軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

549 クマさん、隠れ家に向かう

わたしとセニアさんは、ゆっくりと山に入っていく。反応は動かない。やっぱり、クマの格好したわたしを危険性はないと思って、報告には行かないようだ。くまゆるがいるから、少し心配だったけど。クマに乗ったクマの格好した女の子が、自分たちを捕らえに来たとは普通は思わない。

たまに役に立つ、クマ装備だ。

「くぅ~ん」

「くまゆる、なんて言っているの?」

「動かないみたい」

「それじゃ、早く捕まえに行こう」

わたしたちは木々を利用して、死角になるように移動して、見張りをしていたと思われる男を、苦労もせず捕まえることができた。予定通りだ。

「くそ、離せ!」

見張り役の男は、セニアさんに手早くロープで縛りあげられ、地面に転がっている。

「大人しくしないと、クマの餌にするよ」

わたしがくまゆるに視線を向けると、演技派のくまゆるが、よだれを垂らしながら男に近づく。クマの格好したわたしや、セニアさんみたいに可愛い女性が問い詰めるより、猛獣であるくまゆるが脅迫したほうが効果的だ。これは、過去の経験から検証済みだ。

くまゆるは倒れている男の顔の上によだれを垂らす。

「待て! 俺を食っても、美味しくないぞ」

「じゅるうう」

くまゆるが大きな口を開く。

「食べてみないと分からないって」

「待て! なんでも話すからやめてくれ!」

男はあっさりと降伏する。

「最近現れた盗賊の仲間だよね?」

「…………」

「くまゆる」

わたしが声をかけると、くまゆるが大きく口を開く。

「そ、そうだ。でも、俺は見張りをしてただけだ。奪うのには、手は貸していない」

それは、わたしが判断することではない。

「他に見張りは? 他の仲間の場所は? 嘘が一つでもあったら、後でクマの餌にするから、本当のことを話してね」

男は強張った表情で話し始める。

「……見張りはもう一人いたが、クマの格好した嬢ちゃんを見て、急いで仲間のところに向かった」

「わたしを見て?」

「ああ、慌てたように走っていった」

わたしを知っている人物?

まあ、冒険者だし、クリモニアの近くだし、わたしのことを知っていてもおかしくはない。そもそも、盗賊がどんな人物で構成されているかなんて知らない。元は冒険者だったり、仕事で失敗して、自暴自棄になった者。荒くれどもが集まってできたもの。いろいろとある。その中にわたしのことを知っている人物がいてもおかしくはなかった。これは失敗したかもしれない。

急がないとダメかな。

それから、仲間の人数と、アジトの方角を教えてもらう。方角さえ分かれば、探知スキルに引っかかる。

「人数は10人ほどだ。アジトはあっちのほうに行けばある」

男は縛られてるので、視線で方角を教えてくれる。

思っていたより少ないね。

「魔法使いはいる?」

「いない。魔法が使えれば、冒険者にでもなればいいだろう」

それはそうだ。魔法使いの数は少ない。攻撃魔法が使えれば、いろいろなパーティーから誘いは来るだろう。悪人でなければ盗賊になろうとは思わないだろう。

他に見張りがいないことを確認すると、くまきゅうに、こちらに来るよう念じる。

たぶん、伝わっていると思うけど、「くぅ~ん」が聞こえないと、少し不安になる。

「セニアさん。わたし、先に行きますね」

本当なら、ジェイドさんたちと合流してから、みんなで隠れ家に行きたかったが、既にわたしが来たことを報告に行ってしまっているらしい。ジェイドさんたちを待つ時間はない。

