軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

410 クマさん、賞品を手に入れる

壁を壊した先にはフィナはいなかった。

初めはホッとしたけど、徐々に騙されたことに怒りが湧き出てくる。

「ロージナさん! なんなの、今の試練! もしかして喧嘩売ってる?」

「俺に言われても知らん。そもそも、そんな試練があったことは知らなかった。壁を武器で壊す試練は見たことがあるが、今回のように人が閉じ込められているのは初めてだ。でも、ギルマスのタロトバは知っているようだぞ」

「そうなの?」

わたしはロージナさんからギルマスへと視線を移す。

「ああ、過去にも同様な試練が起きたからな」

「なら、どうして、教えてくれなかったの? そしたら、こんなに慌てるようなことがなかったのに」

「試練だから、言うわけがないだろう。武器の性能、使い手の技術、最後に武器を扱う心の試練だ。どの一つが欠けてもクリアすることができない。教えたら試練の意味がなくなるだろう」

「それはそうだけど。あれは酷いんじゃない?」

フィナを人質に取るなんて、わたしにとって、最悪の試練だ。

思い出しただけでも、怒りが湧き出てくる。この怒りはどこにぶつけたらいいんだろうか。

「誰しも現れるものじゃない。優秀な武器、優秀な使い手が現れたときに心を試される。俺も長年見ているが二回しかない。嬢ちゃんは試しの門に認められたってことだ。喜ぶところだぞ」

喜ぶ人なんているの? 大切な人が人質に取られていて、頑張って救いだしたら、「嘘でした~」とか言われても腹が立つだけだと思う。

今のわたしの気分は最悪だ。暴れたい気分だ。

「自分の大切な者が今回のように捕らわれるかもしれない。そのときに冷静に対処できるかだ。武器が良くても、心が乱れれば武器の本来の力を発揮することはできない。そのための試練だ」

誰だって、大切な人が捕らわれることがあれば、慌てるのは仕方ないんじゃない?

人はそんなに強くない。大切な人が目の前で死にそうになれば慌てる。それで冷静になれって、どんな修行僧よ。普通の人には無理だよ。魔法を使えば試練も終わるかと思ったら終わらないし。いろいろと慌ててしまった。

「それにしても、嬢ちゃんはあの上にいる嬢ちゃんのことが大切なんだな。普通は家族、恋人が現れるんだがな」

「フィナは大切な妹のような存在だからね」

両親を大切と思ったことはないし、恋人もいない。だから、わたしの両親が現れることはない。現れるとしたら、わたしのことをわかってくれた祖父ぐらいかもしれない。この世界に来て祖父にだけは悪いと思う。

フィナが大切な存在になっているのはそうだけど。くまゆるやくまきゅう、ノア、シュリも大切な存在だ。そう考えるとこの世界に来て、大切に思う人が増えたと思う。出会った人たちは、皆優しいし、守りたいとも思う。なにより、一生懸命に生きている。娘に金をせがむわたしの両親とは違う。

「妹でも大切な存在がいることは良いことだ。それだけで強くなれる。冒険者など危険な仕事をしていると、自分の命をないがしろにする者が多い。帰ってくる場所に大切な者がいることは大切だ」

ギルマスの言葉には重みがある。もしかすると、ギルマスは多くの武器職人と冒険者を見てきたのかもしれない。

帰ってくる場所。……そう考えると本当にフィナが帰ってくる場所になっているのかもしれない。

「ちなみにそのわたし同様の試練を行なった人はどうなったの?」

わたし同様に怒らなかったのかな。普通なら怒るよね。

「もちろん、秘密だ。おまえさんも、他の者に話されたくないだろう」

うぅ、確かに。話は聞きたいけど、自分のことを話されるのは嫌だ。そんなことになれば、この街に来られなくなる。

「それに規則によって、話してはいけないからな」

そういえばそんな規則があったんだっけ?

「試練の内容が、前もって知られていたら試練にならない。だから、試練の内容は誰にも話してはいけない規則が作られた」

まあ、前もって試練の内容が知られていたら、対策ができるだろうし、試練にならない。答えが分かっている試練じゃ、試練の意味がない。

だから、ロージナさんやガザルさん、ゴルドさんは話さなかったから、リッカさんは試練の内容を知らなかったわけだ。

「だから、嬢ちゃんもこの中で起きたことは誰にも話してはいけないぞ」

「上で待っているフィナたちにも?」

言いふらすつもりはないけど、上で待っているフィナたちには話してあげたい。

「そうだ。あの小さい嬢ちゃんたちが、大きくなったら、冒険者になり、試しの門に挑戦するかもしれないからな」

フィナが冒険者ね。

想像してみるが、似合わない。家庭にいるほうが似合う。でも、解体技術はあるんだよね。武器は振るえなくても、魔法を使って冒険者になる可能性もある。それでも、フィナが魔物と戦う姿は想像ができない。

