軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

486 クマさん、お屋敷の中に入る

わたしたちは大きな扉を開けてお屋敷の中に入る。

入るとちょっとした広さがあり、左右に通路があり、正面には階段が見える。

やっぱり広い。

「ここに来るのは久しぶりじゃのう」

カガリさんは懐かしそうに見回す。

「カガリさんは、この屋敷のことを知っていたみたいだけど、来たことがあるの?」

「ああ、何度か来ている。スオウが言っていたが、ここの温泉は気持ちいいぞ」

温泉の効果ってなんなんだろうね。

さすがに科学的分析ができないから、効能とかは分からないと思うけど。美肌効果があるとか、関節痛に効くとか、病気に効くとか、いろいろと聞くけど、どうなんだろうね。

今のわたしにはどれも関係ないけど、疲れが取れたり、気持ちよくなればいい。

……もしかして、白クマと同じ効果?

いやいや、温泉は別物だ。お風呂は心を休ませてくれるからね。

「ずっと、あの島にいたんじゃないんだね」

「当たり前じゃ、抜け出して、あっちこっち行ったこともある。逆に何年も寝ていたこともあったが」

何年も寝るって、冬眠かな?

でも、狐は冬眠ってしないんだっけ?

どっちかと言うと、冬眠するのはクマだよね。

「カガリは街に酒を飲みに来ていたな」

「持ってくる酒が少ないんじゃよ」

「カガリが飲みすぎなだけだ」

話を聞く限りだと、カガリさんはかなりお酒を飲むみたいだ。わたしとしては、お酒はいらないけどジュースやコーラは恋しくなるね。ポテトチップスとコーラのコンボは最高だった。ポテトチップスは作れるけど、コーラは作れないからね。

「ユナ様、こちらに来てください」

コーラのことを思いふけっていると、サクラが階段のほうから、わたしを呼ぶ。

「ジュウベイ。すまないが、おまえはここで待機しててくれ」

「しかし」

「ここは建物の中だから大丈夫だ。それに大蛇を倒したユナもいる。それともユナが俺を襲うと言うのか?」

ジュウベイさんがわたしのことを見る。そして、スオウ王に向き直す。

「……いえ」

「なら、ここで見張りを頼む」

「分かりました」

もしかして、ジュウベイさんに聞かれたくない話でもあるのかな? 少し、ジュウベイさんを残らせるのは強引だった。護衛なら傍にいさせたほうがいい。

ジュウベイさんを残して、わたしたちはスオウ王と、サクラとシノブがいる階段に向かう。

ちなみにカガリさんはくまゆるの上に乗ったままだ。

「ユナ様、こちらです」

「今、行くよ」

サクラは楽しそうに階段の上から手を振っている。そんなサクラを見て、スオウ王が口を開く。

「サクラに笑顔が戻った。本当に感謝する」

横を歩くスオウ王が礼を述べる。

「わたしも元気になってくれて嬉しいよ」

初めて会ったサクラは、大人びた口調で、悲しそうな顔で、追いつめられていた。大蛇を倒したことを知ると泣いていた。そんなサクラが笑顔でいるのはわたしも嬉しい。

「ユナが男でないのが残念だ。ユナが男なら、サクラの結婚相手にしたのにな」

スオウ王からとんでもない発言がでる。

「そんなことを考えていたの?」

「普通、考えるだろう。サクラが会ったばかりの者に、これほどに心を開いているんだ。これほどの相手がいると思うか?」

「サクラの結婚相手って、まだ早いでしょう」

「亡き妹の代わりに、しっかりとした結婚相手を捜してやらないといけないだろう? サクラには幸せになってほしいからな。早めに相手を決めるのはいいことだ」

「言っておくけど、無理強いはさせないでよ。相手はサクラにちゃんと選ばせてあげてね」

元王族の母親を持つ娘。今は亡くなって、スオウ王が間接的に世話をしている。どれだけ恋愛に自由があるか分からないけど、知っている子には幸せになってほしい。その気持ちはスオウ王にもあるから、無理強いはしないと思うけど。サクラが断れるかが問題かもしれない。サクラはスオウ王が連れてきた男に「分かりました」って言ってしまいそうだ。サクラには自分で相手を選んでほしいね。

でも、結婚か。フィナもシュリもノアも大人になったら結婚するんだよね。そう考えると、少し寂しいね。でも、その前にアンズやカリンさんが先だね。

「わかっている。だから、ユナが男だったら、よかったという話だ」

残念ながら、わたしは女の子だ。サクラとは結婚できない。さらに、現在のわたしは男の子にも興味がない状態だ。未来のわたしが一人で老いていく悲しい映像が脳裏に浮かぶ。

そのとき、くまゆるとくまきゅうが「「くぅ~ん」」と鳴く。もしかして、わたしの心を感じ取った?

