軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

662 クマさん、フィナのお祝いをする その1

うな丼を食べ、満足した国王は仕事に戻り、フローラ様はくまゆるとくまきゅうと遊ぶ。そして、フローラ様は遊び疲れたのか、次第にウトウトとし始める。

そんなフローラ様にアンジュさんが優しく声をかける。

「フローラ様。お昼寝をしましょう」

でも、フローラ様はくまゆるに抱きついて、首を横に振る。

「くまさんと遊ぶ」

フローラ様が眠そうにしているのは事実だ。でも、寝てしまった後に、わたしたちが帰って、起きたときにくまゆるとくまきゅうがいなくなっていれば悲しむのは想像ができる。

だから、わたしは優しく声をかける。

「フローラ様。また、来ますから、そのときに遊んであげてくれますか」

「「くぅ~ん」」

くまゆるとくまきゅうが、わたしの言葉に頷くように鳴く。

すると、フローラ様は小さく頷いて「うん、わかった」と言うとくまゆるから離れる。そして、目をさすりながらベッドに向かうと、枕の横に置いてあったくまきゅうぬいぐるみを抱きしめる。眠かったのか、すぐに寝てしまった。

そんなフローラ様を見て、わたしとアンジュさんは微笑む。

わたしはくまゆるとくまきゅうを送還すると、部屋を後にする。

結局、王妃様もエレローラさんも来なかった。

気になったので国王に尋ねたら、王妃様はお茶会に参加中で、エレローラさんのことは、知らないとのこと。

まあ、国王がエレローラさんの行動を全て把握していたら、それはそれで怖いけど。

お城から出たわたしは、どこにも寄らずにクマハウスに戻ってきた。

フィナたちはまだ戻っておらず、わたしはくまゆるとくまきゅうを召喚して、まったりする。

お城でも思ったけど、わたしには勇者も魔王も似合わない。英雄願望もなければ、世界征服願望もない。どちらも面倒臭いだけだ。こうやって、くまゆるとくまきゅうを抱いて、のんびりするのが一番だ。

フローラ様ではないが、くまゆるとくまきゅうを抱いていると眠くなってくる。

くまゆるとくまきゅうは柔らかく、温かく、気持ちがいい。目を閉じると夢の中に落ちていく。

「ただいま」

フィナの声が聞こえてくる。

どうやら、眠ってしまっていたみたいだ。

まだ、眠い。

足音でフィナたちが部屋にやってくるのが分かる。

「ユナ姉ちゃん、寝ている」

「うん、気持ちよく寝ているね」

「もしかすると、ユナちゃんでも、国王様に会うのは緊張して、疲れたのかもしれないわね」

どうやら、買い物から帰ってきたらしい。

起きないと。

わたしはゆっくりと、体を起こす。

「買い物は終わったの?」

小さいあくびをしながら、尋ねる。

「あら、起こしちゃった? ごめんなさい」

起き上がったわたしを見て、ティルミナさんは謝る。

「気にしないでいいよ。起こされたくなかったら、自分の部屋で寝ているから」

そもそも、寝るつもりなんてなかった。居間でくまゆるとくまきゅうに挟まれていたら、眠くなってしまっただけだ。

そして、ティルミナさんはお土産以外にも食材を買ってきたようで片付けを始めた。シュリとフィナは、わたしとくまゆる、くまきゅうと一緒に、エレローラさんが来るまでまったりと過ごす。

「お待たせ」

エレローラさんがシアと一緒に馬車に乗って、クマハウスにやってきた。

「それじゃ、さっそく行きましょう」

わたしたちはエレローラさんとシアが乗ってきた馬車に乗り込んだ。

時間は夕暮れで、辺りにぽつぽつと街灯が光り出す。

「それで、どこでやるの? エレローラさんの家?」

「お店よ。凄く美味しいから、楽しみにして」

貴族のエレローラさんが美味しいと言うお店って。

「それって、わたしたちみたいな一般の人が入ってもいいの? わたしの格好はこれだし……」

「わたしも娘たちも、普通の格好です……」

わたしとティルミナさん、フィナは自分たちの服装を見る。

貴族様が食べに来るお店に入れるような格好ではない。偏見だけど、貴族が行くお店は、ドレスのような格好をしているイメージがある。

「あら、わたしのお客様を断る店なんて、あると思うの?」

エレローラさんがニコッと笑いながら言う。

暴君だ。権力の悪用だ。

エレローラさんを断る店は、よほどのことがない限りはないと思う。

「ふふ、冗談よ。お店は貸し切りにしたから、わたしたち以外のお客様はいないわ。だから、格好は気にしないで大丈夫よ」

いや、それはそれで冗談になっていないから。昨日の今日で店を貸し切るって、それこそ権力の悪用だ。

素人のわたしだって、店の貸し切りが簡単ではないことぐらい分かる。

お店の人がエレローラさんに逆らえず、涙を浮かべながら了承している姿が浮かんでしまう。

ティルミナさんとフィナも、お店を貸し切りと聞いて、少し青ざめている。

「ユナちゃん、変なこと考えていない?」

「権力の使いすぎは、民衆の反乱の要因になるよ」

それは歴史が語っている。

「ふふ、別に権力は使っていないわよ。相手にユナちゃんの名前を言ったら、快く引き受けてくれただけよ」

「どういうこと?」

そんなわたしの疑問に答えるまえに馬車が止まる。

到着したみたいだ。

「ここは……」

馬車から降りると、店の前にはクマの置物が置かれている。

「まさか、ここで?」

「この店なら、ユナちゃんも来たことがあるから、気兼ねなく食事をすることができるでしょう。王宮の料理人が作るから、料理の味も一流よ」

確かに他の店よりは何度か来ているし、フィナも来たことがある。それに料理人の人たちも、わたしのことを知っているから気兼ねなく、食事をすることができる。

「クマが置いてあるけど、もしかして、ユナちゃんが作ったお店?」

わたしが納得していると、ティルミナさんがドアの左右に置かれているクマの置物を見ながら尋ねてくる。

「お店はエレローラさんが作ったんだよ。そのクマはエレローラさんがクリモニアのわたしのお店の真似をしただけだよ」

「ああ、あのときに」

ティルミナさんは、エレローラさんがクリモニアに来たときのことを思い出したみたいだ。

ちょうど、わたしはサーニャさんと一緒にエルフの村に行っていて、クリモニアにいなかったので、エレローラさんの対応はティルミナさんとフィナがしたと聞いている。(238話参照)

