軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

572 クマさん、フィナにプレゼントする 王都編 その1

クマの転移門を通って、王都にやってくる。

ムムルートさんとルイミンは不思議そうに、クマハウスの中とエルフの森を交互に見ている。

そんな扉を閉め、くまゆるとくまきゅうを送還する。シュリとルイミンが残念そうにするが、さすがに王都の中を一緒に連れていくことはできない。

そして、わたしたちはクマハウスの外に出る。

「本当に王都なんじゃな」

ムムルートさんは不思議そうに、大きくそびえ立つお城を見ている。

そして、後ろを見る。

「嬢ちゃんは、どこに行っても、クマの嬢ちゃんなんじゃな」

クマハウスを見ながら、しみじみと言う。

「ねえ、フィナちゃん。やっぱり、フィナちゃんたちが住んでいる街にあるユナさんの家もクマさんなの?」

「はい。クマさんです」

「かわいいくまさんだよ」

「ユナさんって、本当にクマが好きなんですね」

そんなにはっきりと言われると否定したくなるが、クマさんパペットを見ると、先ほど送還したくまゆるとくまきゅうの顔が浮かぶので否定はできない。

だから、わたしの返答は、

「クマが好きで悪い?」

「そんなことはないです。わたしもクマは大好きです」

「わたしも、クマさん大好きだよ」

「はい、わたしもです」

ルイミンが言うと、シュリ、フィナまでもが同意する。

「言っておくけど、くまゆるとくまきゅう以外のクマに出会ったら、近寄ったり、触ろうとしたりしたらダメだからね」

あらためて、ここで熊の認識を修正しておく。

熊は危険な動物だ。うかつに近寄れば、命に関わる。

「村に現れるクマさんはいい子ですよ」

ああ、そういえば、そんなことを言っていたね。会ったことはないけど。

でも、そんな熊は滅多にいない。

「ハチミツの木にいた熊さんは優しかったですよ」

フィナまで、そんなことを言い出す。

確かに、ハチミツの木にいた熊は良い熊だった。

熊が危険だという材料が少なすぎる。逆に、クマが危険じゃない証拠のほうが多い。

もしかして、この世界の熊って、危険ではない?

もし、そうだとしても、全ての熊がそうだとは限らない。

「とにかく、ダメだからね。サーニャさんのところに行くよ」

話を打ち切ると、わたしは冒険者ギルドに向かって歩き出す。

「みんな、見ています」

ルイミンが周りを見ながら、口にする。

「きっと、ルイミンが可愛いからだよ」

「違うと思います」

ルイミンが否定する。

「それじゃ、フィナとシュリが可愛いからだね」

「それも違うと思います」

「わたしも、違うと思うよ」

フィナとシュリも否定する。

「それじゃ、ムムルートさんを見ているんだね」

「いや、絶対に違うと思うぞ」

全否定された。

「だって、みんな『くま?』『クマ?』『熊?』『ベアー?』『くまさん?』『クマさん?』と言って、こちらを見ていますよ」

ちゃんと、聞こえているから、分かっているよ。

ただ、現実逃避したかっただけだよ。

クリモニアでは、街を歩いていても驚かれることは少なくなったが、あまり来ない王都では、未だにクマの格好は視線を集める。

せめてもの救いは囲まれないことだ。

わたしはクマさんフードを深く被って顔を隠し、少し急いで冒険者ギルドに向かう。

そして、どうにか囲まれることもなく、無事に冒険者ギルドに到着する。

「冒険者ギルドか、ここも変わっていないな」

変わっていないって、ムムルートさんが来たのは何年前なんだろう?

そんなことを考えながら、冒険者ギルドの建物の中に入る。

「人が多いです」

「混んでいるね」

早朝ってこともあって、依頼を探す冒険者や、受付をする冒険者が多い。そのおかげで、わたしが冒険者ギルドに入ってきても、誰も入り口に目を向ける者はいない。

「さて、どうしようか」

勝手に、奥に行ってサーニャさんに会いに行くわけにもいかない。

受付に並ぶにしても時間がかかりそうだ。受付のほうに目を向けると、偶然に受付嬢と目が合う。

「クマさん!?」

受付嬢が口にすると、その声を聞いた冒険者たちの一部が反応する。

「くまだ」「クマが来たぞ」「あのクマは」「ブラッディベアー!」「あら、可愛い」「なんだ、あの格好は?」

わたしのことを知る者と、知らない者で、反応が分かれる。

このままだと、面倒ごとになりそうなので、その受付嬢に話しかける。

「サーニャさんに会いたいんだけど、会える? 妹さんとお爺ちゃんが来たって言ってくれれば、分かってくれると思うんだけど」

その言葉で、さらに冒険者が反応する。

「ギルマスのお爺ちゃんに妹だと」

「あら、ギルマスに似ずに、可愛い妹ね」

「でも、ギルマスみたいに美人になるんじゃないか」

言いたい放題だ。

サーニャさんの耳に入ったら殺されるよ。

受付嬢はわたしの後ろにいるムムルートさんとルイミンに目を向けると、立ち上がる。

「ギルマスの御家族の方ですか、少々お待ちください!」

受付嬢は奥の部屋に向かって走りだす。

見事に横入りに成功した。まあ、呼んできてもらうだけだから、いいよね?

