軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

512 クマさん、勝負に勝つ

「強かったです。わたくしの負けです」

負けを認めたセレイユは立ち上がる。

その表情からは負け惜しみとかはなく、素直に負けを認めている。やっぱり、性格は悪い子ではなかったみたいだ。

「あなたも強かったよ」

「気づかいは不要ですよ。あなたとわたくしの間では埋められないほどの差がありました。そのぐらいは理解しています」

「そんなことはないよ。わたしはなにもできずに防戦一方だったし」

わたしの言葉に、セレイユは驚いた顔をしたかと思うと笑みを浮かべる。

「ユナ、あなたは面白い人ですね」

面白い? クマの格好をしていないのに? クマのときに言われるのは納得できるけど、この姿で言われると納得がいかない。

わたしがセレイユの言葉に反論したいと思っていると、ノアとシアがやってくる。

「ユナさん、格好よかったです」

ノアが嬉しそうに抱きついてくる。

「ノアール、良い人が護衛をしてくれていますね」

「はい、ユナさんはとっても強いです。いつも困っていると助けてくれます」

ノアは満面の笑みで答える。

「ユナさん、セレイユに余裕で勝つなんて、やっぱり凄いですね」

「余裕?」

シアの言葉にわたしは首を傾げる。

セレイユといいシアといい、さっきから、わたしへの評価がおかしい。

シアは、わたしが強いことは知っているから、今の試合が余裕で勝ったように見えたの? それとも、普通にそのように見えたの?

「普通、あんなに打ち込まれたら、慌てたり、戸惑ったり、攻撃を仕掛けたりするのにユナさんは表情一つ変えず、セレイユの攻撃を受け止めていました」

「せめて、顔色の一つでも変えてみせようと思いましたが、どんなに打ち込んでも、できませんでした」

もしかして、そんな風に見られていたの?

わたしは防戦一方で、セレイユに逆転勝利を演出したつもりだったけど、そうは見えなかったらしい。

考えごとをしていたこともあって、確かに表情を変えた記憶がない。

どうやら、わたしには役者の才能はないみたいだ。

「最後の突きは卑怯と言われても仕方ないと思ってやったのですが、それさえも躱されてしまいました。最後は申し訳ありませんでした」

「突きなんて、誰でもしてくるんじゃないの?」

槍、レイピア、剣だって突く。ナイフだって突き出す。突きは攻撃の一つだ。ジュウベイさんだって普通に使っていた。

「練習では危険なので、突きはしません。もちろん、普通の攻撃も危険をともないますが、突きを行う場合は防具を付けます。このような格好では危険なのでしません」

セレイユはお互いの制服を見る。

言われてみると、確かに危険だ。わたしはセレイユに怪我をさせるつもりはなかったけど、クマの着ぐるみを着ていないわたしが、木刀といえ、当たれば怪我ではすまなかった。もしかして、ゲーム脳なのかもしれない。ゲームの中なら命の危険はない。さらにこの世界に来てもクマの着ぐるみという絶対防御によって守られていた。もう少し危機意識をもたないといけない。

「だから、あの突きは卑怯だったんです。でも、あなたなら突きは躱すと思っていました。それで最後の攻撃を仕掛けたのですが無様に負けてしまいました」

わたしが手加減していることを知り、わたしなら避けると信じ、最後の攻撃に勝負を賭けたわけか。

だから、突きを躱したら、わたしの行動を読んでいたかのように体を回転させて攻撃をしかけてきた。突きの後の行動が早かったのも納得だ。初めから予定していた行動だったんだ。

つまり、シア同様にわたしの演技はバレバレだったみたいだ。次にやるときはもう少し考えないとダメだね。

「これはお返しします。ありがとうございました」

セレイユは木刀を返してくれるので、わたしは自分が持っている木刀と一緒にクマボックスに仕舞う。

「その手袋はアイテム袋になっているだけでなく、あなたの手も守っていたのですね。あなたの柔らかい手も少しだけ納得しました。でも、この二の腕が柔らかいのはどうしてかしら?」

セレイユはわたしの二の腕をプヨプヨと握る。

それは筋トレもしてない引きこもりだったからだよ。これ以上揉まれると精神にダメージを受けるので、セレイユから逃げ、シアの後ろに移動する。

「シア、練習の邪魔をしてごめんなさいね」

「わたしもみんなもいいものが見られたから、問題はないよ」

シアは視線を右の方に向ける。そのシアの視線の先では王都の学生がわたしたちを見ている。

学生の存在を忘れていた。

もしかして、学生たちにも手加減しているのは気づかれていたのかな?

