軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

441 クマさん、飴細工を買う

翌朝、優しくくまきゅうに起こされる。くまきゅうの機嫌も完全に直った。

良かった。良かった。

ちなみに今回は気を使ったのかくまゆるは足元で丸くなっていた。

そして、朝食を食べたわたしは、眼帯をして頬に傷がある男を捜すため、シノブと街を歩いている。

「見られているっすね」

「そうだね」

「指を差されているっすね」

「そうだね」

「なにか、囁かれているっすね」

「そうだね」

「クマって聞こえるっすね」

「そうだね」

昨日は早朝で、まだ人も少ない時間帯に出発したので、これほど注目は浴びなかった。

でも、今日は日が上がって、時間が経てば経つほど、人通りも増えてくる。

わたしは無視するように歩いているが、シノブは気になるらしい。

まあ、忍者は目立たないで行動するのが仕事だから、気になるのかな?

「こんなに見られると、恥ずかしいっす。ユナは着替えないっすか?」

「着替えないよ。わたしの一張羅に文句があるの?」

少し強い口調で尋ねる。

このクマの着ぐるみは、わたしの普段着で、一張羅でもある。

「いや、ないっすけど。恥ずかしくないのかと思って」

恥ずかしいに決まっている。でも、脱ぐことができないのだから、仕方ない。まして、これから犯罪者を捕らえに行くんだ。クマ装備を脱ぐわけにはいかない。

「いやなら、今回の話はなかったことにする?」

「……我慢するっす」

シノブは諦めて、歩き出す。

人は諦めが肝心だからね。

わたしたちは視線を集めながら、シノブの情報を元にして、男を捜す。

「う~ん、簡単に見つからないね」

「そんなに簡単に見つかったら、苦労はしないっすよ」

まあ、そうだ。

簡単に見つかれば、わたしもこんなに視線を集めることはなかった。

「そろそろ、お腹が空いたっすね。ユナは何か食べたいものはあるっすか? わたしのお金から出していいっすから、ご馳走するっすよ」

「いいの?」

「それぐらい、いいっすよ」

「それじゃ、ご馳走になるかな」

シノブの言葉に甘えさせてもらって、気になった店に向かう。

「ここは?」

お店の前から、美味しそうな匂いが漂ってくる。

「うなぎっすか?」

そう、男を捜しているときに見つけたのだ。うなぎだ。うな重だ。これから戦うかもしれないんだから、栄養を付けるのは大事だからね。

「ここは高いっすよ」

シノブがいかにも入りたくなさそうにする。

確かにお店の外観が高級感を出して、高そうだ。

でも、今のわたしはうなぎって気分だ。入らない選択肢は存在しない。

「お金なら、シノブのお金だから問題はないよ」

「ユナは鬼畜っす」

そんなわけで、うなぎを食べるために店の中に入る。

「いらっしゃいませ? クマ?」

女性店員がわたしを見て、固まる。いつも通りの反応だ。わたしは、そんな女性店員に話しかける。

「二人だけど」

「あっ、はい。二名様ですね。こちらの席にどうぞ」

女性店員は不思議な物を見るかのように、チラチラとわたしを見る。

もちろん、そんな視線は無視だ。

それにしても、いい匂いがする。

早く食べたいね。

わたしたちは席に案内され、メニューを見る。

「ユナはどれにするっすか?」

気になったのがあった。

黄金の特上うな重。しかも、値段が一番高い。

「黄金の特上うな重」

奢りなら、一番高い物を注文するのは基本だよね。

「黄金の特上うな重っすか? もう少し、安いのがあるっすよ」

「黄金の特上うな重」

わたしは同じ言葉をもう一度繰り返す。

「うぅ、それじゃ、黄金の特上うな重と、この普通のうな重をくださいっす」

シノブが店員さんにお願いする。

店員さんは微妙な表情で「かしこまりました」と言って、注文を受け付ける。

「でも、黄金の特上うな重ってなに?」

「知らないで注文したっすか? 普通のうなぎと違って、光に反射すると金色に見えることで黄金のうなぎって言われているっす。味も、普通のうなぎと違って、脂がのっていて、美味しいっす」

