軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

533 セレイユ、戦う

「それじゃ、わたしはくまきゅうと一緒にキースを助けに行ってくるから。くまきゅう、行くよ!」

「くぅ〜ん」

ユナはそう言うと、わたしが止める間もなく、白いクマのくまきゅうに飛び乗ると、駆け出していく。

ここは高い。

「ユナ!」

わたしは叫ぶ。

でも、ユナを乗せたくまきゅうは地面に着地をすると、そのまま、キースがいる場所に向けて走っていく。それは、魔物の群れに突っ込むと同義。

「自分から、死にに行くなんて、馬鹿な少女です。ですが、このままにしておくわけにはいきません。恨むなら、彼女を恨むことです」

男がそう言うと、服の下にある体に埋め込まれている魔石が光る。

「何をしたのですか!」

「命令の解除をしたまでです。これで、魔物は彼女と弟さんを襲い始めます。あの少女も弟さんも魔物に酷い殺され方をするでしょう」

視線をユナに戻す。魔物が一斉に動き出し、ユナを襲い出し始める。キースの周りにいた魔物だ。でも、ユナが魔法で魔物を倒しながら進み、キースの近くにいた魔物を吹き飛ばして、キースに駆け寄る。そして、キースを抱き抱えると、ユナが叫ぶ。

「キースは生きているよ! だから、安心して!」

よかった。キースは生きている。

「おお、凄い。口だけではないようですね。王都を襲うために集めた魔物を倒したと豪語するだけのことはありますね。でも、彼女は千体以上の魔物に囲まれ、上空にはワイバーンもいます。いくら彼女が強くても、弟さんを守りながら、戦うのは困難なことです」

そうです。

どんなに強い人でも、無力な者を守りながら、戦うのは難しい。自由に動けないし、常に気にかけなければいけない。

逃げ出そうにも、魔物に囲まれて、逃げ道がない。ユナもキースもくまきゅうも危険な状態です。

そう思った瞬間、ユナが何かをしたと思うと、ユナの目の前に大きな物が現れた。

「クマ?」

大きなクマの形をした物です。クマの顔があり、体があり、可愛らしいクマです。この魔物の群れの中にあるにしては場違いなもの。

そんな可愛いらしいクマの形をした中にユナはキースを抱き抱えると入っていく。

わたしの思考が一瞬止まります。それは、男も一緒のようで驚いている。

そして、ユナがすぐにクマの中からでてくる。

「セレイユ! この中なら、キースは安全だから、安心して」

「ふふ、ふふふ」

ダメです。笑いがこぼれます。

ユナの行動が予想外過ぎて、笑いが止まりません。クマの服を着始めたと思ったら、男が街に隠した魔物を呼び寄せる魔石を持っていたり、いないと思っていたくまゆるがいたり、キースを救いだしたと思ったら、変な形をしたクマの家が出現する。そのクマの中なら、キースは安全だと言う。

