軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

472 サクラ、泣く

わたしはくまきゅう様の背中に乗って、大蛇の頭の一つが封印されている建物にやってきました。

建物の外には魔物がいて、くまきゅう様が戦っています。わたしは大蛇の封印が解けないようにムムルート様から教わった魔法陣で大蛇が復活しないようにしています。

地面が揺れる度に赤黒い目が開いたり、閉じたりします。

怖い。

地面が揺れます。

外に出た時、みんなが死んでいたらと思うと、体が震えてくる。

また、地面が揺れます。

ユナ様とカガリ様が戦っています。

大蛇の目が開く。

お願い。まだ、起きないで。

わたしは魔力を込めます。

一気に流してはダメだ。少しずつ長く、とぎらせないように流し続けないといけません。

もちろん、魔力を多く流すことはいいことだ。でも、今のわたしがそれをやればすぐに魔力が尽きてしまう。大切なのは魔力を流し続けること。だから、目を覚ましそうなときは一時的に魔力を増やす。

わたしが封印強化を始めてから、しばらくすると、大きく地面が揺れました。それも一回や二回ではありません。怖くて不安がのし掛かってくる。

怖い。

地面がさらに大きく揺れたかと思うと、地面から何かが出てくるような音がし始めます。

想像したくありませんが、人と封印の数が足らず、誰も向かうことができなかった場所の大蛇の頭が復活したんだと思います。

過去に多くの人を殺した大蛇。

そんな魔物相手にユナ様とカガリ様はたったの二人で大蛇の頭二つと戦うことになります。

もし、二人が死ぬようなことがあれば、未来は絶望しかありません。

あの夢が現実となります。

怖い、人が死ぬのを見るのは嫌です。

ユナ様、カガリ様……。

大きなものを地面に何度も叩きつけるような音がして地面が揺れます。大蛇が暴れています。

あの大きな巨体で叩きつけられたら、ユナ様もカガリ様も死んでしまいます。

ユナ様、カガリ様、どうか死なないでください。

わたしは願うことしかできません。

願いを込めて魔力を込めていると、ドン、と大きな音がしたと思うと、大蛇の目が大きく開いて魔法陣が赤黒く点滅します。

いけません。

わたしは魔法陣に魔力を込めます。

大蛇の目が苦しむような、怒るような目をしています。

なにが起きたんですか!?

考えられるのはユナ様たちが大蛇と戦っている影響かもしれません。大蛇の体は繋がっています。攻撃を受ければ、他の頭にも伝わるかもしれません。

わたしは魔力を込める。

お願い。大人しくして。

魔力が吸い取られていく。これ以上込めたら魔力が無くなり、抑え込むことができなくなります。

でも、ここで復活させてしまったら、絶望しかやってきません。

お願い、まだ、起きないで。

わたしの願いが通じたのか、目がゆっくりと閉じます。

この脱力感からして、わたしの魔力は長くはもちません。

わたしがもう少し大人だったら、他の人がいてくれたらと思ってしまう。

深呼吸をして、一定の魔力を流し続けます。

いったい、外ではなにが起きているのでしょうか。

徐々に疲労感が体に広がってきます。

もし、ここで大蛇が復活したとしたら、動けずに死ぬかもしれません。

ユナ様には扉の向こうに逃げろと言われましたが、たぶん無理だと思います。

地面が揺れます。ユナ様とカガリ様はまだ戦っているのでしょうか? それとも伯父様が助けに来てくださっているのかもしれません。

地面を叩きつける音が何度もします。

そのたびに魔法陣が反応します。

まだ、ダメ。

お願い。これ以上暴れないで。

外で動いている大蛇に向かって願います。でも、その願いは届きません。

さらに大きな音がして、地面が揺れます。

大蛇の目が開きます。

「駄目です!」

わたしは魔力を込める。込める。込める。気を失いそうになります。でも、ここで止めるわけにはいきません。わたしは、最後の一滴を絞り出すように、魔力を流します。

お願い。止まって!

