軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

569 クマさん、誕生日プレゼントを使わせる

「そういえば、フィナ。誕生日にプレゼントした、くまゆるとくまきゅうとのお出かけ券は持っているよね?」

「はい、大切に保管してあります」

「いや、使ってね」

想像していたけど、やっぱりこのままでは、いつまでも保管したままになりそうだ。

なので、強制的に使ってもらうことにする。

「ティルミナさん。フィナを数日間、借りてもいい?」

「ええ、もちろん」

いつもながら、すぐに許可がおりる。

「それじゃ、しばらくフィナをお借りしますね」

「うぅ、また、勝手に決めて」

いや、勝手に決めないと、フィナは遠慮したり、話が進まなかったりするから、仕方ない。

フィナの場合は少しばかり、強引にしたほうがいいことは学んでいる。

「それじゃ、魔法の練習もないし、さっそく明日からくまゆるとくまきゅうとおでかけで決まりだね」

わたしがそう言うと、シュリが羨ましそうに口を開く。

「うぅ、お姉ちゃん、いいな。ユナ姉ちゃんに魔法を教わって、くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんとお出かけ。わたしもユナ姉ちゃんとお出かけしたい」

たしかに、最近はフィナばかりと一緒にいた。シュリにそんな悲しそうな顔をされると、置いていくのもはばかられる。

「シュリ、我儘を言わないの。これはお姉ちゃんの誕生日プレゼントなのよ」

ティルミナさんがシュリを宥める。

「ユナお姉ちゃん、シュリも一緒じゃダメですか?」

「ティルミナさんが許可を出せばいいけど」

わたしがいいと言っても、最終的な許可は親であるティルミナさんになる。

「お母さん……」

フィナがティルミナさんを見ると、ティルミナさんは、シュリのほうを見る。

「ちゃんと良い子にして、ユナちゃんとお姉ちゃんの言うことを聞くって、約束する?」

「うん、するよ」

「二人から離れて、勝手にどっかに行かない?」

「行かないよ」

「お母さん。わたしがしっかり見てるから」

「わたしもシュリのことを見ているよ」

「二人とも、甘いんだから。シュリ、二人に迷惑をかけちゃダメだからね」

「うん!」

無事にティルミナさんの許可もおり、シュリも一緒に行くことなった。

ただ、一人だけ、無表情で聞いている人物がいた。

「どうして、俺には聞かない?」

ゲンツさんが小さい声で呟いているのが聞こえた。

だって、ゲンツさんより、ティルミナさんのほうが立場が上でしょう。とは口が裂けても言えなかった。

そして、翌日。わたしたちはクマの転移門の前に並ぶ。

そこには、くまゆるとくまきゅうもいる。

「それでは、フィナお嬢様、チケットをよろしいでしょうか?」

ちょっと、受付のお姉さんっぽくしてみると、フィナとシュリに笑われる。

「はい、持っています」

フィナは笑いながら、紙を渡してくれる。

わたしが誕生日にプレゼントした、くまゆるとくまきゅうお出かけ券を受け取ると、フィナとシュリをくまゆるに乗せる。一応、くまゆるとくまきゅうとお出かけ券だ。

「ユナお姉ちゃん、どこに行くの?」

「世界一周旅行じゃないけど、今までに行った場所をもう一度、連れていってあげようと思ってね」

それに、フィナが行ったことがない場所もある。

「まずは、エルフの森だよ」

わたしはクマの転移門を開き、エルフの森にクマの転移門を繋げる。

クマの転移門の扉を開けると、そこには、薄緑色の髪をした少し長い耳の少女が笑顔で立っていた。

「ユナさん、待っていました」

「ルイミン。もしかして、待っててくれたの?」

そう、わたしたちの前にはエルフの女の子、ルイミンがいた。

昨日、ルイミンとムムルートさんの予定を聞くために、クマフォンを使ってルイミンに確認をした。それで、予定がないのを確認したわたしは、行く旨をルイミンに伝えた。

「来ると分かっていましたから、迎えに来ました。フィナちゃん、お久しぶりです。それから、シュリちゃんだったよね?」

「ルイミンさん、お久しぶりです」

「うん、ルイミン姉ちゃん」

一回しか会っていないのに、ちゃんと名前を覚えていたらしい。人の名前を忘れがちなわたしからすると偉いと思う。

「それから、くまゆるちゃんにくまきゅうちゃんも、久しぶりです」

ルイミンはくまゆるとくまきゅうの顔を撫でる。くまゆるとくまきゅうも嬉しそうにする。

「ユナさんは相変わらず、クマさんの格好をしているんですね」

まあ、これがわたしの普段着だ。

「まさか、出迎えてくれるとは思わなかったよ」

「早く起きて、ずっと待っていました」

まさか、日の出から待ってないよね?

