軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

550 クマさん、逃げられる

わたしが先頭を走り、くまゆるが後をついてくる。

それにしても面倒くさいところに隠れたものだ。足元も悪いし、草木が邪魔をして進み難い。だからこそ、こんなところに隠れたともいえる。探知スキルがなかったら、かなり面倒くさいことになるところだった。

見張りの男が教えてくれた方角に進むと、すぐに探知スキルに人の反応が出る。

嘘ではなかったようだ。でも、反応が一つしかない。

わたしは、急いで反応がある場所に向かう。そして、反応があった場所に辿り着くと、古ぼけた小屋があった。その古ぼけた小屋の中に反応が一つ。

そして、小屋に到着するときに、一瞬だけ探知スキル内ギリギリのところに人の反応があったが、わたしが小屋の前で止まったことで、反応は探知スキル外に消えた。

これは完全に逃げられたね。

小屋の中の反応を無視して追いかけるわけにもいかないので、探知スキルの外に逃げた反応は無視することにする。

でも、一人だけ小屋に残っているって、どうしてだろう?

もしかして、人質になっていた人がいて、残されたとか?

それとも、仲間を逃がすために、一人が犠牲になって残ったとか? 「俺が時間を稼ぐから逃げろ」とか?

元の世界じゃありえないけど、この世界なら十分にありえる。

ムムルートさんに、似たようなことを言われたことがある。そうなると、小屋に入った瞬間、襲いかかってくる可能性も考えられる。

さて、どうする?

声をかけて、呼び出すか。それとも、ゆっくりと中に入って捕らえるか。

考えた結果、声をかけることにする。

出てくれば、捕らえればいいだけだし、出てこなければ、気を付けて小屋に入ればいいだけだ。

「わたしは冒険者、もう逃げられないから、出てきなさい」

わたしは反応を待つ。

でも、小屋から出てくる反応はなし。

時間だけが過ぎていく。人質が、口を塞がれ動けない可能性もでてきた。

わたしはゆっくりと小屋に近づき、気を付けながらドアを開ける。でも、反応はない。いきなり襲ってくることもない。

わたしはドアから覗くと、男が縛られているのが見えた。

人質!?

わたしはくまゆるに外の見張りを頼み、小屋の中に入り、縛られている男に近づく。

これは……。

縛られてる男の体の上に紙が置いてある。その紙には、『この男とリーデントという商人の指示で、荷物を奪った。先日奪った綿は置いていく。他の物はリーデントに渡してある。俺たちを捕まえても持っていないことを伝えておく』と書かれていた。

つまり、仲間の盗賊たちが主犯格の男を捕らえて、自分たちは逃げたと。

わたしは男の口を塞いでいる布を取る。

「……クマ」

わたしは紙を男に突き付ける。

「これは事実?」

「う、嘘だ。俺を犯人にして逃げた。逃げたやつらを捕まえろ」

捕まえろと言われても、逃げられた。一人ぐらいなら捕まえることはできるかもしれないけど。完全に後手に回っている。それ以前に、この男の言うことが信じられそうにもない。

「それじゃ、あなたはなに? 関わっていないと?」

「それは……。そうだ。俺はあいつらに捕まっていたんだ。だから、早く縄を解いてくれ」

いかにも、今、思いついたような言い訳をする。

紙に書かれていることを全面的に信用するわけではないが、男の言葉も信じるわけにはいかない。そもそも、両ギルドの話では人が捕まっていることは聞いていない。

「くまゆる!」

分からないときは、脅すにかぎる。

くまゆるを呼ぶと小屋の中に入ってくる。

「クマ!」

男は小屋の中に入ってきたくまゆるに驚く。

「嘘を吐いたら、餌にするから」

「じゅるうう」

本日、二回目となれば、くまゆるの演技にも磨きがかかる。本当に食べようと男に近づく。

「やめろ!」

「それで、これは本当? 嘘と分かったら、後で食べさせるからね」

男は紙とくまゆるを交互に見る。

そして、葛藤したと思うと、重い口を開く。

「……本当だ。だから、そのクマを近づけさせないでくれ」

男はすんなりと白状した。普通に考えれば、冒険者ギルドに引き渡したあと、わたしがそんなことができるわけがないのに。

とりあえず、盗賊の親玉を捕まえたことになるのかな。

あとは盗まれた物の確認だ。

紙に書かれていたことが本当なら、床にある大きな袋には綿が入っていることになる。

わたしは男を放置して、床に置いてある大きな袋を確認する。

紙に書かれていたとおりに、袋の中には綿が入っていた。触ってみると、凄くやわらかい。

きっと、これがわたしが頼んでいた綿だね。

どうやら、ぬいぐるみは作られていなかったようだ。ぬいぐるみから中身を抜き取ることはしないですんでよかった。これで等身大のくまゆるとくまきゅうのぬいぐるみが作れる。

