軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

383 クマさん、タールグイを一周する

ティルミナさんとシュリにクマの転移門を知られた翌日。今度こそクマの転移門を使って、フィナと一緒にタールグイの島にやってくる。そこにはシュリの姿もある。

クマハウスから出たシュリはキョロキョロと周囲を見ている。

一応、探知スキルで周囲を確認するが魔物の反応はない。わたしはくまゆるとくまきゅうを召喚させる。

「ユナ姉ちゃん。ここ、あの動く島なの?」

「そうだよ」

「魔物は大丈夫なの?」

少し不安そうにして、くまきゅうにしがみつく。

「もう魔物はいないから大丈夫だよ。それに、なにか危険なことがあればくまゆるとくまきゅうが教えてくれるよ」

「「くぅ~ん」」

くまゆるとくまきゅうは「任せて」的な声で鳴く。それで安心したのかシュリから不安そうな表情は消える。

「それじゃ、お花や果物もあるの?」

そういえば、果物をお土産にするとか言っていたけど、慌ててそれどころじゃなかったから、採っていないんだよね。

「あとで果物をティルミナさんに持って帰ってあげようか」

「うん」

バナナとかも持って帰りたいね。バナナパフェでも作って食べようかな。

「ユナお姉ちゃん、それでこの島に来てどうするんですか?」

「少し探索をしようと思ってね。前回来たときは、いろいろあって調べられなかったからね。大丈夫だと思うけど、くまゆるとくまきゅうの側を離れちゃ駄目だからね」

わたしたちはクリュナ=ハルクの本がある石碑のところまでやってくる。わたしは石碑に魔力を流し込む。石碑は光り出し、前回同様にクリュナ=ハルクの本が出てくる。

「本を読むんですか?」

「今は読まないけど、必要になるかもしれないからね。今日は前回、回れなかった反対側に行こうと思っているよ」

それで、分からないことがあったら、本で調べるつもりだ。ゲームをするとき、説明書を読まない性格がここでも出ているような気がする。別に本を読むのは嫌いじゃないけど、ゲームだとプレイしてから、分からなかったら説明書を読む癖がついている。それに今のゲームってチュートリアルがあるから説明書ないんだよね。

そんなわけで、本を手に入れたわたしたちは、前回歩いた方向と逆の方向に歩き出す。

タールグイの頭の辺り(クリュナ=ハルクの本があった石碑)は高い崖になっている。そして、後ろ(頭と反対側)の方に行くと崖が低くなっていく。わたしたちが初めて島に乗ったのも後ろの崖が低い場所になる。

「ミリーラの町から、どのくらい離れているのかな?」

海を見ながらフィナが口を開く。

海を見るが、水平線が広がり、島1つ見えない。聞こえるのは波の音ぐらいだ。フィナの疑問に答えてあげたいけど、その答えは持ち合わせていない。クマの地図のスキルを使っても、真っ黒い地図にポツンと今いる場所が明るくなっているだけだ。地図は縮小はできないから、全体的な地図を見ることができない。そのため、タールグイがどの辺りを航海しているのか分からない。太陽の位置である程度、進んでいる方向から想像は出来るが、正確な位置は知ることはできない。

蛇行したかもしれないし、途中で方向を変えたかもしれない。それはタールグイしか分からないことだ。

それに世界地図が分かったら、楽しみの1つが無くなるから必要はない。

ゲームで言えば新しく行ける 土地(エリア) が解放された気分だ。想像するだけで、楽しみになってくる。いつかは知らない土地の近くを通ってほしいものだ。

「風が気持ち良いです」

フィナとシュリの髪やスカートが風によって揺れている。わたしは自分を見る。着ぐるみのわたしはスカートも髪も揺れない。女の子として、どうなんだろうと思ってしまう。別にスカートを履いているから、女の子ってわけじゃないけど、フィナの姿と自分の姿を比べると、女の子としての差が出てしまう。

とりあえず、風を感じるためにクマさんフードを取ってみる。確かに気持ち良い風が吹いてくる。でも、フードを取った瞬間、日射しが暑い。わたしはクマさんフードを被る。

「二人とも大丈夫? 暑くない?」

「大丈夫です」

「大丈夫だよ」

どうやら、クーラー生活をしてきた貧弱なわたしと違って、フィナとシュリは鍛えられているみたいだ。本当に元引きこもりには辛い日差しだ。クマ装備がなかったら生きていけないよ。

でも、フィナとシュリに帽子ぐらい被らせてくれば良かったかな。

「あと、二人とも、あまり海岸の側に行ったら危ないよ」

わたしの言葉に二人は崖から離れる。二人の傍にはくまゆるとくまきゅうがいるから、危険はないが注意だけはしておく。

海を堪能したわたしたちはタールグイの後ろに向けて歩き出す。反対側とさほど変わらない風景が続く。片方は海、反対側は森となっている。中央には小山があり、タールグイの第二の口がある。

「ユナ姉ちゃん、道があるよ」

シュリの言う通りに森の中に続く道がある。でも、今日はタールグイの島を一周するのが目的なので、寄り道はしない。紙を出して軽くメモるだけしておく。

「ユナお姉ちゃん、あれは?」

下り坂を下っていくと、フィナが前のほうを指差す。指差す先にはクリュナ=ハルクの本があった同じような石碑がある。

たしか、この辺りって?

