軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

620 クマさん、スライムを討伐する

わたしのクマの服を掴むフィナの手が震えている。

なんだかんだ言っても11歳の女の子だ。怖いんだと思う。それに初めて空を飛んでいる。落ちたらと思う恐怖心もあるはずだ。

わたしは土魔法でロープを作ると、わたしとフィナの体に巻き付ける。

「ユナお姉ちゃん?」

「これなら、落ちても一緒だよ」

「ダメだよ。落ちるなら、わたし一人で」

「冗談だよ。フィナが落ちそうになったら、助けるためだよ。なにがあっても助けるから、フィナは安心して」

「ユナお姉ちゃん……うん、わたし頑張る」

「2人とも、魔道具の近くじゃぞ。準備をせよ」

わたしとフィナを乗せたカガリさんがスライムに近づくと、腕のように触手を伸ばしてくるが、カガリさんは躱し、横をすり抜けていく。わたしの後ろにいるフィナが小さな悲鳴をあげる。

「このあたりじゃな」

カガリさんの耳が動く。カガリさんの言う通りに、スライムの体内に四角い黒いのが浮かんでいる。

便利な耳だ。なにかの周波数や魔力でも感じ取っているのかな?

「あの黒いのが魔道具なんだよね。本当に動くの?」

「わたしの魔法が近づくと逃げるよ。それじゃ、作戦どおりにやるよ。わたしの魔法で、スライムの表面に魔道具を追い込むから、フィナは魔道具がスライムの外に出た瞬間、お願い。スライムはすぐに魔道具を取りこもうとするから気をつけてね」

「うん、やってみる」

わたしの腰を掴んでいるフィナの手に力が入る。

「別にできなくても、大丈夫だからね」

他に案を考えればいいだけだ。考えれば、他にも方法があるはずだ。

「う、うん」

「それじゃ、いくぞ」

カガリさんは魔道具が見やすい位置を確保しながら飛ぶ。わたしは両手のクマさんパペットからロープ状の土魔法を使い、スライムの体内にある魔道具を追い込んでいく。魔道具は意志があるように避けているって言うよりはN極とN極、S極とS極の磁石を近づけたように、離れていく感じだ。

カガリさんは、わたしが見失わないようにスライムの攻撃を躱しながら魔道具を追ってくれる。

わたしは左右から逃げ道を塞ぐようにスライムの表面に魔道具を追いこんでいく。

フィナの魔法はまだ威力は弱い。フィナが命中させやすいように、近くに。

カガリさんも同じ気持ちなのか、タイミングを測るように、フィナが命中しやすいように魔道具が飛び出す近くに向かう。

最後の一押しで、わたしの土魔法が魔道具を押し出す。

「フィナ!」

わたしが叫ぶよりも先に、フィナの小さい手から拳ほどのクマの形をした土魔法が放たれていた。

わたしの背中でフィナはちゃんと準備をしていた。

スライムの中から魔道具が飛び出す。それと同時にスライムの一部が伸びて、魔道具を取り込もうとする。

「当たって!」

フィナが叫ぶ。

スライムが魔道具を取り込むのと、フィナのクマの形をした土魔法が命中するのが同時に見えた。

「ダメだった?」

フィナが少し悲しそうに声をだす。

タイミング的にあれが限界だ。

ほぼ、スライムから出ると同時だった。

「いや、見てみろ」

カガリさんの言葉でわたしたちは魔道具を見る。

スライムの中に取り込まれた魔道具にヒビが入り、溶け始める。どうやら、ひび割れた箇所からスライムが入り込んで、内側から溶けたみたいだ。

魔道具の内側は溶けないようには作られていなかったみたいだ。

「……できた。ユナお姉ちゃん。やったよ」

後ろを振り向くと、先ほどまでの不安は消えたように、フィナは嬉しそうな表情をしていた。

「うん、バッチリだったよ」

「よくやった」

「ユナお姉ちゃんとカガリお姉ちゃんが、わたしが命中しやすいようにしてくれたからだよ」

どうやら、気づかれていたみたいだ。

「わたしの魔法が遅くて、威力が弱いから」

「なにを言っておる。十分じゃ。じゃが、まだまだあるぞ」

「フィナ、続けていける?」

「うん、大丈夫」

1回目の成功で、タイミングを掴んだのか、フィナは2つ3つとクマの形をした土魔法で魔道具を壊していく。

順調だ。

でも、どうして、クマさんなんだろう?