それに、早く呼んできてもらわないと、大変なことになりそうだ。

そんな心配もなく、受付嬢が奥に行ったと思ったら、すぐにサーニャさんが慌てるように、奥からやってきた。

「お爺ちゃん、それにルイミンも」

「お姉ちゃん!」

ルイミンは嬉しそうにサーニャさんに抱きつく。

「どうして、ここに?」

「嬢ちゃんに連れてきてもらった」

「ユナちゃんに? ああ」

なにかを納得した表情をする。

「とりあえずここじゃ目立つから、わたしの部屋に行きましょう」

それには同意だ。わたしの格好で注目を集め、さらにギルドマスターの身内の登場でさらに注目を集めている。

そんな冒険者たちを、サーニャさんは睨みつける。

「あなたたち、さっさと仕事に行きなさい。さもないと、後悔することになるわよ」

サーニャさんは、ニヤリと嫌な笑みを浮かべる。

その瞬間、冒険者たちは慌ただしく動き出す。

動き出す冒険者を見て、サーニャさんは満足したのか笑みを浮かべる。

「それじゃ、みんなはこっちに来て」

サーニャさんは何事もなかったように、わたしたちを奥の部屋に招いてくれる。

「それで、いきなりやってきたの?」

わたしはフィナの誕生日プレゼントで、クマの転移門を使ってエルフの村に行ったことを説明した。

「えっと、フィナちゃん。誕生日だったの?」

「はい」

「おめでとう」

「ありがとうございます」

「それと、お爺ちゃんとルイミンが王都に来た理由は?」

「前に、ムムルートさんに少しお世話になったから、そのお礼に久しぶりにサーニャさんに会わせてあげようと思って」

他にも和の国やデゼルトの街に連れていく予定だ。

「久しぶりに会わせようって、この前会ったばかりでしょう。まだ、あれから一年どころか、半年も経っていないわよ」

これだから、エルフは。

溜め息しかでない。

エルフにとって、久しぶりに会うって、何年ぐらいのことを言うのかな?

「お姉ちゃん、迷惑だった?」

ルイミンの言葉にサーニャさんは首を横に振る。

「そんなことはないわ。会えて嬉しいわ。もちろんお爺ちゃんもね」

サーニャさんにとっては、ムムルートさんがおまけみたいになっているが、どちらかというと今回はルイミンのほうがおまけだ。

「しっかり仕事をしているようじゃな」

「もちろん、しているわよ。だから、エルフの村にはまだ帰らないわよ」

「分かっている」

三人は神聖樹の事件以来に話をする。

久しぶりに会う三人の邪魔になってもいけないので、わたしたちは部屋を出ることにする。

「それじゃ、わたしはフィナとシュリを連れて王都見物に行くから、ムムルートさんとルイミンはサーニャさんと楽しんで」

「お姉ちゃん。仕事、大丈夫なの?」

ルイミンは机の上にある紙を見る。

仕事なのかもしれない。

「二人が来てくれたんだから、時間ぐらい作るわ。午前中ぐらいは一緒にいられるわ」

その言葉にルイミンは嬉しそうにする。

「ユナちゃん、二人を連れてきてくれてありがとうね」

サーニャさんに嬉しそうにお礼を言われる。

喜んでもらえたなら、連れてきて良かったと思う。

わたしとフィナとシュリは部屋を出て、受付の場所に戻る。

先ほどのサーニャさんの言葉があったせいか、冒険者の数が減っている。

流石、ギルドマスターだ。

このまま、冒険者ギルドを出ようとすると、黒い防具を付けた大きな体をした冒険者がわたしの前に立ち、歩く道を塞ぐ。

「ユナお姉ちゃん」

「ユナ姉ちゃん」

左右にいたフィナと、シュリがわたしのクマ服を掴む。

わたしはとっさに、二人を守ろうとする。

「やっぱり、嬢ちゃんか」

男は笑う。

「あなたは」

この男を知っている。

「えっと、砂漠のときの……ほら、ジェイドさんと一緒に……う、う……」

顔は覚えている。

でも、喉まで出かかっているけど、名前が出てこない。

カリーナを振り払った男。一緒にサンドワームを討伐した男。

「ウ、ウ…」

それしか、でない。

「ウラガンだ」

「そう、ウラガン」

デゼルトの街で、ピラミッドまで一緒に行ってくれた冒険者だ。

「久しぶりだな」

「そうだね。わたしは、滅多に王都には来ないからね」

だから、ウラガンと会うのも、デゼルトの街以来だ。

「ユナお姉ちゃん?」

いきなり話し合うわたしたちに、フィナが疑問の声をあげる。

「ああ、大丈夫だよ。怖い顔をしているけど怖くないから」

自分で言っていて、凄く矛盾をしている。わたしが言いたいのは、暴力を振るうような相手ではないってことだ。

「もしかして、さっきもいたの?」

「ここの上の階にいた。仲間がたまたまここにいて、嬢ちゃんが来たことを教えてくれた」

それって、ブラッディベアーと口にする男?

そういえば、さっき、ブラッディベアーって、言葉が聞こえたような気がする。

「それで、わざわざ会いに来てくれたの?」

「一応、礼を言おうと思ってな」

「礼?」

ウラガンにお礼を言われるようなこと、あったっけ?