「それじゃ、待っていると思うから、中に入りましょう」

エレローラさんを先頭に、お店の中に入ると料理人の格好した女の子が嬉しそうに駆け寄ってくる。

「ユナさん、お待ちしていました」

王宮料理長ゼレフさんの姪っ子のシャイラだ。このお店で働きながら、料理の修業をしている。

「久しぶり。元気だった?」

「はい。毎日、先輩たちに料理の腕をたたき込まれています」

嬉しそうに言う。

本当に料理を作るのが好きみたいだ。

料理の修業は厳しいって話は聞くけど、辛くないのかな。

それとも、先輩たちが優しく教えてくれているのかな。

「でも、昨日の今日で、店を貸し切りにできるなんて、人気がないの?」

「何を言っているんですか、毎日大変ですよ。今日だって、いきなり、エレローラ様が貸し切りにしたいと言われて」

「やっぱり、無茶を言ったの?」

わたしは確認するようにエレローラさんを見る。

「貸し切りにしてほしいと言ったけど、無理強いはしていないわよ」

「はい。いきなりのことでしたが、今日は定休日になっていますから、他のお客様の迷惑にはなっていません。わたしたちの休みがなくなっただけです」

「ごめん」

それはそれで悪いような気がする。

休日登校、休日出勤ほど嫌なことはない。

「王宮でも、いきなりの来客があった場合、休日でも駆り出されることはありますし、休みのときはおじさまに料理を教わることもありますから、気にしないでください」

わたしだったら、どうして休みのときに仕事をしないといけないんだと、怒る、嫌がる、拒否をする。

だから、シャイラには感謝の言葉しかない。

「シャイラ、おじさまじゃないだろう。料理長と呼べと言っているだろう」

わたしたちの会話を聞いていたのか、シャイラの後ろから声をかけてくる者がいる。30歳過ぎの小太りの男性だ。

「今日はお休みです。勉強会でもありません。だから、おじさまでいいんです」

「だが、今日は知り合いとはいえ、料理を作ることには変わりない」

「うぅ、わかりました。料理長」

2人は相変わらずのようだ。

「でも、ゼレフさんが、なんでここに?」

ゼレフさんは王宮の料理長をしていて、この店で働いていない。

「今回はフィナ殿のお祝いだと聞きましたので、わたしが作らせていただこうと思いました」

ゼレフさんがそう言って、フィナのほうを見る。

「お久しぶりです。フィナ殿」

「あ、はい。お久しぶりです」

フィナは、いきなり声をかけられて、慌てて返事をする。

ゼレフさんはニコッと微笑むと、次にティルミナさんとシュリを見る。

「ティルミナ殿にはクリモニアでお世話になりました」

「いえ、こちらこそ」

ティルミナさんは軽く頭を下げる。

一瞬、2人に面識があったのかと思ったが、エレローラさんとゼレフさんが一緒にクリモニアに来ていたことを思い出す。

「シュリ殿もお久しぶりです」

「うん」

シュリはティルミナさんの手を掴みながら、返事をする。

「本日は、わたしが料理を作らせていただきますので、存分に食べていってください」

ゼレフさんは軽く頭を下げると、厨房がある奥に戻っていく。その後をゼレフさん同様わたしたちに頭を下げたシャイラが追いかけていく。

今日、うな丼をアンジュさんからゼレフさんに渡してもらったけど、アンジュさんから何も聞いていなかった。

一言、伝言でもしてくれればよかったのに。

「でも、いいのかな。王宮料理長に作ってもらうなんて」

「いいのよ。ゼレフも、日頃のユナちゃんへの恩を返したいと言っていたんだから」

「わたし、ゼレフさんに何もしてないよ」

逆にフローラ様や国王に食べ物を持っていって、ゼレフさんの邪魔をしている。

たぶん、朝から国王やフローラ様にお出しする料理の下準備をしていたはずだ。それをいきなりやってきたわたしが無駄にさせている。

普通なら嫌われることがあっても感謝されることではない。

「初めはそうだったかもしれないけど、今では新しい料理に出逢わせてくれたおかげで、料理人としての終着点が見えず、未来永劫、料理に終わりがないって道を示してくれたユナちゃんに感謝しているわよ」

「そんな大袈裟な」

「ゼレフは王宮料理長の立場上、他の国はもちろん、街にも簡単に行くことはできないわ。だから、今後も珍しい食べ物を見つけたら、ゼレフに持ってきてあげてね」

ゼレフさんの立場では、全てを放り投げない限り、珍しい料理を探しに行く旅なんてできないだろう。

「まあ、そういうことなら」

「もちろん、わたしにもね」

「ああ、ユナさん。わたしも食べたいです」

「わたしも!」

エレローラさんの言葉に、シアとシュリも手をあげて、主張する。

いい話で終わりそうだったのに、全てが台無しだ。

「わかったよ。今度、見つけたら持っていくよ」

「やった!」

「約束ですよ」

まあ、世界に一つしかない食べ物とか、そんな無茶ぶりでない限り、問題はない。