軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

40 クマさん、孤児院に行く

早朝、白クマの服のおかげで疲れも無く気持ちよい朝を迎える。

クマボックスから卵を取り出し、目玉焼きを作り、パンに挟んで朝食を食べる。

あとはお米と醤油と味噌があれば日本の朝食ができるが先は長そうだ。

ギルマスに呼ばれているが時間指定は無いのでのんびりと朝食を食べてから家を出る。

ギルドに着くとすぐに職員によってギルマスの部屋に案内される。

「意外と早かったな」

「昨日はすぐに寝たからね。ギルマスも早いじゃない」

「俺は泊り込みだ。この数日の仕事とブラックバイパーの件でな」

「ブラックバイパーの件って?」

「あれから、嬢ちゃんがブラックバイパーを倒した噂が広まってな。素材の申し込みが多くてな」

「まだ、売ると決めてないんだけど」

「わかっている。でも、そうも言ってられなくてな。嬢ちゃんも商人や防具屋に 纏(まと) わりつかれても困るだろう」

「そんなに人気があるの?」

「そりゃな、皮は防具に使われる。丈夫で軽い。魔法耐性もある。冒険者なら欲しがる者はたくさんいる。それに肉だって高級食材だ。どの部位も高く売れる。牙もいろんな用途で使われる。最後に魔石、大きさによってはBクラスの魔石になる可能性もある。誰もが素材を欲しがる」

