軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

38 クマさん、蛇退治をする

くまきゅうに乗り換えてから数時間後、再度くまゆるに交代して村に向けて進む。

日が沈み掛け始めたとき、村が見えた。

くまゆるは速度を緩めてゆっくりと村の中に入る。

村の中は静かだった。

廃村のように物音一つしない。

全滅。

嫌な言葉が脳裏をよぎる。

「みんな、いるか! 俺だ。カイだ。戻ってきたぞ!」

カイが村に向かって叫ぶ。

でも、誰も出てこない。

いや、ドアが開く家があった。

「カイか?」

家から男性が出てくる。

「父さん! 母さんは!?、村のみんなは!?」

「母さんは大丈夫だ。でも、衰弱している。この数日ろくに食事もしてないからな」

「他の村の人たちは?」

「出てこないよ」

「どうして」

「あいつは音に反応する。逃げ出したエルミナ一家が食われて死んだ。井戸に水を汲みに行ったロンドも食われた。だから、誰も家から出てこない。食われるかもしれないからな」

「それじゃ、ここで話しているのも」

「ああ、危険だよ」

「なら、父さん」

「でも、誰かがやらないといけないことだ。ドモゴルのために」

「ドモゴルさん?」

「おまえを馬に乗せて助けを呼びに行かせた時、ドモゴルが囮になって死んだんだよ」

「ドモゴルさんが…………」

「だから、俺はおまえが帰ってきたら話を聞き、これからどうするか考えなければならない。それが、ドモゴルに対して俺たちができることだ」

「父さん……」

「それで、助けはそのお嬢ちゃんだけなのか」

カイのお父さんがわたしの方を見る。

いつも通りのクマの格好。

落胆の表情が 窺(うかが) える。

「この姉ちゃんは情報集めのために先に来てくれた。このあとにギルドマスターが来てくれる。そのあとにもランクCの冒険者も派遣するって言っていた」

「そうか、どのくらいで着くんだ」

「このお姉ちゃんの召喚獣のおかげで街から半日で来れたけど、ギルマスは2日かかるって言っていた。その次の冒険者はいつになるか分からない」

「そうか、嬢ちゃんはどうするんだ」

「まずは情報収集、可能なら討伐をするけど」

「冗談も笑えないとつまらないな。討伐が可能だと? あんなもの討伐できるわけがない」

父親は吐き捨てるように言葉をぶつける。

「それを判断をするのはあなたじゃないわ。わたしよ。なんでもいいからブラックバイパーの情報をちょうだい」

「大した情報はない。朝一に村に食べに来るぐらいだ。家を破壊され、家にいる全員を食うと去っていく。そして村から逃げ出す者がいれば食われる。音を出せば優先的に食われる」

朝一ね。つまり、夜は寝ているわけか。

「とりあえず、これ食料ね。奥さんに食べさせてあげて」

クマボックスから大量のパンと小さな樽に入ったオレンの果汁を渡す。

「他の村人が受け取るなら、渡してあげて」

「おまえさんはどうするんだ」

「バイパーを見に行ってくる」

「こんな遅くにか」

日が傾いている、あと1時間もすれば日が沈んで暗くなるだろう。

「だからよ。寝るみたいだから。もし、わたしが見つかって戦いになったら、わたしを囮にして逃げてもいいからね。馬があれば逃げることもできるでしょう」

「いや、誰も逃げ出さないだろう。逃げれば食われると皆思っている。それに馬も村の人間が全員逃げられるほど数はない」

「それじゃ、ギルマスと冒険者が来るまでジッとしていてね」

くまゆるに乗って探知魔法を使う。

少し離れた位置に反応がある。

「それじゃ、行ってくる」

ブラックバイパーの反応がある方向にくまゆるを向かわせる。

くまゆるの走る最速の速度なら数分で着くだろう。

何もない平地を走る。

そろそろ目的のブラックバイパーが見えてくるはず。

夕暮れ時、遠くに大きな岩が見える。

いや、岩だと思ったのはとぐろを巻いた巨大なバイパーだった。

大きい。

寝ているなら先手必勝で攻撃かな。

くまゆるから降りて、くまゆるを戻す。

視線をバイパーに戻したとき、パイパーは立ち上がり、こちらを向いて長い舌を出していた。

立ち上がると、細長いビルが建っているように感じる。

でかい。

巨大な物体は動き、襲い掛かってくる。

大きな口が迫ってくる。

距離が一瞬で縮まる。

速い。

とっさにステップをして右にかわす。

巨大な物体が左側を掠めて通る。かわしたと思った瞬間、バイパーの胴体がくにゃと曲がり、バイパーの胴体が襲ってくる。クマの手でとっさにガードする。後方に吹っ飛ばされるがそれほど衝撃は無い。

クマのおかげ?

考える暇を与えず、二度目の攻撃が迫ってくる。

体が大きいため、上には逃げられない。左右に逃げる。でも、避けても胴体、尻尾が2撃目、3撃目と連続で襲い掛かってくる。

大きな体が動くたびに砂埃が舞い、視界が悪くなる。

さらに夕暮れ時、相手の体は黒い。

話によれば音で反応するらしいし。

もしかして、タイミング間違えた?

砂埃を風魔法で吹き飛ばす。

動きが止まる度に魔法攻撃を何度か打ち込むがダメージを与えている感じがしない。

火も風も氷もあの黒い蛇皮に弾かれてしまう。

落とし穴は大きすぎるため使えない。

うーん、通常魔法攻撃だと駄目か。

でも、クマ魔法だとやりすぎるんだよね。

火のクマを使えば倒せると思うけど、あの皮はいろいろと活用ができそうだから、できるなら燃やしたくはない。

ゲームならどんな攻撃方法でも倒せればアイテム化したけど、現実はやっぱり違う。

剣で斬りつければ傷が付くし、魔法で攻撃を当てれば、その部分は素材にダメージが残る。

火は諦めてクマの風魔法を使ってみる。

切り裂くまでいかない。

血が流れたと思うとすぐに塞がれる。

再生能力?

