軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

568 クマさん、魔法を教える その4

「ふふ、クマさんがたくさんです」

ノアは庭に並べられた小さなクマを見て、ご満悦だ。

「でも、表情が微妙です。ユナさんのクマさんは可愛いのに」

ノアは自分で作ったクマとわたしが作ったクマを見比べている。

「そんなことはないと思うよ。ノアが作ったクマも可愛いよ」

「でも、やっぱり、ユナさんのクマさんのほうが可愛いです。フィナもそう思いますよね?」

ノアは両方のクマをフィナに見せる。

「えっと、たしかにユナお姉ちゃんのクマのほうが少しだけ可愛い顔をしているかも」

フィナもクマを見比べて、素直な感想をもらす。以前までだったら、そんなことは言わなかった気がするけど、それだけ、ノアと親しくなったってことだろう。

「細かいところまでイメージができていないからかな?」

わたしの場合、そこまでイメージはしていない。たぶんだけど、そのときの感情でクマの表情になっている気がする。可愛いクマと思えば、可愛いクマになるし、怒っているクマとイメージをすると怒っているクマになる。

そのあたりは、クマ装備の恩恵なのかもしれない。

「後、しばらくすると、崩れるのが難点です」

残念ながら、ノアが作ったクマは、翌日には崩れている。

「まだ、強度が弱いのと、魔力が少ないのかもね」

「うぅ、練習あるのみです」

ノアはギュッと手を握り、頑張るポーズをする。

フィナのほうも水を近くなら自在に操ることができるようになった。

範囲は1mぐらいだけど、それ以上になると魔力の関係なのか、イメージが難しいのか、まだ上手にできない。ちなみに、フィナもノアの真似をするように、水でクマを作る練習などもしていた。

「やっぱり、わたしもクマの格好をして、クマを極めないといけませんね」

「クリフに怒られるから、それはやめて」

そんなことをすれば、クリフに間違いなく怒られる。エレローラさんなら、笑うかもしれないけど、恥辱に耐えるのはわたしだけで十分だ。

わたしたちがのんびりと会話をしていると、庭にクリフがやってくる。

「調子はどうだ?」

「お父様、見てください。クマさんをたくさん作りました」

ノアは、本日作ったクマの置物を腕を広げて、クリフに見せる。地面には手の平サイズのクマの形をした土の置物が並んでいる。

「やっぱり、クマになったか……」

クリフが呆れた表情をする。

その気持ちは分かるけど、本人がやる気になっていたから仕方ない。魔法はイメージが大切だ。クマが好きだから魔法を覚えたともいえる。

クリフはしゃがむと、クマを一つ手にする。

「でも、上手にできているな」

「一生懸命に練習しました」

「でも、強度が弱くないか?」

クリフが手に力を込めるとクマが崩れてしまう。それを見たノアが声をあげる。

「お父様、何をするんですか!?」

「いや、硬さを確かめようと思ってな」

「だからといって、潰すなんて酷いです」

ノアは頬を膨らませる。

自然に壊れるのと、人によって壊されるのでは、気持ち的に後者の方が不快に思うから、仕方ない。前者は諦めがつくが、後者は壊れなかったかもという気持ちが残る。

「なら、もっと、壊れないように作らないとな」

「いつか、絶対に壊れないクマさんを作ってみせます」

ノアは拳を握りしめ、宣言する。

いつかは庭がクマだらけになりそうだけど、わたしのせいではないと言いたい。

「しかし、思ったよりも早く、魔法を覚えることができたな」

「ユナさんの教え方が良かったんです」

クマの光魔法のことも、すでにクリフは知っている。

そのときも呆れていた。でも、いろいろな色を作り出したり、クマの形を作れることには驚いていた。

「才能がある者は他人に教えるのが下手とは聞いていたが、そんなことはなかったようだな」

「才能?」

「おまえさんほどの、才能がある魔法使いはそうはいない」

それはわたしの才能でなく、神様からもらったクマ装備のおかげだ。才能があるのは魔法をこんなに早く覚えることができたノアとフィナだ。

「それで、他の魔法はどうだ?」

クリフはノアに尋ねる。

「まだ、変化させるだけです」

「やってみせてくれ」

「うぅ、分かりました。でも、笑わないでくださいね」

ノアは土魔法以外の魔法をクリフに見せる。

火は少し燃え上がるぐらいで、水は手から溢れ落ちるぐらい。風は髪を靡かせるぐらいだ。

学生たちの交流会に比べれば、足元にも及ばない。まだ、本格的に教えていないって理由もある。フィナを含め、ノアの成長はこれからだ。

でも、そんなノアの魔法を見て、クリフは微笑みながら、ノアを褒める。

「今は、それだけできれば十分だ。後は自分で学んでいくしかない。魔力の集め方、イメージの仕方は、基本的なことは教えることができる。でも、その先は自分の魔力と好みで変わってくる。ゆっくりでいい。自分が好きな魔法を学んでいきなさい」

