軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

392 クマさん、トウヤの試験内容を見る

「その前にジェイドに聞きたいが、もうどこかと契約はしたのか? もし、していないようなら、俺と契約をしないか?」

「……契約?」

ジェイドさんはクセロさんの言葉を聞き返す。ジェイドさんや他のメンバーを見ても意味が分からなそうにしている。

「なんだ。知らないのか?」

「俺たちは、昨日ここに着いたばかりで、宿屋に泊まったあと、そのままこっちに来たので」

「ジェイドはこの街にある試しの門のことは知っているか?」

「試しの門? ……ああ、あれか」

ジェイドさんは何かを思いだしたようだ。

試しの門? なんだろう? 面白そうな響きなんだけど。

「そういえば、この街にはそんなものがあったわね」

「ああ、確かにあったな」

「忘れていた」

「もしかして、冒険者や商人が多いのはそれが理由か」

ジェイドさんたちは分かったみたいで、お互いが納得している。だけど、わたしやフィナ、ルイミンの3人は分かっていない。

「その試しの門ってなに?」

分からないので尋ねることにする。

わたしが尋ねると、ジェイドさんやクセロさんが説明してくれる。

なんでもこの街には試しの門と言われる門があると言う。その試しの門は年に一度、数日間ほど開き、鍛冶職人の腕を確かめる門だと言う。一年の間にどれだけ成長したか。見習い職人たちの腕を試す場でもあると言う。

「でも、なんで冒険者?」

「当たり前だろう。鍛冶職人は剣を作る者。冒険者は剣を使う者だ」

試しの門では武器を作った鍛冶職人と剣を扱う人が必要らしい。たしかに鍛冶職人は魔物や動物、人と戦ったりしないよね。剣を扱うのは冒険者の仕事だ。

「それでジェイド、俺が作った剣で参加しないか。簡単な剣の試し切りと思ってくれていい」

「参加してもいいけど、クセロさんなら、俺に頼まなくても、贔屓にしている冒険者ぐらいいるだろう」

「毎年、頼んでいる冒険者がいる。今年もその冒険者に頼むつもりだったが、数日前に怪我をしたと連絡があった。他の知り合いの冒険者はすでに他の鍛冶屋と契約しているか、連絡が取れない場所にいる」

それでジェイドさんってわけか。

「始めは参加しなくてもいいと思ったが、自分の腕が鈍っていないかの確認は必要と思ってな。あと、他の冒険者が使って、どこまでいけるか、たまに確認するのもいい」

長年やっている鍛冶屋のほとんどが、毎年同じ人物に頼むと言う。その理由は人や実力によって差がでてしまうからだ。同じ武器でも、扱う者によって変わる。

その試しの門で自分の技術を確認する。成長している。衰えている。最悪、引退を考える者もいると言う。

もちろん、冒険者にも成長もあれば衰えもあるが、それを言ったらきりがない。

鍛冶屋の中には、自分の剣を誇示するために、優秀な冒険者に頼む鍛冶屋もいると説明してくれる。

「クセロさんは一番は目指さないんですか?」

「俺はお前たちを相手にしているぐらいで丁度いい。献上品を作れとか、最高の剣を作れとか言われても、面倒くさいからな。そんな仕事は欲しい奴にくれてやるさ。俺は好きなように作って、その中で良いものが作れたら、それが俺の喜びだ」

