軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

663 クマさん、フィナのお祝いをする その2

ゼレフさんとシャイラが厨房に向かったので、わたしたちは用意された席に座る。

「ゼレフさんって本当に王宮料理長なんですよね」

確認するようにティルミナさんは尋ねる。

「ええ、国王陛下や王族の料理を作る立場にある人よ」

「そんな人がどうして、フィナのお祝いの料理を?」

「先ほども言ったけど、ゼレフはユナちゃんに恩を感じているし、フィナちゃんはミサーナの誕生日パーティーで会っているし、クリモニアに行ったときにも案内をしてくれたでしょう。だから、フィナちゃんのことも気に入っているのよ」

そう言われると、フィナもゼレフさんと関わりがあるんだね。

「本来だったら、関わりを持てない人たちと娘の交流関係が増えていくわね」

ティルミナさんが少し不安そうな表情をする。

「ごめんなさい」

「謝ることではないわ。ただ、本当ならフィナはノアール様、ミサーナ様。エレローラ様、クリフ様。そしてゼレフさんにも関わりを持つことはできなかったと思うの。だから、少し不安に思っただけ」

相手は上の人ばかりだ。

母親の立場からしたら心配するのも仕方ないのかもしれない。

「お母さん……。お母さんに迷惑がかからないようにするから」

「あらあら、そんなことを言って、ノアやミサーナの2人から離れちゃダメよ。そんなことをしたら2人が悲しむだけなんだから」

「はい。お二人が嫌でなければ、友達でいたいです」

「その言葉を2人が聞いたら、喜ぶわね」

漫画や小説だと、貴族と平民が友達になるのは難しい。でも、これは漫画でも小説でもない。3人にはいつまでも仲良くしてもらいたいものだ。

「そうね。友達は大切にしなさい。子供のときに作った友達は大切よ。一生の友達になるわ」

「うん、分かった」

友達……子供時代の友達、心が痛い。そんな友達がいなくても、わたしのように成長するよ。寂しくなかったもん。

「そういえば、ユナちゃん。今日、お城に来たって聞いたけど」

わたしが心にダメージを受けているとエレローラさんが尋ねてくる。

「サーニャさんから、魔物の件で国王が呼んでいると言われたから、行ってきたよ」

「ああ、やっぱり。その件だったのね」

何か心当たりがあったみたいだ。

「エレローラさんは来なかったね」

わたしがお城に行くと、高い確率で現れる。

主に、わたしが持ってきた食べ物を得るために。

「それは、この二日間、サボ、じゃなくて、あのイベントの視察に行っていたでしょう」

今、サボってと言いかけたよ。

やっぱり、視察という名のサボりだったみたいだ。

「それで、片付けないといけない仕事が溜まっていたのよ」

でも、誰かに押し付けるのではなく、ちゃんと自分で仕事を片付けるのは偉いと思う。

「そういえば、国王様がユナちゃんを呼んだ理由ってなんだったの?」

話を聞いていたティルミナさんが尋ねてくる。

わたしは簡単に国王に呼ばれたことを説明する。

「魔石ね。確かに、あれほどの大きい魔物の魔石は、簡単に手に入るものではないからね」

「それで、前にスコルピオンを処分するなら国王に売るようなことを言っていたんだけど、忘れていてね」

「ユナちゃん……」

ティルミナさんは信じられない表情をする。

「まあ、それで魔石の行き先が気になっていたみたい」

「その、大丈夫なの? 国王様、魔石を欲しがっていたのよね。それを断ったりして」

ティルミナさんは少し心配そうにする。

「別に、お金に困って手放すときに売ってほしいと言われただけで、欲しいから売ってくれって言われていないから」

「いや、どう聞いても、魔石を譲ってほしいと聞こえるわよ。もしかして、いきなりユナちゃんの家に兵士や騎士たちがやってきて、ユナちゃんが捕らわれたりしない?」

想像力が豊かだ。

でも、この国の国王に会う前のわたしだったら、同じようなことを考えていたかもしれない。

権力を持った王族、貴族は、私腹を肥やそうと考える人物はいる。だけど逆に、良い指導者がいるのも事実だ。

それは世界の歴史が語っている。

この国の国王は、良い国の指導者だと思う。クリフも良い領主だと思う。

「ユナ姉ちゃん。捕まっちゃうの?」

ティルミナさんの話を聞いていたシュリが不安そうにする。

いや、捕まらないよ。

「大丈夫だよ。ただの、美味しい食べ物が好きなおじさんだから、そんな悪いことはしないよ」

わたしの言葉にティルミナさんはため息を吐く。

「国王様を、ただのおじさんって言うのはユナちゃんぐらいよ」

いや、みんな口にしないだけで、思っていると思うよ。

「ふふ、ティルミナさん。そんなに心配をしなくても大丈夫よ。もし、ティルミナさんが考えていることをするような国王なら、無能な王よ」

「エレローラ様……」

「現状で、ユナちゃんに嫌われるようなことをするのはメリットはないし、デメリットしかないわ。そもそも、ユナちゃんがこの国から出ていかないようにする命令が国王から出ているんだから、国王自らユナちゃんが国から出ていってしまうことなんてしないわよ」

「なにそれ?」

初耳なんだけど。

「優秀な人材を他の国に行かせないようにする命令書? 指示書? って言うのかしら。そんなのがあるのよ」

「他の国に行かせないって、わたし、この国から出られないの?」

「そういう意味じゃないわよ。どこに行くのも自由。ただ、この国を捨てて、他の国に行かれることが問題なのよ」

「どうして?」

どこに住もうと、個人の自由だ。

「これはユナちゃんに限ったことじゃないわよ。優秀な人材を確保するのは、国では当たり前のこと。経済を動かす者たち、国を守る騎士、魔法使い。いろいろなところで優秀な人たちが国を動かしているわ」

