軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

607 クマさん、もう一冊のノートを思い出す

「「くぅ~ん」」

「方向を変えても、こっちにやってくるみたい」

くまゆるとくまきゅうから、教わっているような感じで答える。

「これは、まずいのう」

二度ほど方向を変えたけど、スライムはわたしたちがいるほうへ、方向を変えてきた。

間違いなく、わたしたちのあとを追いかけてきている。

ただスライムの速度は遅く、ゆっくりと移動している。

「どうするのよ」

「あとはスライムとの距離が離れれば、諦めてくれるかじゃのう」

「もし、どんなに距離を離しても、追いかけてきたら……」

「一生、追いかけられることになるのう」

「そんな……」

わたしはクマの転移門で逃げることができるから、脅威に感じていないけど、ミアとキャロルにとっては恐ろしいことだと思う。

いざとなれば、ミアとキャロルを連れて一緒に逃げることはできるけど、2人が住む街に帰すことができるかは分からない。

「とりあえずは、今は距離を取れるだけとって、追いかけてくるか確かめるしかないじゃろう」

「でも、この子は走り続けて、これ以上は……」

ミアが心配そうに馬を優しく撫でる。

くまゆるとくまきゅうと違って、ミアが乗る馬は普通の馬だ。くまゆるとくまきゅうと同じように走り続けることはできない。

ミリーラの町に従業員旅行に行ったときに作ったクマ馬車に馬を乗せて走らせることも考えたけど、地面を見て、早々に諦める。

「ユナ、なにか案があるのか?」

わたしが考えているとカガリさんが尋ねてくる。

「こんな感じの馬車を魔法で作って、馬を入れて運ぶことを考えたんだけど」

わたしは馬が乗れるほどのクマ馬車を土魔法で作ってみせる。

「でも、道が悪いから、走らせることは、できないと思って」

道が平坦と言っても、デコボコしている。そこを車輪付きの馬車が走れば、馬車の中にいる馬が大変なことになる。もちろん、人だって同じことだ。

「クマ……」

「あなた、本当にクマが好きなのね」

キャロルとミアは呆れるようにクマ馬車を見てる。

フィナは一度見ているので、微笑んでいる。

そんな中、カガリさんは無言でクマ馬車に近づく。

「なら、ユナ。でこぼこの道を気にせずに走らせることができればくまゆるとくまきゅうで運べるってことじゃな」

「「くぅ~ん」」

わたしが確認する前に、くまゆるとくまきゅうは元気に返事をする。

「大丈夫だって」

まあ、ミアの馬に合わせるため、そんなに早く走っていないし、何度も休んでいるので、くまゆるとくまきゅうは大丈夫だ。

わたしの言葉にカガリさんは頷くと、ポケットから小さい袋を取り出し、袋の中から魔石を取り出す。

そして、その魔石をクマ馬車に付けていく。

「魔石を付けて、どうするの?」

「ちょっとした魔法を使うのに、補助をしてもらう」

カガリさんがクマ馬車を一周し、クマ馬車の底にも魔石を取り付ける。

「こんなもんでいいじゃろう。ミア、馬を中に」

「この中に?」

ミアはクマ馬車を見て、少し不安そうな表情をする。

「馬を見捨てたくなければ、言う通りにせよ」

「分かったわよ」

馬はミアの言葉に従って、素直にクマ馬車の中に入っていく。

「入れたわよ。これでいい?」

カガリさんはクマ馬車を確認するとクマ馬車に手を触れる。するとクマ馬車が浮き上がる。と言っても数cm程度だ。それでも、浮いている。

「浮いた?」

「重い物を運ぶ魔法じゃ、地面から少しだけ浮かび上がらせることができるだけじゃが、運ぶには問題はないじゃろう」

カガリさんがクマ馬車を押すと、クマ馬車が動く。

「カガリさん、こんな魔法使えたんだ」

「ちょ、それ以前に、どうして、あなたみたいな幼女が魔法を使えるのよ! そういえば空も飛ぶし、なんなの?」

ミアはカガリさんが空を飛んだことを思い出したようだ。

「今は、そんなことを追及している場合じゃなかろう。出発するのが遅くなって、馬がスライムに飲み込まれてもいいのか?」

カガリさんは誤魔化す。

「それは……」

「ほれ、馬車にロープを付けて、出発するぞ」

「ちょっと待って」

わたしは試しにゴーレムを動かす要領でクマ馬車を動かしてみる。

クマ馬車が前に進む。

「おお、動いたよ」

左右に動かしてみる。

動く。

次は上に動かしてみるが、動かない。

「上に動かない」

「あくまで、地面から少しの高さだけ浮かせておるだけじゃから、上にも下にも動かすことはできぬぞ」

でも、ホバーみたいで、引っ張るのは楽そうだ。

「ほら、動かせるなら、行くぞ。補助をしている魔石の効果がなくなれば、浮かなくなるぞ」

くまゆるにはわたしとフィナ、カガリさんが乗り、くまきゅうにはミアとキャロルが乗る。そして、馬が乗ったクマ馬車をわたしの魔力で引っ張る。

クマ馬車は地面に接触していないので、スムーズに移動する。これなら、クマ馬車に乗っている馬も大丈夫そうだ。

くまゆるとくまきゅうは走り続け、スライムから離れた。

夕刻。

わたしたちはクマハウスの中で休む。

「本当に便利な家ね」

ミアは椅子に座り、テーブルの上にぐた〜と倒れる。