そんなに美味しいなら、余計に食べないとダメだね。

そして、しばらく待つと、黄金の特上うな重がやってくる。

おお、美味しそう。

あきらかに、シノブの前にあるうな重と違う。

わたしは箸を摑むと、うな重を食べ始める。柔らかい。箸でうなぎを切り、ご飯と一緒に口の中に入れる。

「美味しい」

タレも美味しい。

「それはそうっすよ。黄金の特上のうな重っすよ」

そう言いながら、シノブもうな重を食べ始める。

「ユナはどっかのお嬢様なんっすか? 高い部屋に泊まっているし、高いものを平気で注文するし」

「普通の冒険者だけど」

「普通の冒険者は、1人であんな高い旅館に泊まったり、特上うな重を注文したりしないっすよ」

「そうなの? シノブだって、稼いでいるでしょう。お金は使わないとダメだよ」

「わたしは貯めるのが好きなんすよ」

お金を貯めることも大切だけど、稼いでいるなら使わないと。全員がお金を貯めたら、経済が大変なことになる。

まあ、シノブのことよりも、うな重だ。このうな重も持って帰れないかな?

フィナにも食べさせてあげたい。ゼレフさんに持っていってあげるのもいいかもしれない。

「どうか、したっすか?」

「お土産に持って帰れないかなと思って」

「ウナギっすか?」

「美味しいからね。知り合いの子に食べさせてあげたいと思っただけだよ」

うなぎを持って帰っても捌けないし、タレもない。せめて、捌いてあるうなぎがあれば、買っていくのもいいかもしれない。

「ウナギは焼きたてが美味しいっすよ。持って帰っても、美味しくないっすよ」

「そうだね」

うなぎが買えなかったら、今度お持ち帰りができないか、聞いてみよう。

うな重を食べ終わる。

うん、美味しかった。満足、満足。

そして、代金を支払う。

もちろん、シノブのお金じゃなく、自分のお金でだ。

「わたしが渡したお金は使わないんっすか?」

「シノブが死んだら、使わせてもらうよ」

「ユナ……」

「ああ、でも、自分の分は自分で払ってね」

「……了解っす」

シノブは微妙な顔で自分の食べたうな重の代金を払う。

フィナたちならともかく、同じ冒険者のシノブに奢る理由はないからね。

お腹が膨れたわたしたちは男を捜すため、男が寄りそうな場所を歩く。

朝から歩いているが、それらしき男は見つからない。

「本当にここの辺りにいるの?」

「見かけたって、情報があるっす」

「その情報は信用はできるの?」

「他に情報がないっす」

それなら、仕方ない。逆に、たくさん出没情報があっても困る。結局は情報を頼りに、地道に歩いて、男を捜すしかない。

わたしは周囲を捜す。でも、あるのは不思議なものを見るかのような視線だけだ。

そんな視線は無視しながら、周囲を見る。そんなわたしの視線の中に、道端に出ている一つの屋台が目に留まる。

「あっ、あれは?」

わたしは駆け出す。

「ユナ、どこに行くっすか!? もしかして、見つけたっすか?」

シノブが後ろで声をかけるが、わたしは屋台に一直線だ。

「な、なんだ!? クマ?」

屋台のおじさんが、いきなり現れたわたしに驚く。

わたしはそんなおじさんを無視して屋台に並んでいるものを見る。

屋台には飴細工がたくさん並んでいる。

「なんだ。飴っすか? ユナも子供っすね」

シノブが興味なさそうにやってくる。

でも、テレビで見たことはあるが、実際に見るのは初めてのわたしは興味がある。

ウサギ、鳥、馬、犬、猫、牛、豚、狐、狸と動物から、リンゴ、オレン、イチゴなどの果物。金魚や魚、イカ、タコといったもの。色とりどりのいろいろな花、綺麗な蝶、鳥のヒヨコから、大きな鳥などの飴細工がある。どれも、芸術品に見える。

