軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

525 クマさん、落ち着かない

女子の試合は終わり、次は男子による試合が行われる。そのため、わたしたちはグラウンドから出る。

わたしとシアは囲まれる前に女の子たちから抜け出し、ノアのところに戻ってくる。

「お姉様、ユナさん、お疲れ様です。お姉様が旗を取られたのは残念でしたが、旗を倒す姿は格好よかったです。ユナさんも旗を守る姿が格好よかったです」

ノアは興奮気味に言う。

「「ありがとう」」

わたしとシアはお礼を言う。

ノアの話によると、シアは好成績を収めていたこともあって、強い生徒が相手になったそうだ。それでも、なんとか守っていたけど、もう1人が加わり、2人がかりで攻撃をされ、残念ながら旗は守れなかったそうだ。

でも、旗を倒されたシアは、すぐに攻撃に回り、相手の旗を倒したそうだ。

まもなく、旗の準備などが終わり、男子による試合が始まる。

男子の試合が始まると女子が応援をする。周りからも声援があがる。両学園の男子は女子の応援もあり、いいところを見せようとするため、試合は白熱する。

若いっていいね。青春だね。引きこもっていたわたしには眩しいよ。

「そこを攻撃です。危ない! ああ、旗を取られてしまいました。今の魔法、凄いです。やりました、旗を取りました」

隣にいるノアは試合を見て興奮している。

もしかすると、わたしたちの試合もこんな感じで応援をしてくれていたのかもしれない。

試合は進み、初めは駆け引きもあったが、終盤になると時間との勝負になる。

お互いの旗は倒され、残り一本になる。旗を倒された両学園の男子は走る。お互いに2人掛かりで最後の旗を狙う。守るほうも攻めるほうも動き回り、魔法が飛びかう。旗を狙う。旗を守る。お互いの攻防が続く。

でも、一対二なら、2人のほうが有利。徐々に攻撃側が押してくる。

振り絞る声援が飛ぶ。

ユーファリアの学園の守る最後の旗が倒れた。勝ったかと思ったが、王都の学園の旗も倒れていた。

どっち?

全員の視線が審判役の先生たちに集まる。

息を飲んで待つ。先生たちが話を始める。

そして、発表される。

「同時に倒されたため、引き分けです」

周りから、「あ~~」「もう少し早かったら」などの声が聞こえてくる。

試合は同時に旗が倒れたと判断され、男子の試合も引き分けとなった。ビデオカメラがあるわけでもないので、妥当な判断だと思う。

これで試合は男子、女子ともに引き分けとなった。

でも、わたしが参加しているから、実際は王都の負けかな?

男子の試合も終わり、学園の交流会は終わりを告げる。

これから、グラウンドに食材が運ばれ、両校一緒に食事をするらしい。

わたしは逃げようと思ったが、ノアがシアと楽しそうに話を始め、わたし一人で帰るわけにもいかなくなった。わたしは目立たないように隅のほうにいようと思ったが、女の子たちに囲まれて逃げられずにいた。

