軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

587 クマさん、フィナにプレゼントする 和の国編 その3 カガリ視点

クマの扉の先は森が広がっていた。

話に聞いていたが、本当に別の場所だ。扉を開けば違う場所に移動する魔道具を持っていて、あの実力。本当に謎の 女子(おなご) じゃ。

ただ、残念なのは、クマの格好をしていることじゃ。あれが狐だったら、なにも言うことはなかった。

今度、嬢ちゃんには狐の格好でもさせるか。きっと、クマより似合うはずじゃ。

「それじゃ、行くか。村はここから、少し離れている」

妾が考え事をしていると、ムムルートが歩き出すので、妾もついていく。

息を吸う。

妾がいた島と空気が違う。

何かが足りないと思ったが、すぐに思い至った。

海の匂いがしない。

本当に違う場所に来たのだと感じる。

嫌とかでなく、不思議な気持ちになる。

それによく見ると、妾がいた島の草木と、ここの草木が違うことが分かる。それだけでも面白い。

「言っておくが、本当になにもない村じゃからな。文句を言ったら、帰ってもらうぞ」

「何度も言わなくても分かっておる。妾がいた島もなにもなかったんじゃから、そのぐらいで文句は言わん」

妾がいた島には何もなかった。店があるわけもなく、珍しいものもなかった。

「そうだったな」

「だから、森は嫌いではない。それに、何も無いといっても、お主たちエルフが住んでいるんじゃろう?」

一人で島にいたことを考えれば、人が暮らしているだけでも、妾がいた島とは違う。

世話役がいたが、それだって一緒に住んでいるわけでも、毎日来るわけでもない。

妾が、そう頼んだからじゃ。

人の成長は早い。あっという間に歳を取り、世話役は変わっていく。寂しい気持ちになるので、なるべく人は近寄らせないようにしていた。

「そりゃ、村ぐらいはある」

「それだけでも十分じゃ」

「とりあえず、村には案内するが、変なことは言うんじゃないぞ」

「分かっておる」

一応、ムムルートの客人扱いだが、クマの嬢ちゃんの知り合いともなっている。

その説明で、村の住民は大概は納得するらしい。

本当に、謎の嬢ちゃんじゃ。

妾は周りの森を眺めながら、村にやってくる。

「おお、結構いるのう」

村の中に入ると、思ったよりも広く、多くの人が住んでいる。全員、長寿のエルフだというのだから、驚きだ。

そして、目を引き付けるのは着ている服装や建っている家だ。

やはり、和の国とは何もかもが違う。興味を惹かれるものばかりだ。

服装はこっちのほうがゆったりしていて、楽そうだ。

説明が難しいが、家の形も違う。なんというか。和の国のような、大きい家がほとんどない。和の国は高い建物や、横に長い平屋が多いが、この村に建っている家はどれも和の国とは違う。

妾がキョロキョロと周りを見ていると、子供がやってくる。

「長だ〜おかえり~」

「わしがいなかった間、なにもなかったか?」

ムムルートは子供を抱きかかえる。

「なにもないよ〜」

子供は嬉しそうに答える。ムムルートは子供を地面に下ろし、頭を撫でる。

そして、子供が妾のほうを見る。

「こっちの女の子は誰?」

「妾はカガリじゃ。ムムルートの知人じゃよ」

「しばらく、村にいると思うが、怪しくないから、気にしないでくれと伝えておいてくれ」

「うん!」

子供は頷くと、行ってしまう。

それから、ムムルートはすれ違う村人から挨拶をされ、妾が客人であることを伝える。

格好についても尋ねられると、クマの嬢ちゃんの知人だと言うと、納得して去っていく。

妾の格好が、あのクマの格好と同じように認識をされるのは心外じゃが、詳しく説明せずに済むので、反論はしなかった。

「それにしても、慕われているのう」

皆、ムムルートを見ると挨拶をしてくる。

「しばらく、村にいなかったせいじゃろう」

「お主、どこかに行っていたのか?」

「クマの嬢ちゃんの、あの扉を使って、少し村を離れていた」

てっきり、ここから妾のところに来たものだと思っていたが、違ったらしい。

「あの扉は、本当に不思議な扉じゃのう」

「そのおかげで、カガリと再会できたし、助けることができた。そして、思い出の場所に行くこともできた。本当にクマの嬢ちゃんには感謝の言葉しかない」

「たしかに、あの扉がなければ、妾たちが再会することもなかった。大蛇を倒すことができたのは、クマの嬢ちゃんの力のおかげじゃが、ムムルートが大蛇を抑え込んでくれたことも大きい。ムムルートが助けに来なければ、倒せなかったかもしれなかった」