ただ、動物がたくさんいるけど、クマがいない。クマは人気がないのかな? まあ、わたしが食べたら共食いになっちゃうけど。でも、個人的にクマがいないのは寂しい。

「なんだ。クマの嬢ちゃん、買うのか?」

わたしの登場に屋台のおじさんは驚いていたが、飴細工を見ているわたしに声をかけてくる。

「全部頂戴」

子供たちに買っていってあげたら、きっと喜んでくれるはずだ。個人的にクマがいないのは残念だったけど。あったら、取り合いになっていたかもしれない。

最近、わたしの影響なのか、クマ好きな子供が増え始めている。

「……お嬢ちゃん。そんなに高くはないが、お金は持っているのか? ふざけているなら、どこかに行ってくれ」

おじさんは少し、眉を上げる。どうやら、全部欲しいと言ったことが、馬鹿にしたように感じられたようだ。

「お金なら、ちゃんと払うよ。こんなに綺麗な飴細工なんて見たことはないから、お土産に持って帰れば喜ぶと思ったから」

「そうか。すまない。そう言ってもらえると嬉しい。でも、本当に、そんなお金があるのか?」

おじさんは少し不安そうにする。

「あるよ」

「もしかして、わたしのお金っすか!?」

「ちがうよ」

そんなに心配しなくても、さっきのうなぎだって、自分で払ったでしょう。

本当にわたしにお金を渡すつもりはあるのかな?

シノブのお金に少しでも手を付けたら、本当にシノブが死んでしまうかもしれないので、縁起が悪いので使う予定はない。

だから、欲しいものは自分のお金で買う。

わたしは計算して、並んでいる飴細工の購入代金を出す。

「これで足りると思うんだけど」

「ああ、確かにあるな。疑ってすまなかった」

おじさんは素直に謝罪をする。

「でも、どうやって、持って帰るんだ?」

「箱があるから、そこに仕舞ってから、アイテム袋にいれるよ」

わたしはお土産で買った重箱を出して、飴細工を仕舞っていく。

「これは新しく作らないといけないな」

「おじさん、クマは作らないの? 動物はたくさんあるのに、クマだけいないけど」

「なんだ? 嬢ちゃんもクマが欲しいのか? まあ、嬢ちゃんの格好を見れば、クマが好きなのは分かるが」

「わたしもって?」

「それがな、2日ほど前から、クマは人気があって、作る度に売れていくんだ。さっきもクマが売れた」

2日前? それって、もしかして?

「いままで、こんなにクマが売れたことはなかったんだがな」

おじさんは不思議そうな顔をする。

「しかも、子供が、このクマじゃないって言いだす子もいたりした。このクマじゃないって、言われても分からなくてな」

「それって、もしかして、ユナのことじゃないっすか?」

わたしも一瞬そう思った。3日前に到着したが、2日前は街をいろいろと歩いていた。

シノブの言葉におじさんはわたしのことをジッと見る。

「なるほど。可愛いクマとか言っていたな」

人を見て、可愛いと言わないでほしい。

まあ、あくまでわたしじゃなくて、クマの格好が可愛いのであって、わたしじゃないことぐらいは理解している。

そこまで、うぬぼれていない。

おじさんは、飴を熱し始めると、形の無い飴に鋏みたいなもので、切ったり、伸ばしたりして、形を作っていく。それは芸術のように、魔法の手のように、飴の形が作られていく。

そして、完成したのは、クマの着ぐるみの格好をした女の子の飴細工だった。

「おじさん、凄いっす」

たしかに凄いけど、これって、わたしがモデル?

「ほれ、嬢ちゃん」

なぜか、おじさんが差し出してくる。

「お礼だ。新しい、飴細工が完成した」

もしかして、売るの?

嫌な想像しかしない。

それから、リクエストを聞いてくれるってことだったので、普通のクマの飴細工をいくつか作ってもらった。