軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

428 クマさん、試合をする

「それじゃ、ユナさん。お願いしてもいいか?」

「いいけど、そのままで試合するの?」

マリクスの格好は普通の私服だ。このまま試合をするのは危ない。

強く攻撃をするつもりはないけど、マリクスの予想外の動きによっては、強く当たってしまうかもしれない。だから、練習とはいえ、防具はあったほうがいい。

「防具なら、持ってきている。ちょっと着替えてくる」

マリクスは着替えに移動する。

「シアは?」

「今日は持っていないから、このままでいいかな? ユナさんと初めて試合したときも、防具がなかったし」

たしかに、あのときは、いきなりシアと試合をすることになって防具は無かった。でも、防具がないのとあるのでは危険度は違う。

シアが防具無しで申し出ると、ティリアがやってくる。

「シア、大丈夫よ。シアは防具は持っていないと思ったから、わたしのを持ってきてあげたから」

ティリアはアイテム袋から、女の子用の防具を出す。

「ティリア様、いいのですか?」

「その代わりに、ユナとの試合、楽しませてもらうからね」

「……お借りします」

シアは少し考えてから、防具を受け取り、着替えに向かう。

「くまさん、なにをするの?」

わたしたちが話していると、わたしのクマの服を掴んでいるフローラ様が尋ねてくる。わたしはフローラ様の頭の上にクマさんパペットをポンと置いて説明する。

「ちょっとした試合かな? すぐに終わるから、フローラ様はくまゆるとくまきゅうと待っていて」

わたしは通常サイズのくまゆるとくまきゅうを召喚する。

「くまゆる! くまきゅう!」

フローラ様は嬉しそうに駆け寄ろうとしたが、それよりも先にティリアがくまゆるに抱きつく。

「おねえしゃま、ずるい」

少し、遅れてフローラ様がくまきゅうに抱きつく。

「ここで大人しくしていてね」

わたしはフローラ様の体を持ち上げると、くまきゅうの背中に乗せる。

ティリアは自分でくまゆるの背中に乗っている。

「ユナ、走ってもいい?」

「いいけど、無理はさせないでね」

「走るだけだよ。くまゆる。ご主人様の許可が出たから、走って」

「くぅ~ん」

くまゆるはわたしに確認するように見る。

「少しだけ、走ってあげて。でも、速度は控えめにね」

「くぅ~ん」

くまゆるは訓練場を走り出す。

「うぅ、おねえしゃま、ずるい。くまきゅう、わたしも」

フローラ様はくまきゅうの上で、体を前後に揺らす。

「くまきゅう、ゆっくり走ってあげて」

「くぅ~ん」

くまきゅうはフローラ様を乗せてゆっくりと走り出す。

「はやい、はやい」

フローラ様はくまきゅうの上で楽しそうにしている。

フローラ様の後ろから、くまゆるに乗るティリアがやってくる。そして、くまゆるとくまきゅうは訓練場の壁際を仲良く、並走するように走る。

「くまゆる。もっと速く」

「くまきゅうも、はやく」

「くまゆる、くまきゅう、速度を上げたら駄目だからね」

二人は速度を上げようとするが、わたしは速度を上げないようにくまゆるとくまきゅうに指示をだす。

くまゆるとくまきゅうはわたしの指示に従って、速度はあげない。

「ユナ~」

「どうして~」

二人が仲良く文句を言う。

さすが姉妹だ。似ている。フローラ様も成長したら、ティリアみたいになるのかな?

