軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

700 クマさん、騎士隊長と戦う

「みんなは離れていて。くまゆる、くまきゅう、みんなをお願いね」

みんなをくまゆるとくまきゅうに任せ、後ろに下がらせる。

さて、どうやって、あのムカつく顔を歪ませてあげようか。

だけど、ここは地下室で、床の魔法陣も壊すことはできないから、暴れるわけにはいかない。

天井を壊すようなことがあれば、生き埋めになり、魔法陣も壊れる。

地下室で、火のクマ魔法を使うようなら、いろいろな意味で危険だ。

使える魔法は限られてくるが、魔法全てが使えないわけじゃない。

それにいざとなったら肉弾戦もある。

わたしは、試すように男に向けて空気弾を放つ。

「この程度の魔法」

男が空気弾を剣で斬る。

空気弾が真っ二つになる。

わたしは間髪容れずに空気弾をショットガンのように連射する。

でも、男は全ての空気弾を斬っていく。

真っ二つにされた空気弾は男の後ろの壁に衝突して、壁の一部を壊す。

あのぐらいの威力の魔法でも壁は壊れるのか。これ以上強い魔法は使えないってことだ。

さらに厄介なのが、男が持っている剣。

「ミスリルの剣……」

わたしもミスリルのナイフを持っているから分かる。男が持っている剣はミスリルの剣だ。

「魔法に対抗するには、ミスリルの剣が一番ですから。それに上等な剣を使えるのも、領主様に従う理由の一つです」

要するに力を与えてくれる相手に媚を売っているだけだ。

でも、それは口先だけじゃない。他の騎士に比べて強い。

「うん? この風の魔力、どこかで身に覚えが……」

魔法がダメなら接近戦、と思って動こうとしたら、男は空気弾の名残を感じるように手を漂わせる。

そして、何かを思い出したような表情をする。

「数日前に我々が魔物を討伐したときに、風に混じっていた変な魔力と同じ」

そこまで言われて思い出した。

この街に来るときにウルフを討伐していた騎士たちの会話を聞くために風魔法を使ったときのことだ。

そのとき、わたしの聞き耳を立てる風魔法に気付いた騎士で、隊長と呼ばれた男だ。

「あなたが近くにいたのですね」

風魔法で話を聞いていたとは思っていないみたいだ。

「魔力、そんなこと分かるの?」

わたしには、誰かの魔力の違いなんて分からない。

「ローネ様に力をいただくようになってから分かるようになりました。本当にローネ様のお力は凄い」

他の騎士は分からなかったみたいだから、この男だけかもしれない。だから、他の騎士より強い理由なのかもしれない。

そして、力を楽しんでいる。

でも、それはわたしも人のことは言えない。

「そういえば言い忘れたことがあるんだけど。わたしは自分が強いと思っている人の鼻をへし折るのが好きだから」

正確には威張っている人の鼻をへし折るのがだ。一生懸命にその力を手に入れ、悪いことに使っていないなら文句はない。でも、その力を使って弱者を虐めて、楽しんでいるのは許せない。

「わたしも持って生まれた才能で大人を舐めているガキの鼻をへし折るのは好きだ」

わたしの力は持って生まれた才能ではない。男と同様に与えられた力だ。

でも、技術だけは違う。

わたしは動く。

手にはくまゆるナイフが握られている。

間合いに入る前に横一線に振る。

男は届かないと高を括っているのか笑っている。

だけど、くまゆるナイフの刃から風の刃がでる。

和の国でジュウベイさんやシノブが使っていた技だ。

ナイフで斬りかかってきたと思ったら、魔法で攻撃されたら、誰でも戸惑う。

だけど、男は予想していたのか、剣で切り裂いた。

「魔力には敏感なんですよ」

「それもローネの力ってこと?」

「そうです。素晴らしいと思いませんか。手に入れることができなかった力が手に入る喜び。自分を見下していた者に仕返しできる喜び」

わたしもゲームの中では現実ではできないことを楽しんだ。女だからとバカにしてきた相手を返り討ちにしたときは楽しかった。

でも、それはゲーム内でレベルを上げ、努力をして技術を磨いたからだ。

今はクマの力を借りているが、誰よりも頑張ったから今がある。

「それじゃ、あなたの得意分野で戦って叩きのめしてあげる。上には上がいることを教えてあげる」

どっちのチートが強いのかの勝負。そして、そのチートの力を使いこなしているのかの戦い。

わたしは一気に間合いを詰める。男も反応する。身体能力も上昇している。反応が速い。でも、こっちは神様から貰ったチート装備だ。ローネには悪いが妖精の力とでは比較にはならない。

ミスリルの剣とくまゆるナイフがぶつかり合う。

男の振り下ろす剣を受け流す。

クマ装備の力と、今までゲーム内で戦ってきた経験を生かせば、難なくできる。

男は剣が受け流され、バランスを崩すが、すぐに切り返してくる。

でも、遅い。

ナイフから出る風魔法がナイフの短さをカバーしてくれる。

「ナイフに押される……」

「武器が大きければ有利ってわけじゃないよ。武器が大きければ、次の行動が遅くなる。重たければ武器に振り回されることもある。その点、ナイフは小回りが利く。動きも剣よりも速い」

