軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

628 とある冒険者

「くそ、なんなんだあの数は」

「デボラネさん、どうします?」

村の近くを通ったのは偶然だった。

とある魔物を討伐した帰りに、男が 蜘蛛(スパイダー) に襲われているのに遭遇した。俺とランズは 蜘蛛(スパイダー) を倒し、男を助けた。

小さい蜘蛛なら可愛いものだが、ウルフほどの大きさになると気持ち悪い。

助けた男の話を聞くと、村に無数の 蜘蛛(スパイダー) が現れたとのことだ。それで、男は近くの村に助けを求めにいくところだったと言う

俺は持っていた水筒を男に渡すと、「さっさと村に助けを求めに行け」と言う。男は一気に水を飲み干すと、お礼を言って走り出していく。

「デボラネさん、どうします?」

「そんなの決まっているだろう」

「そうですね」

俺とランズは男が走り去った方向とは逆に馬を走らせる。

村に到着すると、村の中を 蜘蛛(スパイダー) が動き回っていた。

武器を持って、戦おうとする者もいる。

それは勇敢でなく、無謀だ。

戦いは専門家に任せるべきだ。

料理を作るなら、料理人。

農業をするなら、農民。

商売をするなら、商人。

街をまとめるなら、領主。

そして、魔物を討伐するなら、冒険者。

つまり、俺様だ!

