軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

541 クマさん、王都に帰る

それから、メイン料理も終わり、最後にわたしとノアが作ったイチゴのケーキが、セレイユの前に置かれる。

「これがユナとノアが作ってくれたお菓子ですか?」

「気に入ってくれたら嬉しいよ」

「文字が書かれていますね」

ケーキには ノアが書いてくれた「誕生日おめでとう」の文字がある。

「ノアが書いてくれたんだよ」

「ノア、ありがとうございます」

お礼を言われたノアは嬉しそうにする。

「それじゃ、切り分けるね」

「文字が消えてしまうのは残念ですね」

「まあ、ケーキは食べ物だからね。心に刻んで、いつまでも覚えてくれると、嬉しいかな」

「はい、一生の思い出として、心に残します」

今、自分で恥ずかしいセリフを言ったことに気づくけど、セレイユは気にした様子もなく、同意されてしまった。

「心に刻む。いい言葉ですね」

ノアも同意しないで。恥ずかしいセリフを言って、恥ずかしいんだから。

わたしはナイフを手に取り、ケーキを切り分ける。そして、ケーキを小皿に乗せ、それぞれの前に置く。

「それでは、いただきます」

セレイユはフォークを持つと、ケーキを一口サイズに切り、お嬢様らしく小さな口に運ぶ。

「美味しいです」

セレイユの言葉を聞いたセレイユの父親、キースも同じようにケーキを食べる。

「お姉様、美味しいです」

キースは満面の笑みでケーキの感想を言う。二人だけでなく、セレイユの父親も美味しそうに食べている。

よかった。三人とも好評のようだ。

わたしも食べてみる。

うん、ちゃんと美味しくできている。

ケーキを食べていると、セレイユの手が止まる。

「ユナ、ノア、ありがとうございます。それにお父様もキースもありがとう。こんなに嬉しい誕生日は初めてです。毎年、16歳の誕生日が近づくのが不安でした。だから、みんなに祝ってもらっていても、どこかで冷めた気持ちでいました。でも、今日は心から嬉しいです」

セレイユは満面の笑みだけど、その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

「セレイユ」

「お姉様?」

セレイユの父親は心配し、キースは姉が涙を流したことに慌てる。

「あれ、おかしいです。こんなに嬉しいのに、どうして? 涙が止まりません」

セレイユは涙を拭き取ろうとするが、一度、流れ始めた涙は止まらない。

「セレイユ」

「お姉様、泣かないでください」

セレイユの父親は立ち上がり、セレイユを抱きしめる。キースは心配そうにセレイユの手を握る。

もしかすると、気丈に振る舞っていたけど、16歳の誕生日を迎えたことで、緊張の糸が切れたのかもしれない。

今まで、長きに渡って、誰にも言えず、一人で抱え込んできた。それをやっと、父親に話すことができ、今まで自分を苦しめてきたものに決着をつけることができた。

先ほどの言葉ではないが、16歳の誕生を祝うことができないと思っていた節がある。そんなセレイユが家族からの祝いを、心から受け入れたのかもしれない。

そんなセレイユが涙を流しても、不思議ではない。

セレイユの父親は再度セレイユを抱きしめる。静かな部屋にセレイユの泣く声だけが聞こえる。

「ノア」

わたしは小さい声で、ノアに呼びかけ、軽くドアのほうを見る。ノアは理解したようで、小さく頷く。わたしとノアは立ち上がり、静かに部屋を出る。あの場にいていいのは家族だけだ。

わたしとノアは部屋に戻ってくる。

「セレイユ様、苦しんでいたのですね」

「詳しくは話せないけど、16歳の誕生日に命の危機を迎える可能性があったんだよ。セレイユはそれを回避するために、剣と魔法を学んできた。やっと、そのことから解放されたんだよ」

「それをユナさんが救ってあげたんですよね?」

「たまたま、セレイユが危険な場面に居合わせただけだよ。それに今日まで耐えてきたのはセレイユ自身だからね。でも、これでやっと解放されたんだから、これからは何にも縛られることなく、楽しんでほしいね」

「そうですね」

まだ、16歳。人生はこれからだ。もう、セレイユを縛るものはなにもない。学園生活を楽しむのもいいし、友達と遊ぶのもいい。貴族ってしがらみがあるかもしれないけど、ノアみたいに自由に生きてほしいものだ。

