軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

672 クマさん、移動する

「それにしても、女王様って感じだったね」

「はい。凛々しい感じで、優しい方でした。厳しくは言っていましたけど、プリメさんのことを心配して、お姉さんのことも気にかけていました」

本来だったら、妖精の森は人間を入れてはダメな領域だ。それを1人とはいえ、許可を出していた。今回は2人になってしまったけど。

「多分、プリメが連れてきたわたしたちを、確認しに来たんだろうね。プリメと一緒に行かせてよい人間なのか」

「それなら、認められたってことでしょうか」

「そうなるんじゃない」

感情を読み取れると言っていた。それで善悪を確認しているんだと思う。

「ごめんなさい。多分、お姉ちゃんが人間といなくなってしまったから、わたしのことを心配しているんだと思う」

「謝ることじゃないよ。誰だって身内がいきなりいなくなれば心配するよ」

「はい。そうです。わたしも気にしてません。逆に、信用されたみたいで嬉しいです」

「ユナ、ノア、ありがとう」

プリメは嬉しそうに微笑む。

「何よりも凄かったのは、わたしの格好を見ても、動じてなかったことだね」

わたしのクマの格好を見ても反応がなかったし、指摘されることもなかった。淡々と話していた。

「そうですね」

「ユナの格好? 何かおかしいの?」

わたしの肩の上に乗っているプリメが、わたしの前に飛び、わたしの格好を見る。

「わたしの格好はクマでしょう。初めて見る人は変な目で見てることが多いの」

「そうなの?」

プリメは分からないようで、首を傾げる。

「別にユナの格好が、変とは思わないし。その格好、似合っているわよ」

何だろう。似合っていないと言われても、ムカつくと思うけど。変じゃなく、似合っていると言われると、複雑な気持ちになる。

そういえば、プリメもわたしの格好を見ても大きな反応はなかった。

わたしたちと妖精は感覚が違うのかもしれない。

「わたしも似合っていると思います」

「ありがとう。それで確認だけど、ここどこの国か知っている?」

まずは、場所確認だ。もしかするとクリモニアの近くだったり、王都の近くって可能性もある。

「わたしが人間の国の名前なんて知っているわけがないでしょう。ユナもわたしたちが住む妖精の森の名前は知らないでしょう」

「……知らない」

「妖精の森に名前があるのですか?」

「妖精の森、レーテシアよ」

「素敵な名前ですね」

「ふふ、そうでしょう」

プリメは褒められて嬉しそうにする。

「それは妖精の存在自体あまり知られていないから仕方ないんじゃない?」

「そうかもしれないけど、わたしだって人間の知り合いはいないんだから、同じことでしょう」

プリメの言い分も分かる。

わたしも地球上の全ての地名を知っているかと言われたら、知らないし。日本の都道府県を正確に場所と名前を答えろと言われても自信はない。

友達や知り合いが住んでいれば分かると思うけど、残念ながらわたしにはそんな人物は存在しない。

「それじゃ、近くの村に行ったことがあるって言っていたけど。近いの?」

「妖精の森を出て、一番近い村って意味だけど、近いかどうかは、分からないわよ」

「分からないって。行ったことがあるんでしょう」

「人間って、自分たちを中心に考えるのね。同じ距離を物凄い速さで飛ぶ鳥と、地面にいる蟻に同じことを尋ねてみなさい。同じ答えが返ってくると思っているの?」

プリメの言いたいことは理解した。

体の大きさ、移動速度が異なるなら、近くとも言えるし、遠くとも言える。

くまゆるとくまきゅうに乗っていけば、近くに感じる。歩いていけば遠くに感じる。

電車で行けば近くでも、歩いていけば遠い。

飛行機でいけば一日でも、歩いて行ったら、どれほどの時間がかかるか分からない。

「でも、どうして、そんなことを聞くのよ」

「村で情報収集をしたほうが、いいかなと思っただけだよ」

「お姉さんのところに真っ直ぐにはいかないのですか?」

「ノアが感じている方向に進むけど、まず距離が分からない。そして、ここがどこかも分からない。だから魔物が多くいるところや近づいてはいけない場所があるか聞きたいし。もちろん、妖精の情報も聞けるかもしれない」