まあ、ようは試練を受けることになりそうな人には話していけないってことみたいだ。

「タロトバ、話はここまでだ。賞品がでるみたいだぞ」

「賞品?」

ロージナさんが親指をクイクイとする。ロージナさんの親指の先を見ると、魔法陣が光っている。魔法陣は今までと違う場所にある。

武器を確かめる魔法陣。試練が出てくる魔法陣。最後に目の前の光っている魔法陣になる。

「賞品って、なにか貰えるの?」

賞品が貰えるなら、初めに言ってほしかった。そしたら、タイムアタックとか頑張ったのに。賞品に試練のクリア時間が関係していたら、悔しい。

でも、賞品と聞くと嬉しくなるのはゲーマーの名残かな。

「そんなに嬉しそうにしても、たいした物はもらえないぞ」

そうなの?

まあ、レア物とかは望んでいないけど、使える物だったら嬉しいな。

「賞品は鉄だ。その鉄を使って、次回の試練に向けて頑張れという意味が込められている」

なんだ~。鉄か。鉄ならアイアンゴーレムを持っているから、いらないね。もらっても使い道がない。

ガザルさんのお土産にすればいいかな? ガザルさんのナイフで参加したわけだし。

「もしかして、特別な鉄だったりする?」

「しない。ごく普通の鉄だ。ただ、不純物がないから、すぐに加工することができる」

ミスリルで参加している人にはミスリルがもらえたりしないのかな?

わたしがそんなことを口にすると、出ないそうだ。残念。

光る魔法陣のところにやってくる。光が徐々に消え、魔法陣の中心に予想外の物が現れる。

「なんだ、あれは?」

ギルマスが目を細めるように現れた物体を見る。

わたしは目をゴシゴシと擦る。

最近、目が悪くなったかな。テレビも見ていないし、ゲームもしていないし、夜に漫画や小説も読んでいない。早寝、早起きの規則正しい生活をしている。たまに1日ゴロゴロするときもあるけど、基本、目が悪くなるようなことはしていない。

わたしたちは謎の物体がある魔法陣の中心に近寄る。

「クマだな」

「ああ、クマだな」

2人が言う通り、魔法陣の中心にはクマの置物があった。色は銀色。鉄の色だ。

ロージナさんとギルマスはクマの置物に触れる。

「鉄だな」

「間違いなく鉄だな」

鉄でできたクマだ。

形はなぜかデフォルメされたクマだ。わたしがお店で作ったクマの置物の形をしている。

考えられることはわたしの記憶を読んだ? わたしの記憶を読んだフィナはわたしを騙すほど似ていた。クマの置物ぐらい簡単に似せることができるのかもしれない。でも、なぜにクマ?

「もしかして、鉄の形って、人によって違うの?」

「基本、形は違う。不規則な形ででてくる。こんなに形がはっきりしているものは初めてだ」

「しかも、大きいな。こんな大きな賞品は見たことがないぞ」

鉄のクマの大きさはくまゆるやくまきゅうほどの大きさがある。

「それだけ、嬢ちゃんの試練が特別だったわけか」

「まあ、あれだけの試練だったからな」

「だが、これ、どうやって動かすんだ。どけないと次の試練ができないぞ」

ロージナさんとギルマスのドワーフ二人で動かそうとするが鉄クマはびくともしない。

まあ、移動させるだけなら、簡単だ。

「大丈夫だよ」

わたしは鉄クマに触れるとクマボックスの中に消える。

クマボックスは万能だ。

「その変な手袋はアイテム袋になっているのか?」

変って酷い、クマさんだよ。まあ、わたしも初めてのときは変だと思ったけど。他人に言われると否定したくなるね。

わたしが文句を言おうとしたとき、周囲の光が徐々に消えるように薄暗くなる。

ギルマスが周囲を見て、声をあげる。

「まさか、試しの門が閉まるのか! たったの一回だぞ」

「それだけ嬢ちゃんの戦いが魔力を消耗させたってことだろう」

「なに、他人事のように言っている。今日から試しの門を試すために何十人の武器職人がやってくるんだぞ。どうするんだ!」

「そんなことを言われても俺は知らんぞ」

「おまえさんが嬢ちゃんを連れてきたんだろう」

「ちゃんと、おまえさんの了承は得たぞ」

「そうだが、こんなに凄い嬢ちゃんだと思うわけないだろう。クマの格好をしているんだぞ。小さい女の子なんだぞ。武器はナイフなんだぞ」

わたしクマだけど、小さくないよ。

「くそ、ロージナもなにかアイディアを出せ! 制限時間は上の部屋に戻るまでだ」

ギルマスは頭を抱えながら、歩き出す。そのあとをわたしとロージナさんが追う。