「フィナ、魔法、上手になったんじゃない?」

「その、光魔法と一緒に練習していたから、いつか、ユナお姉ちゃんと一緒に冒険ができたらいいなと思って」

フィナが恥ずかしそうに言う。

「そんなことを考えていたんだ」

「でも、ユナお姉ちゃん、とても強いから、わたしなんて、足手まといだよね……」

背中から寂しげな声に変わる。

「そんなことはないよ。そもそも、足手まといなら、一緒に出かけようなんて言わないし、フィナが魔法が使えなくても、一緒にいてほしいと思うし……」

なにか、恥ずかしい。

「……ユナお姉ちゃん」

「お主たち、妾の上でイチャイチャするのではない」

「別にイチャイチャなんてしてないよ!」

「それじゃ、今がどういう状況か分かっておるのか? 次の魔道具が見えてきたぞ」

「フィナ、いくよ!」

「うん」

順調に魔道具を壊していく。

このままいけば、全ての魔道具を壊すことができそうだ。

そう思った瞬間、カガリさんがいきなり方向を変える。

「うわぁ」

後ろにいたフィナがバランスを崩し、わたしから手が離れ、落ちる。

だけど、フィナとわたしの体は、しっかりと、土魔法で結ばれていたので、落ちずにすんだ。

土魔法で繋いでおいてよかった。

「2人とも大丈夫か?」

「大丈夫だよ」

「うん」

「すまぬ。思わぬ方向から襲われて、対応が遅れた」

保険でわたしとフィナの体を結んでおいてよかった。

保険は必要だよね。

そして、いくつ目かの魔道具を破壊したとき、背中からフィナの苦しそうな息遣いが聞こえてくる。

「フィナ?」

「な、なんでもないよ」

いや、苦しそうだよ。

「魔力切れじゃろう。嘘はよくないぞ」

魔道具はまだ残っている。

わたしは白クマで大丈夫だし、普通の人より、魔力は多い。

フィナは魔法を覚えたばかりで、魔力の配分の仕方が分からない。もしかすると、一撃、一撃、一生懸命に魔力を込めていたのかもしれない。

ゲームなら数値があるから、魔力の残りは分かるけど、この世界にそんな便利なものはない。

自分で限界を知り、考えながら魔力を使わないといけない。でも、魔法を覚えたばかりのフィナに、それを求めるのは酷なことだ。

一度休んで、魔力を回復したほうがいい。

「カガリさん、クマハウスに」

「だ、大丈夫だよ。わたし、まだ、頑張れるから」

「カガリさん、残りの魔道具は?」

カガリさんの耳が動く。

「三つじゃ」

「わたし頑張るから」

ここで無理しなくても、フィナの魔力が回復してから、戦っても問題はない。

「ユナお姉ちゃん……」

「……あと、一回だけだよ」

「うん」

カガリさんが魔道具を探し、わたしが土魔法で魔道具をスライムの外に放り出す。本来なら、フィナの魔法が魔道具に当たるはずだが、魔法が出ない。

やっぱり、ダメかと思ったとき。

ヒュンと風を切り裂くような音がした瞬間、物凄い速さでわたしの横を何かが通る。

そして、魔道具がスライムに取り込まれる前に、その何かが魔道具に命中してから、スライムに取り込まれる。その取り込まれた魔道具には矢が刺さっていた。

「矢?」

わたしは矢が飛んできた後ろを見ると、わたしが作った円柱の上に、くまゆるの背中に乗ったミアが弓を構えていた。

もしかして、今の矢はミアが?

わたしたちを乗せたカガリさんは、ミアがいるところまで飛んでいく。

「ふふ、命中したわ」

ミアはご機嫌だ。

でも、クマに跨りながら弓を構えてもシュールだ。

「先ほどの矢はお主か?」

「見ての通りよ。フィナが苦しそうにしていたから。そしたら、キャロルが魔力の使いすぎだって言うから、くまゆるに頼んで、ここまで連れてきてもらって、矢を放ったのよ」

「ここからというが、かなり離れておるぞ」

普通の矢が届く範囲ではない。

かなり離れている。

「この弓は風の魔石やその他諸々の力が付加されていて、普通の弓より矢を遠くに飛ばすことができるのよ」

「お主、そんなことができるなら、早く言え」

「そんなこと言えるわけがないでしょう。この子がユナのために、なにかしたいって言っていたんだから。でも、魔力が切れたなら、話は別。ここからは、年上であるわたしの仕事よ」

ミアが無い胸を張る。

でも、その姿は見守るお姉ちゃんっぽかった。

「フィナ、あとはわたしに任せなさい」

「……うん」

フィナは頭を下げながら、悲しそうに頷く。

「そんな、悲しそうな顔はしない。フィナは頑張ったわ。最後まで、自分でやりたかったかもしれない。でも、ここはミアお姉ちゃんに任せなさい」

「……うん、ミアお姉ちゃん。お願い」

今度は微笑みながら、ミアにお願いをする。

「それじゃ、ミア、お主に任せていいのじゃな」

「任せてって言いたいところだけど。矢のストックはそんなに無いから、確認だけど、あといくつ?」

「あと、2つじゃ」

「よかった。あと矢が3本だったのよ。この町に来るときに、魔物に襲われたときに使っちゃったのよね。甲冑騎士には効かないし。でも、最後に出番って格好いいわよね」

自分で口にしなければ、格好良かったのに。自分で口にしたせいで、台無しだ。

でも、ここまでどうやってミアたちが来たのか疑問だった。先ほどの弓の腕が嘘ではなければ、それなりの実力者だ。カガリさんの負担を減らすため、フィナのことはくまゆるとミアに任せ、わたしとカガリさんは魔道具を追い込みにいく。

ミアは自分の弓矢の射程距離を把握し、スライムに襲われない距離を保ちつつ、矢を放って魔道具に撃ち込んでいった。

「これで、最後」

スライムの体内から出た魔道具に矢が刺さる。

「本当に最後だよね。取りこぼしはないよね?」

「最後じゃ、感じ取れておった魔道具の反応が全て消えた。それに、見てみろ」

カガリさんはスライムの端を見ている。

「分裂している?」

巨大なスライムが崩れて、小さいスライムとなっていく。スライムは町の中へ、または町の外へ。どんどん消えていく。

つまり、スライムも解放されたってことだ。

人が作った魔道具のせいで、やりたくないことをさせられ、そんな魔道具を守り。もし、わたしだったら、狂っていたかもしれない。

スライムは魔物だけど、今回ばかりは同情してしまう。

だから、逃げるスライムに攻撃をするつもりはない。

あとは、ここに来る人間とスライムの問題だ。

でも、これで全てが、

「終わった〜」