軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

475 クマさん、押し付け合う

大蛇は倒れた。

死んだと思うけど、魔石は取ったほうがいいよね。ここまで生命力が強いと油断はできない。

「ムムルートさん、大蛇の魔石の位置って分かる?」

わたしが尋ねると、ムムルートさんとくまゆるに乗ったカガリさんが倒れた大蛇に近づく。

「くまゆる、もうちょい、右に頼む」

「くぅ~ん」

くまゆるに乗っているカガリさんはくまゆるに指示を出し、くまゆるはそれに従って移動する。

「この辺りか?」

「そうだな」

2人は大蛇の体に触れながら、確認する。

そして、魔石がある場所を見付けたのか、ムムルートさんはナイフを出して、大蛇を切り裂いていく。

「くそ、なかなか取れないぞ」

「ほれ、頑張れ」

「見ていないで手伝え」

「妾はこんな格好じゃ、無理に決まっているじゃろう。ほら、しっかり、取らんか」

大蛇のほうから、2人の楽し気な声が聞こえてくる。

そんなやり取りを見ながら待っていると、ムムルートさんとカガリさんが戻ってくる。ムムルートさんの手には無色の大きな魔石がある。わたしが手に入れた魔石より少し大きいかも。

「これで、安心じゃな」

「本当に倒したのですね」

サクラは魔石を見て、改めて安堵の表情を浮かべる。

「もう、泣かないでね」

「ユナ様は意地悪を言うのですね」

「泣かれるのは苦手なだけだよ。できれば、喜んでほしい」

「はい、わかりました」

サクラは目にうっすらと涙を浮かべていたが、嬉しそうに微笑む。

これで、予知は回避され、死ぬ夢を見ることはないはずだ。いろいろと大変だったけど、1人の少女を救ったと思えば頑張ったかいがあったものだ。

「これで、わしの役目は終わりだな。ルイミン、帰るとしよう」

ムムルートさんはルイミンに声をかけ、手に持っていた魔石をカガリさんに渡す。

わたしが持っている魔石も渡したほうがいいのかな?

「まて、今回も逃げ出すつもりか?」

「逃げ出すもなにも、本来いない者がいたら、おかしいだろう」

確かにムムルートさんがいるのはおかしい。

「ですが、ムムルート様。まだ、お礼もしていません。このまま帰すのは」

「わしは大蛇の復活の時間を稼いだだけだ。倒したのは嬢ちゃんだ」

「いえ、ムムルート様とルイミンさんがいなかったら、大蛇を倒すことはできなかったかもしれません」

たしかに大蛇が完全復活していたら、倒すことはできなかったかもしれない。被害も大きくなっていたかもしれない。ムムルートさんの封印強化のおかげで個別に戦うことができたのは間違いない。

でも、この場合、どっちの味方に付けばいいのか困る。

もちろん、サクラの気持ちも分かる。命をかけて戦った者にお礼もせずに帰すのは気が引ける。でも、面倒ごとに巻き込まれたくないムムルートさんの気持ちも分かる。わたしがサクラの立場なら、引き止めるし、ムムルートさんの立場なら帰りたい。

「ですが」

「それにお礼が欲しくて手伝ったわけじゃない。過去の自分のやり残したことをしたまでだ。だから、お礼なんて考えなくてもいい」

そこまで言われたら、サクラはなにも言うことができなくなる。

ムムルートさんは帰るのか。

「それじゃ、わたしも帰ろうかな」

「まて。どうして、お主まで帰ろうとする?」

「残ったら、面倒くさいことになりそうだから?」

さすがに大蛇討伐となると大事になる。

サクラの頼みで大蛇の討伐に手を貸したが、わたしの手柄にされても困る。

「だが、ムムルート。今回は逃がすつもりはないぞ。あのときに残った妾がどれだけ苦労したと思っておる」

だから、帰りたいんじゃないかな?

「それに前にも言ったが、ムムルートが偶然この国に立ち寄ったことにすればいいだけじゃろう。お主がいないと倒した説明ができぬ」

「別に封印の強化については説明は不要だろう」

ムムルートさんは面倒くさそうにする。

「カガリさんが倒したことにするのが一番いいと思うけど。ほら、大きな狐に変身して倒したことにすれば」

「まて! 嬢ちゃんまで、妾に押し付けるつもりか!? 逃がさんぞ」

カガリさんがわたしとムムルートさんの服を摑む。どうやら、帰らせてくれないみたいだ。だからと言って、この小さな手を振りほどくわけにもいかない。元はわたしより大きかったけど、小さくなられると対応に困る。

