軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

515 クマさん、クマ好きのことを知られる

風呂から出たわたしとノアは、自分の部屋に戻るセレイユと別れ、部屋に戻ってくる。

別れ際、セレイユの表情が気になったが、声をかけられなかった。

「それにしても学園祭のあのときの話が出てくるとは思わなかったよ」

「ユナさん、ルトゥム様の名前が出ても、反応がないから驚きました」

「騎士団長って肩書きは覚えているけど、名前まで覚えていないよ」

あれ以来会っていないんだから、覚えているわけがない。わたしの記憶から抹消されていたよ。

「でも、わたしのことが男性と思われているとは思わなかったよ」

「セレイユ様が言っていたとおりに、箝口令が敷かれているのが原因だと思います。調べれば、学生服を着ていた女の子がルトゥム様と試合をしたことはすぐに分かることです。もしかすると、セレイユ様のお父様がそこまで話していないだけかもしれません」

「まあ、娘に話して、それが広がったら、父親の責任問題になるかもしれないからね」

「たぶん、お姉様のためにルトゥム様と試合をした人がいたぐらいしか話していないかもしれません。だから、お姉様のために戦ったユナさんを男性と思い込んでしまったんだと思います。あと、王都から離れているここでは、セレイユ様個人に情報が入ってくるわけでもないと思いますし、セレイユ様も自ら情報を集めようとはしなかったんだと思います。ただ、わたしとお姉様に会ったので、あの学園祭のことが、気になっただけかもしれません」

ノアがセレイユの視点になって説明してくれる。

まあ、貴族の令嬢とはいえ、学生であるセレイユがルトゥムのことを個人的に調べたりはしないよね。

「そういえば、わたしのことを黙っててくれてありがとうね」

「お母様より、口外はしないように言われていますから。それにユナさんも知られたくないから、あのときは偽名を使ったんですよね?」

「偽名? なんのこと?」

わたしは首を傾げる。

「……ユナさん、ユーナって名乗っていましたよね?」

ノアが確認するかのように尋ねる。

……ユーナ?

徐々にあのときの記憶が蘇ってくる。

ポンっとクマさんパペットを合わせる。

「……あっ、そんなことを言った記憶が微かにあるね」

そうだ。国王陛下に尋ねられて、ユーナととっさに名乗ったのを思い出した。

「ノア、よく覚えているね」

わたしは忘れていたのに。

「ユナさんが、覚えていなさ過ぎなだけです。あんなことがあったのにルトゥム様の名前も忘れているなんて」

えっ、普通、一回程度しか会ったことがない人の名前なんて覚えていないでしょう? まして、興味がない人の名前なんて。クラス替えがあって自己紹介されても、興味がない子の名前なんて覚えていない。それと同じことだ。

それにノアには悪いけど、フォシュローゼって名前も最近覚えたばかりだ。初めの頃は覚えていなくて、クリフに怒られた記憶が懐かしい。

わたしは窓を開け、お風呂上がりの肌を冷やす。気持ちいい。涼んでいるとセレイユが部屋にやってくる。

「食事の用意ができましたので食堂に行きましょう」

「それじゃ、わたしは待っているよ」

「なにを言っているのですか? ユナ、あなたも一緒ですよ」

「家族も一緒なんでしょう。護衛のわたしが貴族であるセレイユやノアと一緒に食事をするわけにはいかないでしょう?」

「気にしないで大丈夫ですよ。ノアとシアの友人として、紹介させていただきますから、一緒に食事をしてください。それにわたくしは言いましたよね。あなたたちにおもてなしをさせてくださいと。もちろん、その中にはユナも含まれています」

セレイユは手を差し伸べる。

「ユナさん、行きましょう」

ノアも手を差し伸べ、わたしの手を掴む。

わたしは二人に連れて行かれる。

「言っておくけど、マナーとか分からないからね」

「普通に食事を楽しんでいただければ問題はありません。父も 煩(うるさ) くありません。ユナやノアみたいな可愛い女の子と一緒に食事ができることを喜ぶと思いますよ」

それって、喜んでいいのかな?