「なら、よかったです。でも、魔法ではないので交流会の参考にはなりませんよ」

「魔法でなくても、素晴らしい試合でしたよ」

「わたくしが一方的に負けた試合ですけどね」

「セレイユの攻撃も、それを防ぐユナさんの技術も凄かったのは見れば分かるよ」

「ありがとうございます。そう言ってくれると、少しだけ慰めになります。次に試合をするときはもう少し恥ずかしくない試合を見せてあげます」

次? 次なんてないよ。

試合はこれっきりにしたい。

「それではいつまでも練習の邪魔をしては悪いので、わたくしはこれで失礼します」

ふう、無事に護衛の話は終わりそうだ。魔法の試合とかにはならずにすんでよかった。

「ノア、わたしたちはどうする?」

わたしはノアに尋ねる。

街を散策をしたあとに、シアに会ってユーファリアの街に到着したことを伝えるのが今日の予定だった。

散策は、セレイユに捕まってしまったので、途中で中止になってしまったけど、早めにシアに会うことができた。

「お姉様は練習なんですよね」

「明後日が交流会だから、練習する時間もないからね。それにユーファリアの学園がわたしたちのために練習場所を提供してくれたんだから、練習はしないと」

「残念です。お姉様にお久しぶりに会えたから、お話がしたかったのに」

「なに言っているの。一緒に海に行ったでしょう」

「そうですが、あのときはフィナたちも一緒でしたし」

ノアは少し残念そうにする。そんなノアを見て、シアはノアの頭に手を置く。

「明日なら大丈夫だよ。明日は体を休めるため、1日休みだから一緒にいられるよ」

「本当ですか!?」

シアの言葉に嬉しそうにするノア。

「わたしもノアと一緒にいたいから、明日の朝、学園の前の橋のところで会いましょう」

「わかりました。約束ですよ。それでは、わたしもお姉様の練習の邪魔をしてはいけませんので帰りますね」

明日の約束をしたノアは嬉しそうにする。

とりあえず、わたしとノアは練習の邪魔をしないように、セレイユと一緒にグラウンドから離れる。

後ろでは学生たちが何かを言っていたような気がするが、気にしないでおく。

「まさか、負けるとは思いませんでした。わたくしも、それなりに強いと思っていたのですが、上には上がいるものですね」

身体能力はクマ装備のおかげだ。クマさんパペットがなければ、剣は持てないし、受け止めることもできない。クマさんの靴がなければ、踏ん張ることもできない。わたしがしたことは、受け止める技術と攻撃する技術だけ。だから、誇れたものではない。

「ユナは誰に剣を教わったのですか?」

ゲームです。とは流石に言えない。

「うん、まあ、いろいろな人にね」

チュートリアルで武器の扱いを教えてくれる NPC(ノンプレイヤーキャラクター) がいた。それから、他のプレイヤーの戦い方を見て覚えたり。ネットなどの情報も、先生と言っても過言ではない。

あとは何度も攻撃を受けたり、最悪の場合は死んだりしながら学んでいった。

「そうなんですね。教えを受けたとしても、それを身につけるのは大変なことです。できない者もいます。ユナほどの年齢で身に付けたってことは、才能があったのですね。羨ましいです」

心が痛むから、そんなに褒めないで。

「ユナさんも凄かったですが、セレイユ様も凄かったですよ。なんというか、綺麗でした」

ノアがフォローと言えるか分からないフォローをする。

「ふふ、ありがとう。でも、先生からは型通りの剣だから、もっと強くなりたければ、応用を覚えろとも言われています」

「でも、魔法が使えるなら、魔法と組み合わせればいろいろとできると思うよ」

「そうですね。ユナとも魔法有りの勝負をしてみたかったです」

「勝負はしないよ」

「それは残念です。ユナが交流会に参加してくだされば、リベンジできたのですが」

残念ながら、わたしが参加する予定はない。なにより、制服を着ているけど、学生ではないからね。

「そういえば、ノアール。いつから街にいるのですか?」

「昨日からです。それで、本日お姉様に会う約束をしていたので、それまでユナさんと散歩をしていました」

「それでわたくしと会ったのですね。昨日、街に来たということは、どこに泊まっているの?」

「セレイユ様に会った近くの大通りにある宿屋です。部屋にお風呂もあって、食事も美味しかったです」

ノアは迷うこともなく、宿屋の場所を説明する。

「ああ、あの宿屋ですね。あそこはしっかりしている評判のいい宿屋ですね」

セレイユもノアの説明ですぐに分かったようだ。

やっぱり、あの宿屋は評判がいいんだ。

わたしの格好を見ても突っ込まなかった宿屋だ。もっとも、わたしがどこかの令嬢だった場合、大変なことになるから、関わらなかっただけかもしれないけど。

セレイユは少し考える。

「……そうですね。ノアール、この街にいる間は彼女と一緒にわたしの家に泊まってください」

「それって」

「勘違いしないでください。別に護衛を付けようという話ではありません。今回のお詫びを含めて、あなたたちをおもてなしさせてください」

「……ユナさん」

ノアが「どうしますか?」と言う目で見る。

「ありがたい申し出だけど、宿代は払ってしまったので」

わたしはやんわりと断る。会ったばかりの人の家では休まらない。できれば遠慮をしたいところだ。

「つまり、宿の代金が戻ってくればよろしいのですね。あの宿屋は知り合いがやっている宿屋になりますので、わたくしが話をさせていただきますから、大丈夫ですよ」

別にお金がもったいないって意味じゃなかったんだけど、遠回しの言い方では通じなかったみたいだ。