「ユナ、一人で行かせられない」

セニアさんが、わたしのクマの服を掴む。

「くまゆるが一緒だから、大丈夫だよ。それに、わたしの作戦が失敗したみたいだし」

「全員が了承した。ユナだけの責任じゃない。それにユナが一人で責任を取ることはない」

セニアさんの優しい言葉は嬉しいが、このままジェイドさんを待っていれば、確実に逃げられる。

「ありがとう。でも、行きますよ」

セニアさんがジッとわたしを見る。そして、わたしのクマ服を掴んでいた手を放してくれる。

「……分かった。でも、無茶はしちゃダメ」

心配されるのは嬉しいものだ。

「あと、くまきゅうをこちらに呼んだので、ジェイドさんたちが来たら、くまきゅうに案内してもらって、追いかけてきてください」

わたしはセニアさんに、後のことをお願いすると、くまゆると一緒に盗賊の隠れ家に向かう。

───────────

俺は息を切らしながら、古ぼけた小屋に到着する。

外には数人の男たちがいた。そのうちの一人がやってくる。

「どうした?」

「詳しいことは中で話す」

俺は小屋の中に入る。外にいた男たちも一緒についてくる。小屋に入ると、のんびりとしていた男たちが、小屋に入ってきた俺に視線を向ける。

「クマの格好した女が、ここにやってくるから、逃げたほうがいい」

「クマ?」

「おまえ、何を言っているんだ?」

「もしかして、あのクマか?」

クマのことを知っている者と、知らない者で反応が分かれる。

「そうだ。貴族の家に乱入してきたクマの格好をした少女だ。俺たちじゃ、勝てない。今すぐ、逃げたほうがいい」

あの貴族のお屋敷での黒男との戦いを見たことがあれば、クマの少女と戦うのは無謀だと分かる。

「もしかして、そのクマの格好した女の子って、黒いクマと白いクマを連れていないか?」

一人の男が尋ねてくる。

たしか、名前はグリードって名乗っていた。

「ああ、そうだ。今は黒いクマと一緒だった」

「間違いない。そのクマの格好している少女は、『ブラッディベアー』と呼ばれている冒険者だ」

「ブラッディベアー、なんだ、それは?」

「ゴブリンキング、ブラックバイパーを一人で倒している。見た目は可愛らしい少女だが、実力は本物だ」

あのクマの格好した少女は、クラーケンだけでなく、そんな魔物まで倒していたのか。

「どうやら、ここまでのようだな。俺も逃げるのに賛成だ」

グリードが言うと、周りも本気で、やばいことだと理解したようだ。全員が逃げ出そうとするが、止める男がいる。

「待て、逃げることは許さないぞ」

この男は商人が派遣した男だ。簡単に言えば、俺たちの見張り役だ。

「俺は商人の金儲けのために、そんなクマと戦う義理はない。それにいつまでも山奥にいるつもりもない」

「ふざけるな! 勝手に逃げて、リーデント様が許すわけがないだろう。どこまでも追いかけるぞ」

「そのリーデントは、俺たちの名前も顔も知らないだろう。遠くに逃げれば問題はない。それにここにいるやつらは、俺と同じようにみんな偽名だろう」

みんなの反応を見ると、偽名を使っていたのは俺だけではなかったようだ。誰かが捕まれば、その者から捕まる可能性がある。でも、偽名なら顔が一致しなければ捕まることはない。

「俺たちは人殺しはしてないが、荷物を奪って、リーデントに金はもらった。善人のつもりはないが、リーデントの尻尾切りに付き合うつもりはない」

捕まれば、俺たちなんて見捨てられる。

「ふざけるな!」

「時間がない。残りたい奴は残れ。俺は逃げさせてもらう」

リーデントの犬以外は、逃げるほうを選択する。

残ったとしても、いいことはないことは、皆分かっている。

「そういえば、もう一人の見張りはどうした」

「逃げろと忠告はしてきた。どうしたかは分からない」

「そうか」

グリードはそれ以上、何も言ってこない。

この男も見張りの男が捕まったとしても、助けることができないと分かっているからだ。

「盗んだものはどうする?」

黙って聞いていた男が尋ねる。

「置いていく。そのクマが冒険者ギルドの依頼で来ているなら、盗んだ物を取り返した時点で仕事が終わるかもしれない。下手に持って逃げれば、追いかけてくる可能性が高くなる。だから置いていく。なによりクマがいる。匂いで追いかけてくるかもしれない。少しでも逃げられる可能性を高くしたほうがいい」

グリードは盗賊を纏めている男だが、判断が早い。

「これはわたしのものだ」

リーデントの犬が後ろを振り向いて、アイテム袋を手にした瞬間、グリードが、男の腕を捻りあげる。

「いてて、なにをする!」

「言った通り持っていかれると、追いかけてくる可能性がある。だから、おまえに持っていかれると困る」

グリードはそう言い、ロープを持ってこさせると男を縛り上げる。

「なにをする!」

「いや、俺たちが逃げるために、時間稼ぎをしてもらおうと思ってな。頑張って言い訳をしてくれ。正直にリーデントの指示だったと言えば、刑罰は軽くなるかもしれないぞ」

さらに、グリードは男の口を塞ぎ、テーブルの上にあったペンを握ると、紙に何かを書き始める。その紙を、男の体の上に乗せる。

面白いことをする男だ。

「他の者も捕まったら、商人のリーデントの命令だと言え。刑罰が軽くなるかもしれん」

犯罪に手を貸したことは事実だ。

でも、主犯格が一番重い刑罰になるのは間違いない。そのことは、前に仕えていた貴族が処刑されたことで証明されている。もちろん、俺たちが犯罪に手を貸したことには変わりない。だから、俺たちは逃げるのだ。

次にグリードはアイテム袋を握りしめると、中身を小屋の中にぶちまける。

最近奪った、高級な綿が入った袋が部屋の中に散乱する。さらに、アイテム袋をナイフで切り刻んで、使えないようにする。これで、誰も抜け駆けをして、持っていくことはできない。

「これで、これから来るクマが荷物を回収するか、俺たちを追いかけるか、それとも、こいつから詳しい話を聞くか、選択肢が増えるだろう。おまえたち、ここからは他人だ。どこかの街で出会っても、他人のフリをしろ。俺もする。金もリーデントから貰ったから、少しはあるだろう。できるなら、まっとうに生きろ……って、俺のセリフじゃないな」

グリードが笑うと、皆も笑う。

「それじゃ、逃げる。捕まったとしても、運がなかったと思え。短い間だったが、楽しかったぞ。全員、逃げろよ」

グリードの言葉で、全員が頷き、小屋を出ると、クマがいるほうと逆に走り出す。

俺も、駆け出す。

グリードの言葉でないが、逃げきれたら流されず今度こそ真面目に生きよう。