軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

612 クマさん、分かれて、合流する

「もしかして、来たの!?」

ミアが鳴きだすくまゆるとくまきゅうを見る。

わたしは探知スキルで確認する。スライムの反応が出る。

「うん、来たみたい」

残念ながら、わたしたちを追ってこないという望みは断ち切られた。

「それじゃ、妾たちは行くとするか」

話し合っていた通りに、わたしたちはスライムを自分たちのほうに引き付けながら、町に戻ることになる。

ミアたちに食料を多めに渡し、解体部屋にいた馬を外に出し、わたしたちもクマハウスの外にでる。

「本当に行くの?」

ミアが心配そうにする。

「大丈夫だよ。この子たちがいれば、追いつかれることはないから、上手に引き付けながら、町に戻るから、安心して」

「大丈夫だと思うが、お主たちも気をつけるんじゃぞ」

わたしたちはくまゆるとくまきゅうに乗り、ミアとキャロルは馬に乗る。

「それじゃ、行ってくる」

「待っているから、ちゃんと帰ってきなさいよ!」

わたしたちを乗せたくまゆるとくまきゅうはスライムの反応があるほうへ走り出す。

「ミアお姉ちゃんとキャロルお姉ちゃん、大丈夫かな?」

「スライムを、わたしたちのほうへ引き付ければ大丈夫だと思うよ」

他の魔物に襲われる可能性もあるけど、そこまでは面倒をみることはできない。それにミアたちも冒険家だ。あのヘシュラーグの町まで2人だけで来たんだ。それぐらいは対処できるはずだ。

「見えてきたぞ」

カガリさんが前のめりで前を見る。

遠くで、水が光を反射したのが見えた。スライムだ。

「多少、大回りしたほうがいいじゃろう」

「くまゆる、くまきゅう、大きく左回りに移動するよ」

「「くぅ~ん」」

スライムとの距離を保ちながら、スライムの左側をすれ違うように通り、スライムを引き付け、そのままヘシュラーグの町まで連れていく。

わたしたちを乗せたくまゆるとくまきゅうはスライムに襲われない距離を保ちながら走る。

「これだけ大きいと、スライムが方向を変えているか、分からんのう」

探知スキルを使ってもよく分からない。スライムの反応が点々としているだけだ。もう少し動けば、反応が出て分かるはずだ。

わたしは走るくまゆるの背中に乗りながら探知スキルでスライムの行動を確認する。

「……うん?」

「ユナお姉ちゃん、どうしたの?」

探知スキルを見ていると、スライムが変な動きをしている。

流れている川が遮蔽物によって二つに分かれるように、スライムの流れが二つに分かれていく。

わたしたちのほうへ移動するスライムと、別のほうへ移動するスライム。

「スライムが二つに分かれているみたい」

「なんじゃと!」

「この方角は、ミアたちがいる方角!?」

わたしの声にカガリさんとフィナが絶句する。

「分かれることができるのか?」

「そんなこと分からないよ」

現状では分からないけど、左右に手を伸ばしている感じだ。

最終的にどうなるかは分からない。

「分かれたら、魔道具はどうなるの?」

フィナの言う通りだ。分かれたら、魔道具がないもう半分のスライムはどうなるんだろう?

「どうなるか分からんが、分断はまずいぞ。もしも、ミアたちに向かうほうに魔道具があった場合、ずっとミアたちを追いかけることになる。そして、妾たちを追いかけてきたスライムを町の中まで引き寄せたとしても、魔道具がなかったら意味がない。今は想定外のことは避けるべきじゃ」

分断して、小さくなったところを各個撃破が脳裏に浮かぶが、フィナの言葉で打ち消される。

「それに、このままわたしたちが町に向かっても、ミアお姉ちゃんたちが」

そもそも、二つに分かれたとしても、大きいスライムなのは変わらない。

せめて100等分に分かれてくれないと各個撃破も難しい。

「とりあえず、ミアたちのところに戻らないと。くまゆる、くまきゅう、反転して! ミアたちのところに戻って!」

「「くぅ~ん」」

くまゆるとくまきゅうは反転すると、駆け出す。

ミア視点

「行っちゃったわね」

「うん。大丈夫かな?」

わたしとキャロルは黒いクマと白いクマに乗る3人を見送る。

「2人ともフィナちゃんのことを大切に思っているみたいだから、無理はしないと思うよ。それに、よく分からない3人だったけど、あの3人なら、大丈夫だと思う」

「そうだね。カガリさんは不思議な力を持った狐だし、ユナさんはくまゆるちゃんやくまきゅうちゃんみたいなクマを従えて、甲冑騎士を倒すことができて、フィナちゃんは可愛いし」

「最後は関係ないでしょう」

「ふふ、そうだね」

本当に不思議な3人組だった。

わたしたちは日陰がある木の下に移動して、ユナたちが戻るのを待つことにする。

今のわたしたちができるのは、ユナたちが無事に帰ってくることを祈るぐらいだ。

「もし、ユナたちが戻ってこなかったら、どうする?」

「…………」

何気なく口にした言葉だったけど、キャロルから返答がない。そんな問いに答えはでないことは自分でも分かっている。

カガリは飛んでも逃げるとは言っていたけど、失敗してスライムに取り込まれる可能性だってある。

「そのときは、誰かに助けを求めるしかないと思う」

キャロルが、少し考え、自分の考えを話してくれる。

助けを求めると言っても、あのスライムを倒せる冒険者がいるとは思えない。王家が抱える騎士や魔法使いに助けを求めるにしても、その間にスライムがどれだけの人を襲うか分からない。