わたしはクリュナ=ハルクの本のページを捲る。

うん、そうだ。ここはもしもの場合のときに脱出するように書かれていた場所だ。こっちの石碑も長いこと放置されていたようで汚れていたので、水魔法で汚れを落とす。

えっと、何が書いてあるかな。

『緊急脱出場所』

やっぱり、本に書いてあった場所だ。

『この島からの脱出方法、周期的に渦が弱くなるときがある。そのときに石碑に触れ、解除と唱えよ。船が現れる』

船が現れるって、どういうこと?

「ユナ姉ちゃん、触っていい?」

シュリが石碑に触りたそうにしている。でも、わたしの言い付けを守って、勝手な行動はしない。

「う~ん、なにが起きるか分からないから、わたしがやるよ。2人はくまゆるとくまきゅうの傍にいてね」

「うぅ、やってみたかった」

「ユナお姉ちゃん、気をつけてくださいね」

フィナがシュリの手を握って、くまゆるとくまきゅうのところに移動する。それを確認したわたしは石碑に触れ「解除」と唱える。その瞬間、海岸に船が現れる。

「お船だ~」

現れたのは中型ぐらいの船で20人ほどが乗れそうな船だ。船が現れたと同時に石碑にも縄が現れ、船が固定されている。縄を外せば、船を動かすことができるみたいだ。

どうやら、緊急脱出船だったみたいだ。

「お船が凄く揺れているよ」

シュリの言うとおり、船は波や渦などで揺れている。ロープで固定されているが、このままでは船が壊れてしまう。

出すことができれば、仕舞うこともできるはずだよね。わたしは石碑に結ばれている縄に触れて、元に戻るように考える。すると、船が消える。

「船が消えた」

「石碑の中に入ったように見えたよ」

「もしかして、アイテム袋の一種?」

わたしはクリュナ=ハルクの本で確認する。

やっぱり、アイテム袋みたいだ。解除することによって、誰でも船を呼び出せるようになっている。この船に乗って脱出するようになっていたんだね。

クリュナ=ハルクって自分がいなかったときのことも考えるって、どんだけ聖人なのよ。この本だってそうだし、タールグイについても注意書きがあるし。でも、それなら桜の木については桜の木の下に石碑が欲しかった。本に書くよりもそっちのほうがすぐに危険と分かったのに。

石碑はもう1つあったが、使用済みだったのか、船の用意ができなかったのか、わからないが、何も出てこなかった。

それから、島を一周して、手書きの地図が完成する。いろいろと気になる箇所や果物も発見できて、有意義な1日だった。

もちろん、いろいろな果物を回収したよ。まさしく宝の島だ。もう、この島はわたし専用の食料庫と決めた。

翌日、お店にやってくると、子供たちが涼しそうな顔でパンを作っている。

「もしかして、服できたの?」

「うん、ユナお姉ちゃん、ありがとうね」

前に海から戻ってきた頃、子供たちが暑そうに仕事をしていた。それでなくてもキッチンは石窯があるため気温が高くなる。わたしは「クマさんパーカーを脱いで涼しい格好で仕事をしていいよ」と言ったけど。

「くまさんの服を着なかったら、くまさんのお店じゃなくなるよ」

「くまさんの服を着て仕事をしたいです」

と返事が返ってきた。

「わたしも、倒れられても困るから、涼しい格好をするようにって言っているんだけどね」

モリンさんも心配そうにしていた。

クーラーもどきを作るのも良いけど、砂漠で出会ったジェイドさんたちが着ていたマントを思い出す。それで予備のクマのパーカーに水の魔石を使って暑さを和らげるクマさんパーカーをシェリーに依頼した。それが完成したらしい。

「涼しそうでいいですね」

カリンさんが涼しそうに仕事をする子供たちを見ている。

「それなら、カリンさんもクマさんパーカーを着ますか?」

「それは無理です!」

そんなに全力で断らなくてもいいのに。

モリンさんは長年パン作りをしてきたから、暑さに強いっていうけど、キッチンはクーラーを付けたほうがいいかな?

わたしは手持ちの氷の魔石と風の魔石を使って、クーラーもどきを作り上げる。

「モリンさん、本当に暑くて辛いときは使ってくださいね」

ちなみにカリンさんに「店内にも付けてください」って頼まれたけど、お客さんに長居されてもこまるので、却下した。

「それなら、カリンさんもクマさんパーカーを着ればいいんですよ」

と、もう一度言ったら。

「うぅ、夏だけなら……」

今度は悩み始めた。