それから、他の布袋も確認するが、全て綿が入っており、他の盗まれた物は入っていなかった。一応、他のところも確認しようとしたとき、小屋の外からわたしを呼ぶ声がする。

「ユナ、いるか?」

「いるよ」

わたしが返事をすると、ジェイドさんたちが小屋の中に入ってくる。

「どういう状況だ?」

わたしは盗賊に逃げられたことと、紙が縛られている男の上にあったことを説明する。

「どうする? 今から、捕まえに行く? 一人ぐらいなら捕まえることができるかもしれないけど」

方角は分かるから、一人ぐらいなら捕まえられると思う。

「いや、他の盗賊を捕まえることができなかったのは残念だが、主犯格の男を捕まえたし、今日のところはいいだろう」

「ごめん。完全にわたしのミスだったよ」

今回ばかりは、わたしの判断ミスだ。

わたしの格好を見て、逃げる人がいるとは思わなかった。

「セニアから話を聞いたが、気にしないでいい」

「そうだ。俺たちも嬢ちゃんの案に乗った。ユナはちゃんと、見張りを捕まえた。捕まえた男はユナのことは知らなかったが、もう一人の見張りがユナのことを知っていただけだ」

ジェイドさんとブリッツが擁護してくれる。

「そうね。今度するときは、普通の格好をすればいいんじゃないかしら?」

「誰も、クマの格好した女の子とは思わない」

メルさんとセニアさんが、そんなことを言う。

「でも、ユナちゃんはそのクマの格好が一番似合っているよ」

「ユナはクマの格好が一番」

ローザさんとランはクマの格好を褒める。ちなみに、クマの格好が似合っているのは、褒め言葉ではない。

「それにしても、頭が良い奴がいたみたいだな。こうやって盗まれた荷物があれば、追いかけてこないと判断したんだろう。アイテム袋まで壊して、持っていっていないことを証明している」

たくさん入るアイテム袋は価値がある。それを何個も盗賊が持っているとは思えない。

「それと、主犯格の男も捕らえている。俺たちが追いかけてこないように、理由を増やしている」

「普通は荷物を奪ったら、顔を見られたことを考慮して、殺すんだが、殺しもしていない。殺しをしていれば、一人でも捕まえないといけない気持ちになるが、殺しがされていないと、俺は逃しても問題はないと考えている自分がいる」

「それも考えて、殺しをしなかったのかもしれないな」

「そこまで周到なら、誰かを捕まえても、その男を捕まえることはできないだろう」

ジェイドさんとブリッツがお互いに考えを言い合う。

「それに、その男より、紙のことが本当なら、主犯格の商人が捕まえられるかどうかのほうが、大きな問題だ」

ジェイドさんは男を立たせる。

「そうなると、この男をこのままクリモニアに連れていくのは得策じゃないな」

ジェイドさんの言葉にブリッツが縛られている男を見ながら答える。

「クリモニアに連れていけば、この男の知り合いがいれば、捕まったことが広まるだろう。そうなれば、そのリーデントという商人の耳に入るかもしれない」

「ねえ、あなた。そのリーデントという商人ってどこの街にいるのかしら?」

クリモニアかシーリンの街にいる可能性が高い。でも、頭が良い商人なら、その危険性を考慮して、遠くの離れた場所で盗賊をさせることも考えられる。

A国で盗んで、B国で売ったほうが足が付きにくいのと一緒だ。

「……」

メルさんの質問に男は口は開かない。

「黙っていると、目をくり抜く」

セニアさんがナイフを男の前でチラかせる。

「……シーリンの街にいる」

シーリンの街っていうと、ミサの父親が治める街だ。前までグランのお爺ちゃんが領主をしていたが、息子に譲った。

「それで、どうする?」

「シーリンの街にこいつの親玉がいるなら、とりあえず、クリモニアに連れていけばいいだろう。それが仕事だし」

ブリッツの言葉にトウヤが答える。

「トウヤ。バカと思っていたけど、ごめん、間違っていた」

セニアさんがため息を吐くように口を開く。

「そうだろう。頭、いいだろう」

「トウヤは大バカだった」

「どうしてだ!」

「商人にはつながりがある。そのリーデントという商人がどれほどの商人か分からないけど、隣の街のクリモニアに知り合いがいてもおかしくはない」

ジェイドさんが分かっていないトウヤに説明する。

「できれば、街に連れていかずに、ギルマスの判断を仰ぎたいな」

「それなら、わたしが行ってくるよ。くまゆるとくまきゅうなら、すぐに戻ってこられるし」

盗賊を逃してしまった失敗を、少しでも取り戻させてもらう。

わたしの言葉に、全員がくまゆるとくまきゅうに視線を向ける。

「そうだな。この中では、ユナが適任だな。それじゃ、頼む。山の麓にルリーナとギルが、見張りをしていた男と一緒にいるはずだ。今のことを説明しておいてくれ」

ルリーナさんとギルは、見張りをしていた男を連れて山を下りたそうだ。

「ジェイドさんたちは?」

「俺たちは小屋の中と、小屋の周辺を確認してから、ルリーナとギルに合流する」

お互いにやることを決め、行動しようとするが、ジェイドさんが引き止める。

「ユナ、待て。ここにある荷物をユナのアイテム袋に仕舞っておいてくれ。ユナのアイテム袋なら簡単に入るだろう。それにギルマスのところに行くなら、ついでに報告も頼む」

わたしのアイテム袋がたくさん入ることを知っているジェイドさんが頼む。

「ジェイドさんの持っているアイテム袋じゃ、入らないの?」

「入るが、他に盗んだ物がないとも言い切れない。もしものことを考えたら、アイテム袋は空けておいたほうがいいからな。それにこの綿はユナが頼んだものだろう」

この綿を取り戻すために、今回の盗賊討伐に参加した。

わたしは綿が入った袋をクマボックスに仕舞うと、あらためて、くまゆるとくまきゅうと一緒に山を下りる。