軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

655 クマさん、解体のイベントを見にいく

お風呂に入り、夕食を終えたフィナの体がユラユラと揺れ、目が閉じ始める。

今日は慣れないイベントに参加し、一日中解体をし、肉体的にも精神的にも疲れたんだと思う。

お風呂も入って、食事もして、緊張が解けて眠くなってきたのかもしれない。

「フィナ、もう寝なさい。今日は頑張って疲れたでしょう」

ティルミナさんも感じ取ったのか、優しく声をかける。

「うん」

フィナはティルミナさんの言葉に素直に従い、椅子から立ち上がる。すると、隣に座っていたシュリも一緒に立ち上がる。

「わたしもお姉ちゃんと一緒に寝る」

シュリは眠そうに歩くフィナに付いていく。

本当に仲が良い姉妹だ。

「ユナちゃんのおかげで、フィナの頑張る姿を見ることができたし、ロイとの事も思い出すことができたわ」

ティルミナさんは懐かしそうに言う。

「わたしも改めてフィナの解体技術の凄さを知ったよ」

フィナの頑張る姿は、わたしも頑張らなくてはと感じてしまう。イベントに参加した他の人たちも、こんな気持ちを抱いたのかもしれない。

「それだけ、あの子には苦労させちゃったってことなのよね」

しんみりしながら言う。

それから、わたしとティルミナさんはフィナやシュリのことを夜遅くまでポテトチップスを食べながら、おしゃべりをした。

翌朝、寝室がある2階から1階に下りると、フィナが朝食の準備をしていた。

「ユナお姉ちゃん、おはよう」

わたしに気づくと、笑顔で挨拶をしてくれる。この笑顔を見ると、わたしも笑顔になれるから不思議だ。

「おはよう。早いね」

「昨日、早く寝たから、目が覚めちゃって」

それで朝食の準備をしてくれていたわけか。

疲れも取れたみたいだし、よかった。

「お母さんとシュリは寝ているけど、ユナお姉ちゃんは早いね」

「くまゆるとくまきゅうに起こされたからね」

わたしの後ろを歩いている子熊化しているくまゆるとくまきゅうに目を向ける。

クマ覚まし時計だ。

今日は20歳以上の解体のイベントが行われる。それを見に行くことになっているので、くまゆるとくまきゅうに起こしてくれるようにお願いをしていた。

「ふふ、そうなんだ」

フィナが笑いながら、くまゆるとくまきゅうの頭を撫でる。

元気そうでよかった。

昨日は亡くなった父親のことを思い出していたのか、少しだけ寂しい表情をしていた。

本当に強い女の子だ。

わたしとフィナが話をしていると、ティルミナさんとシュリが起きてくる。

ティルミナさんとシュリは少し眠そうだ。

ティルミナさんは昨日夜遅くまで、おしゃべりをしていたせいかもしれない。シュリは、まだ子供だからかな? 寝る子は育つって言うし。

全員揃ったわたしたちはフィナが準備してくれた朝食をいただく。

一日の始まりは朝食からだね。

「確か、今日もエレローラ様が迎えに来てくださるのよね?」

「そのはずだよ」

昨日、迎えに来てくれると言っていた。

わたしとしても、クマの格好は目立つので馬車で迎えに来てくれるのは助かる。でも、ティルミナさんは違うみたいだ。

「エレローラ様は良い人なのは分かるけど、一緒にいると緊張するのよね」

「貴族だから?」

「それもあるけど、たまに心を見透かされている感じになるのよね」

それはなんとなくわかる。エレローラさん、たまに人の心を読んでいるんじゃないかと思うときがある。

そんな会話をしながらのんびりとしているとエレローラさんとシアが昨日と同じようにクマハウスまで馬車で迎えにきてくれる。

昨日も思ったけど、クマハウスの前に止まる貴族馬車の絵面って、物凄くシュールだ。さらにその馬車に乗るクマ娘。

「エレローラ様、フィナのために馬車をありがとうございます」

ティルミナさんが緊張しながらお礼を言う。まだ、エレローラさんには慣れないみたいだ。

まあ、相手は貴族だから、何度会っても難しいと思うけど。

「ふふ、気にしないで。娘同士が友達なんですから、親同士も仲良くしましょう」

「……はい」

ティルミナさんに「いいえ」と「NO」と言う言葉の選択肢は存在しない。「はい」と「YES」しか選択肢はなかったみたいだ。

ティルミナさんの胃に穴が空かないよね?

「でも仕事はいいの? いつもお城で仕事をしているんじゃ」

しかも2日続けてだ。

「あら、いやね。これも仕事よ。視察って名のね」

エレローラさんが悪い顔で微笑む。

どこかのサボる人が言う口上みたいだ。

でもいいのかな。なんだかんだ言って、エレローラさんはいろいろな仕事をしている。エレローラさんが仕事をしないと困る人がいるんじゃないかな。

まあ、困るのはわたしではないので、気にしないことにする。

そして、エレローラさんの権力もとい、顔パスで簡単に会場に入ることができ、さらに冒険者ギルドマスターの権力によって、昨日と同じ特別席にやってくる。

「人が多いわね」

ティルミナさんの言葉で一般席のほうを見ると、すでに多くの人がいる。現状で昨日と同じぐらいの人がいる。これから増えると思うから、間違いなく昨日より見学者は多くなると思う。