本当は貴族の家族と食事は遠慮したいところだけど、ノアの言葉のどおりに一日だけセレイユに付き合うことにする。

そして、食事を終え、部屋に戻ってくる。

「ユナさん。料理、美味しかったですね」

「ちょっと、落ち着かなかったけどね」

結論から言えば、セレイユの父親は優しそうな人だった。たまにシアのことを聞かれたり、ノアはクリフのことを聞かれたりした。楽しく食事は出来たと思う。

あと、テーブルの席にはノアよりも少し上ぐらいのセレイユの弟がいた。わたしたちが一緒だったことに驚いていたが、元気に挨拶をしてくれた。

ただ、家族で集まっての食事のはずだったけど、母親の姿はなかった。もしかすると、エレローラさんのようにお城で働いているのかもしれない。

もし、お城で働いていたら、クマ姿のわたしのことを知っているかもしれないから、気をつけないといけないね。

「それじゃ、少し早いけど、寝る準備でもしようか?」

「はい」

ノアはアイテム袋から寝間着を取り出し、着替え始める。可愛らしい白いフリルがついた寝間着だ。わたしじゃ、間違いなく似合わない。

「ユナさんは着替えないんですか?」

着替えるってことはあれに着替えるってことだよね?

まあ、あとは寝るだけだ。誰かと会うわけでもないし、朝早くに着替えればいいだけだ。

わたしはクマボックスからクマの着ぐるみを出し、クマの着ぐるみを着る。

やっぱり、クマの着ぐるみを着ると、落ち着く自分がいる。

絶対、呪いの服だよね。

「やっぱり、ユナさんはその姿が一番似合っていますね」

「ノア。それって、褒め言葉になっていないからね」

わたしは自分の姿を見る。見事に白クマだ。今日はいろいろと疲れたので、白クマで疲れをとるつもりだ。

「わたしもクマの格好で寝ようかな」

ノアはそう言うと、アイテム袋から何かを取り出し、わたしに向かって広げてみせる。

「それって、お店の」

ミサの誕生日パーティーのときに、ある事件が起こり、くまゆるとくまきゅうが街の中を走ったことがあった。街の人はくまゆるとくまきゅうを恐れることになった。

それで、くまゆるとくまきゅうは怖くないことを知らせるために、ノア、フィナ、ミサの三人がわたしのお店のクマの制服を着て、くまゆるとくまきゅうと遊んだことがあった。

そのときに着ていたものだ。

「はい、たまに寝るときに着ているんですよ。流石に昼間に着ると、お父様やララに怒られますから」

それはそうだ。貴族の令嬢がクマの格好をしていたら、注意ぐらいするよね。

ノアは、せっかく着た可愛い寝間着を脱ぎ、クマの服を着始める。

「色は違いますが、同じクマさんの格好です」

ノアはわたしと同じクマの格好で嬉しそうにする。

「ユナさん、くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんはどうするんですか?」

危険はないと思う。でも、ミサのようなことがないとは言い切れない。

それに何が起きるか分からないのが人生だ。ゲームをやっていたら、異世界に連れていかれ、クマの格好にされることもある。いきなり、寝ているときにドラゴンが現れるかもしれない。

くまゆるとくまきゅうがいれば危険があれば教えてくれる。それに朝に送還すれば気づかれることもない。

わたしは子熊のくまゆるとくまきゅうを召喚する。

ノアは嬉しそうにくまゆるを抱きかかえる。わたしもくまきゅうを抱えると嬉しそうに「くぅ~ん」と鳴く。くまゆるもノアに抱かれて嬉しそうに鳴いている。

そのとき、ノックがされドアが開く。

「ノア、ユナ、少し失礼しますね」

開いたドアのところにはセレイユの姿があった。

「ユナ、その格好は? ノアまで。それに二人が抱いているのはクマ?」

セレイユは、わたしが抱いているくまきゅう、ノアが抱いているくまゆるを見て、驚いている。

もう、何もかもが遅い。

「えっと……」

人って、動転すると言葉が出てこない。

セレイユは、わたしに近寄ってくると、くまきゅうに手を伸ばす。

「か、可愛いです。どうしたんですか? さっきまでいませんでしたよね?」

セレイユはわたしが抱くくまきゅうの頭を撫でる。

「クマですよね? 白いクマなんて初めて見ました」

セレイユは、満面の笑みで、くまきゅうの頭を撫でたり、ノアからくまゆるを奪い取り、抱きしめたりする。わたしとノアは唖然としながら、くまゆるとくまきゅうがセレイユにされるがままなのを見つめる。