わたしたちが知らないところでは経済を回す者、魔物から守る人、いろいろな人がいるのは理解できる。

「魔道具の開発などもそうね。魔道具を開発するのは普通の人では無理。その分野の優秀な人たちが研究して、新しい魔道具を作ることによって、人は発展をしてきたわ」

「そうなんですね」

フィナが感動したように呟く。

「昔は魔石と魔石を繋げる魔力線はなかったわ。だから、魔石を明るくするのは直接触るしかなかった。でも、今では、壁の近くの魔石を触れるだけで、天井の魔石が光るでしょう」

「はい」

ヘッドハンティングで他の国に行けば、情報漏洩につながる。騎士なら、戦力。何かしら才能を持った人物が国から消えれば、その分野で後れをとることになる。

日本でも高額の給料で海外企業で仕事をする人は多い。

これ、どこの世界でも頭を悩ます問題だね。

「もし、国から優秀な騎士や魔法使い、冒険者がいなくなったら、どうなると思う?」

「魔物に襲われたとき、対抗手段がなくて滅びるかも」

「そういうこと。だから、国は優秀な人材を守る義務があるの」

「大変なんですね」

「それを管理するのが、国であり、街の領主の仕事なのよ」

大切なことだけど、国を管理するのは大変だと思う。

「でも、だからって、どうしてわたしが、そこに含まれているの?」

「そんなの当たり前でしょう。大きな魔物を単独討伐して、美味しい料理が作れる人を、国王陛下が手放すわけがないでしょう」

国の立場で考えるなら、納得がいくけど、わたしからしたら、納得はできない。

「でも、そんな話は聞いたことないんだけど」

「それは無理やり引き止めても、ユナちゃんなら出ていく。もし、力ずくで止めることをしようものなら、こちらも被害がでる。もし、そんなふうにユナちゃんを引き留めたとしても、ユナちゃんは国や街、その国の人のために、なにかをしようとは思わないでしょう」

「確かに」

奴隷のように命令されて仕事をさせられるのはごめんだ。

「それなら、自分の意思で、この国に住み続けたいと思わせたほうがいい。国王陛下は本当はユナちゃんには王都に暮らしてほしいと思っている。国に仕えてほしいと思っている。でも、そんなことは一度も言っていないでしょう」

「うん」

言われたことはない。

「そんなことを言えば、国から出ていってしまうと思っているからよ。だから、ユナちゃんは自由にこの国で暮らしてほしい。もし不満があれば、わたしや国王陛下、クリフにでも、言ってくれればいいわ。できる限り善処はするから」

「大丈夫だよ。今のところ不満はないから」

「それはよかったわ」

そんな理由があったんだね。

力があれば、囲いたくなるのは、上の者としては当たり前のことだ。戦国時代だって、有能な武官、文官をどれだけ確保できるかによって、国は安定し、国は守られた。

まあ、わたしが優秀に見えるのは、神様から貰ったクマ装備と元の世界の知識のおかげだ。だから、わたしは自分が優秀とは思っていない。たまたま手に入れた装備と、元の世界にあった知識のおかげなだけだ。

今、思えば、国王にはクラーケン討伐や巨大なスコルピオンを討伐したことを知られている。国としては脅威的な存在だと思う。なのに、自由に行動でき、お城の中でも自由にさせてもらっている。普通ならありえないことだ。

わたしが知らないところで、自由を守られていたのかもしれない。

そして、そんな会話をしていると料理が運ばれてくる。

ティルミナさんは驚き、シュリは嬉しそうにし、フィナはシャイラが料理を運んでくるたびにお礼を言う。

シャイラはシャイラで、料理の腕が上がったことを言いたかったのか、これは自分が手伝いましたとか報告してくれる。

そして、テーブルに並べられた料理は、普通の料理屋では食べることができない料理ばかりだ。

漫画などで貴族たちがパーティーしながら料理を食べるシーンがあるが、そんな感じの料理だ。

エレローラさんやゼレフさんはマナーは気にせず食べてと言う。そのお言葉に甘え、わたしたちは気にせずに食べる。

初めはマナーを気にせずに食べていたフィナとシュリだったが、シアが貴族らしい礼儀作法で食べる姿を見て、2人は真似をし始める。

初めは自分の真似をする2人を見て、シアは恥ずかしそうにしていたが、まんざらでもないようで「これはこうやって食べるんですよ」と言って、手本を見せてくれたり、貴族の食事のマナーをフィナとシュリに教えていた。

今後も、フィナがノアやミサとの関係を続けていけば必要になるかもしれないから、覚えておいて損はない。

わたし? そんな王族や貴族が主催するようなパーティーに参加するつもりはないから、必要はないよ。

だって、ナイフの持ち方や、置き方とか、使う順番とか、聞いているだけで面倒臭い。

そして、料理の最後にプリンが載ったフルーツパフェが出てきた。

食べてみると、わたしが作るよりも美味しい。

たぶん、ゼレフさんなりに研究をして、より美味しく、みんなに喜ばれるものを作っているんだろう。

これが本物の料理人。

わたしたちが美味しく食べる姿をゼレフさんは満足そうに見ていた。

ゼレフさんが作る料理は、どれも美味しく、食べ終わる頃には、みんな笑顔だった。

ただ、もう食べられない。

お腹いっぱいだ。