「いらっしゃい」

わたしたちが会場を見ているとサーニャさんがやってくる。

「サーニャさん、今日も席をありがとうございます」

「ありがとうございます」

「ありがとう」

ティルミナさん、フィナは席を用意してくれたことにお礼を言うと、二人の真似をしてシュリもお礼を言う。

サーニャさんは笑いながら、「フィナちゃんとの約束だから、気にしないで」と答える。

「人が多いね」

「やっぱり、こっちがメインになっちゃうのよね。でも、これでも減っているのよ」

「そうなんだ」

「毎年、徐々に参加者が減っていくのが理由ね」

「そうなの?」

「ユナちゃん、昨日の解体の参加者たちを見て、何か感じなかった?」

「昨日の参加者たち? 解体ができて凄いなって、思ったけど」

わたしにはできないので、それ以外の言葉は思いつかない。

「尋ね方が悪かったわね。実力はどう思った?」

「……?」

サーニャさんが言わんとすることがわからない。

わたしにとってはみんな凄いとか言いようがない。

「えっと、実力の差の開きが大きいとは思わなかった?」

「ああ、確かに」

言われるまで、そんなものかと思っていたけど。

「デッドとガルド以外は、解体技術が劣っていたでしょう」

昨日は二人の戦いと言っても過言じゃなかった。エルザさんが、蜘蛛の解体で善戦したぐらいだ。

「参加してみたはいいけど、実力がないから次回は参加をやめてしまう人が増えるのよ。だから、フィナちゃんに参加してもらって、諦めるのでなく、フィナちゃんみたいな女の子でも頑張っている姿を見て、自分でもできるんだと思って、来年に向けて実力を身につけて、次回も参加してほしいと思っているの」

「子供に負けるところを見せたくないから、参加しないって考え方は?」

「そんな言い訳をするような性格なら、どんなことを言っても無駄よ。初めから努力をするつもりがない人の言い訳よ」

確かに。

よく、やりもせず、なんだかんだ言い訳をして、やらない人っているよね。

例えば、わたしも学校に行って、友達を作れと言われたけど、なんだかんだ言い訳をして、友達を作る努力をしなかった。

初めからやる気がない人に言っても無意味かもしれない。そのことは、わたし自身が一番理解している。

「それに19歳以下に参加していた人たちが20歳になると、20歳以上の解体のイベントに参加しなくなるのよ」

「でも、デッド君だっけ? 彼なら参加するでしょう」

「他の上位に入れなかった者たちはどう思う?」

「ああ、なるほど。19歳以下の部で上位になれないなら、20歳以上の部で参加しても、無駄と思うね」

さらに、解体の実力者がいる。そんなイベントに参加しても無駄と思う。

「そうなのよ。20歳以上の若手の参加者がどんどん減っているのよ。中堅クラスが多いでしょう。若手に下手なところを見せたくないプライドがあったり、いろいろと面倒くさいのよ。それで、若手を実力的にも、精神的にも鍛えれば、徐々に20歳以上の参加者も増えるでしょう」

壮大なプロジェクトだね。

いきなり、実力者の参加者が増えるわけではない。

地道に育てていくしかないのかもしれない。

「さらにベテランも引退しちゃう人もいるから、若手には頑張ってほしいのよ」

解体の技術を引き継ぐことができなければ、良質な物が手に入らなくなる。

日本でも後継がいなくて、廃れていった技術は多くあると思う。

「大変だね」

「わたしの苦労を分かってくれる? このままじゃ、参加者がいなくなっちゃうわよ。でも、昨日多くの参加者たちはフィナちゃんの解体をする姿を見て、頑張ろうと思ったはずよ」

どの仕事もそうだけど、大変だよね。

やっぱり、1番楽なのは引きこもり生活かもしれない。

もしくは、面倒な仕事は他人に任せるとか。

チラッと、ティルミナさんを見る。

「何かしら?」

わたしの視線に気づいたティルミナさんが尋ねてくる。

「ティルミナさんがいてくれてよかったなと思っただけだよ」

「それって、面倒くさい仕事をやってくれる人がいるって意味かしら?」

少し、怒った顔をする。

どうやら、わたしが心で思っていることが読まれたみたいだ。

「えっと、ティルミナさんには感謝しています」

「ふふ、冗談よ。大変なこともあるけど、楽しくやっているわ。何より、動いて働けることが嬉しいから、ユナちゃんには感謝しているのよ」

この世には働きたくても、働けない人は多くいる。

その人たちのことを思うと、引きこもり生活をしていたわたしは最低だね。

でも、こっちの世界に来てからは、ちゃんと仕事をしているよ。

元の世界でも、自分の生活費は稼いでいたから……。

誰に言うわけでもなく、言い訳をする。

そして、サーニャさんはフィナを会場の下の特別席(解説席とも言う)に誘ったが、フィナは丁重に断った。

昨日はいきなり、進行役の男性が話を振ってきたりして大変だったから、断ったんだと思う。

サーニャさんは残念そうに、一人で解説席に戻っていく。

わたしたちはイベントが始まるまで待つ。

どんな魔物が出るのか、少し楽しみでもある。