軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

402 クマさん、もう一度、剣を斬る

「嬢ちゃんは、その年齢でどうやって、その強さを手に入れたんだ。魔力なら、生まれ持った才能ってことはわかる。でも、嬢ちゃんは戦い慣れている。嬢ちゃんぐらいの年齢なら、普通は魔物を見れば怖がったりするものだろう。なのに、ワームと戦ったときも、スコルピオンと戦ったときも、歴戦の冒険者のようだった。もしかして、年齢詐称か?」

「年齢詐称はしてないし、戦い慣れているのは、経験が人より多いだけだよ」

ゲーム時代には経験値稼ぎのために、一日に何百、何千と戦い。それが何日も続くことがある。それが魔物と戦う慣れであり、経験である。

対人戦の試合の経験も何千と経験をしている。トウヤよりも多い。

「経験が多いって、本当にいつから戦っているんだよ」

「それは秘密」

「秘密って、気になるだろう」

「女の秘密を聞くのはよくない」

セニアさんがわたしの背中から抱きつき、トウヤから守ってくれる。

「でも、女同士なら問題はない」

「話しませんよ」

「残念」

ゲームのことは話せないし、どこで戦ったとか、話せない。

「嬢ちゃん、俺と試合してみないか」

「トウヤ、やめたほうがいい。恥をかくだけ」

「勝てるとは思わないが、簡単に負けるつもりはない」

わたしとトウヤは簡単な試合をおこなう。もちろん、武器は木で作った剣を使用する。

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・

数分後、落ち込んでいるトウヤの姿がある。

「その、ごめん。手加減が下手で。もう少し、互角っぽくすれば」

トウヤは背中を向けてしゃがみこんでいる。

もちろん、手加減はした。トウヤは弱くはない。でも、強くもない。攻撃はなるべく少なくして、受けるようにする。でも、攻撃がかわされるとトウヤは無理な攻撃が多くなり、隙ができて、わたしが攻撃をしてしまった。

「どうして、そんな動きにくそうな格好なのに動きが速いんだ。それに嬢ちゃんのどこにそんな力があるんだ」

動き難そうな格好だけど、逆にこの格好でないと速い動きをすることはできない。

トウヤは攻撃が当たらないと分かると力押しで攻撃してきた。でも、わたしのクマの着ぐるみの力で押し返した。

「経験だよ。何度も死にそうになって(ゲームだけど)、そこから、経験を得たんだよ」

「死にそうって」

「だから、簡単に負けるつもりはないよ。わたしだって、簡単に今の実力があるわけじゃないからね」

まあ、筋力などはクマ防具が補完してくれているから、できるんだけどね。それがなければ、剣を振るうことも、力強く踏み込むことも、トウヤの剣を受け止めることもできない。

でも、動作、行動、判断する力はわたしが得た力だ。

「嬢ちゃんなら、クセロのおやっさんの試験も簡単にできるだろうな」

「ユナなら、ジェイドの剣を借りて、クリアしている」

「なんで、セニアさんが知っているの?」

セニアさん、居なかったよね。

「メルから聞いた」

「ジェイドから剣を借りたのか。俺にも滅多に貸してくれないのに」

落ち込んでいたトウヤがさらに落ち込む。

「でも、ほら、ジェイドさんの剣と、トウヤが使った剣は違うから。ジェイドさんの剣のほうが良い剣なんでしょう」

「そ、そうだよな」

どうして、わたしがトウヤをフォローしないといけないのだろうか。そこは同じパーティーのセニアさんがするところだよね。

「なら、そのトウヤの持っている剣でやればいい」

セニアさん! どうして、そんなことを言うかな。わたしが成功したら、ますますトウヤが落ち込んでしまう。わざと失敗するのも、あれだし。

「トウヤ。しっかり、ユナの動き、剣先の動きを見て、学べばいい。もちろん、体格、力はトウヤと違う。でも、勉強になる。わたしはナイフだから、教えられない。ジェイドに頼るのはあまりしたくないんでしょう」

断ろうとしたけど、セニアさんが真面目な口調でトウヤにメリットを説明する。そのセニアさんの言葉にトウヤは真面目な表情で顔をあげる。

「見て、学ぶか……そうだな。このままじゃ、できるようになるかもわからない。嬢ちゃん、頼めるか」

トウヤは立ち上がり、ミスリルの剣をわたしに差し出す。

断れない雰囲気になり、わたしはやることになる。地面になまくらの剣を刺し、わたしはトウヤからミスリルの剣を借りる。トウヤはわたしの後ろに立ち、集中するように剣を見つめる。