でも、キャロルの言う通りに、それしかできることは無いと思う。

「街に助けを求めたあと、すぐに街を出れば大丈夫かな?」

スライムが、わたしたちを追いかけてくれば、被害は最小限におさえることができる。

「分からないよ。わたしたちが街を出ても、そのまま、街にいる人を襲うかも。現状だと、わたしたちを追っているのか、人だから追っているのかも分からないし。人の反応が多いところを知ったら、わたしたちのことなんて、無視して街に向かうかもしれないし」

もし、街を襲うことになれば、多くの人の命を代償に、わたしたちは逃げることができるかもしれない。

逃げることができたとしても、多くの死の重みを一生背負っていかないといけない。

その重みに耐え切れるわけがない。

「キャロル、ごめんね。わたしのせいで、こんなことになって」

わたしと一緒に来なければキャロルは巻き込まれることはなかった。

なにもかも、わたしのせいだ。

「ううん。ミアちゃんのせいじゃないよ。ミアちゃんに付いていくって言ったのは、わたしの意思だから」

キャロルは昔から優しい。わたしの唯一の親友だ。そんなキャロルを巻き込んでしまったことに心苦しくなる。

ユナたちが行ってから、時間が過ぎる。長いような、短いような、落ち着かない。たとえスライムの魔道具を停止させることができたとしても、早くても戻ってくるのには二日はかかる。

「ミアちゃん、お茶でも飲んで、少しは落ちついて」

キャロルがお茶が入ったコップを差し出してくれる。

「ありがとう」

お茶を一気に飲み干す。

お茶のおかげなのか、少しは落ち着いてきた。

でも、それは一瞬のことで、馬が「ヒヒーン」と嘶きをあげる。

「なに!? どうしたの?」

わたしは馬に駆け寄り、撫でて、落ち着かせる。

「ミ、ミアちゃん!」

「なに?」

「あれを見て」

キャロルが指差す手は震えている。

その震える指先にあったのは、大きなスライム。

「冗談でしょう」

「……スライム」

どうして、スライムがわたしたちのほうに?

「もしかして、ユナたちが食べられた?」

ユナたちを食べたので、次にわたしたちに目標を定めた?

「そんなことないよ。ユナちゃんたち強いんだから。それにくまゆるちゃんとくまきゅうちゃんに乗っているんだから」

確かに、あの無尽蔵に走り続けることができる体力、それに速い足、あのクマたちなら、スライムから逃げることはできると思う。

そう口にした瞬間、嫌なことが頭に浮かぶ。

「もしかして、わたしたちを囮にして、逃げた?」

ユナたちが無事で、ユナたちのクマならスライムから逃げることができるなら……。

「そんなことないよ」

「それじゃ、どうして、スライムがこっちにやってくるのよ。話だと、ユナたちがスライムを引き付けて、ヘシュラーグの町に連れて行くってことだったでしょう!」

「そうだけど」

裏切られた。

信じていたのに。

いや、誰だって、自分の命は大切だ。

それに、ユナたちには、何度も救われた命だ。

見捨てられても仕方ないことだ。

わたしが無力だっただけだ。

「ミアちゃん、逃げるよ!」

「う、うん」

わたしとキャロルは馬に乗ると、スライムから逃げるように走る。

改めて、ユナのクマが異常だったことが分かる。馬を走らせても、徐々に疲れてくる。ユナのクマみたいに、長い間、走ることはできない。

まして、わたしとキャロルの2人を乗せて走っている。

このまま、2人を乗せたまま走らせれば、馬が倒れてしまう。そうなれば、2人とも死ぬことになる。

キャロルだけは、死なせたくない。

馬が動かなくなる前に決断をしないといけない。

……考えるまでもない。

わたしは馬を止め、降りる。

「ミアちゃん?」

「キャロル、行って。一人なら、逃げることができるかもしれないから」

「そんなこと、できないよ!」

「このままじゃ、2人とも死んじゃうでしょう」

「それなら、わたしが……」

キャロルが馬から降りようとするが、わたしは無言で、馬の尻を叩く。

馬は痛かったのか、キャロルを乗せたまま走り出す。

「ミアちゃん!」

せめてキャロルだけは。

妹たちのことをお願いね。

それに、誰かが、スライムのことを伝えないといけない。

キャロルが、誰かに出会うことができれば、スライムのことを伝えることができるかもしれない。

わたしの死は無駄死にではない。

キャロルを生かすための死だ。

スライムが近寄ってくる。

まるで、動く湖の塊だ。

「ふふ」

動く湖の塊なんて見たことなんてないのに、表現が貧弱だ。バカだから仕方ない。

笑みがこぼれてくる。

迫ってくるスライムが怖いので、目を閉じる。

スライムに取り込まれたら、助からないんだろうな。

水の中みたいに苦しむのかな。それとも、体が溶けていくのかな。

どっちも嫌だな。

せめて、苦しまずに死にたかった。

「ミア!」

どこからか、わたしの名前を呼ぶ声がする。

おかしいな。

目を開けると、目の前から黒いクマと白いクマが走ってくる。

どうして、ここに?

「ミア、手を伸ばして」

わたしが伸ばした手をユナの黒いクマ手袋が力強く掴む。その力強さに安心する。わたしはそのまま、くまゆるの背中に乗る。

ユナの背中が温かい。

クマだもんね。温かいの当たり前だ。

その温かさに目から涙が落ちる。