「ランズ、村の奴らは邪魔だから、家の中に入って隠れていろと伝えろ」

「分かりました」

俺とランズは村の中を走り回り、家の中に入るように指示をだす。

「危ないから、家の中に入っていろ」「おりゃ!」「家の中で物音を立てずに静かにしていろ」「足手まといだから、家の中に隠れていろ!」

俺たちが冒険者だと知ると、俺様の指示に従い、家の中に入っていく。

そんな中、女性が俺に駆け寄ってくる。

「夫が逃げ遅れて、畑で大きな蜘蛛に捕まって」

女が助けを求めてくる。

蜘蛛(スパイダー) は獲物を捕まえても、すぐには食わない。糸を巻いて保存する習性がある。

だが、腹を空かしていたら、わからない。

「後で、報酬をいただくからな」

俺は馬を走らせ、女から聞いた畑に向かう。

畑には 蜘蛛(スパイダー) が二体いる。そこには、蜘蛛の糸によって全身を包まれた人と思われるものが転がっていた。

「あれか」

俺は剣を振り回し、 蜘蛛(スパイダー) を倒す。

俺は馬から下りると、男に駆け寄り、慎重に顔の部分にナイフを入れる。

糸が粘ついて切れにくい。

だが、巻きついた糸の下から男の顔が出る。

息はしている。そして、ゆっくりと目が開く。

「生きているな」

「あ、あなたは?」

「冒険者だ。礼なら、後でいただく」

俺は男が絡まれている糸を切ろうとしたが、 蜘蛛(スパイダー) が集まってくる。

流石に数が多い。

俺は糸に包まれている男を持ち上げ、馬の背中に乗せ、俺も乗る。

馬を走らせ、 蜘蛛(スパイダー) の間を駆け抜け、先程の女の家に向かう。

「あなた!」

「さっさと、家の中に隠れていろ!」

俺は馬から男を降ろすと、家の中に放り込む。

「ありがとうございます」

「お礼なら、言葉じゃなく、金を用意して、待っていろ」

俺は 蜘蛛(スパイダー) の討伐に向かうが、思ったより数が多い。

村の外に目を向けると、さらに村の中に 蜘蛛(スパイダー) が入ってくる。

「くそ、まだいるのか」

流石にこの数を俺とランズの2人じゃ、無理だ。

2人の冒険者の顔が浮かぶ。

俺様と同じように、大きな体を持ったギル。

魔法で援護をしてくれるルリーナ。

「ふっ」

いない奴らのことを考えるなんて、俺らしくもない。

俺は馬を走らせて、ランズと合流する。

「ランズ、無事か?」

「はい、大丈夫です」

「村の住民は?」

「指示通りに村の住民は家の中に隠れました」

「そうか」

家の中に隠れる時間は作れたってことだな。

「それから、村長がお会いになりたいそうです」

村長か、現状を把握するためには、話を聞くことは必要だな。

俺とランズは村長の家に向かう。

村長には悪いが、 蜘蛛(スパイダー) の餌になったら困るから、馬ごと家の中に入れさせてもらう。

「村のみんなを助けていただき、ありがとうございました」

村の住民を少し助け、 蜘蛛(スパイダー) を少し倒しただけだ。俺様なら簡単なことだ。

「礼を言うのは、まだ早いぞ」

外にいた村の住民を家の中に逃すことはできたが、村の中には 蜘蛛(スパイダー) がまだいる。

倒しても、虫のように湧いてくる。

「それで、魔物の討伐は可能でしょうか。もちろん、出来る限りのお礼はさせていただきます」

村長がすがるような目で頼んでくる。

報酬次第と言いたいところだが、俺様とランズだけではあの数はキツい。

「一体の魔物としては倒せるが、数が多すぎる」

窓の隙間から見ると、這いずり回っている。

ギルとルリーナがいれば……

俺があのクマに対抗心を燃やしたことで、2人はパーティーを抜けてしまった。

俺は、冒険者は強い者がなるべきだと思っている。

冒険者は強くなければ、死ぬ仕事だ。

俺が冒険者になってから、帰ってこなくなった新人冒険者を何人も見ている。

だから、あのクマが冒険者になりたいと言ったときは、ふざけるなと思った。冒険者は遊びでなるものではない。命をかけて戦うことだ。

俺様の体には、魔物に付けられた多くの傷がある。一生消えない傷だ。金のために冒険者になるものではない。

だから、俺は冒険者になる者に冒険者の厳しさを教えてやっている。

だが、クマの実力は本物だった。

俺は簡単にやられ、クマはいろいろな魔物を倒しブラックバイパーも倒した。

俺との実力差は明らかだった。

ふざけた格好をしているのに、忌々しいクマだ。

思い出しただけでも、イラついてくる。

だから、あのクマが店を作ったときに、ギルとルリーナが手伝うと言い出しても、俺のプライドが許さなかったので、手伝わなかった。

俺様の行動に呆れたギルとルリーナは、パーティーから抜けた。

「それじゃ、デボラネさん。どうしますか?」

ランズが尋ねてくる。

2人がパーティーを抜けた後も、ランズは俺に付いてきてくれた。

そんなランズだけは、死なすわけにはいかない。

「逃げますか?」

ランズが、村長に聞こえないほどの小さい声で尋ねてくる。

再度、窓の隙間から外を見る。 蜘蛛(スパイダー) が歩き回っている。 蜘蛛(スパイダー) の数が多すぎる。

逃げると言っても、あの数に襲われたら、逃げることは不可能だ。

もし逃げているときに、馬の足などに糸が絡みつけば、終わりだ。

どうする? 考えろ!

