軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

656 クマさん、解体イベントを見る その1

準備も整い、昨日と同じ進行役の男性が会場に現れる。

やっと、始まる。

「あら、あの人、生きていたのね」

エレローラさんが怖いことを小さい声で言う。ただ、それには同意だ。昨日、サーニャさんのことをお婆ちゃんとか言って、怒らせていた。もし、進行役が代わって、行方不明になっていたら、真っ先にサーニャさんを疑うと思う。

進行役の男性の姿を無事に見ることができてよかった。

「お待たせしました。本日は20歳以上による解体のイベントを行います」

会場から歓声が上がる。

確実に昨日より観客席は埋まっている。

こちらがメインイベントになるから仕方ない。

「それでは、参加者の皆さま、入場をどうぞ」

進行役の男性の声とともに、入り口から人が出てくる。

性別はもちろんだけど、年齢の幅が大きい。

20歳ぐらいの人もいれば、60歳ぐらいの人もいる。

人数は60人ぐらい。

「サーニャさんが言っていたとおりに参加者が少ないね」

フィナが参加者を見ながら、少し寂しそうにする。

だからこそ、サーニャさんは参加者たちを増やそうと頑張っている。

会場では、そのギルドマスターのサーニャさんにより、参加者たちに言葉が贈られ、一回戦の準備が始まる。

「一回戦はなんだろうね」

「流石にウルフではないと思うけど」

19歳以下の部と同じ魔物ってことはないと思う。まして、ウルフは初心者向けだろうし。

一回戦の解体する魔物を想像しながら待っていると、一回戦で解体する魔物が台車で運ばれてくる。

「ウルフ?」

「そうみたいね」

台車で運ばれてきたのはウルフだった。

予想が外れた。でも、その運ばれてきた数が尋常ではなかった。ウルフが10体ほど載せられた台車が次々と運ばれてくる。単純計算でも、300体はある。もしかして、わたしが渡したウルフ?

一万体の魔物を倒したときのウルフの在庫が未だに大量に残っていたので、少しばかり在庫処分のつもりでサーニャさんに渡した。もちろん、フィナ用には、たくさん残してある。

あのときサーニャさん、困った表情をしていたけど。もしかして、在庫処理?

「一回戦は時間内で、どれだけのウルフを解体できるかを競ってもらいます! ベテランの皆様なら簡単なことと思いますが、丁寧に解体をお願いします。わかっていると思いますが、汚いと減点になりますのでお気を付けください」