「ユーナはクリモニアに住んでいるの?」

「うん、まあ」

「シアの友人なの?」

「うん」

「学園に入学しないの?」

「その予定はないかな?」

完全に逃げるタイミングを逃したわたしは、女の子たちに囲まれる。

ノアとシアに助けを求めようとするが、近くに二人はいない。

「そうなの? それじゃ、入学すれば来年は確実にユーファリアに勝てるね」

「それじゃ、あなたは来年は出られないわね」

「先輩が卒業するから、大丈夫よ」

「来年はもっと、優秀な生徒が入学するかもよ」

女の子たちから笑いがでる。

わたしは適当に頷きながら、逃げ出そうと画策していると、ユーファリアの生徒までもがやってくる。わたしと戦った女の子たちだ。

「今回は負けたわ」

「悔しいけど、あなたは強かった」

「それにしても、こんな可愛い物を魔法の媒体にしているのね」

始めに戦った風魔法を使った女の子が、クマさんパペットを握る。

「試合中、このクマから魔法を出すから、初めて見たときは、驚いたわ。それにしても、柔らかくて気持ちいい」

「わたしも杖じゃなくて、同じようなものにしようかしら?」

水の魔法を操っていた女の子が自分の持っている杖を見ながら言う。

他の動物だったらいいけど、クマにしないでね。

「来年もあなたと戦いたいけど、あなたは王都の学生じゃなかったのよね?」

「うん」

「それじゃ、ユーファリアの学園に入学すればいいよ。そうすれば、来年は王都の学園に勝てるわ」

同じようなセリフをさっき聞いたような気がする。

「ダメに決まっているでしょう。ユーナは王都の学園に入学するのよ」

「どこの学園に入学するかは彼女の自由でしょう」

「ユーナはシアの友人だから、王都だよ」

「友人同士の試合も面白いかもしれませんよ」

なにか、両校の女の子同士の言い争いが始まった。

リア充なら、「わたしのことで、争わないで」とか言うのかもしれないけど、わたしにはそんなスキルは持ち合わせていない。

わたしはゆっくりと、その場を逃げ出す。

「はぁ」

わたしは人がいないところで息を吐く。

生徒たちに囲まれるのは疲れる。子供たちに囲まれるのとはまた違った疲れがでてくる。

「ユナ、一人でこんなところでどうしたのですか?」

「セレイユ!?」

一瞬、誰が声をかけてきたかと思ったら、セレイユだった。

「騒がしいのは苦手だからね」

元引きこもりは、大勢で騒ぐのは苦手だ。

まして、自分のことで騒がれるのは困る。喧嘩を吹っかけてくるなら、買うだけだけど、違うと、どう反応をしたらいいか分からない。

「今回の交流会で活躍したセレイユは、こんなところにいていいの?」

「ふふ、わたしもユナと同じく、騒がしいのは苦手なので、逃げてきました。そうしたら、ユナの姿が見えたので」

声をかけたらしい。

「ユナ、今回は負けました。魔法でも負けるとは思いませんでした」

「ギリギリだったよ」

「そうは見えませんでしたよ。2人がかりで攻撃しても、旗を倒すことができる感じはしませんでした」

「そんなことはないよ」

ルール上、あれが限界だ。危険な魔法は禁止だから、ギリギリになってしまう。それはセレイユたち攻撃側も同じことが言えるので、お互い様かもしれない。

「ユナとは本気の試合をしてみたくなりました」

「それじゃ、殺し合いになるよ」

「そうですね。本気で試合をしたら、そうなりますね」

セレイユは微笑む。

「ユナは冒険者なんですよね?」

「一応」

最近、冒険者らしい仕事はしていない気がするけど。

「ユナは、仕事で人を殺したことがありますか?」

「人を? 大怪我をさせたことはあるけど、殺したことはないよ」

大怪我をさせたことは何度かある。初めて会った冒険者とか、王都に向かうときに襲ってきた盗賊とか、王都でモリンさん親子を襲ってきた商人とか、ミリーラの町の道にいた盗賊、ミサを拐った黒服など。半殺しにしたけど、人は殺していないはずだ。

「なんで、そんなことを聞くの?」

「いえ、それほどの力を持っていたら、もしかしてと思っただけです。気に障ったのでしたら、申し訳ありません」

セレイユは頭を軽く下げる。

「ただ、人はどういう気持ちなら、人を殺すことができるのかと思ったんです」

「難しいよ」

半殺しにできても、最後の一歩は踏みとどまってしまうものだ。半殺しと殺すのでは差がある。

「本当にどうしたの? そんなことを聞くなんて」

セレイユっぽくないと言いたいけど、セレイユと会ってそれほど日数は経っていない。

だから、なんとなく、違和感を覚えただけだ。

「なんでもありません。今のことは忘れてください」

セレイユは逃げるように行ってしまう。

わたしはそのセレイユの背中を見送る。

なんだったんだろう?

グラウンドで開かれた食事は終わり、解散となる。でも、ノアはシアから離れず、結局、シアが泊まっている部屋まで行くことになった。

シアたち学生は、ユーファリアの学園の敷地内にある建物に泊まっている。

「おねえさま……」

ノアが寝言を言う。

応援で疲れたのか、ノアはおしゃべりをしている間に寝てしまった。

「ふふ、ユナさん、ノアを連れてきてくれて、ありがとうございました。ノアの応援があったから、頑張れたと思います」

「わたしも面白かったよ」

最後の試合はなんだかんだで楽しんだ。

「ユナさんのおかげで試合には勝てました」

「まあ、引き分けだけどね」

学園の生徒でなかったわたしの参加だったので、試合には勝ったけど、引き分け扱いになった。

「勝ちに等しい、引き分けですよ。他の人では負けていたと思います。本当はユナさんの力を借りずに勝てればよかったんですが」

その気持ちは分からなくない。

これは王都とユーファリアの学園の試合だ。それを部外者が参加して、勝ったようなものだ。

「でも、先生も言っていましたが、みんなにはいい刺激になったと思います」

みんなの刺激になったんなら、よかったよ。

それから、明日の話になる。

明日は桟橋があった場所で、みんなで泳ぐらしい。

そういえば、湖で泳ぐから、水着を持ってくるように言われていた。

わたしは泳ぐつもりはないけど、ノアが楽しみにしているので、付いていくことになる。

なにより、わたしと同じぐらいの年齢なのに、発育がいい女の子が多い中、水着になって泳ぐつもりはない。

「それじゃ、わたしは帰るね」

シアの部屋で話し込んでいたら、夜になってしまった。

寝ているノアはシアに任せて、わたしは宿屋に帰ることにする。

「ユナさんも泊まっていけばどうですか?」

「帰るよ。宿屋の人が心配するといけないしね」

外出したままだ。帰らないと心配をさせるかもしれない。

「でも、もう外は暗いですよ。ユナさんは女の子なんですよ」

「わたしなら大丈夫だよ。強いことは知っているでしょう」

「そうですが……」

心配そうにするシア。

「それに、わたしを守ってくれる護衛がいるから、心配はないよ」

わたしは子熊のくまゆるとくまきゅうを召喚する。

危険があれば教えてくれる。

「可愛い護衛ですね」

シアはくまゆるとくまきゅうの頭を撫でる。

「一応、ノアの護衛としてきているから、くまゆるを置いていくね。くまゆる、ノアをお願いね」

「くぅ〜ん」

くまゆるは返事をすると、ノアが寝ているベッドに移動して、ノアを守るように側で丸くなる。

わたしはくまきゅうを抱き抱える。

「それじゃ、明日の朝に来るね」

「はい、本当に気をつけて帰ってくださいね」

心配するシアの言葉に頷いて、部屋をでる。