わたしは剣を握りしめる。重さはクマ装備のおかげで感じないけど、少し大きい。素振りをして、間合いを確認する。

「それじゃ、やるよ」

剣の前に立ち、地面に刺さった剣に向けて振り下ろした。なまくらの剣は真ん中辺りで斬れる。

「…………」

トウヤは固まったように斬った剣を見つめている。 呆(ほう) けているわけではないようだ。考えていると言った方がいいかもしれない。

「速度、角度、力」

トウヤはぶつぶつと考えていることが口から漏れる。

「嬢ちゃん、もう一度頼む」

トウヤはわたしの許可を得ずに、新しいなまくらの剣を取り出す、そして、剣になにかを結び、剣を地面に刺す。剣には赤い紐が2本結ばれていた。

「嬢ちゃん、この紐と紐の間を斬ることはできるか? 嬢ちゃんの剣筋が速いから、剣を斬る瞬間を把握できなかった。斬る場所が分かっていれば、見ることができる」

どうやら、赤い紐は目印らしい。一点を集中して、斬れる瞬間を確認したいらしい。

紐と紐の間には10cmほどの隙間しかない。でも、これでトウヤができるようになると言うなら、一回ぐらいなら、やってあげることにする。

「一回だけだよ」

「ああ、一回でいい」

「それじゃ、対角線に上の紐から、下の紐にかけて斬るから、しっかり見ててね」

わたしたちのやりとりをフィナたちは黙って見ている。わたしは深呼吸をして、クマさんパペットが剣を握り締める。そして、上の紐から下の紐を対角線になるように、剣を振り下ろす。

紐がついた上の部分と下の部分に分かれる。

周囲から静かな息を吐くのが聞こえる。

トウヤを見ると 瞬(まばた) きをせず、ジッと斬った剣を見つめている。そんなトウヤに無言で剣を差し出し、トウヤは黙って剣を受け取る。

「参考になればいいけど」

「ああ、十分に参考になった。助かった」

トウヤは剣を握り締めると、剣を振りはじめる。

わたしたちはそんなトウヤを置いて、邪魔にならないように離れた。

そして、その日の夕食、トウヤから再度、お礼を言われたときは驚いた。

なにか、感触を掴んだようだった。

それから、2日後。街で買い物をしたり、散策をしていると、街が騒がしくなる。

「なんだろう」

周囲の話を聞いていると試しの門が開いたと声が聞こえてくる。

「どうやら、試しの門が開いたらしいね」

「はい」

「ジェイドさんが参加するんですよね」

ジェイドさんは試しの門に参加するため、クセロさんのところに顔を出していると聞く。わたしも参加してみたかった。

「みんなでジェイドさんの応援に行こうね」

「楽しみです」

「でも、あの階段を登らないといけないんですよね」

ルイミンは楽しそうに返事をするが、フィナは長い階段を思い出すように口にする。あの階段を登るのは大変だからね。

「それなら、おんぶしようか?」

「うぅ、恥ずかしいからいいです。頑張って登ります」

同じクマなのに、くまゆるやくまきゅうの背中には乗ってくれるのに、クマの着ぐるみの背中は駄目らしい。

わたしたちは昼食のために、一度宿屋に戻ってくると、ジェイドとメルさんがのんびりとお茶をしている姿があった。わたしたちは近くの席に座って、昼食を注文する。

「ユナちゃん、話は聞いた?」

「試しの門のことなら、聞いたよ。街を歩いていたら、聞こえてきたからね。もう、始まっているの?」

「まだよ。今日は告知や準備をして、明日の朝からになるみたいよ」

すぐには始まらないみたいだ。

「ジェイドさんはいつ参加するの? わたしたち、応援に行こうと思っているんだけど」

「ありがとう。初日は見習い武器職人が参加することが、昔から決まっているみたいだから、俺はその翌日以降だね。一応、いつ試しの門が閉じるか分からないから、早めに行くつもりだよ」

「閉じるって、試しの門っていつ閉まるの?」

トウヤの試験がそれと同時に終わる。

一応、剣の扱いの手助けをした身としては気になる。できれば、試しの門が閉じる前に試験に合格してほしいものだ。

「俺も詳しいことは知らないが、クセロさんの話では毎年違うらしい。過去に一日で閉じたこともあったが、最近では5日前後らしい」

だから、試しの門が閉じる前に、見習い、新人職人に経験を積ませるために初日は見習い鍛冶職人が優先的に参加するようになっている。そうやって、職人のやる気を育てているらしい。

「でも、中には武器職人を辞めていく者もいるらしい」

それはどの職業でも同じだ。頑張ってもできないことはある。プロスポーツ選手になんて、一握りの者しかなれない。武器職人だって、まともな剣が作れなければ売れない。誰だって、なまくらの剣を欲しいとは思わない。

でも、どんな理由で試しの門は閉じたりするんだろうね。