大蛇の目がゆっくりと閉じます。

安心感と同時に体がふらつきます。

わたしが横に倒れそうになったとき、壁に当たり、かろうじて倒れませんでした。

ここに壁なんてあった記憶はありません。

そもそもわたしは部屋の中央にいたはずです。

ぼやける目で横を見ると白い柔らかい壁がありました。

「くぅ~ん」

「くまきゅう様?」

わたしを支えてくれたのはくまきゅう様でした。くまきゅう様はとても、温かく気持ちいいです。

凄く安心します。

「くまきゅう様、ありがとうございます」

わたしはくまきゅう様に寄りかかりながら、魔力を流します。

くまきゅう様の体から温かいものが流れ込んでくるような気がします。くまきゅう様のおかげでもう少し頑張れそうです。

魔力を流し続けて、どれほどの時間が過ぎたのか分からなくなってきました。くまきゅう様がいなかったら、おかしくなっていたかもしれません。

いまだに地面が叩きつけられる音が聞こえてきます。そんな中、ひときわ大きな音がして、地面は何度も揺れ、大きな地響きがします。今までで一番近い場所です。嫌な予感がします。

初めの頃は少し離れたところで音がしていました。次にさらに近づき、今度はもの凄く近くで音がしました。

地面は揺れ、建物が揺れます。

もしかして、ルイミンさんのところの大蛇が復活したのかもしれません。

ルイミンさん……

関係ないルイミンさんを巻き込んでしまった。

どうか、無事でいてください。わたしはどうなってもかまいませんから、お願いします。

わたしは願う。

それから、何度も地面を叩きつける音が近くでします。その度に建物が揺れます。

壊れるかもしれません。

でも、この場所から離れるわけにはいきません。封印し続けるのがわたしの役目です。

何度も結界が赤黒く点滅し、大蛇の目が開きます

意識が薄れていきますが、くまきゅう様が優しく包んでくれます。

「くぅ~ん」

「だ、だいじょうぶです」

わたしは意識を保つ。

近くで、地面に叩きつける大きな音がすると、静かになりました。さきほどまでの地面を叩きつける音が、聞こえなくなりました。

くまきゅう様が優しく「くぅ~ん」と小さく鳴きます。

くまきゅう様、どうかしたのですか?

尋ねることができません。くまきゅう様に寄りかかり、魔法陣に手を置き、残っていない魔力を絞りだすことしかできません。

そんなとき、声をかけてくる人がいました。

「サクラ、大丈夫?」

おぼろげな目で声のするほうを見ると、階段のほうから駆け寄ってくるユナ様の姿とくまゆる様に乗ったルイミン様の姿がありました。

「ゆなさま?」

ユナ様が駆け寄ってきます。

「遅くなってゴメン。もう、大丈夫だよ」

大丈夫とはどういう意味でしょうか?

「サクラ。もう、手を離しても大丈夫だよ」

ユナ様がわたしの手に触れ、魔法陣から手を離させます。

体から流れていたものが止まります。

わたしは小さく息を吐きます。そして、ユナ様に尋ねます。

「ユナ様、大丈夫とはどういうことですか?」

「言葉通りだよ。他の大蛇の頭は倒したから、サクラが封印している大蛇の頭が最後だよ」

倒した? 最後?