「そうだね。2人がいるね」

「「くぅ~ん」」

くまゆるに乗っているカガリさんは、いきなり鳴いたくまゆるとくまきゅうに対してのわたしの言葉が分からないようで、首を傾げている。

サクラとシノブを先頭に階段を登り、三階に上がる。サクラとシノブはそのまま歩き、わたしたちが入ってきた方向と反対の方向の扉を開ける。

「ユナ様、こちらです」

どうやら、わたしになにかを見せたいらしい。

わたしはサクラが呼ぶほうへ行く。

「これは……」

扉の先には深緑の中に青い湖が広がっていた。広い森の中にある湖は、それは綺麗な風景だった。

「ユナ様、ここから見る景色は綺麗でしょう」

「うん、凄く綺麗だよ」

家に閉じ籠っていたわたしは、現実の世界で湖を見たことがない。テレビやパソコンのモニターで見たことはあるが、その風景とは違う。クマさんフードを取ると、吹き付ける風も心地いい。

そんなわたしのことをシノブとサクラが呆けたように見ている。

「ユナって、可愛いと思っていたっすが、美人さんっすね」

「いきなりなに? お世辞を言っても、なにもでないよ」

もしかして、お世辞を言って、このお屋敷を使わせてほしいって魂胆かな?

そんなお世辞を言わなくても、使わせるぐらい構わない。もちろん、使ったあとは、掃除はしてもらうけど。

「わたしも綺麗だと思います」

シノブがお世辞を言うから、サクラまでお世辞を覚えてしまった。

「大きくなったら、わたしよりサクラのほうが美人になるよ。今だって凄く可愛いんだから」

きっとサクラは大きくなったら美人になる。わたしと違って、結婚相手にも困らないんだろうね。ただ、変な男には騙されないでほしい。

わたしは二人が美人と騒ぐので、クマさんフードを被る。

「それにしても、いつ見ても、この風景は綺麗です」

目の前には綺麗な風景が広がる。

本当に、この世界に来て、いろいろなものを見たり、体験をしてきた。

たまに、こういうのがあるから、異世界の旅はいいね。クマの転移門があるから、簡単に帰れるし。

「どうだ。気に入ってもらえたか?」

「気に入ったかと聞かれれば、気に入ったけど」

まだ、温泉や他の部屋を見ていない。

「先代の王はこの湖の景色が好きじゃったからのう」

カガリさんが懐かしそうにくまゆるの上から風景を見ている。カガリさんの思い出の場所でもあるんだね。

「そんなお屋敷をわたしがもらってもいいの? あのクマの家を持っているから、隅を借りさせてもらえれば十分なんだけど。こんな立派な家をもらっても、たまにしか使わないよ」

個人的には、隅にクマハウスを置かせてもらえればいいんだけど。

「それだと礼にならないだろう。おまえは自分がどれだけのことをしたか、分かっていないのか?」

「分かっているよ。サクラの悪夢を取り除いてあげただけでしょう」

「違う。国を救ったんだ」

半分冗談で言ったんだけど、真面目に返された。

でも、実際はサクラが可哀想だから、引き受けた部分が大きい。これが性格の悪い女の子や横柄な王だったら、素知らぬ顔をして、クリモニアに帰っていたかもしれない。

あとは、お米や和の国の食べ物のためだ。なくなったら世界の損失だからね。

「お主に抵抗があるなら、妾がここに住むことにするかのう」

「カガリさん?」

「誰かが、ここに住んだほうがいいじゃろう」

「なにもないけど?」

「温泉があるから、問題はない」

わたしとしてもカガリさんが住んでくれるなら安心だけど。

「街に行くにしても、近いし。ここなら、スズランも島にいるよりは簡単に来られるだろう」

スズランって、カガリさんをお世話をしていた人だっけ?

その人がカガリさんのお世話をしてくれるなら、安心かな?

あとは、その人がいるときにかち合わなければいいだけだ。

「カガリさんが住むなら、わたしは助かるけど。1人でここに住むの?」

「妾はあの島に百年以上もいたのじゃぞ。1人のほうが落ち着く」

カガリさんはそう言うけど、いいのかな?

「わたしがカガリ様に会いに来ます。そしたら、寂しくないと思います。ここなら、船を使わないから、簡単にくることができます」

サクラが声をあげる。

確かに移動のことを考えれば、船に乗って島に行くより、馬や馬車に乗って来たほうが楽だ。

「そのときは酒を持ってくるんじゃぞ」

「サクラに酒を持たせるな!」

「それなら、わたしが持って来るから、ここに泊めてほしいっす」

「酒は歓迎するが、泊めるかはユナに聞け」

「掃除をするなら、いいよ」

「なんか、わたしだけキツクないっすか?」

「なんなら、住んでもいいよ」

「嫌っすよ。こんななにも無い場所に住むなんて、たまに来るからいいんすよ」

それには同意だ。たまに来るところならいい場所だが、住むとなれば別だ。

それに、クマハウスに暮らしなれてしまったから、こんな大きなお屋敷に暮らすのには抵抗がある。それに防犯のことを考えると、クマハウスは外せない。