軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

534 クマさんとセレイユ

男のことは、長年の思いもあるセレイユに任せた。捕らえるにしても、殺すにしても、セレイユの手でやらないといけないと思う。わたしが男を倒しても、セレイユの心は完全には救われないと思う。わたしができるのは、セレイユの手助けをすることぐらいだ。

でも、くまゆるを置いてきたけど、セレイユのことが心配なのには変わりはない。

早いとこ、魔物を倒して、セレイユのところに行くことにする。

「くまきゅう。一応、クマハウスの周辺にやってくる魔物がいたらお願い。他はわたしが倒すから」

「くぅ〜ん」

くまきゅうは「任せて」って表情で鳴く。本当にくまゆるもくまきゅうも頼もしい。

「でも、無理はしちゃダメだからね」

強い魔物が出てきたら、わたしが相手をする。

魔物は今まで、我慢していたのか、 餌(キース) を奪ったと思っているのか、それとも、新しい 餌(わたしとくまきゅう) が来たと思っているのかもしれない。よだれを垂らしながら、わたしとくまきゅうに向かって襲いかかってくる。わたしもくまきゅうも美味しくないのに。

わたしに襲いかかってくることが、どれだけ危険なことなのか教えるために、クマハウスの周辺にいる魔物に向かって、風の刃の魔法を放ち、数体のウルフとゴブリンを倒す。

「逃げるなら、追いかけないよ。でも、襲ってくるなら、容赦しないよ」

残っている魔物に向かって言うが、魔物に通じるわけもなく、魔物の屍を乗り越えて、わたしとくまきゅうに襲いかかってくる。

わたしは襲い掛かってくる魔物を次から次へと倒していく。数が多いだけで、強くはない。魔法を放てば、倒すことはできる。

順調に魔物の数を減らしていると、後ろにいるくまきゅうが鳴く。

「くまきゅう、ありがとう。分かっているから大丈夫だよ」

邪魔な魔物はワイバーンぐらいだ。ゴブリンやウルフにオークを相手にしながらも、空にいるワイバーンの位置は確認している。

ワイバーンが滑空してくる。

何度も戦っている相手だ。動きも慣れている。わたしは滑空で襲いかかってくるところに合わせて、至近距離から風魔法でクマの爪を飛ばし、ワイバーンをサクッと倒す。

そして、立て続けに襲いかかってくる残りのワイバーンも討伐する。

経験は役に立つね。初めて対峙したときより、苦労せずに倒すことができた。

そして、残りの魔物といえば、ワイバーンが襲ってきたときに逃げ出していた。どうやら、わたしとくまきゅうより、ワイバーンのほうが怖いらしい。

クマハウスの付近の魔物は消え去った。

逃げていく魔物を追うことはしない。それはわたしの役目ではない。わたしの役目は、キースを守ることと、襲ってくる魔物を倒すこと。

もう操られてもいないし、仕掛けられていた魔石も壊したので街に行くこともない。それなら、追いかけてまで、倒す必要はない。

さて、わたしたちに襲いかかってきていた魔物はいなくなった。のだがしかし、実はまだ大物が一体残っているみたいだ。どうしたものかと思っていると、地面が揺れる。

地面が盛り上がる。

掘り起こさないでいいみたいだ。

ワームが地中から現れた。

既に探知スキルで確認済みだ。

やることが、全てあの王都を襲おうとした魔法使いの二番煎じ。しかも、劣化版。

「くまきゅう。下がって」

「くぅ~ん」

ワームは地面から出てくると、大きな気持ち悪い口を開き、周囲を確認する。わたしを見つけると、口を大きく開き、襲いかかってくる。

そうやって弱点を大きく開いたら、そこを攻撃してくださいと言っているようなものだ。

わたしは炎のクマさんを作り出し、ワームの口に突撃させる。炎のクマさんはワームの体内を歩き、体の中を焼いていく。ワームは苦しむと倒れる。

「なんでも口に入れると危ないよ」

これで、周囲にいる魔物は完全にいなくなった。クマハウスの付近を離れて遠目にいた魔物も、ワームが現れると、本能のまま逃げていったみたいだ。

これで、わたしの仕事は終わった。あとはセレイユのほうだけだ。

クマハウスとキースのことはくまきゅうに頼み、わたしはセレイユのところに向かう。

倒していないようだったら、殴らせてもらおう。

────────────────────

ワームが地面から現れました。

ワームの体は大きく、簡単には倒せない魔物です。滅多に現れることもなく、ほとんどの人は見ることがない魔物です。

そのワームが、クマの格好をした小さなユナの前に立ち塞がります。

「ユナ!」

わたしは叫びます。

逃げないと危ない。ワームは大きな口を開き、ユナに襲いかかります。でも、ユナは逃げようとしません。

「ふふ、わたしをバカにしたことを後悔しながら、死んでいくがいい」

ユナが食べられたと思った瞬間、ユナが火の魔法? 赤かったので、火の魔法だと思います。それをワームの口の中に撃ち込んだと思うと、ワームが苦しみだし、体を何度も曲げると、動かなくなりました。

