軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

606 クマさん、スライムから逃げる

わたしたちを乗せたくまゆるとくまきゅうは、森の中にある廃れた道を駆けていく。

倒れている木々はわたしの風魔法で細かく切り裂き、細切れになった木も風魔法で吹き飛ばす。

スライムの大きさには驚いたけど、このまま逃げることはできそうだ。

「ミアちゃん!」

わたしが安心しきっていると、くまきゅうに乗っているキャロルが叫ぶ。

後ろを見ると、ミアの乗る馬が遅れている。

普通に考えれば、普通の馬がくまゆるとくまきゅうの速度に付いてこられるわけがない。

ミアは無理をさせて馬を走らせてる。どんな名馬だって、最高速度で走り続けることなどできない。

くまゆるとくまきゅうに乗っていたせいで、ミアの乗る馬のことを考慮することを忘れていた。

「わたしなら、大丈夫よ。少しペースを落とすから、先に行って」

「そんなわけには……」

キャロルが心配する。

「ユナお姉ちゃん」

フィナも心配そうに馬に乗っているミアを見る。

わたしは探知スキルを使ってスライムを確認する。スライムの移動速度は低下し、探知スキル内ギリギリの位置にいる。

ここまで距離が離れれば大丈夫だ。

「ここから、ゆっくり行こう」

わたしはくまゆるの速度を落とす。

ミアの乗る馬が隣にやってくる。無理に走らせてしまったみたいで、馬は苦しそうだった。くまゆるとくまきゅうと同じように走れるわけがないんだから、気付いてあげるべきだった。

「わたしの心配はいいから、先に行って」

「そうじゃないよ。この子たちが大丈夫だって、教えてくれているから」

わたしは自分が乗るくまゆるの体に触れる。

「そうなの?」

「くぅ〜ん」

「だから、今は速度を落としても大丈夫だよ」

わたしの言葉にミアはホッとした表情をする。

わたしたちは歩くほどのペースまで落とす。

「でも、こんなにゆっくりで、本当に大丈夫なの? いきなり、後ろから襲ってこない?」

ミアはキョロキョロと怖がりながら辺りを確認する。

「もし、近づいてくれば、この子たちが教えてくれるから」

なんでも、くまゆるとくまきゅう頼りにしておく。そのほうがミアたちも安心できるはずだ。

「そう、分かったわ。あなたたちを信じるから、絶対にスライムが近づいてきたら教えてよ」

ミアはくまゆるとくまきゅうを見ながら、お願いをする。

「でも、あの水みたいなものは、本当にスライムなんですか?」

キャロルが確認するように尋ねる。

「この目で確認した。意思があるように、液体が動いておった。間違いなくスライムじゃろう。そもそも、水はあのように、動かないじゃろう」

キャロルの質問にカガリさんが答える。

追いかけてきた水は、ゼリーと言うか、ビニール袋に入った水が動く感じだった。普通の水ではないのは間違いない。それに、探知スキルにスライムって表示されているから間違いない。

「確か、スライムって、ぷよぷよして、虫とか葉っぱを食べているだけの魔物でしょう」

「お主、知識不足じゃぞ。スライムは基本、どこでも生きられる最強の生物じゃぞ。その地域にあわせて生態を変える。暑いところでは、暑さに強くなり、寒いところでは寒さに強くなり、毒沼があれば、毒沼でも生きられる最強の魔物じゃ。じゃが、外から体内にある魔石が見えるから、簡単に倒せるから最弱だと言われているのも事実じゃが」

そういえば、ゲームにもいろいろなスライムがいたね。

でも、寒いところにいるスライムって凍るの?

それとも、夏に快適な、ひんやりスライム?