「なんですか?」

わたしがノアを見ていたら、不思議そうな表情をする。

「なんでもないよ」

わたしはノアの頭を撫でる。

「もう、なんですか!?」

わたしの意味不明の行動にノアは頬を膨らませる。

部屋に戻ってきて、しばらく経つ。ドレスでも脱ごうかと考えていると、セレイユが部屋にやってきた。

「ユナ、ノア。先ほどはお見苦しいところを見せました。それと気遣っていただいたようで申し訳ありません」

セレイユは少し恥ずかしそうにしている。目も少し赤いままだ。

「そんなことはないよ。セレイユは今まで頑張ってきたんだから、泣く権利はあると思うよ。もし、セレイユが泣いたことで、バカにする人がいたら、わたしがその喧嘩を買ってあげるよ」

「詳しいことは分かりませんが、セレイユ様が苦しんできたのは分かります。セレイユ様の泣き顔がみっともないなんてことはありません」

「二人とも、ありがとうございます」

セレイユは微笑む。

「セレイユは強いね」

「ユナのほうが強いと思いますが」

セレイユの言葉に、わたしは首を横に振る。

「ううん、心が強いって意味だよ。幼いときから一人で抱え込み、一人で守ろうとしてきたんだから。心が疲弊して、壊れてもおかしくはなかったと思うよ」

人に八つ当たりしたり、貴族という立場の権力を笠に着て使ったりしたかもしれない。心が壊れていれば、十分にあり得たことだ。

でも、そんなことにはならず、セレイユは真っ直ぐに成長している。

「そんなことは」

「ユーファリアの学生がセレイユに接する態度を見れば分かるよ。みんな、セレイユを慕っているよ」

「……みんな。こんな、わたしを慕ってくれています。感謝の言葉もありません」

「呪縛から解き放たれたんだから、これからは楽しく生きればいいと思うよ」

それが人生だ。楽しんだ者の勝ちだ。

「そうですね。しばらくは剣の練習も魔法の練習も控えようと思います。今まで、他のことをないがしろにしてきました。ユナの言葉ではないですが、楽しいことを見つけようと思います。今までできなかったことを」

「頑張って」

「はい」

セレイユは満面の笑みを浮かべる。

もう、心配はなさそうだ。

その日の夜はセレイユの家に泊めてもらうことになった。宿屋の手続きはセレイユのほうでしてくれると言うのでお願いした。荷物も置いていないので、そのままチェックアウトになる。

そして、温泉ではないが、セレイユからお風呂を借りたので、くまきゅうの体を洗ってあげ、夜は一緒に寝てあげる。もちろん、お揃いの白クマの格好に着替える。くまきゅうは嬉しそうにする。

「それでは、わたしがくまゆるちゃんと一緒に寝てあげますね」

ノアは子熊化したくまゆるに話しかける。

今朝のことを知っているノアが「くまゆるちゃんがイジケルかもしれません。だから、今日はわたしがお世話します」と言って、くまゆるはノアの腕の中にいる。

まあ、ノアも嬉しそうだし、くまゆるも嬉しそうにしている。くまゆるに今日はくまきゅうと一緒にいる許可をちゃんともらっている。

くまゆるも理解しているようなので、いじけることもない。

わたしたちは灯りを消し、それぞれのベッドに入る。

「くまきゅう、お休み」

「くぅ~ん」

「くまゆるちゃん、お休みなさい」

「くぅ~ん」

わたしたちは眠りに就く。

翌日、わたしたちは王都に帰ることにする。

もちろん、ノアの護衛をしているので、朝から黒クマに着替えている。そのクマの姿を見たセレイユとセレイユの父親は、なんとも言えない表情をしていた。

「ユナ、その格好で帰るのですか?」

「なにも言わないでもらえると嬉しいよ」

一応、誤魔化しのクマの加護のことを話しているので、納得していた。

なにより、安全面を含め、クマの格好は落ち着く。

「ユナさんは、やっぱり、そのクマさんの格好が一番似合っています」

ノア、それは褒め言葉になっていないからね。

自分から着ているとはいえ、他人に言われると納得できない自分がいる。

そして、セレイユの父親の計らいで、街の門まで馬車で送ってくれることになった。馬車には一緒にセレイユも乗る。

そして、ユーファリアの街の門までやってくる。

「ユナ、ノア。顔を出してくださるだけでも嬉しいので、ユーファリアの街に来ることがありましたら、ぜひ家に来てください。おもてなしをさせていただきますので」

「おもてなしはいらないけど、来ることがあったら、顔をだすよ」

「はい、伺わせていただきます」

「約束ですよ」

そして、セレイユの口添えもあったので、深くは追及はされずにユーファリアの街の外に出ることができた。

後ろを見れば、セレイユは街の中からわたしたちを見ている。

「セレイユ、またね!」

わたしはくまゆるとくまきゅうを召喚し、ノアはくまゆるに乗り、わたしは機嫌がよくなったくまきゅうに乗ると、王都に向けて出発した。