軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

524 クマさん、最後の旗を守る

周りを見ると、他では動きがあったみたいだ。

王都とユーファリアの旗はお互いに二本減っていた。

シアのほうを見ると姿がある。まだ、無事のようだ。追い返したのか、戦っていないのか。相手はいなかった。

わたしは正面を見る。

さて、今度はさっきの子より強い子が来るのか。それとも、2人で来るのか。それともセレイユが来るのか。選択肢はいくつかある。

やって来たのは、違う女の子だった。まあ、流石にセレイユをぶつけたり、2人で来たりはしないか。旗を倒せば、戦力を失うことになる。少しずつ、強さを上げていくのが定石だ。

ユーファリアの女の子がわたしの前に立つ。

「あなた、風と土魔法を使うらしいわね」

「それはどうかな?」

さきほどの女の子に対してしたのと、同じ返答をする。

女の子は杖を構え、魔力を集めると、杖の前にゴルフボールほどの水の玉が6個ほど浮かぶ。女の子が杖を振るうと、水の玉はわたしに向かってくる。狙いは、わたしの後ろにある旗だ。避ければ、旗に当たる。だから、避けたりはしない。

わたしは風の空気弾で水の玉を全て撃ち落とす。女の子を見ると、防がれるのは分かっていたようで、すでに白線の円の外側を走り出している。

わたしは体を回し、女の子の正面になるように位置取りをする。女の子は走りながら、杖を左右に振り、水の玉を放ってくる。水はわたしの頭の上、足下と狙ってくる。

上を抜ければ旗に当たり、下を抜ければ、旗がある棒に当たる。だから、全て防ぐしかない。

わたしは確実に水の玉を撃ち落としていく。

「やるわね。でも、知っている? 水の魔法には、こんな使い方もあるのよ」

女の子がそう言うと、杖から出た水が、細く伸び、蛇のような動きをする。わたしはその蛇の形をした水を風魔法で切る。だが、水は切った場所がすぐにくっつく。

「切ることはできても、完全に壊すことはできないよ」

女の子が杖を振るうと、水の蛇はクネクネと動き、わたしの後ろに回り込ませようとする。

わたしは空気弾を連射して、水の蛇を破壊する。でも、女の子は魔力を追加して、水の蛇は再生して、伸びる。

これは思ったよりも厄介かもしれない。

わたしは伸びる水の蛇を破壊しながら考える。

あれなら。

わたしはクマさんパペットから水を出す。そして、女の子と同じように、水を細く伸ばす。

相手の女の子は驚く。

「水魔法は使えたとしても、水魔法が得意なわたしに勝てるとでも」

女の子の水の蛇は動く。わたしも合わせるように水を鞭のように動かす。水の蛇と水の鞭はぶつかりあう。女の子の水の蛇はわたしの隙を狙って、後ろの旗を狙おうとする。わたしは水の鞭で叩き落とす。

「くっ、それなら」

女の子は水の蛇を二本作り、操ってくる。

でも、水の蛇の動きは繊細さをなくし、大雑把な動きになる。

人は2つのことを同時に頭の中で考えるのは難しい。だから、水の動きは大雑把になる。

わたしは女の子の蛇の水の間をすり抜け、女の子が持つ杖を弾き飛ばした。

「噓……」

杖は地面に転がり、彼女の杖から出ていた水は消え去る。

「どうする? まだ、戦う?」

彼女は地面に落ちている杖を拾うと、首を横に振る。

「悔しいけど、わたしじゃ、あなたの旗を倒すことはできないみたい」

女の子はそう言うと、離れていく。

でも、面白いことをするものだ。流石、今回の交流会に選ばれるだけのことはある。

わたしが旗を守っている間も、他の旗取りは進んでいた。

さらに、旗は二本減り、残りがお互いに二本ずつになっていた。

シアの姿もない。どうやら、旗を取られてしまったみたいだ。ユーファリアの旗のほうを見ると、シアが2人がかりで旗を狙っている姿がある。

他でも、旗の攻防は続いている。

「そろそろ、終わりみたいね」

セレイユがやってくる。

ボスの登場だ。

「本当は疲れていないユナと戦ってみたかったんだけど。他のみんなが、ユナと戦わせてくれませんでした」

「それは仕方ないよ。本来は参加予定のない生徒だからね」

「でも、これでやっと、ユナと戦えます。だけど、このまま時間が過ぎれば、人が駆けつけてきます。その前に決着をつけましょう」

セレイユは駆け出し、白線の周りを走り出す。

セレイユは風を飛ばしてくる。それを、同じ風魔法で相殺する。初めに戦った、風魔法を使う生徒より速い。だからといって、防げないほどではない。ジュウベイさんの刀から出る風魔法のほうが速かった。しかも、今回は白線の中には入れないから、至近距離からの攻撃はこない。だから、見ていれば、防ぐことはできる。

セレイユは水の玉を1つ、自分の前に出す。それを飛ばす。

それだけならと思い、風魔法で切り裂く。だが、水の玉は曲がり、風の刃を躱す。水の玉はわたしの横を大きく通り抜けると、曲がる。

離れた水を操っている。

モグラ討伐のとき、マリナがエルの水魔法を説明するときに、言っていた。離れた水を操作するのは難しいと。

それをセレイユがやっている。水の玉は曲がり、旗を狙う。わたしは土の壁を作り、防ぐ。

「よく対処ができましたね。それなら、これならどうですか?」

セレイユの前に3つの水の玉が浮かぶ。それを同時に、わたしに向けて放つ。わたしも、水の玉を3つ出し、セレイユが出した水に向けて放つ。セレイユの水は避ける。3つ同時に操っている。

でも、わたしの水の玉は、セレイユの水の玉を追走する。

「冗談でしょう」

わたしの水の玉はセレイユの水の玉にぶつかり、水は地面に落ちる。

今のは危なかった。もう少し反応が遅れたら、旗に当たっていたかもしれない。

水魔法は苦手じゃなかったの?