「でも、ここにクマさんの扉があるとは思いませんでした」

「神聖樹の結界の中だと、どうなるか分からないからね。昨日の夜のうちに移動したんだよ」

ムムルートさんとルイミンの予定を確認したわたしは、昨日の深夜のうちに神聖樹の結界の外にクマの転移門を設置していた。ガイド役としては、前準備はちゃんとしないとね。

「でも、そのおかげで、扉の前で待つことができました」

ルイミンはわたしたちを驚かせることができて、嬉しかったみたいだ。

「フィナちゃん、誕生日おめでとう。今日はわたしが村を案内するね」

「あ、ありがとうございます。ユナお姉ちゃん、話したんですか?」

フィナが恥ずかしそうに、わたしを見る。

クマフォンで会話したとき、フィナの誕生日プレゼントの一つとして、エルフの村に連れていくことをルイミンに話していた。

「そうだけど、ダメだった?」

「恥ずかしいです」

フィナは少し照れた表情をする。でも、嬉しそうだ。

「それじゃ、わたしの村を案内しますね」

ルイミンはくまゆるとくまきゅうに乗りたそうにしていたので、わたしの前に乗せてあげる。

「ふわふわで気持ちいいです」

ルイミンは寝そべるようにくまきゅうに抱きつく。

くまゆるとくまきゅうが歩き出すと、顔を上げる。

「でも、フィナちゃんの誕生日にわたしの村ですか? わたしの村は王都と違って、なにもありませんよ」

何を言っているのかな?

「この村にはルイミンがいるでしょう?」

「……わたしですか?」

「フィナが会いたがっていると思って」

ルイミンとフィナは仲良くしていた。クマフォンで会話もしていた。だから、久しぶりに会わせてあげようと思ったのだ。

「はい、会いたかったです。だから、連れてきてくれたユナお姉ちゃんに感謝です。最高の誕生日プレゼントです」

「わたしも、フィナちゃんに会えて嬉しいです」

仲が良いのはいいことだ。

「それに、この村には風景が良いところもあるでしょう?」

初めて来たときに、滝の近くにクマハウスを建てたことがあった。あの上から見える風景も綺麗だった。

ルイミンにとっては、長く住んでいるのでその綺麗な風景も日常になり、価値が分からないのかもしれない。

都会には都会の美しさ、自然には自然の美しさがある。

「そうですね。綺麗な風景なら、たくさんあります。わたし、案内します」

わたしたちはルイミンの提案で村に行く前に、ルイミンのオススメ観光スポットに行くことになった。

「ムムルートさん、待たせているんじゃないの?」

「お昼までに行けば大丈夫です。それに、ユナさんが村に行ったら、子供たちに囲まれて身動きが取れなくなりますよ」

たしかに、それはあり得るかもしれない。子供たちとは色々と遊んだ。わたしを慕ってくれる子もいたが、くまゆるとくまきゅうが大人気だった。それを考えると、村に行くと、簡単には身動きが取れなくなるかもしれない。

「なので、村に行く前にわたしのオススメの場所に案内しますね」

急遽変更して、わたしたちは移動する。

くまゆるとくまきゅうで移動すれば、時間もそんなに掛からないから大丈夫なはずだ。

「綺麗」

「大きい」

わたしたちの前に、大きく、綺麗な湖が広がる。

「和の国の湖も綺麗でしたが、この湖も綺麗でしょう」

「はい、綺麗です」

水は透き通るほど綺麗で、エルフの湖といわれても、納得がいく神秘的な感じを受ける。

「斧を入れたら、金の斧になりそうだね」

あの湖から斧を持った、綺麗な水の女神が現れそうだ。

「なりませんよ。そんな湖があるんですか?」

「わたしの住んでいた場所のお伽話だよ」

でも、あの話って湖(池)じゃなくて、川だっけ?

わたしはお伽話をしてあげる。

「そんなお伽話があるんですね」

「わたしも知りませんでした」

「まあ、わたしの住んでいた場所限定だからね」

異世界だ。あるわけがない。

でも、異世界だから、女神じゃなくても、水の精霊は出てきそうだ。

「でも、素直な人には幸運がやってくるんですね」

現実は、そんなに甘くない。良い人は騙されやすいともいう。信用して、お金を騙し取られる話は聞く。

でも、フィナたちには現実だけでなく、夢も見てほしいと思う。

「それじゃ、わたし、ユナさんに会えたから良い子なんですね」

「わたしもです」

「わたしも〜」

「なんで、そうなるの?」

「だって、王都でユナさんに会えなかったら、凄く大変なことになっていたと思うんです。ユナさんに会えたことは、最高の幸運です」

「わたしもユナ姉ちゃんに会えて、嬉しいよ」

ルイミンに続いて、シュリまで、そんなことを言う。

「はい、わたしもユナお姉ちゃんに会えてよかったです。もし、ユナお姉ちゃんに会えなかったら、わたし死んでいました。そして、お母さんも。シュリが一人だけになっていました」

たしかにそうだけど。あらためて言われると、恥ずかしいものがある。

わたしがいなかったら、フィナは死んでいたかもしれないって言葉が、一番重い。

わたしが、この世界に連れてこられたとき、何も考えずに進んだ方向に、フィナがいた。その初めの一歩が、フィナを救うことになり、わたしがこの世界で暮らす起点となった。

もし、反対方向に歩いていたら、別の人に出会い、別の異世界ライフがあったかもしれない。別の誰かを助け、その者といたかもしれない。今では考えられないことだ。

それが良いことなのか、悪いことなのかは分からない。

でも、一つだけ言えることがある。

「わたしも、フィナ、シュリ、ルイミンに出会えたことは幸運だったよ」

今の幸せがあるのは、事実だ。

別の幸せや楽しさがあったとしても、わたしは今に満足している。