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作品タイトル不明

604 クマさん、ノートを読む

「それで、なにが書いてあるんじゃ?」

カガリさんはせがむように尋ねてくる。

わたしは「記録」と書かれたノートの表紙を捲る。

『この本を手にする者へ

これはわたしの謝罪の記録である』

一番初めのページにはそう書かれていた。

『町が滅んだ。これもわたしたちがやってきた研究のせいだ』

『あんなものを作るべきではなかった』

『クリュナ=ハルクの言葉は正しかった』

「クリュナ=ハルクじゃと!?」

カガリさんがクリュナ=ハルクの名前に反応する。

「クリュナ=ハルクって、もしかして、冒険家の!?」

同じくミアも反応する。

「なんじゃ、お主、クリュナ=ハルクのことを知っておるのか?」

「冒険家を目指す者で、クリュナ=ハルクの名前を知らない者なんていないわよ」

「でも、クリュナ=ハルクって謎の人物なんですよね。名前だけは残っているのに、どのような人物だったか、どの本にも書かれていないんです」

キャロルも知っているみたいだ。

王都のシアも知ってて、ミアたちも知っているって、本当に知っている人は知っているんだね。

ここがどこか分からないけど、クリュナ=ハルクもタールグイに乗って、ここに来たのかな?

「もしかして、ブ男でフードで顔を隠していたんじゃない?」

「ミアちゃん、失礼だよ」

「だって、一流の冒険家で顔もよかったら、女が放っておくわけがないでしょう。もし結婚して子供がいたら、今頃子孫がいっぱいいるわよ。そんな話は聞いたことがないもん」

「そうだけど」

「もしくは、性格が悪かったのよ」

「お主、クリュナ=ハルクを尊敬しておるんじゃなかったのか?」

「冒険家としての話は知っているから、冒険家としては尊敬しているわよ。でも、容姿や性格は知らないんだから、その辺りの判断のしようがないでしょう?」

たしかにミアの言う通りだ。

人物の経歴は分かっても、どのような容姿だったのか、どのような性格をしていたのか、当時を知る者が記録に遺していなければ、知ることはできない。

もしかして、カガリさんなら知っているのかな?

チラッと横顔を見るが、それといった反応はない。

もし、会ったことがあれば、何かしらミアの言葉に反応があると思ったんだけど。

「じゃが、自分たちのせいで、町が滅んだと言うのも気になるのう」

「研究って、きっと魔道具の研究のせいで滅んだのね。あの言い伝えが正しかったのね」

ミアとキャロルの話に、町が滅んだ理由の一つに危険な魔道具とあったが、あながち間違いではなかったみたいだ。

「ミアちゃん、まだ決まったわけじゃないよ」

「そうだけど。それで、ユナ、続きは?」

「ちょっと待って」

わたしはノートに目を向ける。

『クリュナ=ハルクの言葉に従っておけばよかった』

『だが、当時のクリュナ=ハルクは若く、誰もクリュナ=ハルクの言葉に耳を貸そうとはしなかった。わたしもその一人だ』

『そのため、クリュナ=ハルクが去った数年後、町は滅ぶことになった』

「クリュナ=ハルクは寄っただけ?」

「そうみたいじゃのう」

『だが、クリュナ=ハルクの遺していった魔道具によって、我々が作った魔道具は止まった』

『あれが町の外に出なかったことに、感謝しないといけない』

「あれ?」

「あれとはなんじゃ?」

「さっきから、要領が掴めないわね。もっとはっきりと書いていないの?」

ミアがわたしの肩をグラグラと揺らす。

「わたしに言われても困るよ」

わたしはノートに書かれていることを読んでいるだけだ。

「たぶん、書きたいが、書けない内容なんじゃろう」

だから、お茶を濁す感じになっている。

「詳しいことを書きなさいよ」

「でも、この町の情報が少なかった理由はなんとなく分かった気がします」

「隠されていたのね」

わたしは続きを読む。

『だが、我々の作った魔道具を止めることができたが、誰かがクリュナ=ハルクの遺した魔道具を壊せば、あれが再度、動く可能性がある』

『生き残ったわたしは、クリュナ=ハルクの思いを受け継ぎ、クリュナ=ハルクの魔道具を守るため、誰もいなくなった町に一人で残ることにした』

『まず、町に残っていた魔道具は全て処分した。町に魔道具がなにも残っていなければ、魔道具を盗みに来たものは早々に諦めて、帰るだろう』

「だから、町に魔道具がなかったのね」

「それなら、甲冑騎士を作らなくてもいいと思うんだけど」

『魔道具は処分できたが、クリュナ=ハルクの魔道具は破棄できない。これだけは守らないといけない』

『問題はわたしが亡くなったあとだ。年月が経てば、人の記憶は薄れていく。この町のことが薄れていくのはいいことだ。だが、それでも、この町にやってくる者はいるだろう』

わたしとフィナ、カガリさん、それから、くまゆるとくまきゅうが、ミアとキャロルのほうを見る。

「なによ」

「いや、このノートを書いた者は先見の明があったと思ってな」

『わたしがいなくなったあと、この町を守らせる存在が必要だ。わたしは魔道具研究者。クリュナ=ハルクの遺した魔道具を守るために甲冑騎士を作ることにした』

『だが、研究は初めから困難を極めた。クリュナ=ハルクの魔道具は町にある魔道具を全て止めるものだった。まず、研究室で灯りを点けようとしたが、クリュナ=ハルクの魔道具によって、魔石は光らない。光だけではない、あらゆる魔道具が使えない』