ただ、100%思い通りには動かせていないようだ。

それからもセレイユとの攻防が続く。水の魔法と風の魔法を中心に、土魔法も火の魔法も使ってくる。バリエーションが多いから対応に困る。

セレイユの攻撃を防いでいると、ひときわ大きい歓声があがる。

わたしとセレイユは、お互いに周りを見る。

王都の学生の旗が倒された。

残りは、わたしが守る一本だけになった。

旗を倒された生徒は、わたしのほうをチラッと見ると、攻撃に向かって走り出す。

それだけではない。ユーファリアの旗も今、倒され、一本になった。そうなると、旗を守っていた生徒がやってくることになる。

「勝負はここまでのようですね」

ユーファリアの旗を守っていたと思われる生徒がセレイユのところにやってくる。

「セレイユ様、申し訳ありません」

「いいのよ。本当はわたし一人で旗を倒したかったのだけど、手伝ってくれる?」

「はい!」

「時間がないので、ここからは2人で行かせてもらいます」

王都の学生も2人で攻撃を始めている。

「エリザ、練習通りに行きましょう」

「はい!」

セレイユとエリザと呼ばれた生徒は走り出す。

2人は対角線上に移動すると、攻撃を仕掛けてくる。エリザは土の塊を飛ばしてくる。わたしは土の壁で防ぎつつ、セレイユの動きも観察する。

セレイユは水の玉を3つ、放ってくる。しかも、軌道を変えながら、向かってくる。

左手で、エリザの相手をしながら、右手でセレイユの相手をする。

両手で魔法を繰り出すことはできるが、頭がついていかない。同時に2人を視界にいれることができない。うまい距離感を保っている。これは練習のたまものだ。

やばい。楽しい。

考えるな。体を動かせ。

ゲームで、複数に襲われたことは何度もある。死んだこともあるし、防ぎ切ったこともある。こんな瀬戸際の戦いは、何度も経験している。

わたしは体を動かし、魔法を放つ。セレイユとエリザの攻撃を目で見るのでなく、体全体で感じる。

ゲームの中でもたまにあった。頭で動く前に体が動くことが、こういうときは、生還率が上がる。

右、左、上、体を動かし、魔法を放ち、旗を守る。

いつまで続くか分からないと思ったとき、大きな笛の音がして、試合終了と先生の声があがる。

それと同時に、一番の歓声があがる。

「終わったの?」

「終わったようですね。残念ながら、わたしたちの負けのようです。まさか、2人がかりで、旗が取れないとは思いませんでした」

「もう少し、時間が長かったら、危なかったよ」

「最後の旗を守っていたあの子には申し訳ないことをしました」

セレイユは自分の学園の最後の旗を守っていた女の子を見る。

あの女の子も最後まで守っていた。ほんの少しの差だったかもしれない。

でも、守るって、思いのほか、疲れるね。

「でも、わたしは王都の生徒じゃないから」

「それを了承したのはわたしたちです。ユナ、とても楽しかったですよ」

セレイユは微笑むと、ユーファリアの学生が集まる場所に歩き出す。

それと入れ違いに、王都の学生たちが集まってくる。

「ユナさん!」

シアが駆け寄ってくると、わたしに抱きついてくる。

「ユーナだよ」

「すみません。でも、試合に勝ちましたよ」

シアが嬉しそうにしている。

「ユーナさん、ありがとう」

「ユーナさん、凄かったです」

「役に立てたようで、よかったよ」

みんなから感謝の言葉を贈られる。

「でも、ユーナみたいな凄い生徒が、どうして今回の交流会に選ばれなかったのかな?」

それは、わたしは生徒じゃないからだよ。

わたしとシアはこのタイミングで、教えることにする。

「そうなんだ。ユーナは王都の学生じゃ、ないんだ」

「それじゃ、入学すれば問題はないよ」

「でも、王都の学生じゃないから、この試合ってどうなるんだろう?」

「勝ったのは嬉しいけど」

みんなが話していると、先生がやってくる。

「これは魔法の交流会です。お互いの力を見せ合い、向上させるのが目的です。優劣は大切ですが、基本のことを忘れてはいけませんよ」

「でも、それじゃ、試合はどうなるんですか?」

「今回の試合は、わたしたちが勝った場合、引き分けになります」

「引き分け?」

「はい。彼女は王都の生徒ではありません。ですが、彼女なしでは勝てなかった。だから、今回は引き分けになります」

「たしかに、ユーナがいなかったら、負けていたよね」

引き分けが妥当か分からないけど、勝ちよりはいいかもしれない。それに勝ったのに負けたよりは引き分けで、両校にとって無難な落としどころかもしれない。

「それではみなさん、話はあとにして、グラウンドから出てください。次は男子による試合をします。しっかり応援をしてやってくださいね。そのほうが男子もやる気がでますから」

先生がそう言うと、わたしたちはグラウンドから出て、男子の応援をすることになる。