軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

623 クマさん、サーニャさんに会いにいく

「未だに信じられないわね。この先が王都なんて」

ティルミナさんはクマの転移門を見ながら言う。

まあ、わたしも元の世界にこんな扉があったら、信じられないと思う。

ドアを開けたら、好きな場所に行ける猫型ロボットアニメで誰もが夢見た道具。そんな魔道具だからね。

もっとも、好きな場所に行けるわけじゃないから、猫型ロボットアニメほど便利じゃないけど。クマの転移門は一度行って、そこに門を置かないといけないので、行ったことがない場所には行くことができない。

だから、お風呂場に移動することはできないよ。

「それじゃ、行きますよ」

わたしはクマの転移門の扉を開く。扉の先は王都にあるクマハウスの部屋に繋がる。

間取りはクリモニアとさほど変わらないけど、ティルミナさんは王都クマハウスに泊まったことがないので、軽くクマハウスの中を案内する。

「風呂場はそこで、トイレはそこ、あと二階に客室があるんで、ティルミナさんたちはそこを使って」

客室にはベッドは2つしか置いていないから、3人が同じ部屋で寝るならもう一つ用意しないとダメかな。

その辺りは、後で相談だね。

「ありがとう。お世話になりっぱなしもあれだから、滞在中の食事は任せてね」

「わたし、クマさんのお風呂を掃除する!」

シュリが手を挙げる。

「それじゃ、お願いをしようかな」

ティルミナさんの料理は美味しい、楽しみだ。

「えっと、それじゃ、わたしは」

「フィナはやることがあるでしょう。それを頑張りなさい」

フィナが何のお手伝いしようかと考えようとするが、ティルミナさんに止められる。

「……でも」

「いつも、頑張っているんだから、こんなときぐらい、わたしたちを頼っていいのよ」

「……お母さん。ありがとう」

「それじゃ、わたしとフィナは冒険者ギルドに行ってくるけど。ティルミナさんはどうしますか?」

「わたしも挨拶ぐらいしておいたほうがいいかしら?」

「わたしも行く!」

シュリも手をあげる。

「なにか恥ずかしいから、いいよ」

「でも、娘がお世話になるんだから」

フィナは断るけど、ティルミナさんは引き下がらない。

「ううぅ」

結局、ティルミナさんに押し切られる感じで、みんなで、冒険者ギルドに行くことになった。

「前回来たときも思ったけど、王都は人が多いわね」

「うん」

「そして、前回も思ったけど、みんなユナちゃんを見ているわね」

わたしが歩いていると、すれ違う人は必ずわたしに視線を向ける。

「クリモニアにいるときは忘れがちだけど、やっぱりユナちゃんの格好は目立つのね」

わたしの行動範囲内であるクリモニアでは、当たり前のようになったので、「クマ」と指さされることは少なくなった。

でも、王都では指さされたり、見られたりする。

そんな視線を受けながら、冒険者ギルドにやってくる。

「変わっていないわね」

「そういえば、冒険者だったんですよね」

「フィナが生まれる前ね」

わたしたちが受付に向かおうと思っていると、わたしのことに気づいた冒険者たちが騒ぎ始める。

「クマだ」「あれは……」「可愛い」「王都にいたのか」「誰だ?」「なんだ、あの格好は?」

わたしを見て、いろいろな反応がある。

あまり、王都の冒険者ギルドには来ないので、わたしのことを知らない人もいるみたいだ。

「ユナちゃん。冒険者ギルドで、なにをしたの?」

わたしのことを知っていると思われる冒険者の反応を見て、ティルミナさんがジト目でわたしのことを見る。

「何もしてないよ」

「ちなみに、フィナは知っているのかしら?」

「ううん」

フィナは首を横に振る。

あのときは、一人で冒険者ギルドに来ていたので、フィナは知らないはずだ。

「まあ、ユナちゃんのことだから、絡んできた冒険者を返り討ちにしたってとこかしら?」