今は 蜘蛛(スパイダー) の習性のおかげで、差し迫った命の危機はない。

ただ、それも時間の問題だ。

時間が過ぎれば、 蜘蛛(スパイダー) の食料となる家もでてくる。

時間と、戦える者が足りない。

答えが出ない。

「デボラネさんとランズさんは逃げてください。お二人なら村から出られます」

俺が悩んでいると、村長がそんなことを言いだす。

「いえ、違いますね。村の外に出て、助けを呼んできてください。ここにいても餌になるだけです。それなら、体力があるうちに村から出たほうが、助かる確率が高くなります」

村長の言うとおり、時間が経てば逃げるのも困難になる。

だが、村の外から追加でやってきた 蜘蛛(スパイダー) のことを考えると、そのタイミングも逃したかもしれない。

「いや、残る」

「デボラネさん!?」

「村の外で、村から出ていった男を助けた。その男が助けを求めているはずだ。その男が、強い冒険者を連れてくるのを待つしかないだろう」

俺様より強い冒険者は、そうはいないがな。

「ジミーと会ったのですか? 無事でしたか?」

「 蜘蛛(スパイダー) に襲われているのは助けた」

俺様の言葉に安堵する村長。

問題は、俺様と別れた後だ。もし、また 蜘蛛(スパイダー) に襲われていたら、どうなっているか分からない。

男が無事に近くの村に行くことができていれば、助けがくるはずだ。

問題は、その助けに来る人数と質と時間だ。

いくら人数が多くても、実力がなければ、死ぬことになるだけだ。

そして、なによりも時間が足りないかもしれない。

間に合わなければ、犠牲がでるかもしれない。

俺たちが話し合っていると、 蜘蛛(スパイダー) は家の周囲に集まり、家に向かって糸を吐き出し始める。

「デボラネさん」

「どうやら、家ごと糸で包んでいるみたいだな」

家ごと俺たちを保存するみたいだ。

ランズが天井や壁などを見る。屋根の上を歩き、壁を這いずる音がする。気持ち悪い音だ。すぐにでも斬ってやりたい。だが、今はジッとしているしかない。

そして、どれほどの時間が経ったか分からないが、家の外から悲鳴があがる。

「デボラネさん!」

逃げ出そうとしたのか、 蜘蛛(スパイダー) の食事の時間になったのか分からないが、村の人間が襲われている。

「くそ、ランズ。おまえは残れ」

「俺も一緒に行きますよ」

前もって、隙間から糸を切っておいたドアを少し開け、外の様子を窺う。

近くに蜘蛛はいない。

だが、悲鳴がまた上がる。

「いくぞ、ランズ!」

「はい!」

俺とランズは走る。

一軒の家の前に 蜘蛛(スパイダー) が5体いる。

男が一人で後ろの家の中に入らせないように、ドアの前で 蜘蛛(スパイダー) と戦っている。

だが、男はへっぴり腰で槍を構えている。

そんな構えじゃ、守りたいものも守れないぞ。

「ランズ、俺が 蜘蛛(スパイダー) の相手をする。おまえはあの男と家の中にいる住民を確保したら、村長の家に連れて行け!」

家の一部が壊されている。あのまま閉じこもっていても危険だ。

「デボラネさん、一人じゃ」

「俺様、一人で十分だ。それに家の中に子供がいたら、俺が近づいたら逃げちゃうだろう」

ランズは俺の顔を見る。

「そうですね。デボラネさんの顔は怖いですからね」

「そこは否定するところだろ。こんなイケメンは他にいないぞ」

俺とランズは襲われている家に向かって走り出す。俺は大剣を振り回しながら 蜘蛛(スパイダー) に突っ込み、切り捨てて、ランズの通る道を確保する。

ランズは俺の横を駆け抜け、男のところに向かう。

俺はランズと男に背を向け、残りの 蜘蛛(スパイダー) を相手にする。

「かかってこいや!」

大剣を 蜘蛛(スパイダー) に向けて振り下ろす。

だが、 蜘蛛(スパイダー) は後ろに下がって躱す。

気持ち悪い相手だ。8本の足が高速で動く。

こんなとき、ルリーナがいれば足止めをしたり、逃げる場所を予測して魔法を放ってくれたりしたろうに。

ギルがいれば半分任せることができた。

ふふ、いない人物のことを考えても仕方ない。

「デボラネさん。家の中に2人いました」

後ろからランズが声をかけてくる。

蜘蛛(スパイダー) に気をつけながら、後ろを見る。

夫、妻、子供の3人がいる。

「俺が道を開く」

「分かりました」

「おりゃ! かかってこいや! 俺様が相手だ!」

俺は大剣を握る手に力を込めて、目の前の 蜘蛛(スパイダー) に向かって走り出そうとしたとき、さらに 蜘蛛(スパイダー) が集まってくる。

「デボラネさん!」

ここで数体倒したとしても、逃げたランズたちが追われたら、終わりだ。

考えろ、どうする。

ふっ、簡単なことだ。

なら、ランズたちが逃げられるまで、数を減らせばいいだけのことだ。

「ランズは、そこで待機。俺が走れって言ったら、走れ」

俺は 蜘蛛(スパイダー) に向かって大剣を振り回す。

「おりゃ!」

大剣を横に薙ぎ払う。

グシャと大剣が蜘蛛の体に突き刺さる。

糸を吐き出す。

大剣で防ぐ。大剣に糸が纏わりつく。

これじゃ、切ることができない。なら、突き刺せばいいだけだ。

「おりゃ! 死ね!」

俺は大剣を 蜘蛛(スパイダー) に突き刺す。

だが、倒しても倒しても 蜘蛛(スパイダー) が集まってくる。

虫みたいに集まってきやがって。

このままじゃ武器が使い物にならなくなる。

「デボラネさん!」

ランズが叫ぶと同時に、どこからともなく風魔法が飛んできて、 蜘蛛(スパイダー) を斬り刻む。

誰だ?

俺は魔法を放った人物を探す。

そこにはクマがいた。