「ティリアもフローラ様も、あまり我が儘を言ったら、降りてもらいますよ」

怪我をすることはないと思うけど、フローラ様がスピード狂になっても困る。

「うぅ、それは」

「ごめんなさい」

二人はわたしの言葉に従う。それから、二人は適度な速度で訓練場を走り回る。

くまゆるとくまきゅうに乗るティリアとフローラ様を見ていると、マリクスとシアが試合の準備が整ったみたいで、やってくる。

「ユナさん、武器はどうします? 剣でいいですか?」

「マリクスとシアは?」

「俺たちは普通の練習用の剣を」

刃がないと思われる剣を持っている。

「一応、ユナさんの剣も持ってきたけど」

わたしはシアが持つ剣を受け取る。

剣でもいいんだけど。せっかくの試合なんだから、2人の希望に沿うことにする。

「それじゃ、マリクスとシアの好きな武器で試合をしてあげるよ」

「……?」

「それって、どういう意味ですか?」

「剣がいいなら、剣。ナイフがいいなら、ナイフ。槍がいいなら槍。武器無しなら、武器無しで試合するよ」

「ユナさん、そんなに武器が使えるのか?」

「なんでもじゃないよ。使える武器だけだよ」

実際、メイスなどのハンマー系は使ったことがない。今のわたしが使ったら、叩き潰してしまいそうだけど。

「でも、武器無しって、いくらなんでも馬鹿にしていませんか?」

「当たらなければ大丈夫だし、薙ぎ払うだけなら、手袋で十分だからね」

わたしはクマさんパペットをパクパクさせる。

まあ、そんな芸当ができるのもクマ装備のおかげなんだけどね。

「さすがに武器無しは断りたいので、剣でお願いします」

マリクスは剣を望むので、武器は剣を使って、相手をしてあげる。

わたしは練習用の剣を握り、マリクスと距離を取る。

シアも離れ、ティリアもフローラ様も動きを止め、わたしたちを見ている。試合が始まろうとしたとき、訓練場にここにはいないはずの声がする。

「なんだ。これから試合をするのか?」

「あら、マリクスとシアがユナちゃんと試合をするのね」

声がしたほうを見ると、国王とエレローラさんがこちらに歩いてくる姿があった。その姿を見た、マリクスとシアは驚きの表情をする。

「お父様」

「おとうしゃま」

くまゆるに乗ったティリアとくまきゅうに乗ったフローラ様が国王陛下のところに向かう。

くまゆるとくまきゅうのことを知らない人が見れば。クマが国王に襲いかかろうとしているシーンに見えるかもしれない。

まあ、実際はそんなことにならずに、くまゆるとくまきゅうは国王の前で止まる。

「どうして、お父様とエレローラがここに?」

この場にいる全員が思っていることをティリアが尋ねてくれる。

まあ、わたしはある程度、想像がつくけど。門兵が走っていった姿が思い出される。でも、王妃様の姿は見えない。

「ユナが来たと連絡をもらってフローラの部屋に行った。それで、部屋に行けば、フローラもユナもいない。部屋に残っていたアンジュに聞けば、ティリアと一緒に訓練場に行ったと言うからな」

「わたしも同じよ」

何度も思うけど、仕事はいいのかな?

まあ、王子様や部下たちが頑張るから大丈夫かな?

「どうして、国王陛下がユナさんに会いに来るんだ?」

「知らないわよ」

マリクスとシアが小さな声で話すが、わたしの近くで話すので声が聞こえてくる。

「それで、これから試合をするのか」

「うん、この二人とね」

わたしはマリクスとシアを見る。

「マリクスです」

「シアです」

2人は緊張しながら、名前を名乗る。

「シアはエレローラの娘だったな」

「わたしに似て、可愛いでしょう」

「……」

国王はエレローラさんの言葉をスルーする。シアを可愛いと認めると間接的にエレローラさんを可愛いと言うことになる。でも、シアのことを可愛くないとは嘘でも言えない。そんな表情をしている。