どうしようかと悩んでいると、白クマパペットから「くぅ~ん、くぅ~ん、くぅ~ん、くぅ~ん」と鳴り出す。

クマフォンだ。

わたしはクマボックスからクマフォンを取り出す。

「もしもし?」

『フィナです』

「フィナ? なにかあったの?」

今は取り込み中だ。大した用件でなければ、あとでかけ直す。だけど、フィナからの言葉は予想外のものだった。

『えっと、シノブさんって女の人が目を覚ましました』

「……あっ」

完全に忘れていた。

クマフォンから聞こえたシノブの名前で、この場にいる全員がシノブのことを思い出す。どうやら、忘れていたのはわたしだけじゃなかったみたいだ。

だって、あれから大蛇が復活して、いろいろと慌ただしくなった。大蛇を倒したあとも今後について話したりして、シノブのことはすっかり忘れていた。

「それでシノブは大丈夫?」

わたしは忘れていたことを気付かれないようにフィナに尋ねる。

『はい、大丈夫みたいです。それでユナお姉ちゃんのところに戻りたいみたいです』

そうだよね。目が覚めたら知らない場所に寝かされていたら、こっちのことが気になるよね。まして、シノブは気を失っていたから、状況をまるでしらない。

だけど、大蛇がいるかもしれない場所に戻りたいとよく思うよね。国のことを思っているのか、サクラのことを思っているのか。考えるまでもなく、後者かな。

「あ~、うん。わかった。それじゃ、少ししたら扉を開けるから、待ってもらって」

『わかりました』

フィナと話を終えたわたしはクマフォンを仕舞う。

「それじゃ、とりあえずシノブを迎えに行くから、扉の場所まで移動していい?」

新しくクマの転移門を出してもいいけど、何個も出したくはないので、クマの転移門の回収を含めて、移動することにする。

くまゆるの上には幼女になったカガリさん、くまきゅうの上にはサクラが乗る。わたしとルイミン、ムムルートさんは歩く。

「すっかり、シノブのことを忘れていたのう」

カガリさんの言葉に反論する人が一人もいなかった。

「シノブ、怒っているでしょうか?」

「別に怒ってはいないと思うよ。気を失っていたから、安全な場所に移動させただけなんだから」

フィナからの連絡でもシノブが怒っている様子は感じとれなかった。

ただ、状況が分からず。いてもたってもいられないって感じかもしれない。

わたしたちはクマの転移門がある場所までやってくる。

クマの転移門はエルフの森に逃げることができるように開いたままになっている。ムムルートさんはルイミンを連れて、扉を黙って通ろうとする。それをカガリさんがくまゆるから飛び降りるとクマの転移門の前で立ち塞ぐ。

「待て。だから、なぜ、帰ろうとする。嬢ちゃん、ムムルートの奴が逃げないように扉を閉めてくれ」

「せっかく、繋がっておるのに、閉めることもないだろう」

「それじゃ、真ん中をとって、わたしが先に帰るよ。シノブのところに繋げないといけないしね」

「嬢ちゃんこそ、残らないとダメだ」

どうやら、逃がしてはくれないらしい。

「とりあえず、シノブをこっちに連れてきましょう。きっと、シノブは扉の前で待っていると思います」

「そうじゃのう」

わたしはエルフの森と繋がっている扉を閉める。そして、クリモニアにある自分の家にあるクマの転移門の扉を開けると、待っていたかのようにシノブの姿があり、その隣にはフィナの姿もあった。

「サクラ様、大丈夫っすか?」

シノブは扉が開くと、扉を通り、サクラの前にやってくる。

「はい、大丈夫です。シノブのほうこそ大丈夫ですか?」

「自分のほうも大丈夫っす。怪我をしたはずなんっすが、治っていたっす」

シノブは血が付いている服を見る。

わたしが治してあげたんだっけ。

「それよりも、どうなったっすか? ワイバーンは? 大蛇は?」

「シノブ、落ち着いてください。全て終わりました」

サクラの言葉にシノブは馬鹿の子のように口を開けたままでサクラを見ている。

「サクラ様、それって?」

「ムムルート様が封印強化を行い。その間にユナ様とカガリ様のお二人が大蛇を討伐してくださいました」

「……本当っすか?」

シノブがわたしと 幼女(カガリさん) を見る。そこでやっと 幼女(カガリさん) の存在に気付く。

「えっと、カガリ様っすか?」

「そうじゃ」

シノブはしゃがんで、 幼女(カガリさん) に目線を合わせる。

「可愛いっすね。どうして、そんな格好になったんすか?」

「この姿は大蛇の戦いで魔力を使い過ぎたせいじゃ。だから、なにも言うでない」

シノブは 幼女(カガリさん) に抱きつく。

「ああ、シノブ。ズルイです。わたしが我慢していたのに、カガリ様に抱きつくなんて」

どうやら、サクラは我慢していたらしい。サクラも 幼女(カガリさん) に抱きつく。

「ええい、2人とも離れんかい。妾はお主たちよりも年上じゃぞ。子供扱いするでない」

幼女(カガリさん) は鬱陶しそうに2人を突き放す。

でも、幼女姿のカガリさんを子供扱いするなって言うのは無理があると思う。人は見た目が大切だからね。いくら強くても、クマの着ぐるみ姿じゃ強いとは誰にも思われないし。背が低いと年相応に見られない。経験者は語るよ。

だから、2人がカガリさんを子供扱いするのは仕方ない。

「ユナお姉ちゃん、これってどうなっているんですか?」

わたしがそんな3人を見ていると、フィナがわたしのところにやってくる。

どうやら、フィナもクマの転移門を通ってこっちに来てしまったみたいだ。

まあ、扉は開けっ放しだし、シノブの介抱をお願いしてあったし、状況は知りたいよね。

「ユナ様、こちらの方は?」

全員の視線がフィナに向かう。

「わたしの命の恩人のフィナだよ」

「命の恩人……」

わたしの言葉にみんなの表情が驚きの表情に変わる。

「もしかして、強いっすか?」

「ユナお姉ちゃん! だから、その紹介の仕方は、やめてと言っているでしょう。わたし、強くないです」

そういえばそうだっけ。

すぐ忘れてしまう。

フィナはポカポカとわたしの体を叩く。

うん、痛くない。

それから、フィナは自分で自己紹介をした。

「フィナです。ユナお姉ちゃんと同じ街に住んでいます。ユナお姉ちゃんはわたしの命の恩人です」