「ふざけないでください! なんなんですか、あの少女は! ふざけた格好に、ふざけた建物」

わたしが笑いを堪えていると、男は怒り、叫ぶと、胸の魔石に手を置く。すると、胸にある魔石が光り、男は苦しそうにする。

「殺します。あの変な格好した女は殺します」

ユナのほうを見ると、集まっていた魔物がさらにユナたちに集まっていく。

いくらユナが強いと言っても、このままでは危険です。

わたしは男に向かって、風魔法を放つ。男は同じく、風魔法で防ぐ。

「あなたを倒させていただきます」

「くぅ~ん」

わたしの言葉に側にいるくまゆるも一緒に鳴く。

本当に、頭のいいクマです。

わたしはアイテム袋から剣を取り出す。今日のために、お母様が殺されたときから、頑張ってきた。そして、ユナがそのチャンスをくれた。

ユナのおかげで、街が魔物に襲われることがなくなった。

ユナのおかげで、キースは安全な場所にいることができた。

この男を倒すことができれば、ユナを襲っている魔物も襲わなくなるかもしれない。

「どいつも、こいつも、邪魔をして、どうして、わたしの言うことを聞かないのですか!」

男の顔が豹変する。さきほどまで、笑っていた顔が、怒りに変わった。

ふふ、この顔を見られただけでも、嬉しくなります。

「それは簡単なことです。あなたに魅力がないからです」

「そんなに母親と同じ場所に行きたいなら、行かせてあげます!」

男の手に炎が集まる。わたしは横に走る。

「くまゆる、逃げてください」

「くぅ~ん」

わたしとくまゆるは炎を避ける。

そして、わたしも魔力を集め、炎を作りあげ、男に向かって放つが、男は簡単に防ぐ。

「その程度で、わたしを倒せると思っているのですか!」

「倒します。そのために、今日まで、剣と魔法を学んできたのです!」

「実戦も経験したことがない小娘が、笑わせます」

男の言うとおり、わたしには実戦経験がない。でも、血が滲むほど、練習はしてきました。何より、ユナが作ってくれたチャンスを無駄にするわけにはいきません。

わたしと男の戦いが始まる。

男とわたしの戦いは拮抗する。思っていたよりも、男の動きが鈍い。これも、男がユナを殺すために魔物に命令して、魔力を消耗したためかもしれません。

男は息が上がっている。

「本調子なら、あなたごときには」

「負けたときのための、言い訳ですか?」

ですが、わたしのペースには持ち込めない。相手の間合いで、魔法の撃ち合いになる。

ただ、男が接近戦を嫌がっていることは分かる。先ほどから、距離を縮めようとすると、それを邪魔をするように、魔法を放ってくる。

男は純粋な魔法使い。たぶん、剣は使えない。接近戦になれば、剣を扱えるわたしが有利になる。できれば、接近戦に持ち込みたい。

魔法の撃ち合いは、消耗戦になり、時間もかかる。持久戦になれば、その分、ユナが危険な時間が長くなるってことです。

わたしは男の魔法を防ぎながら男に近付くタイミングを探す。

「そんなに魔法を連発して、大丈夫なのですか?」

わたしは話しかけて、注意を引く。

「心配はいりません。もう、全ての魔物は、わたしの支配下にありません。魔物は本能のままに、近くにいる者を襲うだけです。わたしの命令は必要ありません。あの小娘を殺し、あなたを捕らえれば、魔物を集めることは何度でもできます。ただ、あの小娘に壊された魔石は痛かったですが」

ユナが持っていた魔石はかなりの大きさがありました。簡単には手に入らない代物です。だから、言えることもあります。この男を倒さないと、同じことが繰り返されます。

「ですが、少しぐらい魔物を呼んでもいいでしょう」

男が笑うと、くまゆるが鳴く。後ろからウルフが数体現れた。でも、その瞬間、くまゆるが倒してしまう。

「くまゆる、ありがとう」

凄いクマだ。

前もって準備してたウルフが、簡単に倒されて、男はイラつきを見せる。

「あのクマの格好をした少女といい。そのクマといい。全てのクマを殺したくなってきました」

「なにを言っているんですか。クマはとっても可愛らしいでしょう? そんなことも分からない人と、わたしとの相性は最悪のようですね。わたし、クマを殺そうとする人はお断りします」

「くぅ〜ん」

わたしの言葉に、くまゆるは嬉しそうに鳴く。

「それなら、そのクマがワイバーンに殺されるところでも、見るのですね」

わたしは慌てて空を見る。空にワイバーンはいない。

どこ!?

緊張が走るが、どこからも現れない。

「ワイバーンはどこですか!? 早く、こっちに来なさい」

男は叫ぶ。

「くぅ〜ん」

くまゆるがユナが戦っているほうを見て鳴くので、わたしも釣られて、ユナのほうに視線を向ける。

そこにはすでに、ワイバーンが倒されていた。

「ワイバーンなら、ユナが倒したみたいですよ」

もう、笑うしかない。

ユナ、あなたはどこまで強いのですか?

「なんなんですか。あの小娘は!?」

「わたしの友人って言ったでしょう」

「あなたのことは調べてあります。親しい友人がいれば、誘拐する案もありましたから、わたしが知らないはずはありません」

「それは当たり前です。ユナと会ったのは数日前のことですから」

あらためて考えてみても、ユナとわたしの関係は難しい関係です。

初めは、ユナのことは、ノアールの護衛で来た学生ぐらいの認識でした。それが、試合をして、憧れと嫉妬の対象となりました。家にも泊まりましたが、それはノアールの友人としてでした。

この時点では友人ではないでしょう。

ですがユナは、わたしのことを心配して追いかけてきてくれました。そして、こんな嫉妬深いわたしのことを、男に向かって友人だと言ってくれたことが嬉しかった。

ユナはそんなわたしのために、キースを救い、魔物と戦ってくれている。

そんな人を友人と呼ばないで、誰を友人と呼ぶんですか!

ユナが困るようなことがあれば、今度はわたしが全力で助けます。

「そんな作ったばかりの友人が、ここまでのことをしてくれると言うのですか!」

「最高の友人です!」

わたしは男を倒して、ユナと共に家に帰る。

わたしは男に向かって駆け出す。男が炎の魔法を放ってくる。わたしは男の攻撃を躱し、近付こうとする。

それを援護するかのように、くまゆるも男に向かって走っている。

「クマが邪魔をするな!」

男がくまゆるに向かって、炎の魔法を放つ。

「危ない!」

「くぅ~ん」

くまゆるは右前足をひっかくような真似をすると、炎の魔法が消え去る。

「クマごときが!」

男はさらにくまゆるに魔法を放とうとしている。くまゆるが危ない!

わたしは踏み込み、男との距離を一気に縮め、剣を突き出す。たぶん、今までの突きのなかで、一番速かった。

わたしの剣は男の右肩を突き、男を突き飛ばす。男の魔法は不発に終わる。

「はぁ、はぁ、わたしの勝ちです」

「いえ、勝ちは存在しません」

男は自分の体に埋め込まれている魔石に左手で触れる。

「何をするのですか?」

「共に、母親の元に行きましょう」

男は苦しそうにしながらも笑う。

わたしが問いかけようとしたとき、地響きが起きる。