「つまり、売らないといけないってこと?」

「売る、売らないは嬢ちゃんの自由だ。でも、売らないと――」

「商人とかに付き纏われるってこと?」

「そうだ。ギルドとしても他に回されるよりはギルドに直接売ってほしい」

「売るのは別にいいけど。魔石と素材の一部はわたしも欲しいんだけど」

「ああ、構わない。皮と肉をまわしてもらえれば落ち着く」

「それでどこで解体するの? 倉庫じゃ無理でしょう」

ギルマスもブラックバイパーの大きさを思い出して悩んでいる。

「外しかないだろう」

「外?」

「街の外なら邪魔にならないだろう。さっそくで悪いが外でブラックバイパーを出してもらっていいか」

「いいけど」

わたしとギルマスは部屋の外に出る。

「ヘレン、解体できる職員を集めさせろ。最低人数を残して解体作業をするぞ」

集められた数は10人ほどいる。

その中にはゲンツさんを始め、フィナまでいる。

「人手が足りないと思って連れてきた」

ゲンツ談のこと。

ぞろぞろとギルドから門に向けて歩いていくわたしと10名の解体メンバー。

門から少し離れ、出入りの邪魔にならない位置へやってくる。

「この辺でいいだろう」

ギルマスの言葉にクマボックスからブラックバイパーを取り出す。

解体メンバーから感嘆の声が漏れる。

「でかいな」

「これ本当に、クマの嬢ちゃんが倒したのか」

「それ以前によく、アイテム袋に入るな」

「これ、今日中に終わるのか」

「おまえたち、見ているだけじゃ終わらないぞ。解体したら、部位別に冷蔵倉庫まで運ぶんだぞ。運ぶのは肉優先。皮は最後でいい。高級食材なんだから、腐らすなよ」

解体メンバーは返事をする。

「それでユナ。おまえさんはどうする?」

「どうする?」

「ここで見ているのか。帰るのか」

「帰っていいの?」

帰っていいなら帰るけど。

蛇の解体作業なんて見たくないし。

「ああ、構わない。解体した素材は一度ギルドに運ぶ。そこで、お前さんの取り分を決めたらいい。残りを売ってもらう」

「それなら、帰ろうかな。どのくらいで終わるの?」

「わからん。だから、終わったらギルドの者をおまえさんの家に行かせる」

「なら、フィナでお願い。あの子ならわたしの家に入れるから」

「わかった」

このまま戻るのもつまらないので屋台を冷やかしに行くことにする。

中央広場にやってきて美味しいものを探す。

出来れば昼食を確保して帰りたい。

クマボックスに入れれば冷めることはないし。

広場をウロウロしていると端の一角に薄汚い子供たちがいるのが見えた。

近くのウルフの串焼きを売っている店に行く。

「おお、いらっしゃい。クマの嬢ちゃん。今日は早いな」

いつもは昼時にやってくることが多い。

「ねえ、あの子たちは?」

串を一本注文して、子供たちのことを尋ねる。

「ああ、孤児院の子供たちだな。たまにやってくるんだよ」

「何しに?」

「客の食べ残しを待っているんだよ」

「食べ残し……」

「客が食べ残したものを拾って食べているんだよ。客が捨てた物だから俺たちは文句は言えないけど、いい気分はしないな」

「おじさん。串焼き、20本ちょうだい」

「やめとけ。今日、食べさせても。明日はどうする。なにもできないなら何もしないほうがいい」

「でも、孤児院なら街からお金が出ているんじゃないの?」

「さあな。さすがに俺はそこまで知らねえ。金を出していないのか。少ないのか。まあ、あれを見れば多くはないんだろうな」

会った感じクリフはまともな貴族だと思ったけど、やっぱり貴族なのかもしれない。

クリフの評価を下げて、おじさんに串焼きを焼かせる。

「俺は注意したからな」

串焼きを20本渡してくれる。

わたしは串焼きを持って子供たちのところに行く。

子供たちは串焼きを持っているわたしのことをジッと見ている。

「1人1本食べなさい」

そう言うと、子供たちはお互いの顔を見る。

「食べていいの?」

女の子が小さい声で尋ねてくる。

「熱いからゆっくり食べなさい」

串を1本渡してあげる。

少女は串を貰うと食べ始める。

それを見た他の子供たちも串を受け取り食べ始める。

「お姉ちゃん、ありがとう」

「孤児院に案内してもらえる?」

わたしは少女にそう言った。

少女はわたしの言葉の意味がわからないのか首を傾げる。

「お腹空いているでしょう。もっと食べたいでしょう。だから、孤児院に案内してくれるかな」

少女は小さく頷く。

「こっち」

少女が歩き出すと他の子供たちも悩んだあげく、付いてくる。

子供の足ではかなりの距離があっただろう。街の一番端までやってくる。

汚い家が一軒だけ、離れた位置に建っている。

ここまで酷いのか。

壁は亀裂が入り、穴が開いているところもある。

もしかすると屋根にも穴が空いているかもしれない。

クリフの評価をさらに下げる。

ゴブリン王の剣、譲るんじゃなかった。

国王にコビを売る前にすることがあるだろうに。

剣を売ったお金を孤児院のために使った方が良かったかもしれない。

子供たちの案内で孤児院までやってくると家の中から年配の女性が出てくる。

「あら、どちら様ですか。わたしはこの孤児院を管理している院長のボウと申します」

「わたしは冒険者のユナです。この子たちを中央広場で見かけて」