でも、国王は前回のこともあるから、シアのことは知っているようだけど。マリクスのことは知らないみたいだ。マリクスの父親って騎士で隊長をしているんだよね。

「それじゃ、わたしたちは試合を見させてもらうから、二人とも頑張ってね」

エレローラさんはそう言うと、国王と一緒に壁際に移動する。ティリアとフローラ様を乗せたくまゆるとくまきゅうも、壁際に移動する。

「もしかして、俺たち国王陛下の前で試合をするのか?」

「そうみたい」

マリクスとシアが困った表情を浮かべる。

その気持ちはわかるよ。

会社で言えば、新入社員の仕事を社長が見に来たようなものだ。

国王に見ないでほしいとは言えず、マリクスとの試合が始まる。

「それじゃ、どっからでもいいよ」

わたしがそう言うと、マリクスは剣を握り締め、踏み込んでくる。わたしはマリクスの剣を受け流す。マリクスはバランスを崩すが、すぐに体勢を整え、切り返しで剣を薙ぎ払う。それをわたしは剣で防ぐ。

マリクスは攻撃を仕掛けてくるが、わたしからの攻撃は、あまり仕掛けないようにする。

「当たらない」

しばらく、マリクスの相手をしていると、徐々にマリクスは息を切らし始める。

何度も剣を振るって、かなり疲労している。剣を何度も振るい続けることはできない。さらに剣と剣がぶつかり合えば、それだけで握力がなくなる。

硬い棒を持って、硬い物を思いっきり叩いているようなものだ。それだけで、腕が疲労するし、握力はなくなる。

わたしはクマさんパペットのおかげで、痺れたりはしないし、握力も無くなったりはしない。

クマさんパペットがなければ、一回打ち合っただけで、剣が弾き飛んでいくのは間違いない。

「くそ、ユナさん。強すぎる」

マリクスは膝を落とす。

「少年、それで終わりか?」

国王がマリクスに話しかける。

「いえ。まだ、できます」

マリクスは息を切らしているのに、国王にそう言われたら、できないとは言えず。立ち上がる。

それから、マリクスが倒れるまで、ナイフだけで戦ったり、半径1mから動かないハンデを付けたりして試合をした。さすがに武器無しで相手をしようとしたら、断られた。

そんなマリクスも限界が来て、地面に倒れ、一つ目の死体が転がった。

マリクスの相手が終わったので、次にシアの番になる。

「ユナさんは疲れていないんですか?」

シアは仰向けに倒れているマリクスの姿を見て尋ねる。マリクスは「ハァ、ハァ」と息を切らしている。わたしは息を切らしていない。マリクスは生きているようだ。

「わたしなら、大丈夫だよ。すぐに試合できるよ」

「そんな、動きにくそうな格好をしているのに」

まあ、その動きにくい格好のおかげで、マリクスやシアの相手ができる。

「それで、シアはどのような試合にする?」

「マリクスと同じでお願いします」

シアは剣を構える。

流石に室内訓練場なので、魔法を使うことはできない。多少は使うことができても、壁にも当たって壊しでもしたら大変なので、魔法は禁止だ。

「シア、頑張って」

エレローラさんが手を振って応援する。

「うぅ、やりにくい」

この世界にあるかわからないけど、シアにとっては授業参観日ってところかな。

「シア、格好いいところを見せてね」

ティリアもシアを応援する。

みんな、シアの応援かと思ったら、フローラ様が「くまさん、がんばって」と応援してくれる。

少し、やる気が出てきた。

シアとわたしの練習試合が始まる。

マリクスほどの力強さはないけど、正確な攻撃を仕掛けてくる。わたしを倒すことができるとしたら、力でなく、正確な攻撃と速度かもしれない。

わたしはシアの攻撃を捌き、シアの剣を防ぐ。好きなだけ攻撃させ、隙があると、隙があるよって教えるため、軽く剣を突き出す。そのたびにシアは驚いた表情や悔しそうにする。

そして、数試合後、訓練場に二つ目の死体が転がった。

「死んでいないです」

倒れているシアがわたしの心を読んで返事をする。

心を読まれた。

「声に出ていましたよ」

シアが呆れるように答える。

どうやら、声にでていたみたいだ。