じます」

ノアが階段を見ながら言う。階段からコツコツと足音がしてくる。そして、その足音の主が部屋に現れる。ノアの言う通りに現れたのは騎士だった。

「ネズミが入り込んだと思ったら、クマでしたか」

この男……なんとなく声に聞き覚えが。

「セロス。どうして、ここにあなたがいるの? 街の外に魔物討伐へ行ったんじゃ」

「ローネ様もいらっしゃったんですね。それで、こんなところで何をしていたのですか?」

「そう言うあなたこそ、どうしてここに? ここには入ってはいけないと、あの男に言われているはずよ」

「このお屋敷に侵入者が入ったので、探していたのですよ」

侵入者を探していた? わたしたちのこと?

「それで、いつも閉まっているはずの扉の鍵が壊されていたので、確認しにきただけです」

「それじゃ、確認したんだから、帰ったら」

「そうはいきません。この部屋に見知らぬ少女2人とクマまでいるのに、このお屋敷に仕える騎士として、黙って帰るわけにはいかないでしょう。なにより、もう1人の妖精まで見てしまったら」

ローネがセロスと呼んだ男がプリメを見る。

プリメはわたしの後ろに隠れるが遅い。

誰にでも見られるようにしていたのが裏目にでた。

「ユナ……」

プリメが不安そうにわたしの名前を言う。

「大丈夫だよ」

わたしは安心させるためにプリメに声をかけ、騎士に目を向ける。

「なにより、わたしはそのクマの少女に興味がありまして」

「わたしに?」

「お屋敷の外で、騎士10人を相手に戦っていたでしょう」

見られていた?

でも、あの場所はお屋敷からかなり離れている。

「誰かがお屋敷に来ると知っていましたので、待っていたんですよ」

「近くには誰もいなかったはずだよ」

「あのぐらいの距離なら見る方法はいくらでもあります」

望遠鏡、魔法、確かに見る方法はある。

でも、それはわたしたちが来ると知っていたからできることだ。

先ほどの男の言葉からして。

「わたしたちが来ると知っていた?」

「情報とは隠し通せるものではありません。あなたたちは情報を知っている全員の口を固く閉じさせなければいけない。ですが、わたしはたった1人、口を割らせればいいだけです」

重要機密を持った仲間が百人、千人、一万人と増えてしまうと、その全員が機密を守らないといけなくなる。でも、機密を知りたい相手からすれば、たった1人の口を割らせればいいだけだ。

つまり、今回のことを誰かが情報を売ったってこと?

もしくは脅迫、暴力。

「それじゃ、このことを領主や他の騎士たちも」

そうなったらマズいことになる。

「先ほども言ったでしょう。知っている人の数が増えれば、情報が漏れる確率も高くなると。もし、わたしが他の者に伝えて、わたしたちが今回のことを知っていることがあなたたちに知られたら、今回の作戦を中止にするでしょう」

それはそうだ。

もし、領主に知られたことがわかれば、作戦は中止になったはずだ。

でも、この男からしたらデメリットしかないように思うけど。

「それじゃ、わたしたちがここにいるってことは、あなたしか知らないってこと?」

「流石に、そこまでのバカではありません。魔物討伐に向かった部下の1人に、みんなで戻ってくるように伝えてありますので、そろそろ戻ってきているかもしれません。街に戻ってくれば煙にも気づくでしょうから」

そんなことになれば、ギルマスたちは戻ってきた騎士と戦うことになる。

今のわたしには何もできないけど。お屋敷から出てきた騎士を捕獲しておいてよかった。もし、あの騎士たちも合流することになっていたら、大変なことになっていた。

ギルマスたちも、お屋敷から騎士が出て来ることは折り込み済みだ。そう考えれば、プラスマイナスゼロだ。

「でも、このお屋敷に侵入する人物だけは知らなかったようなので、楽しみに待っていたのですが、現れたのは子供が2人と、クマが2頭。それと妖精ですか」

男はわたしたちを見る。

「予想外過ぎて、見た時は困りましたよ。でも、あなたの戦いを見て、すぐに考えが変わりましたが」

男はわたしに目を向ける。

「ローネ様より与えられた力は凄いものです。ですが、騎士たちはわたしほど強くはありませんし、他の国に力を試しに行くこともできません。近くの魔物は弱い。常々この力を思う存分に使いたいと思っていました」

廊下で話していた騎士も同じようなことを言っていた。

力は一時的なもの。永続的なものではない。ローネから力をもらえなければ強くはなれない。

「だから、お嬢ちゃんと騎士たちの戦いを見て、戦ってみたいと思いました。不思議な魔法を使うみたいですね。動きもいい。才能を持った少女を、不当な力を得たわたしが倒す。面白いとは思いませんか?」