大蛇の封印のため島に残っていた妾を解放し、今回もムムルートの村に来させてもらった。

クマの嬢ちゃんには感謝の言葉もない。

だが、狐のほうが可愛いのだけは譲れん。

そして、ムムルートと村の中を歩き、家の前で止まる。周りの家より、一回り大きい。

「ここがわしの家じゃ」

家の中に入ると、女性が出迎えてくれる。

「あら、可愛いお嬢さんを連れて戻ったのね」

女性が妾のことを見る。ムムルートは妻だと紹介してくれる。

なので、挨拶をする。

「カガリじゃ、クマの嬢ちゃんが来るまで、しばらく世話になる」

「わたしはベーナ。カガリちゃん、よろしくね。クマの嬢ちゃんって、ユナさんのことかしら?」

「そうじゃ、この村にお主の孫娘と戻ってくるはずじゃ」

そういえば、いつ戻るか聞いていなかったことを思い出す。

まあ、数日は大丈夫じゃろう。

「それで、どうして、カガリちゃんがムムルートと村に?」

「昔にムムルートに世話になった。それで、クマの嬢ちゃんが戻ってくるまで、村を見学させてもらうことになった」

「昔?」

「こんな姿をしておるが、お主たちエルフ同様に、数百年生きている」

妾の言葉にベーナは驚いた表情をして、ムムルートを見る。

「本当じゃ」

「簡単に信用できぬかもしれぬが、大人にもなれる。今は、この服のせいでできぬが、見せてほしいと言うなら、あとで見せられる」

だから、大人服でよかったものを、サクラが着替えさせるから、面倒なことになる。

「あら、それじゃ、昔のムムルートを知っているのかしら?」

「知っておるといっても、ムムルートが妾の国にほんの少しいた間だけじゃ」

ムムルートが国にいた滞在期間は短い。だから、妾が知っているムムルートのことは少ない。

「それじゃ、お茶を用意しますから、お話を聞かせてもらえるかしら」

「できれば、お酒が良いんじゃが」

妾の言葉にベーナは驚く。

「そうね。本当の姿を見せてくれたら、出してあげますね」

ベーナは妾の頭を撫でて、子供をあやすように言う。

どうやら、妾とムムルートの言葉を信じていなかったらしい。

もしかすると、昔って言葉も一年前とか思っているかもしれぬ。

「ムムルート、お主の妻は妾のことを信じていないみたいじゃぞ」

「仕方ないじゃろう。さすがのエルフも大人になったり、子供になったりはできぬからな」

そう言われると、反論もできない。

妾も自分以外で、そんなことができる者は見たことがない。

「ベーナと言ったな。それじゃ、今から証明するから、しっかり見るんじゃぞ」

面倒だが、大人になれるところを見せれば酒が飲めるので、邪魔な服を脱いで証明しようと服に手をかけると、ムムルートが止める。

「わしがいる前で脱ぐな。ベーナ、すまないが、カガリに付き合ってやってくれ」

ムムルートは妾の頭の上にポンと手を置く。

「わしは、ルイミンがクマの嬢ちゃんと少し遅れて帰ってくることをタリアに伝えてくる」

ムムルートはそれだけ言うと、家から出ていってしまう。

ベーナによると、タリアとは、ムムルートの息子の嫁の名前だと教えてくれる。

あの孫娘のルイミンの母親らしい。

あらためてムムルートの子供と孫の話を聞かされると、長い年月が経ったんだと思い知らされる。

そして、妾がベーナの前で、大人の姿になってやったら驚いていた。

どうやら、何百年と生きていることも信じていなかったらしい。だが、信じてもらうことができ、無事に酒を頂けることになった。

「いきなり、大きくなるから驚いたわ」

「少し前に、生死を賭けた戦いがあってのう。そのときの後遺症なのか、あの姿に戻ると疲れるのじゃ」

「でも、子供にお酒を飲ませているようで、気が引けるわ」

ベーナはそんなことを言うが、ちゃんと酒を出してくれた。

「なりは子供じゃが、中身はれっきとした大人じゃから安心せよ」

妾はお酒を飲む。

和の国のお酒と味は違うが、これも美味しい。

この村に住むようになっても、酒には不自由しないで済みそうだ。

それから、帰ってきたムムルートとベーナの三人で昼間から過去のムムルートの話を肴にしながら酒を飲んだ。

村の見学は、明日じゃ。