ニカッと笑うクセロさん。

そうだよね。1本、良い剣が作れたからと言って、2本目が作れるとは限らない。そんなにポコポコと最上級の武器が作れたら、世話がない。

それに作れと言って作れるものじゃないだろうし。

「まあ、人それぞれさ。一生涯かけて、最高の一本を作るのもいい。俺のように冒険者のために作るのもいい。人生はいろいろさ」

長い髭を触りながら話す姿は、長年の積み上げてきた威厳が漂う。

「わかりました。俺でよければ参加しますよ」

「助かる」

話も終わり、トウヤの腕を確かめることになる。

クセロさんが歩き出し始めるので、わたしたちも付いていこうとするが、前を歩くジェイドさんが振り返る。

「ユナはどうする? ロージナさんのところに行くなら、メルに案内させるが」

う~ん、どうしようか。

個人的にはどのように判断するかは見てみたい。わたしの想像する通りに手を見るだけなら、ここでいいはずだ。でも、歩き出したってことは違うみたいだ。

なにか、判断基準があるなら、今後のために知りたい。

「トウヤが合格が貰えるか気になるから、見てからにするよ」

別に急ぐことでもない。

「フィナもルイミンもいいよね?」

「はい。構わないです」

「わたしも気になりますから、見てみたいです」

フィナもルイミンも興味があるみたいだ。

まあ、ここまで来て、気にならないほうがおかしい。でも、主役となるトウヤは違うみたいだ。

「一緒に来なくてもいいぞ。嬢ちゃんたちは行くところがあるんだろう」

トウヤがわたしが付いてこようとすると嫌がる。そう嫌がられると付いていきたくなるのが人の心だ。

「断られたら恥ずかしいものね」

「断られねぇよ」

それはフラグって奴では。

「そういえば、クセロさん、お弟子さんでも取ったんですか?」

先ほどから、奥から鉄を叩く音が聞こえてくる。ジェイドさんは音が聞こえるほうを見ながら尋ねる。

「息子だ。鍛冶屋になりたいって言い出したから、教えている。毎日、ああやって叩いているが、まだまだなっていない」

カンカンと音が聞こえてくる。音を聞くだけなら、一生懸命にやっているように感じる。

「ジェイド、裏庭は分かるな。そこで待っていろ。準備したら行く」

わたしたちは建物の奥から鉄の叩く音を聞きながら裏庭にやってくる。

「でも、いったいトウヤに何をさせるのかしら?」

「クセロさんが来ればわかるさ」

しばらく裏庭で待っていると、クセロさんが数本の剣を持ってやってくる。

「トウヤ。今から、おまえさんを試してやる」

「お、おう」

トウヤは少し緊張ぎみに返事をする。

クセロさんは持っていた剣の一本を地面に突き刺す。

「息子が打った、なまくらの剣だ」

クセロさんは手に持っていた別の剣をトウヤに突き出す。

「ジェイドに作ってやった剣よりは見劣りはするが、俺が作ったミスリルの剣だ。このミスリルの剣でその剣を斬ってみろ。もし、斬ることができたら、おまえさんにミスリルの剣を作ってやる」

「わかった」

トウヤは差し出された剣を受け取る。トウヤは鞘から剣を抜き、地面に刺さっている剣の前に立つ。小さく深呼吸して、剣を握りしめる。そして、地面に刺さった剣に向けて剣を振り落とす。

地面に刺さった剣は斬れることはなく、弾き飛び地面に転がる。

全員が弾き飛んだ剣とトウヤを見比べる。

「待ってくれ。もう一度やらせてくれ」

トウヤは弾き飛ばされた剣を拾うと、もう一度地面に突き刺す。そして、深呼吸して心を落ち着かせる。そして、もう一度、剣を振り落とす。でも、結果は先程と同じになる。

トウヤはジッと握っている剣を見つめる。そんなトウヤの姿をみんな無言で見つめる。

「クセロのおっさん。この剣、なまくらじゃないのか?」

クセロさんは無言で飛ばされた剣を拾い、地面に刺す。そして、トウヤから剣を差し出すように言う。

「ジェイド、おまえさんがやってみせろ。手加減はするなよ。トウヤのためにならん」

ジェイドさんは無言で剣を受け取ると、地面に刺さった剣に向けて一閃する。すると、地面に刺さった剣は真ん中あたりで、斬れた。

「これが、ジェイドとおまえさんの差だ。おまえさんにはまだ、ミスリルの剣は早かったようだな。おまえさんに作っても、ミスリルの剣が無駄になる」

そこまで言わなくてもいいと思うんだけど。

「トウヤ……」

ジェイドさんやメルさん、セニアさんが心配そうにする。トウヤは拳を強く握り締める。

「他の鍛冶屋なら、作ってもらえる。他を当たってくれ」

「クセロさん……」

ジェイドさんが何か口にしようとするが、トウヤが遮る。

「クセロのおやっさん、斬ればいいんだよな?」

悔しそうに下を向いていたトウヤは顔を上げて、クセロさんの目を見て、力強い目で尋ねる。

「ああ、斬れば作ってやる」

「おやっさん、この剣を借りる」

トウヤはジェイドのところに向かうと、ミスリルの剣を受け取る。クセロさんはトウヤのことをジッとみる。

「貸してやる。あと、そこにある剣も持っていっていいぞ」

なまくらと言われた剣を指差す。

「約束だからな」

トウヤはクセロさんの息子さんが作ったと思われる剣を一本持って、1人で去っていく。

「トウヤ!」

ジェイドさんが叫ぶ。

「わたしが行く。ジェイドとメルは残って」

そう言うとセニアさんがトウヤの後を追いかける。

フィナやルイミンはどうしたら良いか、立ち去ったトウヤとセニアさんのほうを見たり、ジェイドさんのほうを見て、最終的にわたしのほうを見る。

「今はセニアに任せておけばいい」

わたしたちが立ち去った2人のほうを見ていると、ジェイドさんが声をかける。少し心配になるが、セニアさんが追いかけたから大丈夫かな。

「クセロさん、ちょっと、トウヤに厳しくないですか? 前はこんなことをしなくても良かったでしょう」

厳しいといえば厳しい。でも、ゲームによっては筋力パラメータが足りなければ装備ができないこともある。中身が成長しなければ、性能が良い武器は装備できない。

クセロさんはわたしたちに背を向けると、話し出す。

「大した理由じゃない。俺の我が儘だ」

「我が儘?」

「俺の剣を使った新人冒険者が死んだだけだ。良い剣を持ったせいで、自分の実力と勘違いした。それで強い魔物と戦って、あっけなく死んだ」

「…………」

「それは別にクセロさんのせいでは」

新人冒険者が自分の実力も分からず、無謀をしただけだ。一般人が勇者の剣を手に入れて、「俺、つえぇ~」したようなもの。ジェイドさんの言う通りクセロさんが悪いとは思わない。

「そうかもしれん。でも、俺は実力に合った剣を作る。だから、トウヤがこれぐらいできなければ、作るつもりはない。だから、トウヤの剣は他の鍛冶屋で作ってもらえ」

クセロさんはジェイドさんが斬った剣を拾い、斬り口を見る。

「おまえさんは強くなったな」

「クセロさん……」

「話はここまでだ。トウヤには試練の門が閉まるまでと伝えておいてくれ」

「わかりました」

今はできるように願うしかないよね。