「中央広場……また、行ったの?」

子供たちを見る。

「ごめんなさい」

「先生ごめん」

子供たちは次々と謝る。

「いいのですよ。わたしがあなたたちに食べさせてあげられないのがいけないのですから。もしかして、この子たちがあなたに何かしましたか?」

「いえ、この子たちが、広場でお腹を空かしているようだったので」

「すみません。その恥ずかしながら食べるものはあまり無くて」

院長先生は少し言いづらそうに答える。

「街から援助金とかは?」

「はい、去年から段々減っていき、3ヶ月ほど前に打ち切られました」

「打ち切られた……」

あの領主……

「はい、わたしたちに無駄に払えるお金は無いと」

「それじゃ、どうやって食事を」

「それは食堂や宿、野菜屋、果物屋に行って傷んでお客様に売れない物を頂いて食べてます」

クリフ……

段々と怒りが湧いてくる。

「それでも、量が少ないので、この子たちは中央広場に行って……」

「わかった。院長先生。材料を渡しますからこの子たちにお腹いっぱい食べさせてあげて」

孤児院の台所に案内してもらい。クマボックスから解体されたウルフの肉の塊を出す。

肉だけでは栄養が偏るので、買い占めていたパンとオレンの果汁の入った樽も並べる。

「えっと、ユナさん」

「はい、院長先生も手伝ってください。それ以前に、この孤児院には院長先生1人しかいないんですか」

「いえ、あとリズという女の子がいますが、今は食べ物を貰いに行ってもらっています」

つまり、この孤児院を2人で面倒を見ているのか。

ウルフの肉を焼き、パンを用意し、オレンの果汁をセットにしてテーブルに並べていく。

「全員分あるから、慌てないで食べなさい」

「皆さん、ユナさんに感謝して頂きなさい」

子供たちは院長先生の合図と同時に食べ始める。

皆競争するように食べていく。

その顔には笑顔が浮かんでいる。

「ユナさん、ありがとうございます。あの子たちが笑顔になったのは久しぶりです」

「ウルフの肉はまだあるから、足りない子がいたら焼いてあげて」

「ありがとうございます」

しばらく子供たちが食べる様子を見てからわたしは家の外に向かう。

それに気づいた何人かの子供が付いてくる。

「クマのお姉ちゃん。どこに行くの?」

「家を直そうと思ってね。この穴あきの家じゃ寒いでしょう」

外に出て、ひび割れ、穴あきの場所を確認する。

ひび割れ、穴を土魔法で塞いでいく。

「すごい、クマのお姉ちゃん」

「他にも穴があったら教えてもらえる?」

住んでいる子供たちの方が詳しいだろう。

教えてもらった場所は直す。

屋根の上にも登り、雨漏りの位置は分からないので薄い土で屋根全体を塞ぐ。

次に家の中に入り、中の壁も直していると院長先生がやってくる。

「なにをやっているのですか?」

「壁を修復しているのよ。これじゃ、隙間風が入って寒いでしょう」

壁を土魔法で塞ぐ。

ベッドが沢山ある部屋を見つける。

ここでみんなで寝ているのかな。

一応、男女で分かれているようだが、狭い部屋にベッドが置かれている。

ベッドには小さなタオルが置いてあるだけ。

これが掛け布団の代わり?

これじゃ、寒いだろう。

たしか、この孤児院にいるのは23人だったはず。

ウルフの毛皮を30枚取り出し、院長先生に渡す。

「ユナさん?」

「子供たちに渡してあげて。ベッドにあるタオル一枚じゃ寒いでしょう。院長先生の分と予備もあるから」

各部屋を回り、壁の修復を終える。

食堂に戻ってくると全員が食べ終わっていた。

でも、予備で用意していたウルフの肉が減っていない。

「食べなかったの?」

「はい。ユナさんのお許しが貰えれば、明日に回したいです。子供たちも今日食べるよりも、明日食べたいと言いまして」

「ああ、ごめん。言い忘れた。数日分用意しておくから、食べていいよ」

新たにクマボックスからウルフの肉を取り出す。

こんだけ、あれば数日は大丈夫だろう。

「あのう。どうして、こんなにしてくれるのですか」

「大人が食えないのは働かない大人が悪い。でも、子供が食べられないのは子供のせいじゃない。大人のせいよ。親がいなければ、周りの大人が助けてあげればいい。だから、子供は助けるし。子供のために頑張っている院長先生の味方よ」

「あ、ありがとうございます」

「ここの領主と少し知り合いだから、文句を言ってあげるわ」

「それは止めてください」

「どうして?」

「ここの土地も領主様のおかげで借りている状態ですが、もし、怒りを買って追い出されでもしたら、わたしたちはどこにも行く当てが無くなってしまいます」

「ここの領主ってそこまで酷いの?」

「わたしたちに住む場所を無償で貸してくださってますから、そんなことはありません……」

「でも、援助金もないでしょう」

「住む場所があるだけでも感謝してます」

クリフ最低だな。

「とりあえず、わたしは帰るわね」

「はい、その、ありがとうございました」

「クマのお姉ちゃん帰るの?」

子供たちが集まってくる。

「また、来るから」

頭を撫でてあげる。

「ほら、ユナさんも困るでしょう。みんな、お礼を言いなさい」

「クマのお姉ちゃん、ありがとう」

「ありがとう」

子供たちがそれぞれにお礼を言う。

その子供たちを残してクマハウスに帰る。