クリフはノアにそう言うと、わたしのほうを見る。

「ユナ、今日まで感謝する。ノアも魔法を分かってきただろう。後は、ゆっくりと学ばせていく」

「いいの?」

「魔法だけに時間を取らせるわけにはいかない。ノアにも言ってあった。基本的なことだけ学んだら、他の勉強もするようにと」

どうやら、魔法の練習のために、他のことが疎かになっていたみたいだ。

「うぅ、残念です。もっと、ユナさんから魔法を教わりたかったです」

「他の勉強が疎かになるからね。魔法もほどほどにしないと」

魔法だけが勉強ではない。

「はい、分かっています」

それに個人的に、他の魔法はあまり教えたくないって気持ちもある。

後は危険な魔法ばかりだ。火にしても、風にしても、強くなれば相手を焼き殺し、切り裂くことになる。教えるにしても、それはわたしの領分ではないと思う。

もちろん、どの魔法も使い方次第だけど、危険なことには変わりない。

もし、この後に必要になれば、覚えればいい。

それが学園に行ってからなのか、もっと早くなのかは分からないけど。

きっと、クリフとエレローラさんが判断すると思う。

もし、あらためて教えてほしいと言われれば、教えてあげるつもりはある。

「ユナさん、今日までありがとうございました」

「どういたしまして」

「フィナ、一緒に魔法の練習ができて楽しかったです。また、一緒に練習をしましょうね。そのときは、わたしも水の魔法を、もっと使えるようになっておきます」

「はい。わたしもノア様と一緒に練習できて楽しかったです。わたしも土魔法で、クマさんを作る練習をします」

「一緒に、クマさんをたくさん作りましょう」

「はい」

二人は手を取り合って、約束をする。

微笑ましい光景だ。

久しぶりに魔物とも戦わず、のんびりライフをおくれた。ここ最近、いろいろと面倒ごとに巻き込まれていたからね。たまには、こうやって、フィナとノアとのんびりするのは楽しかった。

その日の夜、フィナを家に送り届けると、ティルミナさんに食事を誘われる。フィナに魔法を教えてくれたお礼だそうだ。

たまに、ご馳走になっているので、素直に厚意を受け取る。

「ユナちゃん、フィナに魔法を教えてくれてありがとうね」

「このぐらい、フィナから貰った恩に比べれば、大したことじゃないよ」

フィナには、この世界に来てから、いろいろとお世話になっている。このぐらいなんともない。

「わたし、ユナお姉ちゃんに助けてもらってばかりだよ」

「そんなことはないよ。フィナがいたおかげで、いろいろと助かっているんだから」

フィナがいなかったら、この世界で楽しく暮らしていたか、分かったものじゃない。引き籠っていた可能性もある。フィナと出会ったからこそ、今がある。

「それで、フィナはどのくらい魔法を覚えたんだ?」

ゲンツさんが尋ねる。

「フィナに魔法を見せてもらっているんじゃないの?」

「ユナお姉ちゃんが、魔法の練習をした後は、魔法を使っちゃダメって言ったから」

ああ、たしかに、言ったような気がする。フィナはちゃんと約束を守っていたらしい。本当にいい子だ。

「フィナ、見せてあげたら?」

「いいの?」

「疲労感がなければ、大丈夫だよ。魔力を使い過ぎると、疲労感から動けなくなるから気を付けてね」

「そうなんですか?」

「わたしの経験からすると、間違いないよ」

クラーケンを討伐したとき、魔力しか使っていないのに、本当に疲労感が凄かった。

くまゆるとくまきゅうが運んでくれなかったら、あの場で倒れていたかもしれない。

「だから、魔力の使い過ぎだけは気を付けてね」

「うん」

「それとも、一回は自分の限界を知ったほうがいいのかな?」

「ユナちゃん、娘に無理なことはさせないでね」

「冗談ですよ」

半分は本気だったけど、自分の限界を知ることは良いことだ。でも、魔法を覚えたばかりのフィナは、まだやらないほうがいいかもしれない。

食事を終えると、部屋を暗くする。光魔法を見せるためだ。フィナは魔力を集めると、光魔法を使う。

「くまさんだ」

フィナの手のひらの上に、クマの形をした光が浮かぶ。

「別に、クマにしなくてもいいと思うんだけど」

「ノア様と一緒に、クマさんばかり作って練習していたので、イメージがしやすくて」

ああ、それは、わたしが簡単にクマをイメージできるようになったのと一緒だ。わたしもクマばかりイメージしていたら、クマは苦労せずに作れるようになった。

「だけど、もう、こんなに立派な光魔法が使えるようになったのね」

「お姉ちゃん、凄い」

「本当に凄いな。だけど、冒険者になることは、許さないからな」

ゲンツさんは父親らしく、フィナに言う。

それにはわたしも同意だ。

「うん、冒険者にはならないから大丈夫だよ。わたしが冒険者になったら、お母さん、悲しむと思うから」

「フィナ……」

フィナの本当の父親は冒険者で亡くなっている。だから、自分が冒険者になったら、ティルミナさんが心配することは分かっている。

「フィナは優しいね」

わたしは隣にいるフィナの頭を撫でる。

それから、フィナは色とりどりの光を作り出して、みんなを驚かせた。