「……」

「……」

「申し訳ありません。可愛い動物が好きで、取り乱してしまいました。忘れていただけると助かります」

我に返ったセレイユは少し恥ずかしそうに頬を赤くしている。

「それで、説明をしていただけますか?」

セレイユはくまゆるとくまきゅうを見る。

わたしはくまゆるとくまきゅうが召喚獣で、いつでも召喚できることを説明する。ついでに面倒なので大きくなれることも話し、くまゆるとくまきゅうに乗ってクリモニアからやってきたことも話す。

「クマに乗って……」

「乗り心地はいいんですよ、それに凄く速いんです」

ノアが自慢するように話す。

試しに大きくして見せると驚いていた。

「こんな可愛い。いえ、大きくなったりできる凄い召喚獣を持っているなら、初めに言ってください。そうなら、わたくしも……」

そう言いながら、わたしが抱えているくまきゅうを見る。

「それで、そのクマを召喚した理由はなんですか?」

「夜は一緒に寝ているから召喚しただけだよ」

危険があるかもしれないから召喚したとは言えない。

それに、いつも夜は召喚して寝ているので、嘘ではない。

「クマについては分かりました。それで、二人の格好はなんですか?」

「それは……」

どうする? 私服って答えるべき?

それとも寝間着と答えるべき?

「この格好はクマさんが好きだからしています。わたしもユナさんもクマさんが大好きなんです」

ノアがわたしの代わりに答える。

「そうなのですか?」

「「くぅ〜ん」」

セレイユが確認するようにわたしを見て、くまゆるとくまきゅうが「どうなの?」って感じのつぶらな瞳でわたしを見る。

今更だけど、くまゆるとくまきゅうの影響もあって、クマ好きになったのは間違いない。でも、今日会ったばかりのセレイユにクマ好きだからクマの格好をしていると言うのも、心にダメージを受ける。だからと言って、くまゆるとくまきゅうを見ると、冗談で誤魔化すこともできない。もし、嘘を吐いて誤魔化したりしたら、くまゆるとくまきゅうが悲しむ。

だから、わたしの返答は1つしかない。

「……クマが好きだから」

わたしの言葉にくまゆるとくまきゅうは嬉しそうに鳴く。

「だから、クマの手袋をしていたのですね」

セレイユはわたしの格好に納得する。

「でも、ユナの気持ちも分かります。わたくしもクマをこんなに近くで見るのは初めてですが、可愛いですね」

セレイユはチラッとくまゆるとくまきゅうを見ると、表情が緩む。

「ノアとユナがクマ好きで、そのような格好をしているのは分かりました。ですが、他の者が見たら、驚きますので朝になったら着替えて、クマさんは消してくださいね」

くまゆるとくまきゅうは始めから送還するつもりだけど、クマの格好でいたらダメってこと?

ああ、明日はクマの格好でいるつもりでいるわたしがいる。

呪いだ。

「それで、セレイユはどうして、部屋に?」

「そうでした。明日のことを少しだけ話しておこうと思ったんです。わたくしは授業がありますので、学園に行きます。ノアたちもシアに会うために学園まで行くのでしょう?」

シアとは学園の入り口で待ち合わせになっている。

「それで一緒に行きましょうと伝えに来ただけです。それでは、わたくしはこれで失礼します。ノアたちも早く寝るんですよ」

「はい。セレイユ様、おやすみなさい」

セレイユはドアに向かって歩き出す。でも、何かを思い出したかのように戻ってきて、くまゆるとくまきゅうの頭を撫でると、幸せそうな表情をする。

そして、何事もなかったように部屋から出ていった。