これは間違いなく、在庫処理だ。

実力がある60名にウルフの解体をさせれば、あっという間に解体が終わる。

会場はウルフで残念がるかと思ったが、逆に大量のウルフを見て、ざわめきが起きている。ウルフの数に驚く者、怖がる者、さまざまだ。

「もし、あの数のウルフが一斉に襲ってきたと思うと怖いわね」

「うん、怖い」

「想像もしたくないね」

ティルミナさんが、ウルフの山を見ながら言うとシュリとシアも同意する。

わたしは、その十倍近くのウルフと一人で戦ったんだよ。

まあ、神様からもらったクマ装備があったので怖くなかったけど、クマ装備がなければ、ウルフ1体でも怖いと思う。

クマ装備のせいで、最近、そのあたりの感覚が麻痺している。気を付けないといけない。

そんなことを考えている間に、それぞれのテーブルの上にウルフが置かれる。

準備が整う。

「それでは、始めてください!」

進行役の男性の声とともに開始される。

当たり前だけど、みんな迷いなく解体をしていく。

ウルフの解体は昨日見た19歳以下の部よりも、技術、体力、解体速度、どれも上だ。

優勝したデッド君がたくさんいる感じだ。

「みんな速い……」

フィナが呟く。

フィナの目から見ても、やっぱりそうなんだ。

「特に、あの人が凄い」

「どの人?」

「右側にいる年配の人」

わたしはフィナが言う人を見つける。

右側のほうに、参加者の中では高齢の男性がいた。

「フィナちゃん、何が凄いの?」

エレローラさんが尋ねる。

どうやら、わたしだけでなく、みんなもフィナが言う男性に目を向けていた。

「えっと、無駄な動きがないんです。たぶん、解体道具の置き方なんだと思う。使った道具を、また使う道具、使わない道具に分けて、使う道具が手が届くところに」

言われてみて、分かる。動きが少ないのに、解体作業が速い。他の者と道具を入れ替える時間が違う。解体道具の使う順番を決めて、置いているみたいだ。

「他の人と比べることができるからこそ、分かるけど。言われなかったら、どうして速いか分からなかったわね」

前も思ったけど、フィナは観察力があるのかもしれない。

「あと、ウルフの解体はたくさんやってきたんだと思う。だから、考える前に手が動くんだと思う」

考える前に体が動くって、話は聞く。

同じ動作を繰り返せば、体が覚える。

わたしも戦っているときに、とっさに体が動くときがある。それと同じことだと思う。

フィナはジッと、参加者たちの解体を見ている。

わたしたちは、そんなフィナの邪魔をしないように静かに見守る。

そして、時間が進み、終盤に入る。

たくさんあったウルフの山がほとんど消えていた。

「あと、残り3分です」

進行役の男性の声で、ラストスパートに入る。

そして、終了の合図が出て、採点に入り、結果が発表される。

40名が二回戦に行くことができる。

一位はラストスパートでギリギリ6体目を終わらせた人だった。でも、一回戦で負けた人も5体目の途中だったので、僅差といっても過言ではない。

あの年配の人も無事に一回戦を突破していた。

そして、解体途中だったウルフは最後まで解体を終わらせ、一回戦で負けた人たちにも会場から拍手が送られた。

若い者、年配の人、解体技術はそれぞれ違うが、みんな凄かった。

一回戦がウルフだから、残念だと思ったけど、昨日と比較ができてよかったかもしれない。

一回戦を見た感想は全体的にレベルが高かった。

誰が勝ち残ってもおかしくはない試合だった。サーニャさんが言っていたとおりに、20歳になったばかりの者では、いきなり参加するのは無理かもしれない。参加したとしても、周りとの実力の差を見せつけられたら二度と参加しないと思う。

これじゃ、少しばかり解体ができるからといって、参加しようと思わなくなる気持ちも分かる。

参加人数を増やすのって、無理ゲーって思えてくる。チートの中に一般人が入るようなものだ。だから、サーニャさんは全体的な実力の底上げをしようとしている。

これは年齢で分けるのでなく、実力に合わせて、グループ分けをしたほうがいいのでは?

「ユナちゃん、どうしたの?」

考えていたわたしに、エレローラさんが尋ねてくる。

「これ、年齢別にしないで、実力に合わせて、グループ分けをしたほうが参加者が集まるんじゃないかと思っただけだよ」

わたしはエレローラさんに考えていることを説明する。

最強が集う上級者グループ。そこそこ解体ができる中級者グループ。少しは解体ができる初心者グループに分ければ、自分に合ったレベルに参加して、実力がつけば、ランクを上げればいい。

全てではないが、スポーツだと、小学生、中学生、高校、大学、社会人と分けられることが多い。つまり年齢で分けている。

でも、ゲームではレベルで分けられることが多い。そこには年齢の壁はない。小学生でもレベルが高ければ大人のゲーマーと戦う。そして、子供が勝つことだってある。

「なるほど、年齢に縛られず、実力に合わせるのね。フィナちゃんが、最強が集まる上級者グループに参加する感じね」

「わ、わたし、無理です!」

エレローラさんの言葉に、フィナは首を振って、断る。

「ふふ、冗談よ。だけど、サーニャも、みんなも頭が固かったみたいね。それに長年やってきた影響もあって、この方式だと縛られていたのかもね。流石、ユナちゃんね。後で、サーニャに話しておきましょう」

「でも、簡単に変えられるのかな?」

長年やってきたことを、変えるのは難しいものだ。

プロ野球に実力があるからと言って、高校生、中学生を入れるようなものだ。

失敗すれば、周りから、文句を言われる可能性だってある。

「それをするのが、ギルドマスターのサーニャの仕事よ。少しぐらいなら、わたしもお手伝いはできると思うし」

本当に、この人の役職ってなんだろう。

そんな話をしている間に二回戦の準備が始まる。

二回戦はなんだろう。

今度こそ、わたしが知らない魔物が出てくると嬉しいんだけど。

そんな気持ちを裏切るように二回戦の魔物が運ばれてくる。

「あれは」

「蜘蛛?」

大量の蜘蛛だ。

「昨日の19歳以下の決勝で登場した蜘蛛が、早くも二回戦で登場だ!」

会場から、どよめきが起きる。「気持ち悪い」「怖い」とか聞こえてくる。

怖いのもそうだけど、わたしとしては気持ち悪さのほうが大きい。

もし、魔物使いって職業があって、ウルフと蜘蛛のどちらを仲間にするかと問われられたら、迷わずウルフを選ぶ。もちろん、クマがいたらクマを選ぶよ。

すでにくまゆるとくまきゅうを従えている時点で、魔物使いかもしれない。

そんなことを考えていると、どことなく、くまゆるとくまきゅうが「くぅ〜ん」と鳴く声が聞こえてくる。自分たちは魔物じゃないよ。って言っている感じだ。

でも、一回戦のウルフに続き、二回戦もわたしが知っている魔物だった。

もしかすると、ウルフ同様に、わたしが倒した蜘蛛を回収したはいいけど、解体処理が面倒だから、イベントに出したわけじゃないよね?

昨日は、解体を辞退した人もいたので7匹しか解体されていないし、そんな邪推をしてしまう。

「それでは、皆さま、準備はよろしいでしょうか」

会場が静かになる。

「それでは始め!」

進行役の男性の合図とともに二回戦が始まった。