何が起きたか、理解できませんでしたが、ユナがワームを倒したことだけは間違いなかった。

男は、信じられないものを見るようにユナを見ると、狂ったように笑いだします。

「ふふ、あはは。わたしの10年が、たった一人のクマの格好した少女によって、泡となって消えますか」

わたしもユナのしたことは信じられません。この男がいなければ、ユナに駆け寄って、喜んでいたと思います。

「もう、終わりです。あなたには罪を償ってもらいます」

わたしは男に剣を向けます。

そして、わたしの言葉に、くまゆるがやってくる。

「くぅ~ん」

くまゆるの口には、首輪が咥えられている。

男は魔力を封じる首輪と言っていました。

「ありがとう。あなたには、この首輪をつけてもらいます」

わたしはくまゆるから首輪を受け取ります。

「わたしを殺さないのですか? ワームに命令を出すことで、わたしの魔力も生命力も持っていかれました。わたしの命は長くありません。殺すなら、今のうちですよ」

男の額には汗が滲み出て、口を開くのも苦しそうにしています。

わたしは剣先を男に向けますが、男は動きません。

死を覚悟したように、目を瞑っています。

今ここで、この男を殺せば、全てが終わります。

でも……。お母様のことを想っているのは、わたしだけではありません。

「今は殺しはしません。あなたは、お父様の前に連れていきます」

お父様もお母様が亡くなった日がくると、悲しそうにしている。お父様もこの男に会って、お母様と区切りを付けないといけません。

「残りの魔力を使われて死なれても困りますから、この首輪で魔力を封じさせてもらいます」

「それは、遠慮させていただきます」

男は苦しそうにしながらも立ち上がると、懐に手を入れ、何かを取り出そうとします。それがナイフだと気づいたとき、わたしの体は無意識に動いて、持っている剣で、男の体を貫いていました。

男は口から血を吐きだします。

「ふふ、あなたの父親の顔なんて見たくありません。どうせ死ぬなら、あなたの手で死ぬことにします」

男は、これから死ぬというのに笑っています。

「わたしは、愛した女性を殺し、愛しいと思ったあなたに殺されるのです。これほど、幸せなことはありません。残念なのは、あなたと一緒になれないことでしょうか」

「あなたは馬鹿です。女性はお母様だけではなかったでしょう」

「わたしには、彼女しかいませんでした。そして、成長していくあなたを見て、あなたに惹かれていきました。どうしても、あなたを手に入れたかった」

「やり方が間違っています」

「わたしは、このやり方しか、知りませんでした」

なにも言うことはできません。

お父様を愛していたお母様。お母様を愛していたお父様。その二人の間には、誰も入りこむことはできません。

もちろん、頑張れともいえません。

「あの男より先に、あなたの母親、シューリアの 下(もと) に行きます」

男は笑い、口から血を吐くと、地面に倒れました。

お母様を殺した男に会うまでは、お母様の仇を取りたかった。わたしの前に現れたときも、悔しく、憎く、殺してやりたかった。その男が死んでしまった。

静けさが戻って、目からは涙が流れ落ちます。

お母様が亡くなってからの、長年の重圧が消えて、何かが抜け落ちてしまったみたいです。

力が抜けたように手に持っていたものが落ちる。

これでようやく、全てが終わりました。

「くぅ~ん」

くまゆるが、まるでわたしのことを心配してくれるように、寄り添ってくれます。

「大丈夫ですよ。心配してくれて、ありがとう」

くまゆるが声をかけてくれたことで、現実に戻される。

現実に心が戻った瞬間、ユナが一人で魔物と戦っていることを思い出す。

「そうです。ユナは?」

「わたし?」

後ろからユナの声がするので、振り向くと、クマの格好をしたユナがいました。

「ユナ! 大丈夫ですか。怪我はないですか!?」

わたしは駆け寄って、ユナの体を見る。

クマさんです。

「大丈夫だよ。そっちも終わったみたいだね」

本当になにもなかったように、キョトンとした感じでいる。ユナのクマの格好を見ると夢だったのかと思えてしまう。

「はい」

お父様の前に男を連れていくことができなかったのは心残りですが、全てが終わりました。

「死んでいるの?」

「はい、捕らえようとしたのですが、ナイフを出され、とっさに体が動いてしまい」

わたしはあのときの状況を説明する。

「残念だったけど、セレイユの命のほうが大切だからね。それに男も捕まるつもりはなかったみたいだし」

「そう言ってくださると助かります」

あのとき、剣を出していなければ、わたしがナイフで刺されていた。

「でも、これで終わったね」

「ユナにはどれだけ感謝をしたらいいか」

感謝という言葉だけでは言い切れないほど、ユナには助けられました。もし、ユナがいなければ、わたしは何もできずに、男に捕らわれ、街は魔物に襲われ、キースもどうなっていたか分からない。

「セレイユとキースが無事なら、いいよ。そもそも、その男が悪いんだから」

「そうです。キースは?」

キースの名前が出て、思い出す。

「キースなら家の中で寝ているから、大丈夫だよ。あの家の中なら魔物にも襲われないし、くまきゅうも見ててくれているしね」

わたしはその言葉に安堵する。

クマの格好をした不思議な女の子のおかげで、全てが終わりました。