「スライムなんて見たことがなかったんだから、仕方ないじゃない」

「冒険家を目指すなら、知っておくべきことじゃぞ」

「うぅ……」

幼女姿のカガリさんに正論を言われて、ミアはぐうの音も出なくなる。

「でも、あれがスライムだとして、あんなに大きくなるものなの? もし大きくなる魔物なら、わたしでも知っていると思うんだけど」

「本来、スライムは小さい生物じゃ。じゃが、稀に互いにくっつき、大きくなることがある」

前に、スライム同士がくっついて、大きくなるゲームがあった。大きくなると必然的に強くなり、初心者っていうか、初期レベルじゃ倒せなくなる。

「だからって、あれは大き過ぎよ。動物や普通の魔物より、大きかったわよ」

そのことについてはミアに同意する。

いくらなんでも大き過ぎる。

「そんなこと、妾に言われても困るが、一応訂正しておくが、お主が思っている以上に大きいぞ。沼や池、それ以上かもしれぬ」

カガリさんの言葉にミアが嫌な顔をする。

そういえば、全貌を見たのはカガリさんだけだっけ。

わたしは、探知スキルで、スライムの群れは分かっているけど、どのような大きさかは、この目で見ていない。

「それで、あのスライムはどうするの?」

「ほうっておけばよかろう。別に人が住んでいるわけじゃない。危険が迫れば、どこかの冒険者が倒すじゃろう」

「池や沼みたいに大きなスライムなんて、倒せるわけがないでしょう」

「まあ、被害がでなければ、よいじゃろう」

確かに、人に危害が及ばなければ放置していいと思う。

わたしたちが知らない場所には凶暴な魔物だって生息しているはずだ。人と魔物との境界線を侵さなければ、無理に倒す必要はない。

ゲームだったら、先に進めなかったり、貴重なアイテムが手に入ったりするけど。別にスライムを倒さなくても、先に進めないこともないし、スライムを倒して手に入れる貴重なアイテムが必要ってわけでもない。

だから、カガリさんの考えには同意だ。

戦う戦わないは横に置いておいて、実際、あのスライムって倒せるのかな?

この世界に来てから、スライムとは戦ったこともなければ、見たこともない。巨大なスライムなんて、然う然うに見る機会なんてないんだから、逃げ出す前に、この目で見ておけばよかった

帰るときに、クマの転移門を設置する予定だから、一人で見に来るのもいいかもしれない。

「「くぅ〜ん」」

わたしたちが話していると、くまゆるとくまきゅうが鳴く。

探知スキルを使う。

スライムが近づいてくる。

「追ってきたのか?」

「まだ、遠いけど、ゆっくりと追いかけてきているみたい」

「そのクマ、本当に優秀ね」

「「くぅ〜ん」」

ミアの言葉にくまゆるとくまきゅうは嬉しそうに鳴く。

「とりあえず、この場を離れるぞ」

「ミア、馬は大丈夫?」

「ええ、さっきみたいな速度じゃなければ大丈夫」

わたしたちは移動する速度を少しだけ上げる。

「でも、どうして、スライムはわたしたちの行く方向にやってくるの。別の方向に行ってもいいはずよね?」

「そんなことは知らぬ」

魔物の考えることなんて知らない。まして、相手はスライムだ。

「もしかするとだけど、わたしたちを追いかけているんじゃないかな」

話を聞いていたフィナが口を開く。

「どういうこと?」

「お父さんが言っていたけど、スライムには目が無いから、体内にある魔石の力を使って、相手を確認しているって言っていたよ」

スライムの情報を知っているなんて、流石、解体職人の娘だ。

わたしが知らないところでも勉強をしているのかもしれない。

「こんなに離れているのに、わたしたちを認識しているってこと?」

「大きくなって、範囲が広いのかも知れぬ」

「待って、それじゃ、ずっとわたしたちを追いかけてくるってこと?」

「その可能性はある」

「それじゃ、わたしたちが街に行ったら」

キャロルが一つの可能性を尋ねる。

「ふざけないでよ。それじゃ、街に帰れないってことじゃない!」

「妾たちを追ってきているなら、巨大なスライムを街に連れていくことになる」

「そんな」

いざとなれば、わたしたちはクマの転移門で逃げることができる。でも、ミアたちはそうもいかない。一緒にクマの転移門で逃げたとしても、戻ってこられる保証がどこにもない。クマの転移門を開けたら、スライムの中だったとか、笑えない冗談だ。

「それじゃ、妹たちのところに帰れないってこと……」

ミアの顔が青ざめていく。

速度が遅くても、わたしたちのあとを付いてくることができれば、ミアたちは一生、スライムに後を付けられることになる。

クマの転移門を使えば、逃げることはできるが、二度と家族に会うことができないかもしれない。

わたしがミアたちの街に行くにしても、わたしがスライムに後を付けられたら同じことだ。

あとは、別のルートから帰る方法だ。

クリモニアから帰る方法だけど、転移門のことを話すと、それはそれで、面倒臭くなりそうだ。

「どうして、こんなことに」

「ミアちゃん」

「わたしのせいだ。わたしがヘシュラーグの町を調べようと言ったから、キャロル、巻き込んでごめん」

「ミアちゃんのせいじゃないよ。ミアちゃんは家族のために頑張ろうとしただけだよ」

「それに、まだ、妾たちに付いて来ると決まったわけじゃない。とりあえず、スライムから距離をとって、移動する方向を確かめてからじゃ」

もし、わたしたちが方向を変えても付いてくるようなら、スライムは追いかけてくるってことだ。

わたしたちは、ミアの馬に負担にならないように、方向を変えて走り出す。

……スライムは、わたしたちが方向を変えても、後をつけてきた。