バレている。

そんなことを話していると、

「よっ、嬢ちゃん。久しぶりだな」

大男が馴れ馴れしく話しかけてくる。

知っている顔だ。

「えっと……」

「忘れたとか言わないよな」

覚えているよ。砂漠に行ったときに、カリーナを突き飛ばしたり、大量の倒したサンドワームの雑用をしてくれた冒険者だ。

ただ、名前を覚えていないだけだ。

「覚えているよ。久しぶりだね」

いかにも名前も知っているかのように、親しく話しかける。

「ジェイドさんから話を聞いたけど、黙ってくれているんだってね」

冒険者ギルドの中なので、大きなスコルピオンのことは濁しながら言う。

「ああ、約束だからな」

大きなスコルピオンを討伐したとき、口止め料として、スコルピオンの甲殻の一部をあげた。正確にはサンドワームの魔石と交換だけれど。

「お陰様で、パーティメンバーの強化になった」

「それなら、よかったよ」

「それで、可愛い嬢ちゃんたちを連れて、こんなむさ苦しいところに何しに来たんだ」

男はフィナ、シュリ、それからティルミナさんを見る。

「ギルドマスターのサーニャさんに呼ばれたから来たんだよ」

「ギルマスが?」

男は頬を赤らめる。

「なんだ。嬢ちゃんは、ギルマスに呼ばれるほど、親しいのか?」

「まあ、親しいといえば、親しいと思うけど。サーニャさんの実家に行ったり、ご両親に挨拶をしたり」

「なんだと」

「ギルマスの実家に行き、ご両親に挨拶をしただと?」

男だけでなく、なぜか、周りも反応する。

もしかして、みんなサーニャさん狙い?

まあ、サーニャさん、美人だし、わたしと違ってモテるのも分かる。

「サーニャさん狙いなら、諦めたほうがいいと思うよ」

「どうしてだ!」

「それは……」

地元に婚約者がいるからだよと答えようとしたとき、殺気を感じ、口を閉じた。

「あら、ユナちゃん。面白いことを話しているわね」

サーニャさんが笑みを浮かべながらやってきた。

その笑みの後ろに、見えるはずがない般若の顔が見える。

「なんでもないよ」

口は災いの元だ。

余計なことを口にして、般若を起こす必要はない。

わたしたちはサーニャさんに連れていかれ、奥の部屋に通される。

「ユナちゃん、余計なことは言わないでいいからね」

「希望を持たすのは可哀想だと思って」

「別に隠すつもりはないけど。恥ずかしいでしょう」

でも、男の影がないと思ったら、実は故郷に男がいたと知ったときのほうがショックだと思うのだけれど。

「それで、そちらの2人は?」

サーニャさんはティルミナさんとシュリに目を向ける。

「フィナの母親のティルミナさんと、妹のシュリ。今回、フィナが解体のイベントに参加するってことで、応援に来てくれたんだよ」

「あら、それじゃ、フィナちゃん。参加してくれるの?」

「お父さんが、いい経験になるって」

「そうね。他の参加者の解体技術を見ることができるから、勉強になるわよ」

確かに見るのは良い勉強になる。

ゲームだって、他人の戦い方を見て、学んだことがある。

「でも、そもそも、サーニャさん。フィナが解体できること知っていたっけ?」

会った回数もそんなにないはずだ。

「ああ、そのことね。それは今回の解体のイベントのことをエレローラ様に相談したら、フィナちゃんのことを聞いたのよ」

「エレローラさんに?」

「毎年やっているけど、面白いことないかなと話をしたら、小さい女の子が解体をしたら、盛り上がるんじゃないかってね」

確かに、大人に混じって子供が頑張っていれば、応援をしたくなるのが心情だ。まして、フィナみたいな可愛い女の子なら、なおさらだ。

「それに、それだけじゃないのよ。最近、若者の解体の技術の質が落ちているの。だから、ここで一度引き締めたいのよ。フィナちゃんみたいな可愛い女の子が解体する姿を見て、負けられないって思ってくれると、いいなと思ってね」