外が駄目なら中からかな?

後方にジャンプして距離を取る。

ブラックバイパーは地面を這いずり距離を縮める。

右、左とかわしながらチャンスを窺う。

突進攻撃ばかりで、噛み付き攻撃をしてこない。

なかなか口を開かない。

上に飛べば開くかな?

地面を蹴り、高く飛ぶ。

逃げ場を無くしたわたしにブラックバイパーは大きな口を開く。

その瞬間に手のひらサイズの数十体の炎のクマを作り出す。

わたしの前に綺麗に隊列を組む炎のミニクマたち。

ブラックバイパーの口が無造作に迫ってくる。

口の中にクマを入れてくださいと言わんばかりに。

その礼儀に伴って、炎のミニクマをブラックバイパーの口の中に突入させる。

長い舌を焼き、クマたちはブラックバイパーの体内に入っていく。

ブラックバイパーは苦しみ出し、わたしを食べるために伸ばした体が曲がり、地面に倒れる。

ブラックバイパーは地面に転がり、ドスンドスンと何度も自分の体を地面に叩きつける。

それは次第に動きが遅くなり、活動を停止した。

ブラックバイパーの口からこんがり焼けた美味しそうな匂いがしたのは内緒だ。

「終わった?」

やっぱり、このクラスの魔物になると普通の魔法だと倒せないね。

もっと、使い勝手がいい、クマ魔法を考えないといけないかな?

ブラックバイパーに近づきクマボックスに仕舞う。

任務完了。

くまきゅうを出して村に帰ることにする。

村の近くに来ると村の外にはカイが立っていた。

「どうしたの、こんなところで」

「姉ちゃんを待っていたんだ」

「わたしを?」

「うん、もし逃げ帰ってきたら、俺が真っ先に食われて、姉ちゃんを逃がす時間を作ろうと思って」

真っ直ぐな強い目で言われた。

冗談ではないのだろう。

「どうして」

「姉ちゃんはブラックバイパーを倒す情報を持ってきたんだろう? それがあれば倒せるかもしれないじゃないか。そうすれば村は助かる。もし、姉ちゃんが死んだら、俺を街にいかせるために犠牲になったドモゴルさんも 報(むく) われない」

この世界の子供たち、心が強い子が多いんですけど。

わたしはカイの頭をやさしく、撫でてあげる。

「姉ちゃん?」

「大丈夫だよ。ブラックバイパーは倒したから」

「えっ」

「村のみんなをここに呼んでもらえる? 証拠を見せるから」

「本当に?」

わたしは笑って、

「少し下がって」

カイを後ろに下がらせると、わたしは証拠のためにクマボックスからブラックバイパーの死骸を出す。

大きなブラックバイパーを見てカイは驚く。

「死んでいる?」

疑うように聞いてくる。

死んでいることを証明するように、パンチしたり、蹴ったりしてみる。ブラックバイパーは動かない。

「ほんとうに·····」

カイは恐る恐る、ブラックバイパーに触れる。

「みんなを呼んでくる」

カイは村の中に走り出す。

しばらくすると、村人が家から出てきて、遅い歩みでこちらにやってくる。

「本当に倒したのか」

「ブラックバイパーだ」

「死んでいるのか」

ブラックバイパーを見て泣き出す者もいる。

「あ、ありがとう」

「ありがとうございます」

「お姉ちゃんありがとう」

村のみんなからお礼を言われる。

その中からカイの父親がやってくる。

「嬢ちゃん、さっきは悪かった。そして、ありがとう。村は救われた」

わたしの前に来ていきなり頭を下げる。

「気にしなくていいよ。誰だってわたしみたいな娘に倒せるとは思わないもんね」

「何か、あったら言ってくれ、俺にできることならする。嬢ちゃんに救われた命だ」

「なにもお願いすることは無いよ。しっかりした息子さんのために生きてあげて」

カイの父親が謝る横に 1人の老人がやってくる。

次から次へと今度はどちら様?

「わしは村長のズンです。村を救ってくれてありがとうございます」

頭を下げる。

「でも、もう少し早ければ」

「いや、カイに聞いた。おまえさんは街に着いたカイの話を聞いて、すぐに駆けつけてくれたことを。日にち的に言っても十分に早い。わしの予想では早くてもあと3日。だから、おまえさんが亡くなった者のことを考える必要はない」

と言われたら、口を出すことはできない。

長老は後ろを振り向き、村のみんなを見る。

「みんなもろくに食事をしていないだろう。遅いが宴をしよう」

その声に村人は歓喜の返事をする。

泣いている者も悲しんでいる者も喜んでいる者も。

「たいしたおもてなしはできませんが参加してください」

村長は頭を下げて宴の準備に向かう。

村人はそれぞれの家から食材を持ち合って村の中央に火を焚き、いろんな料理を作りだす。

踊り、騒ぎ、食べて。

その日は村人は大いに騒いだ。

死んだ者のために。

これから生きるために。

生き残ったことに感謝して。

わたしがのんびりと村の様子を眺めていると、村の人達が代わる代わる料理を持って感謝を伝えに来る。

子供はわたしの姿が珍しいのか、触りまくる。

それを親たちが止める姿が繰り返される。

宴は遅くまで続き、わたしは村長の家に泊まることになった。