ここがクリモニアや王都から遠く離れ、見知らぬ国だったら、情報は大切だ。

国の名前、近くの街の名前。どういう国なのか。どういう街なのか。もしも、どこかの国と戦争状態の国だったら危険だ。

今回はノアもいるから、わたし一人の問題ではない。危険を回避できることがあるなら、回避したほうがいい。だからこそ情報は大切だ。

「それで、方向的にどうなの?」

「向かっている方向だと思う。前もこっちの方向に飛んでいったから」

「それじゃ、とりあえずはノアの感じる方向に進みつつ、村が近かったら寄るってことで」

「はい。わたしは、それで構いません」

「わたしもいいわよ」

わたしたちを乗せたくまゆるとくまきゅうはのんびりと走り続ける。

「楽でいいわ。飛んでいったときは、疲れて何度も休んでいたのに。見覚えがある場所をどんどん通り過ぎていくわ」

プリメはくまゆるの頭の上に乗りながら言う。

そして、休憩しながら進み、日が沈んでいくので、今日の移動はここまでとする。

のんびりと走ったといえ、かなり進んだと思うけど、誰にも会っていない。

わたしは今晩泊まる場所、クマハウスを出す。

「なにこれ?」

プリメがクマハウスを見ながら尋ねてくる。

「お出かけ用の家だよ。野宿なんて面倒だし、ノアが風邪でも引いたら大変でしょう」

「ユナさん、わたし、そこまで弱くありません」

「風邪に強さは関係ないよ。疲れているときが一番体調を崩して、風邪をひくことがあるんだから。今日はくまゆるとくまきゅうに乗って、移動していたとはいえ、疲れているでしょう。それに見知らぬ土地で、心が疲れているかもしれないよ。自分は大丈夫と思っていても、休めるときはちゃんと休まないと」

今は興奮状態で元気かもしれないが、家から離れ、妖精と会い、見知らぬ場所を移動し、心が疲れているかもしれない。

「そうですね。昔、家で働く他のメイドが同時に数人が休んだことがあったんです。それでララがそのメイドたちの仕事を肩代わりをしたことがあったんです。忙しそうにしていたのですが、元気に仕事をしていました。でも、いきなり倒れてしまって、お医者様が言うには疲労からくるものだと言っていました。熱も出てとても心配したことがあります」

「肉体的にもそうだけど、心が疲れているときも危ないからね。野宿だと、気が張って疲れるからね」

まあ、くまゆるベッドとくまきゅうベッドがあれば、そんなことも感じずにぐっすりだけど。

わたしたちはクマハウスの中に入る。

「それじゃ、食事の準備をしちゃうね」

「それでは、わたしはお風呂の準備をしてきます」

「わかる?」

「大丈夫です。ミリーラの町でフィナから教わりましたから」

海に行ったとき、ノアはミリーラの町にあるクマハウスのお風呂掃除などをフィナと一緒にやっていた。

「それじゃ、お願い」

「任せてください」

ノアは風呂に向かっていく。

「わたしは?」

プリメが尋ねてくる。

わたしはプリメを見る。

……小さい。

「くまゆるとくまきゅうと一緒に休んでいていいよ」

「わたしがお手伝いしてあげるって言っているのに」

頬を膨らませながら、くまゆるとくまきゅうのところに飛んでいく。

だって、小さくて、頼めることがなにもないんだから、仕方ない。

わたしは食事の準備をし、テーブルにはパンや肉、野菜などが並ぶ。わたしとノアが食べるものだ。そして、プリメの前にくまゆるとくまきゅうのために買っておいた蜂蜜が小皿に少量。それから、小さなパンの切れ端が置かれている。

妖精は主に、妖精の森にあるものを食べているらしいが、肉などは食べないとのこと。

わたしが持っているものの中では蜂蜜、パンが食べられるらしい。

「わたしたちの森から取れる蜂蜜には劣るけど、美味しいわ」

「「くぅ~ん」」

くまゆるとくまきゅうが鳴く。

「なに、あなたたちもわたしたちの森の蜂蜜が食べたいの?」

「「くぅ~ん」」

くまゆるとくまきゅうは頷く。

「それじゃ、無事にお姉ちゃんを見つけることができたら、お礼として食べさせてあげるわ」

「「くぅ~ん!」」

くまゆるとくまきゅうは嬉しそうに鳴く。

「えっと、いいの? ちょっとの量だと足らないと思うけど」

わたしの言葉にプリメは子熊化したくまゆるとくまきゅうを見る。

「……もう少し小さくなれないの?」

子熊になっているけど、妖精のプリメよりは遥かに大きい。

「なれないよ」

「その、スプーン一杯なら」

「「くぅ~ん」」

「少ないって」

「いや、無理だから、ごめん」

「「くぅ~ん」」

くまゆるとくまきゅうは悲しそうに鳴く。

まあ、こればかりは仕方ない。

いくら子熊化しているとはいえ妖精のプリメからしたら、大きい。

食事を終え、洗い物も片付け、わたしたちは小休憩している。

ノアはくまゆるを抱き、プリメはくまきゅうの上に気持ち良さそうに寝そべっている。わたしは今後のことについて考えている。

やっぱり、教えておいたほうがいいよね。

「ユナさん、そろそろお風呂に入りますか?」

「そうだね。でも、ちょっと待って、その前にノアに教えておきたいことがあるの」

わたしはノアにクマの転移門のことを教えることにした。

「でも、誰にも話さないでほしいの。クリフにもエレローラさんにもね」

ノアに教えることの不安は、クリフとエレローラさんの耳に入ることだ。

「お父様、お母様にも……。悪いことではないんですよね」

「悪いことじゃないよ。教えても問題はないけど。面倒くさいことになるから、話さないでほしいかな」

「分かりました。ユナさんが黙ってほしいと言うなら、誰にも言いません」

「ありがとう。それじゃ、こっちの部屋に来て」

わたしはクマの転移門がある部屋に移動する。