馬は餌をあげて、クマの馬車の中で休んでいる。

負担にならなかったようで、元気だったのでよかった。

「それで、スライムは追ってきているんですか?」

キャロルが不安そうに尋ねる。

「離れすぎると、この子たちでも分からないから」

わたしは部屋の中で丸くなって休んでいるくまゆるとくまきゅうに軽く目を向ける。

もちろん、探知スキルでも範囲外なので、分からない。

でも、スライムの移動速度は遅いから、かなりの距離は離れていると思う。

「そうですか」

「きっと、大丈夫よ。このクマが信じられないほどの速さで走ったんだから、スライムとの距離も離れているわよ。そんだけ離れればスライムだって、追ってこないわよ」

ミアは楽観的な言葉を言うが、自分の願いなんだろう。

でも、それを世間一般的に、フラグと呼ぶんだよ。

個人的に、そのフラグはへし折りたいけど、今回ばかりはわたし個人で折れるものではない。

「それにしても、なんで、あの地下にスライムなんていたのよ」

「そうじゃのう。調べようにも、あの町には戻れぬからのう」

「あのノートでは曖昧だったけど、研究はスライムのことだったのかもしれないわね」

ノートって言葉で、わたしは白骨死体があった部屋で見つけた、もう一冊の白紙のノートのことを思い出す。

「ちょっと、待って、もしかすると、このノートに何か書かれているかも」

わたしはクマボックスから、白骨死体がある部屋で見つけたノートを取り出す。

「そのノートにはスライムのことは書いていなかったでしょう」

「ちがうよ。もう一冊のほうのノートだよ」

「それこそ、白紙だったでしょう」

「さっきは言わなかったけど、わたしが触れたら文字が浮かんだんだよ」

わたしは白紙だったノートを手にすると、ノートの表紙に文字が浮かび上がる。

ノートのタイトルは『実録』と書かれている。

「なにも書かれていないじゃない」

ノートを見るミア。

「ユナお姉ちゃん、本当に書いてあるの?」

ノートを覗き込むフィナ。

「実録と書かれておるのう」

ノートに書かれている文字に反応するカガリさん。

「わたしには見えません」

胸が揺れるキャロル。

どうやら、文字が見えるのはわたしとカガリさんだけみたいだ。

この感じ、記憶がある。クリュナ=ハルクの本と一緒だ。

「ユナ、中には何が書いてあるのじゃ?」

カガリさんに催促されてノートを開く。

『この文字が見えるってことは、高水準の魔力を保有しているってことだろう』

「高水準の魔力?」

「高い魔力がないと読めないみたいじゃ。クリュナ=ハルクの本と同じか」

カガリさんが横から覗き込みながら、頷く。

どうやら、カガリさんも同じことを思ったらしい。

「クリュナ=ハルクって、あのクリュナ=ハルク?」

「前に、クリュナ=ハルクの本を手にしたときに、似たような現象を見たことがある」

「どうして、あなたみたいな幼女がクリュナ=ハルクの本を見たことがあるのよ。貴重な本で、あなたみたいな幼女が簡単に見られるもんじゃないわよ。見ることができるのは、ほんの一握りの人だけよ。お金持ちや偉い人……」

ミアはそこまで言って、カガリさんをじっと見る。

「もしかして、あなた、どこかのお姫様!?」

ミアはなにかを理解したように叫ぶ。

実際はなにも理解していないけど。

「それなら、空を飛ぶことも、あの変なクマの馬車を浮かび上がらせる魔法を使えることや、ノートの文字が見えることも納得だわ」

いや、お姫様でも魔力の才能がなければ無理だと思うよ。

「さしずめ、ユナは護衛で、フィナは身の回りを世話をする使用人ね。ユナが強い理由も分かったわ。お姫様を護衛するんだから、そのぐらい強くないとお姫様の護衛なんてできないわよね。だから、2人とも、幼いカガリを敬称付きで呼んでいたのね」

ミアは全てを当てたと、言わんばかりのドヤ顔をする。

いや、ドヤ顔をされても正解じゃないから。

でも、カガリさんは、ばれてしまったかのような表情をする。

「よく、分かったのう。身分を隠しておったのじゃ」

「ふふ、わたしの目は騙されないわ」

いや、騙されているから。

「えっ、カガリちゃんって、お姫様なの? どうしよう、わたし、変なこと言っていない? 殺されたりしない?」

キャロルまでカガリさんがお姫様だと信じて、慌て始める。

「殺される?」

キャロルの言葉にミアが青ざめていく。

「えっと、カガリ、カガリ様。わたし、殺されます?」

いきなり、ミアの口調が変わる。

まあ、もし平民と思っていた女の子が、お姫様だと知ったら、態度が変わるのも仕方ない。

実際は、狐の妖怪だけど。

「安心せよ。殺したりはせぬ。それに言葉遣いも、変えなくてもいい」

「本当? 殺したりしない?」

「しない」

「よかった」

わたしはカガリさんに近づき、小声で話しかける。

「そんな、嘘をついていいの?」

「別に嘘ではないじゃろう。妾ほど高貴な者はいないし、狐神様と呼ばれている。つまり神様じゃ。身分を落として、狐の姫と名乗っても問題はないじゃろう」

「姫と言うより、女王だと思うけど」

実際の姿を思い浮かべると、可愛らしい姫でなく、横柄な巨乳の女王様って感じだ。