男はわたしのナイフの速度にギリギリ付いてくる。

さらに風魔法がいつ飛び出してくるか分からない状況じゃ、男は迂闊にわたしに攻撃できない。

でも、これがわたしの限界ではない。

「速度を上げるよ」

言葉どおりに、わたしはさらに速度をあげる。

「そんな動きにくそうな格好をしているくせに」

「相手を、見た目だけで判断しないほうがいいよ」

太っていても動きが速く、強い格闘家もいる。

……別に、わたしが太っているという意味じゃないよ。

左右に動き、男を翻弄する。

男は徐々にわたしの速度についてこられなくなる。

わたしはナイフをクルッと回して、ナイフを逆手に持ち、握る部分を男の腹に向かって突き出す。

「うぅ」

男は顔を歪ませる。

「その程度の実力で、威張っていたの? 今のがナイフだったら死んでいたね」

まあ、殺すつもりはないけど。

弱い者いじめは格好悪いしね。

「もしかして、大きな魔法が使えなければ大したことはないと思った?」

「う、嘘だ!」

男は叫ぶ。

叫んだからといって、わたしとの力量差が埋まるわけじゃない。

「戦ってきた場数が違うよ」

ゲーム内とはいえ真剣勝負。対人戦は何度もしてきた。一日中やっていたことも何度もある。ゲーム内だから、時間が許す限り、戦うことができた。ベッドで寝れば体力が回復するし、アイテム薬もある。練習試合なら気にしないで何度も戦うことができた。

さらに多彩な武器を持つ相手と戦ってきた。

命をかけて戦ってきた場数が違う。何度も死んだことがあるが、それも糧となる。

でも、この現実では死ぬほどの戦いを何度もすることはできない。

死ねば、本当に死んでしまう。怪我を負っても薬を使って簡単に治すことはできない。

引きこもって、毎日のように戦ってきたわたしと男では場数が違う。

「なんだ。お前はなんなんだ! そんな変な格好してふざけているのか!」

無表情でバカにしていた男の表情が一転する。

いたぶる側がいたぶられる側になったのが信じられないみたいだ。

妖精の力を手に入れて、強者になったつもりだったんだろう。

「井の中の蛙って言葉を知っている? この街で威張っていても、それはこの街だけのこと。世界は広い。妖精の力を得たからといって、最強になったわけじゃない。この世界には妖精の力を得たあなたよりも強い人はたくさんいるよ」

この男より、和の国にいたジュウベイさんのほうが強いと思う。

魔法が有りなら、カガリさんも強い。まあ、空から攻撃をされたら、誰でもたまったものじゃないけど。

それに引き換え、男は強いが、騒ぐほどの強さはない。

ただ、ローネとの相性が他の人よりも良かっただけだ。

「ふざけるな! そんなの認めない!」

男は剣を振りかざしたかと思ったら、足を蹴り出してくる。

フェイクのつもり?

ゲームなら、隠しナイフ、隠しアイテム、魔法、そんなのあたり前だ。

わたしはその足を蹴る。

「騎士なら、ちゃんと剣を使わないと」

でも、男はわたしの言葉を聞くことはできない。

わたしに蹴り飛ばされた男は吹っ飛び、壁にぶつかって倒れる。

「うそ、あの女の子。こんなに強いの?」

「ふふ、わたしのパートナーのユナは強いのよ」

「ユナさんは、わたしが知るかぎり、一番強い人です」

後ろではローネ、プリメ、ノアが、わたしたちの戦いを見ながら、そんなことを言っている。

でも、プリメが自分のことのように自慢するのは納得いかないけど。

「うぅ」

男が剣を杖のように使い、立ち上がる。

吹っ飛ばされて、壁にぶつかっても、剣を握りしめているところは、騎士として認めてあげよう。

「ローネ様! わたしに力を!」

男が叫びながらローネを見る。

「もっと、力をください! この目の前にいる邪悪なクマを倒すために」

ちょ、誰が邪悪なクマよ。

誰が見たって、邪悪になんて見えないでしょう。

自分で言うのもあれだけど、可愛いクマでしょう。

「嫌よ! 誰があなたに力なんて与えるもんですか!」

「その寝ている男がどうなってもいいのですか」

男の剣が光る。

魔力?

「そんなことをしたら、あの男が黙っていないわよ。それに彼が死ねば、力を与えることはできなくなるわ」

「ここで負けて、ローネ様を連れていかれれば同じこと。でも、あなたは違う。ここで男が死ぬことがあれば、あなたも終わりを迎える。一人で地獄を見るつもりはありません。どうしますか?」

ローネが言葉を発する前にわたしが動こうとした瞬間、予想外のことが起きた。

「くまゆる! くまきゅう!」

わたしは叫ぶ。

それと同時に騎士の胸から剣が突き出ていた。