ユナ様の言葉が理解できませんでした。

「サクラちゃん。大蛇なら、ユナさんが倒してくれたよ。もう、大丈夫だよ」

ルイミンさんが明るい声で教えてくれます。

徐々にお二人の言っていることが理解できるようになりました。

「本当なのですか? 本当に大蛇を倒したのですか?」

小さな声で尋ねる。

「自分の目で確かめてみるといいよ」

ユナ様はわたしの体を持ち上げると、くまきゅう様の背中に乗せてくださいます。

「それじゃ、二人とも外にでて。大蛇を復活させちゃうから」

わたしとルイミンさんを乗せたくまきゅう様とくまゆる様はユナ様の言葉に従って歩きだします。階段の上に上がったところで、ユナ様が魔法陣に向かって魔法を放ちます。

それと同時に駆け出します。

わたしたちは建物の外にやってきます。

地面が揺れます。この短い間に何度も経験した揺れです。地響きがして、土が盛り上がっていきます。

大蛇が出てきました。

大きい。

そして、怒ったような唸り声のような声を発し、体に水を纏って、水を吐き出します。

「あとで、草木に点いた火を消さないといけないと思っていたけど。これはいいね」

水の大蛇は怒ったように水を吐き出しています。

怖い。

でも、ユナ様は怖がった様子もなく、水の大蛇を見ています。

「ああ、でも、水が強すぎるから、木が倒れちゃうからダメだね」

ユナ様は水の大蛇を見て、そんな感想をもらします。

そんなことを言っている場合じゃないです。

目の前に大蛇がいるんですよ。

「くまゆるとくまきゅうがいるから大丈夫だと思うけど、二人は離れていて。ムムルートさんのところに行っていてもいいよ」

「いえ、わたしはユナさんの戦うところを見ています」

逃げ出したいと思うわたしと違って、ルイミンさんはそう答えます。

わたしも怖くてもユナ様の戦いを見届けないといけません。

「わたしも残ります」

「いいけど、くまゆるとくまきゅうから、絶対に降りちゃダメだからね。くまゆるもくまきゅうも二人が自分勝手に行動しようとしたら、強制的にムムルートさんのところに連れていって」

「「くぅ~ん」」

ユナ様の言葉にくまきゅう様とくまゆる様は返事をします。

「それじゃ、倒しちゃうね」

ユナ様は散歩に行くような感じで大蛇のほうに向かっていきます。

あとのことは夢を見ているような感じでした。

ユナ様は黒いくまさんの手に金色のものを纏わせ、水の大蛇に放つと、ものすごい音がして、水の大蛇の動きを止めてしまいます。

さらにクマの形をした大きな炎を何体もだし、水の大蛇にまとわりつかせます。

体に纏わり付く水がプクプクと沸騰し始めたときは驚きました。

そして、最後は水の大蛇の口の中に大きなクマの形をした岩を入れたと思いましたら、大蛇の口が裂けました。

もう、訳がわかりませんでした。

ユナ様と大蛇の戦いを話しても、誰も信じてくれないでしょう。

「終わったよ」

ユナ様は散歩から帰ってきたように軽く声をかけてきます。

すると、横にいるルイミン様は、大きな声でユナさんに声をかけます。

「ユナさん、凄いです」

そんな2人をわたしは見ていると、ユナ様がわたしのほうを見ます。

「サ、サクラ、どうしたの?」

「サクラちゃん?」

2人が驚いた表情でわたしを見ます。

どうしたとは、どういう意味でしょうか?

「どこか痛いの? それとも苦しいの?」

ユナ様が心配そうにします。

「いえ、どこも痛くも苦しくもありません」

「それじゃ、どうして泣いているの?」

わたしは自分の目に手を当てると、手が濡れます。

わたしは泣いていたようです。

自分が泣いていることを知ると、もう止めることができません。

「……ユナ様」

わたしはくまきゅう様から降りると、ユナ様のところに駆け寄ろうとしましたが、足がふらついてしまいます。倒れそうになったところをユナ様が駆け寄って抱きしめてくれます。

「大丈夫?」

「うぅぅぅ、ユナ様……」

もう涙が止まりません。

本当に大蛇が倒されました。

「ほら、泣いてちゃ、可愛い顔が台無しだよ」

ユナ様がハンカチを出すと顔を拭いてくれます。

「うぅぅ、ありがとうございます」

涙を堪えることができません。

それでもユナ様は微笑みながら拭いてくれます。

そんなわたしをユナ様が「頑張ったね」と言って優しく頭を撫でてくれます。

「それじゃ、ムムルートさんのところに行こうか」

「はい!」