男は薄気味悪い笑みを浮かべる。その表情にノアとプリメの顔が引き攣る。わたしはノアとプリメの前に出る。

「気にすることはないよ。その不当で手に入れた力でも、その力を扱うことができなければ意味がないものだからね」

戦った騎士たちはローネから手に入れた力を発揮できていなかった。

わたしだって、ゲームでの経験がない普通の女の子だったら、武器を振り回すこともできなかったはずだ。魔法を使う適応力もなかった。

ゲームとはいえ、リアルのように戦った経験があるから、神様から貰ったクマ装備を扱えている。

戦ったことがないフィナやノアがクマ装備を使っても、全ての能力を使うことはできないはずだ。

襲われたとき、目を閉じるかもしれない。剣が鈍るかもしれない。恐怖で動けなくなるかもしれない。

「そう言っていただけると嬉しいですね。わたしと戦った者は、みんな卑怯だと言いますので。この力を得るために、プライドを捨て、領主様に誓いを立てたのですから」

まあ、他人から貰った力で戦うのが卑怯なのは確かだ。

わたしも神様から貰ったクマ装備で戦っている。

ただ、一つだけ違う。

わたしはその力を悪いことに使っていない。それだけは自信を持って言える。理不尽な暴力は振るわないし(ムカつく奴は殴るけど)、力を使って国を支配するつもりもない(世界を支配しても面倒くさい)。ハーレムを作ることもしない(異性にモテたいとは思わないし)。

その代わりに力を使って英雄にも勇者にもなるつもりもない(これが一番面倒くさい)。

わたしはこの世界をのんびりと楽しむために、クマの力を使っている。

ただ、その力を使うには大きな代償が必要だけど。

わたしは改めて、自分の格好を見る。

その代償として、クマの格好をしないとダメだけど。

この人は力を得るためにプライドを捨てたと言ったけど、クマの格好もするのだろうか。

その辺りを問い詰めたい。

わたしだって、何度も葛藤して、クマを受け入れたんだから。

この男がクマの格好……。

「ふっ」

想像したら笑いが出てしまった。

「なんですか、その笑いは」

「大したプライドじゃないと思っただけだよ。プライドを捨てるなら、わたしぐらいのことをしないと」

プライドを捨てるってことは、わたしのようにクマの格好をすることだよ。

「意味が分かりませんが、そろそろ戦いましょうか。わたしに騎士たちと戦った力を見せてもらいましょうか」

舌舐めずりをする。

どうやら、この男は戦闘狂だったみたいだ。

「セロス、あなた、こんな子たちと戦うと言うの? わたしはそんなことをするために力を与えたんじゃないわ!」

「ローネ様、自分のお立場を理解していただければと思います」

「自分のお立場ってなに? あなたたちに力を与える立場ってこと?」

「あなたをお守りするために騎士がいること」

「そんなの頼んでいないわ」

「そして、その男性を守るために騎士たちが、どれだけ頑張っているのか」

「それは……」ローネは言い負かされて、口を閉じてしまう。

「いい加減にしたら。魔石集めはあなたたちが冒険者の仕事を奪ったせいでしょう。それだって、住民から魔力を奪ったのが原因。それをローネのためみたいに言って、追いつめて恥ずかしくないの?」

「そうです。領主は住民の暮らしを守るのが仕事です。もちろん、全てに目が届くわけではありませんが、領主自ら住民を不幸にしてはいけません」

黙っていたノアが声を上げる。

ノアは、まだ子供なのに領主という立場を理解している。

「己の利益のために住民を不幸にする人は、領主に相応しくありません。そして、そんな領主に従う騎士も騎士ではありません。騎士は弱き者を守るものです」

「ふふ、それは子供の幻想。騎士は弱き者を守るものではありません。主君の命に従うものです。主君が魔物と戦えと命じれば命をかけて戦う。人を殺せと命じれば殺す。それが仕える騎士です」

「それが間違ったことでもですか?」

「騎士は主君に誓いを立てます。それが良い主君、悪い主君であろうと、誓いを立てれば守るだけです。もう、お喋りはここまでにしましょう。どっちにしても、わたしはそのお嬢さんと戦うのが楽しみなのですから」

男が剣を抜く。

「ここで戦うつもり? この部屋が壊れたら大変なんじゃない?」

「それは、わたしにとってですか、それともあなたにとってですか?」

もちろん、二人にとってだ。

だが、男がどこまで知っているかによっては、わたしより重要度は低くなる。

わたしからしたら、今この部屋を壊されるのは避けたい。

「騎士道精神はないみたいだね」

「お褒めに与り光栄ですね」

嫌味は通じないみたいだ。

「それにあの地面からでるクマは厄介ですからね」

見られていて知っていたから、ここで戦うことにしたのだろう。

この男は戦うのが好きなのではない。いたぶるのが好きなだけなのだ。