『だから、わたしは町の外で研究しながら、護衛の甲冑騎士の研究をした』

「あの甲冑騎士を作ったということは、優秀な魔道具の研究者じゃったみたいじゃのう」

『でも、わたしが生涯を通して作った甲冑騎士は町の中では役立たずだった。どうやっても、町の中では動かない』

「それなら、町の外に置いておけばいいんじゃない?」

「置いてあったわよ。町に入るときに、町の周辺を確認したとき、破壊されている甲冑騎士もあったから」

わたしの疑問にミアが教えてくれる。

「たぶん、昔に、この町に来た人が倒したんだと思います」

「だから、お爺ちゃんは、町の中に入れたんだね。お爺ちゃんじゃ、絶対に甲冑騎士なんて倒せないからね」

そんなに自慢気にお爺ちゃんのことを言っても、自慢になっていないことを分かっているのかな。

『クリュナ=ハルク本人に、魔道具について詳しく聞けば、町の中でも甲冑騎士を動かせるかもしれないが、それは叶わぬ願いだった』

『わたしは研究をしながらクリュナ=ハルクが現れるのを待ったが、いくら待っても現れることはなかった』

『自分でやるしかない』

『ダメだ、失敗した』

『動かない』

『ダメだ、失敗した』

『やっぱり動かない』

しばらく、ノートには「失敗」と「動かない」って言葉が続き、苦悩の言葉が書かれていた。

わたしはパラパラとノートを捲る。

『クリュナ=ハルクの遺した魔道具を研究して、どうにか穴を見つけることができた』

『狭い範囲だが、甲冑騎士を動かすことができるようになった』

「だから、一定の場所から離れると、元の場所に戻っていくわけか」

『これで、わたしの役目は終わった』

あとは、大量に動く甲冑騎士を作ったことが書かれていた。

もしかすると、町の中にいる甲冑騎士の近くには、クリュナ=ハルクの魔道具があるのかもしれない。

そう考えると、この部屋の前に甲冑騎士を置いていたことといい、この研究者はバカだったのかもしれない。

天才とバカは紙一重って言うし。

『このノートを処分することも考えたが、最後にこの場所まで辿り着いた者に、このノートを遺すことにする』

『もし、このノートを読んでいる者がいたら、わたしの最後の願いと思って、黙ってヘシュラーグから立ち去ってほしい』

そして、最後に名前が書かれていた。

『魔道具研究者 ガビー』

このあとのページは全て白紙だった。

「つまり、クリュナ=ハルクが作った魔道具があるの? もし、見つけたら大発見よ」

「でも、クリュナ=ハルクの魔道具を止めたら危ないんでしょう?」

「だけど、クリュナ=ハルクの作った魔道具よ。見つけたら、大金持ちよ」

「そうだけど」

そういえば、シアの話で、クリュナ=ハルクの魔道具は高く取引されていると聞いた覚えがある。

「いや、ここはノートの言う通りに引き返したほうがいいじゃろう」

「わたしも、カガリさんの言葉に賛成」

この手のことに首を突っ込んでもいいことはない。

こういう場合、ミアみたいなバカな子がドジを踏んで、大変なことになるのが定番だ。

「でも、お宝が」

「ミアちゃん、帰ろう」

「うぅ」

ミアは悩みだす。

「それじゃ、クリュナ=ハルクの魔道具は諦めるから、他の部屋を調べるぐらいいいでしょう。せっかく、ここまで来たんだから」

「じゃが、この研究者によって処分されているかもしれぬぞ」

「この地下室にある他の部屋だけよ。もしかすると、残っているかもしれないでしょう」

ミアもここまで来て、手ぶらで帰りたくないのだろう。

他の部屋に何もなければ、ミアも諦めるはずだ。

それにクリュナ=ハルクの魔道具を止めなければいいだけだ。

「それじゃ、他の部屋を確認したら、町を出るってことでいい?」

「いいわよ」

話は纏まる。

「そういえば、もう一冊あったわね。そっちに、なにか書いていないの?」

横に置いておいたもう一冊のノートをミアが手にして、パラパラと捲る。でも、反応がない。

「こっちは、白紙みたいね」

ミアがわたしに返してくれる。

たしかに、表紙にはなにも書かれていない。

だけど、うっすらとノートの表紙に文字が浮かんでくる。

ミアが手にしているときには書かれていなかったが、わたしが手に持った瞬間、ノートの表紙に文字が浮かんだ。