なるほど、年下の女の子が解体する姿を見れば、男なら負けられないと思うよね。

参加するのが男だけとは限らないけど。

「わたし……」

「そんなに気を張らないでいいわよ。フィナちゃんは、いつもどおりに解体をしてくれたらいいから」

「……はい」

「それじゃ、よろしくお願いね」

サーニャさんがフィナの手を握る。

「それで、その解体イベントの詳しいことを聞きたいんだけど」

「フィナちゃんには、19歳以下の部門に参加してもらうわ」

サーニャさんの話によると19歳以下と20歳以上でイベントは分かれるとのことだ。

アマチュアとベテランってことらしい。

経験の長さによって、一概に区別は難しいが、若手と分けていると言う。

でも、19歳以下の部なら、フィナも活躍できるかもしれない。

「それで、イベントってどんなことをするの?」

「簡単に言えば解体技術と知識を競うってことかしら?」

「知識?」

解体技術は分かるけど、知識はピンとこない。

「魔物や動物の知識、解体順序が合っているのか。それから、解体したことがない魔物が解体できるとかかしら?」

「解体したことがなければ、できないんじゃ」

「まあ、そこは本を読んだり、先輩たちが解体しているところを見て、知識があるかどうかね」

なるほど、だから知識になるわけか。

「それで、どんな魔物を解体するの?」

「それは、流石にユナちゃんでも言えないわ。事前に勉強をされたら困るからね。とは言っても、フィナちゃんが参加する19歳以下のほうはそんな変なものは出ないわ」

ウルフとかゴブリンとか? その辺りかな。

でも、ゴブリンは魔石以外、解体する場所はないから、でないかな?

あと、一角ウサギとかかな?

「イベントまで、まだ日数があるから、それまでのんびりしていて。もちろん、滞在費はわたしが出すわ」

「フィナたちは、わたしの家に泊まるから大丈夫だよ」

わたしの言葉にフィナも首を縦に振っている。

「ふふ、あのクマさんの家ね」

サーニャさんが微笑む。

なんで笑うかな。

「それじゃ、このお金は自由に使って」

サーニャさんはアイテム袋から小袋を出して、フィナに渡す。

「これは、冒険者ギルドから、フィナちゃんへの依頼と思ってくれていいわ」

「依頼……ユナお姉ちゃん。お母さん……」

フィナは困った表情で、わたしとティルミナさんを見る。

「フィナ、受け取りなさい。仕事を引き受けたなら、それはあなたのお金よ」

「お母さん……」

「でも、そのお金を受け取ったからには、しっかり仕事をしなさい」

「……うん。わたし、頑張る」

フィナはサーニャさんから、お金を受け取る。

「はい、ユナお姉ちゃん」

なぜか、受け取ったお金をわたしに差し出してくるフィナ。

「どうして、わたしに、渡すの?」

「だって、ユナお姉ちゃんのお家に泊まるから」

「必要はないよ。そのお金はフィナのお金」

「でも」

「友達が家に泊まるのに、お金を取る人なんていないでしょう。フィナは、わたしのことを、と、友達と思ってくれていないの?」

ちょっと、恥ずかしかったけど。尋ねる。

「う、ううん。ユナお姉ちゃんは大切な友達だよ」

「なら、そのお金は仕舞って」

「……うん、わかった」

フィナは分かってくれたようで、差し出したお金をしまう。

「ふふ、若いっていいわね」

サーニャさんとティルミナさんが微笑ましそうにわたしとフィナを見ていた。

なんか恥ずかしい。

シュリは「わたしも友達!」と言って、抱きついてきた。

まあ、2人は可愛い妹って感じなんだけど。